宙畑 Sorabatake

衛星ソリューション

Googleの新AI「AlphaEarth Foundations」—複数データソース統合で地球全体の連続監視システムを構築【宇宙ビジネスニュース】

光学衛星画像、SAR衛星画像、標高モデル、気候シミュレーションなど数十のデータを統合し地球全体を効率的に監視するGoogleの新AI技術について紹介する記事です。

2025年7月30日にGoogle DeepMindが発表したAlphaEarth Foundationsは、光学衛星画像、SAR画像、全球の標高モデル、気候シミュレーション、重力場……など数十の異なる公開データソースを統合し、地球全体の陸地と沿岸水域を10メートル四方の統一された精度で解析が可能になったAIモデルです。

宙畑メモ:Google DeepMindとは
2010年設立のDeepMind Technologies社が2014年にGoogleに買収され、2023年にGoogle Brainと統合して現在のGoogle DeepMindとなったAlphabet傘下のAI研究開発組織。囲碁AIのAlphaGoの開発組織として有名です。

従来手法では個別データソースの更新タイミングに依存していましたが、本システムはリアルタイムに近い連続監視を実現し、他のモデルと比較して24%低いエラー率とストレージ容量の16分の1への圧縮を実現し、地球全球規模の分析コストを大きく削減したとのことです。

(1)リアルタイム地球監視を可能にする統合プラットフォーム—従来の個別データ処理を超えたAI技術

近年、Microsoft Azure Planetary ComputerやAmazon Web Services Open Data on AWSなど、GAFAMと呼称されるIT大手企業が地球観測分野への参入を進めています。これは地球観測データの価値と市場の成長性を示しています。こうした中で発表されたAlphaEarth Foundationsは、膨大な地球観測データを「エンベディング」に統合します。

宙畑メモ:エンベディングとは
人工知能が複雑な情報を理解しやすい形に変換する技術です。衛星写真、気温データ、地形情報など様々な地球観測データを、コンピューターが効率的に処理できる数値の組み合わせに変換します。バラバラだった情報を一つの「地球の指紋」のような形にまとめることで、AIが地球の変化を素早く正確に理解できるようになり、従来手法の16分の1の容量で同じ情報を保存できます。

従来型衛星マッピングサービスでは、個別のデータソースが異なる更新頻度や精度を持ち、データ間の統合や一貫性の確保が課題でした。例えば、10メートル解像度のSentinel-2による衛星画像と数100メートル〜数キロメートル解像度の気候データの統合では、手動でのデータ変換や補間処理が必要でした。災害発生時は衛星の軌道周期や雲の影響で必要な時期のデータが入手できず、迅速な被害評価が困難でした。

AlphaEarth Foundationsでは、従来個別に扱う必要があった光学衛星画像、SAR画像、全球の標高モデル、気候シミュレーションなど解像度や形式が異なる多様な情報源を時系列で統合し、AIが任意の時点のデータを10m四方の解像度で再現できます。

本サービスは『Satellite Embedding dataset』としてGoogle Earth Engineを通じて提供されます。研究者、政府研究機関、NGOなどは無料でアクセス可能です (企業の商業利用は有料)。Google Earth Engineのアカウントがあれば、カスタムマップ作成やデータ解析を実行できます。

(2)50以上の組織との実証実験も実施していたAlphaEarth Foundations

さらに、Google DeepMindは過去1年間で50以上の組織と実証実験を実施していたとのこと。

例えば、国連食糧農業機関が未分類生態系の分類に活用しました。ブラジルのMapBiomasがアマゾン熱帯雨林を含む全国の農業・環境変化の詳細分析を行っています。

Global Ecosystems Atlasプロジェクトでは、包括的生態系マップ作成により「沿岸低木地」「極乾燥砂漠」などの従来分類されていなかった生態系の新規分類に成功し、各国の保護区域優先順位付けや生物多様性保全戦略の最適化が進められているそうです。

他の実証実験では、雲に覆われたエクアドル農地の詳細把握、南極での従来困難だった複雑地形の鮮明なマッピングなど、従来手法では実現困難な成果を達成しています。

ストレージ容量の16分の1への圧縮の実現で、これまでデータをコストなどの理由で扱えなかった中小企業や研究機関でも扱えるようになりました。これまで以上に食料安全保障、森林破壊監視、都市拡張、水資源管理といった地球規模課題への迅速な対応が実現され、社会的インパクトが生まれることが期待されます。

さらに、今後はGeminiなどの大規模言語モデルとの統合により、さらなる活用可能性が期待されています。

Microsoft、Amazon、GoogleなどIT大手が地球観測サービスを展開する競争が激化しており、今後の動向も要注目です。

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