宙畑 Sorabatake

衛星

宇宙と地上を1つのネットワークに。次世代衛星1万5,000機の認可に続き、SpaceXはなぜ全米の「地上の周波数」を買うのか【宇宙ビジネスニュース】

SpaceXが全米の地上の周波数を買う契約を結びました。周波数を「買う」とは何か、手続きの現在地、宇宙と地上を1つにする狙いを順に解説します。

2026年10月8日、SpaceXは800MHz帯の周波数免許を取得する契約を締結したと発表しました。売り手は米国の投資会社Grain Management(以下、Grain)のグループ会社で、対象は全米規模の免許群です。

10月6日には、米国連邦通信委員会(以下、FCC)がSpaceXの次世代D2D衛星1万5,000機を認可しました。D2D(Direct to Device)は、衛星と手持ちのスマートフォンが直接通信する仕組みです。

SpaceXは衛星通信サービス「Starlink」を運用しています。SpaceXのD2Dは「Starlink Mobile」の名称で、提携する携帯会社を通じて提供中です。上場時の資料によると、2026年3月末時点で約30か国、月間約740万台の端末が利用しています。

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一方のGrainは、デジタルインフラを対象とする投資会社です。2026年8月に米国の携帯大手T-Mobileから、800MHz帯の免許群を取得したばかりでした。

今回の発表のポイントは、SpaceXが地上の周波数と基地局を自ら持とうとしている点にあり、それらを衛星と一体のネットワークにすることが狙いであると考えられます。

では、「周波数の免許を買う」とは何を買うことなのでしょうか。なじみのない方も多いでしょう。

本記事では、周波数を「買う」とはどういうことかを整理してご紹介。次に、SpaceXが何を買い、手続きがどこまで進んだのかを確認します。そのうえで、衛星会社が地上の周波数を買う理由を考えてみました。

(1)周波数は有限の資源。では、周波数を「買う」とはどういうことか

スマートフォンもラジオも、電波を使って情報をやりとりしています。電波は「周波数」で区別され、FMラジオの「80.0MHz」のような数字がそれにあたります。周波数は波が1秒間に繰り返される回数で、800MHz(メガヘルツ)なら約8億回です。1,000MHzは1GHz(ギガヘルツ)と書きます。

電波で通信するときは、ある周波数を中心に一定の「幅」を使います。この幅を帯域幅と呼びます。帯域幅は道路の車線数のようなもので、広いほど多くのデータを同時に流せます。車線が多くても混雑すれば遅くなるように、帯域幅は通信速度そのものではありません。

身近な電波の周波数を並べると、以下のようになります。

Credit : 宙畑編集部

周波数が低いほど遠くまで届き、高いほど広い帯域幅を取りやすく多くの情報を送れるため、用途ごとに向き不向きがあります。

ラジオで2つの放送局が同じ周波数を使えば、音が混ざって聞き取れません。同じ場所で使える周波数には限りがあり、周波数は「有限の資源」と呼ばれます。そこで国は、周波数の範囲ごとに用途と、免許で使う人を決めています。免許には、周波数の位置と幅、使える地域、用途、期限や義務が定められています。

ここからは、米国の例で見ていきます。800MHz帯では、通信の「上り」と「下り」で別の周波数を使います。上りは端末(スマートフォンや無線機)から基地局へ、下りは基地局から端末への通信です。

FCCの規則では、上りの806〜824MHzと下りの851〜869MHzが「800MHz帯」の一つです。この800MHz帯は、警察や消防、業務用などの無線の範囲と、携帯電話向けの範囲に大きく分かれています。

事業者は、その中で使う範囲と地域ごとに免許を受け、混信を防ぐ国のルールのもとで電波を出します。SpaceXが今回取得するのは、このうち携帯電話向けの範囲の免許群です。

道路の車線数にあたる帯域幅は、最大14MHzです。4Gの規格の上限から計算すると、このうち下りの7MHzを1人で使えたら、1秒に文庫本十数冊分の文字、もしくは、写真1〜2枚を送れます(いかに写真のデータが重いかが分かりますね。言わずもがな動画データを送るのは難しいとお分かりいただけるでしょう)。

