Society5.0とは~IoTデータx衛星データの可能性と活用例~
「Society5.0」という日本政府構想の概要について、その構想の鍵となるビッグデータの中でも、衛星データxIoTデータの可能性と合わせてご紹介します。
元号が変わり、令和を迎えた日本。AIの高度化やビッグデータの活用などテクノロジーは進化を続け、社会の移り変わりは今後さらに加速することが予想されます。果たして、日本は今後どこへ向かおうとしているのでしょうか。
そんな未来像を日本政府は「Society5.0」という指針でまとめています。Society5.0では、AIやビッグデータの活用によって、社会の姿を大きく変え、私たちがより暮らしやすい社会を構築すると宣言されています。
今回はSociety5.0と、その鍵となるビッグデータについて紐解いていきましょう。
1.Society5.0が示す日本の未来像
Society5.0とは何か?まずはここから解説します。
Society5.0は平成28年1月に内閣府が第5期科学技術基本計画として日本が目指す未来社会を示したものです。内閣府に設けられた総合科学技術・イノベーション会議が内閣総理大臣から諮問を受け取りまとめた、まさに「国の肝いり」の計画です。
Society5.0では、情報化社会の先を見据えた社会のあり方として、以下の4つをポイントに挙げています。
1, 未来の産業創造と社会変革
2, 経済・社会的な課題への対応
3, 基盤的な力の強化
4, 人材、知、資金の好循環システムの構築
この中でも目玉になるのが1であると考えられます。未来の産業を生み出し、社会変革を実現するーー。この壮大なビジョンを実現するために必要なものは何か。
2.サイバー空間とフィジカル空間の融合
社会変革を実現するというSociety5.0の中核になるのが、ビッグデータとAIによってサイバー空間とフィジカル(現実)空間をシームレスにつなぐ構想です。
これまでは、フィジカル空間で得た情報を人の手で分析したり、検索するなどして活用してきました。例えば、天気予報を行う際、気象予測に必要なデータをセンサーなどで収集して、専門家が分析するというステップを踏みます。自動車もルート検索は自動化されましたが、運転自体は人の手によって行われます。
しかし、Society5.0ではこの「常識」が大きく変わると期待されています。
その鍵になるのがビッグデータと高度に発達したAI(人工知能)の存在です。天気予報であれば、データが集まれば分析はAIが行います。また自動車も運転している環境の情報(データ)を収集してAIが分析、その結果を踏まえて自動走行が可能になるのです。
このようにビッグデータとAIが組み合わさることで、人の手に頼らずともフィジカル空間が動くようになるのです。
これを実現する上で、特に重要になるのがビッグデータの存在です。ビッグデータが存在しなければ、教師データ不足によってAIの高度化が困難になる可能性も否定できません。それだけに、データをいかに揃えるかがSociety5.0の鍵を握るとも言えます。
内閣府の資料では、このビッグデータを取集する技術として、IoTの存在が挙げられています。
3.IoTデータの特徴と苦手なこと
IoTはあらゆるモノがインターネットにつながり、データを収集できる技術です。この数年でIoTに関する認知は飛躍的に高まりました。特にインターネット回線が安価に利用できること、日本には優れたセンサーメーカーが多数存在することからIoTは日本の強みを発揮しやすい分野ではないかと期待を集めています。
IoTのメリットは特定の場所のデータを正確に収集できること。例えば、農場にセンサーを設置して、設置した地点の気温や湿度、降雨量などのデータを収集できます。日本のメーカーが製造する高品質なセンサーであれば、精度も期待できるでしょう。
このような背景から、データを収集する手段としてIoTに関心が集まっているのです。
しかし、IoTで全てが解決できるとは限りません。IoTはセンサーの周囲の情報は正確に収集できますが、センサーが無い場所の情報は収集できません。
例えば、広大な農場の気温を把握する場合、敷地の至るところにセンサーを設置しなければ全体の気温のデータは収集できません。いざ設置しようとなっても、センサーを設置する手間やコストを考えると現実的ではないケースも想定されます。
IoTは「点」のデータはある程度正確に収集できますが、「面」のデータを収集するのは困難な場合もあるのです。
4.衛星データがIoTデータよりも得意な点
「面」のデータの収集が難しいという問題をどのように解決すればいいのか。そこで考えられるのが衛星データを活用することです。
①衛星データとは
衛星データはその名の通り、宇宙にある衛星に搭載されたセンサーが地球上を観測して集めたデータです。
観測できる対象は、Google マップなどで活用されている陸地の様子を捉えた画像の他、地表温度、降雨量、海面温度や風速など様々なデータを取得できます。この衛星データで分かるデータの詳細については、「衛星データのキホン~分かること、種類、頻度、解像度、活用事例~」をご覧ください。
