宙畑 Sorabatake

特集

アポロ計画にも影響を与えたリモートセンシングと地球の地図づくり

アポロ11号の月面着陸50周年を記念した連載企画の第7回目では、アポロ計画がどのように地球のリモートセンシング(遠隔からの地表面観測など)に影響を与えたか、また、その歩みが現代のGoogle MapsやGoogle Earthといった地図製作にどのように繋がっているかをご紹介します。

リモートセンシングの軍事利用から民生利用への拡大

1960年代以前、「リモートセンシング」という言葉は端的に「空中写真(航空写真)」のことを指しました。アポロ計画も進む1962年、核戦争勃発寸前のキューバ危機では、ソ連がキューバにミサイルを配備しているのではないかと考えたアメリカは、高高度偵察機U-2による偵察を実施しました。当時、空中写真だけではなく人工衛星による偵察も行われていましたが、1995年に初めて衛星画像の機密データが公開されるまで、そのことは隠されていました。現在、コロナ(CORONA)計画(1959年2月-1972年5月)として知られているプロジェクトです。1960年、U-2で撮影した空中写真より、衛星画像の方が使えるものが多かったと言われています。たった1回のミッションで、ソ連の新たな64箇所の飛行場、26箇所の対地空ミサイル施設が確認されることもありました。

U-2によるソ連の中距離弾道ミサイル(MRBM)を配備している車両確認画像(1962年10月14日) Credit : ジョージ・ワシントン大学(The National Security Archive)

コロナ計画は数多くの”史上初”を成し遂げました。初めての写真偵察衛星プロジェクトであり、初めて宇宙からモノ(衛星から落とされた写真フィルム)を回収して、初めて宇宙からの観測データにより地図づくりが行われ、初めてひとつの計画で100以上ものミッションが遂行された宇宙計画でした。絶妙なタイミングを図り、輸送機C-130ハーキュリーズが空中でパラシュートをキャッチし、衛星から落とされたフィルムを回収することもありました。コロナ計画の全145回のミッションで80万枚以上の写真が撮影されました。(*1)

KH-2衛星によるソ連飛行場の撮影(1961年6月16日)
解像度約25メートル Credit : NRO(アメリカ国家偵察局)

冷戦時に偵察衛星が威力を発揮したのは、米ソ軍縮交渉の場です。交渉の切り札であったからこそ、衛星の存在や軌道、撮影画像などを秘匿する意味がありました。(*2)偵察衛星で撮影された画像は、1969年から1979年まで続けられた戦略兵器制限交渉の場で、大陸弾道ミサイルや原子力潜水艦の監視や交渉の合意内容を検証する材料として使われました。(*3)しかし、時代は進み、宇宙から撮影した衛星画像を販売する動きも見られるようになります。1992年、米国議会により陸域リモートセンシング政策法が制定され、衛星の商用利用と軍事目的以外での衛星高解像度撮影などが合法となりました。1986年にフランスの政府機関が解像度10メートルの白黒写真、1999年にはアメリカが偵察衛星の技術を転用した商用衛星イコノス(Ikonos)の解像度1メートルの写真販売に踏み切りました。(*4)

現代は位置情報を取得する測位衛星やデジタル地図の製作技術も進みました。今や、航空写真や衛星画像をいかに公開して、より生活を豊かにするためにどのように衛星データを活用するか、それらの技術を組み合わせて社会課題にどのように向き合っていくかを考える側面も持ち合わせた時代となりました。

アポロ計画からの産物~地球観測衛星「ランドサット」

培われた技術を地球科学などに役立てようとした一つの例が、1972年に初号機が打ち上げられたアメリカの地球観測衛星「ランドサット」です。アポロ計画以前に地球を周回したマーキュリー計画とジェミニ計画で撮影された地球の地形を映したカラー写真が、米国地質調査所(USGS)が提案した地球資源観測衛星(EROS:Earth Resources Observation Satellite)計画の構想につながったと言われています。

ジェミニ9号から撮影されたアフリカ Credit : NASA

1964年、航空宇宙産業でも有名なフランスのトゥールーズで開催された国連UNESCO主催のリモートセンシングに関する会合や『ナショナルジオグラフィック』誌などで宇宙から撮影した地球の写真が公表され、多くの人の関心を寄せました。次第に、NASA本部ではアポロ計画におけるリモートセンシングの実施が検討されるようになります。当時の計画は結局、のちのスカイラブ計画で実行されましたが、アポロ計画でも地球の写真が数百枚撮影されました。アポロ計画は宇宙からのリモートセンシングにも拍車を掛けたのでした。(*5)