ここまで、周波数とは何かということ、また、その用途について説明してきましたが、上述の通り、すでに私たちの生活には電波を使った情報のやり取りが不可欠な存在となっています。

そのうえで、米国議会の調査機関であるGAO(米国政府監査院)は、使いやすい周波数の大半がすでに割り当て済みだと指摘しています。新たに使うには、既存の免許を譲り受けるか、利用権を借りる「二次市場」が手段の一つになります。

今回の「周波数を買う」とは、電波そのものではなく、FCCの承認を得て免許を譲り受けることです。周波数帯、用途ごとの範囲、免許の関係を以下にまとめました。

Credit : 宙畑編集部

Grainの800MHz帯の免許群も、もとは米国の携帯会社Nextelが集め、取引を重ねて持ち主が変わってきました。FCCは、この範囲が近年十分に活用されてこなかったと指摘しています。

十分に使われていなくても、持ち主がいる以上はほかの事業者が勝手に使うことはできません。SpaceXは、Grainから免許を譲り受ける道を選びました。

(2)借りる、買う、そして全米の800MHz帯も。SpaceXが確保する3つの周波数と手続きの現在地

10月8日の契約でSpaceXが譲り受ける免許の概要は、次のとおりです。

◆位置:800MHz帯の高い側にある携帯電話向けの範囲(817〜824MHzと862〜869MHz)
◆幅:上りと下りの合計で最大14MHz(地域によって異なる)
◆地域:全米(免許群としてまとめて取得)
◆手続き:契約済みで、完了にはFCCの承認が必要

位置は、従来から携帯電話に使われてきた、通称850MHz帯(824〜849MHzと869〜894MHz)のすぐ隣です。800MHz帯はFCCの規則上の名前、850MHz帯は業界の通称で、どちらも数字は範囲の目安です。この範囲を、米国の低い周波数帯の中で示すと以下のとおりです。

Credit : 宙畑編集部

SpaceXが携帯向けの周波数を確保するのは、これが初めてではありません。SpaceXは米国で、T-Mobileが持つ地上用の周波数の一部を借りて、D2Dを始めました。地上用の周波数を衛星から使うこの仕組みを、米国ではSCS(Supplemental Coverage from Space:宇宙からの補完カバレッジ)と呼びます。

2025年には、米国の衛星通信会社EchoStarから、2GHz帯前後の「中帯域」を買う契約を結んでいます。幅は最大で計65MHzです。中帯域は、大容量の通信を担う周波数です。借りている周波数も買う周波数も、1.7〜2.2GHz付近の中帯域にあります。

Credit : 宙畑編集部

SpaceXによると、次世代のD2D衛星システム(V2)は、この2GHz帯を主に使う設計です。冒頭で触れた10月6日のFCCの認可は、このV2の運用に関するもので、周波数の売買ではありません。2025年9月に申請した1万5,000機は全数が認められた一方、周波数の一部は判断が保留されました。

そして今回、SpaceXはより遠くまで届く低い周波数帯を加えます。

免許には、使う義務も付いています。この免許を地上の基地局で使う場合、2029年と2034年の期限までに、一定の人口か面積をカバーする必要があります。十分に活用されてこなかった周波数だからこそ、FCCは確実に使わせる条件を付けたといえます。

SpaceXはこの800MHz帯を衛星からも使う計画です。ただし、この範囲は現在SCSの対象外で、そのままでは衛星から使えません。FCCは10月29日、SCSの対象を広げる規則改正案を採択し、意見募集に入ります。10月8日に公表された案では、この範囲も対象に含まれています。

一方、2026年7月のGrainへの譲渡承認では、衛星でも義務を満たせる道が設けられました。条件は、公募で衛星の提携先を選び、12月4日までに衛星の申請を出すことです。衛星で使えるかは、その審査で判断されます。