②衛星データのメリット
衛星データのメリットは、IoTでは難しい「面」のデータが収集しやすいことです。これはドローンや航空機よりも高いところから、地球を広範に見下ろせる場所から観測できることからもお分かりいただけるかと思います。
さらに、近年はもう一つ大きな変化があります。
これまで、衛星データを手に入れるには多額のコストがかかりました。そもそも地球観測衛星を宇宙に打ち上げるのに億単位の費用がかかります。また、宇宙から地球への通信の問題、大量のデータの処理方法など様々な技術的な課題もありました。
しかしながら、近年は国が過去に打ち上げた地球観測衛星から得られるデータを無料で開放し、有効活用してもらおうという流れが世界的に拡がっているのです。国内のサービスであれば、「Tellus」を活用することで、先に挙げたデータを無料で入手することができます。
加えて、通信の問題など技術的な問題も解消しつつあり、衛星データは私たちにとって身近な存在になりつつあるのです。さらに、陸地や海上など広大な範囲のデータを収集する場合、衛星を活用すればIoTのようにセンサーを設置するコストがかかりません。
③衛星データとIoTデータの補完関係
ただし、衛星データも万能ではありません。例えば、ある特定の地点の気温などはIoTのセンサーで収集する方が精度は高いでしょう。宇宙からある地点の情報を正確に収集するというのは、まだまだ技術的にも難しいのです。リアルタイムのデータを衛星で収集するのもできません。また収集できるデータの種類もIoTデータの方が多様なセンサーを活用できるため豊富です。
このように衛星データにもデメリットがあります。しかし下記の表にある通り、衛星データの弱みはIoTデータで補うこともできます。
「点」の観測に強いIoT、「面」の観測に強い衛星データを組み合わせれば、収集できるデータの幅は一気に広がるでしょう。これにより、各種データ(もしくはビッグデータ)の収集も効率よくなるはずです。
そこで、次の章ではIoTと衛星データを組み合わせてどのようなことが可能になるか見ていきましょう。
5.IoTと衛星の組み合わせで実現する未来
①農業生産地の選定
「地球上に存在する広大な陸地の中で、トマトを生産するのにもっとも適した場所はどこか?」
こんな問いを投げかけられたとき、どのようにアプローチすればいいのでしょうか。地球規模でベストな場所を探す、この問題こそ衛星データとIoTの組み合わせが効果を発揮するケースです。
まずトマトの生産に適した温度や湿度、日照量などを把握します。そしてこれらの情報を衛星データから取り込んで分析すれば、おおよそどこが良さそうか(もしくはトマトの生産に適さない場所はどこか)見当がつけられます。
こうして生産地の候補を絞り込んだところで、次は候補地の正確な情報を収集します。この時活用するのがIoTの技術です。生産地の精緻なデータを収集して、最終的にトマトの生産にベストな場所を発見します。
このように衛星データをうまく活用することで、土地の選定がより効率的になることが期待されます。これに近しいサービスとして、先日宙畑でも紹介した「ポテンシャル名産地」が挙げられます。
儲かる土地が分かる!? 宇宙の目×人のノウハウでポテンシャル名産地を発見!
②災害リスクの発見
日本のように災害が多い国は、衛星データを活用することでそのリスクをいち早く検知することが可能です。
例えば、近年日本でも大雨や地震により土砂崩れが発生するケースが見られます。しかし実際に土砂崩れのリスクが大きいのはどこか、個別に測るのは容易ではありません。日本のように山が多い国は、全ての山の斜面の状態を人手で調査するのはほぼ不可能です。
そこで役立つのが衛星データです。衛星データでは、山の斜面の状態を観測でき、時系列でその変化を追えます。その結果、もし土砂崩れのリスクが大きい斜面を発見したら、そこにセンサーを設置し、より精緻なデータを収集して監視を強めることもできます。
これにより土砂崩れのリスクをより正確かつ迅速に把握できるようになると考えられます。
6.衛星データの活用でSociety5.0はどうなるか
ここまでSociety5.0の概要、IoTや衛星データの活用についてお伝えしてきました。サイバー空間とフィジカル空間の融合を進めるには、高度に発達したAIとビッグデータの存在が欠かせません。特にビッグデータの存在はAIの精度にも影響を及ぼす可能性があります。
そしてビッグデータの形成において、IoTにかかる期待はますます大きくなっています。しかし先に述べたとおり、IoTは「面」のデータを収集しようとすると手間とコストがかかるという課題を抱えています。
この課題を解決するために、衛星データの活用は有力な手段になりうるでしょう。紹介した例は夢物語ではなく近い将来実現している可能性が高い未来の姿です。
最近開催が発表された、社会、地域、企業の課題解決を目指す事業アイデアコンテスト「Tokyo Moonshot Challenge」でも宇宙空間も含めたIoTサービスへの期待が語られています。
Society5.0で衛星データの活用がより脚光を浴びるようになるのではないでしょうか。