SpaceXは、V2の認可に800MHz帯を加える申請を、この条件に沿うものとしています。

借りている周波数と買う周波数の計3つについて、免許の中身と現在地を以下にまとめました。

Credit : 宙畑編集部

サービス開始まで到達しているのは、T-Mobileから借りている周波数だけです。全米の免許を持つことと、全米で同じ品質のサービスを提供できることは別です。

免許は電波を使う権利で、地上で使うには、1つで届く範囲が限られる基地局を各地に置く必要があります。加えて、800MHz帯の免許は、使える帯域幅が地域によって異なります。

(3)なぜ「地上の周波数」なのか。建物の中を補い、宇宙と地上を1つのネットワークに

では、なぜSpaceXが地上の周波数を買ったのでしょうか。SpaceXは今回の免許を、衛星サービスを補完し、電波が届く範囲を広げる「カバレッジ層」と位置づけています。

衛星からの電波も、性質は地上の電波と変わりません。ただし衛星は数百km先にあるため、電波は地上の基地局より弱い状態で届きます。建物の中ではさらに弱まり、鉄骨などで受信状態が乱れやすくなります。

SpaceXの構想では、地上の基地局から出す800MHz帯の電波が、建物内や障害物の多い場所をカバーします。低い周波数の電波は障害物の後ろに回り込みやすく、建物の中にも届きやすい性質があります。SpaceXのFCC提出書によると、この基地局は、通信塔やビルの屋上などに標準規格の無線機とアンテナを置く計画です。

端末は、800MHz帯に対応する機種が多いとSpaceXは説明しています。ただし、すべての機種で全サービスが使えるとは限りません。

800MHz帯の免許の価値は、電波の届きやすさだけではありません。新規参入では得にくい低い周波数帯の免許を、全米規模でまとめて得られる点も大きな意味を持ちます。SpaceXは、周波数を借りるだけの段階から、容量と届きやすさの異なる周波数を自ら持つ段階に移りつつあるといえます。

制度面でも、この変化は表れています。SCSは本来、携帯会社から周波数を借りる契約が前提です。しかし、EchoStarから取得する周波数の一部では、SpaceX自身が地上用の免許も持つことになります。貸し手と借り手が同じ会社になるため、FCCは10月6日の認可で、貸借契約は不要と判断しました。

SpaceXはこの構想を「地上ブロードバンドと衛星サービスの一方または両方を提供できる唯一のネットワーク」と呼びます。

Credit : 宙畑編集部

ここまでを整理すると、SpaceXが地上の周波数を買う理由は2つあると考えられます。

1つ目は、衛星では弱まる建物内の電波を、届きやすい低い周波数と自前の基地局で補うことです。2つ目は、地上用の免許を自ら持つことで、携帯会社との貸借契約に頼らず、衛星と地上を一体で設計できることです。

今回の発表は、衛星用と地上用に分かれていた周波数の免許を、SpaceXが自社に集める動きの一環といえます。

日本では、KDDIとNTTドコモがSpaceXの次世代衛星「Starlink Mobile V2」による音声通話と高速通信を計画しています。こちらは携帯会社が自社のサービスに衛星を組み込む形で、SpaceXが地上側も持つ米国の構想とは役割分担が異なります。

担い手は違っても、衛星と地上を一体のネットワークとして使う流れは、日米に共通しているといえます。山あいの道からビルの奥まで、つながる通信が当たり前になり、私たちの暮らしがより安全になることが期待されます。

参考

SpaceX:Building the World's Most Advanced Mobile Network(2026年10月8日)

Grain Management:Definitive Agreement to Sell Nationwide 800 MHz Spectrum Portfolio to SpaceX(2026年10月8日)

SpaceX:Description of the Transaction and Public Interest Statement(FCC提出書、2026年10月8日)

FCC:DA 26-1078(SpaceXの次世代D2D衛星の認可、2026年10月6日)

FCC:DA 26-471(EchoStarからSpaceXへの免許譲渡の承認、2026年5月12日)

FCC:DA 24-1193(T-Mobileの周波数を使うD2D(SCS)の認可、2024年11月26日)

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