リモートセンシングによる地図づくり

日本国土の地図づくりでも、リモートセンシングが使われています。一般的な手法である空中写真測量に着目しましょう。写真測量を用いた地図づくりでは、利用する写真がアナログからデジタルに移行したのと同じく、空中写真を用いて地表面を観測・描画する図化機(Stereoplotter)もアナログから解析図化機(アナログ写真を用いるが、コンピューター制御された図化機)を経て、デジタルに移行していきました。(*6)測量から地図の完成まで、測量時との現状のずれは避けられませんが、技術のデジタル化により、現在はその差も約1年にまで縮まっています。空中写真測量の図化機とカメラや撮影技術の変遷を年代ごとに確認すると、ドイツ、スイス、アメリカなどの技術が発展に大きく寄与していることが分かります。

Credit : sorabatake
国土地理院「地図と測量の科学館」に展示されている
立体図化機 A-8(スイス:ウィルド Wild 社製) Source : sorabatake
国土地理院「地図と測量の科学館」に展示されている
立体図化機 (ドイツ:ハイデ Heide 社製)
Credit : sorabatake

例えば、日本全国を1983年から網羅し、国土管理、国土計画、都市計画、カーナビや道路地図などのベースマップ、ハイキングや登山の案内図などで使われている最大縮尺の2万5千分の一の地形図は、空中写真を撮影し、図化機で地図を描き、現地調査で取得した情報と組み合わせて、コンピュータで地図を編集して製作されています。(*8, 9)

国土地理院 空中写真測量で使用される
撮影用飛行機「くにかぜ」 Credit : sorabatake

Google MapsやGoogle Earthの登場!開発の道のり

私たちの生活にすっかりお馴染みとなったのが、デジタル地図のGoogle Mapsやデジタル地球儀のGoogle Earthなどです。書籍『NEVER LOST AGAIN グーグルマップ誕生(世界を変えた地図)』(ビル・キルデイ著、大熊希美訳、TAC出版、2018年)からリモートセンシングがそれらのサービスにどのように活用されているか読み解いてみましょう。(*10)

Google Earthの前進は、2000年にIntrinsic Graphics社からスピンアウトした衛星地図ベンチャーKeyhole社の「EarthViewer」というソフトウェアです。KEYHOLEの名は、冷戦中に米軍がコロナ計画で開発した偵察衛星のコードネームKHをとったものでした。宇宙からの偵察が、まるでスパイが「鍵穴」を覗いて情報収集している姿に似ていることに由来しています。EarthViewerの初期画面に映し出されたのは1972年12月7日、アポロ17号がミッション経過から5時間後に撮影した「Blue Marble」と呼ばれる地球の姿でした。デモ版のソフトウェアは、住所や地名を入力すると画像が滑らかに遷移し、その場所にズームアップしていくというものでした。

アポロ17号が撮影した通称「Blue Marble」と呼ばれる写真 Credit : NASA

デモ版から改良された市販のEarthViewer 1.0の背景画像は、2000年7-9月に取得され、着色合成された地球観測衛星画像データセット「Blue Marble」を使ったものでした。(*11)ただし、地図のズームアップでは写真の解像度が問題となりました。そこで、商用衛星Ikonos(解像度1メートル)を打ち上げたSpace Imaging社やQuickBird-2衛星(解像度0.7メートル)を打ち上げたDigitalGlobe社から衛星画像、地方政府機関やAir Photo USA社から空中写真など、高解像度の画像データ獲得が積極的に行われるようになりました。Keyhole社.のライバルは、当時すでに約360億円(3億ドル)の収入があり、GISソフトウェア業界に君臨したEsri社でした。ただ、弱点はソフトウェアを扱えるようスキルを習得するまで年単位の時間を要することでした。GIS(地理情報システム)の専門家でなくても使えるGISソフトウェアの開発にKeyhole社は奮闘します。

着色合成された地球観測衛星画像データセット「Blue Marble」(2000年) Credit : NASA

2001年にアメリカ同時多発テロ事件が発生すると、デジタル地図の需要は一気に上昇。2002年、実質Keyhole社の資金は枯渇しますが、GISソフトウェアを提供するMapInfo社、半導体メーカーのNVIDIA社、メディアのCNN、アメリカ国家・地理空間情報局(NGA)、アメリカ国家偵察局(NRO)、CIAやNGAが出資するベンチャーキャピタルIn-Q-Tel社から資金調達を繰り返しながら、なんとか息をつなぎ、2004年にKeyhole社の技術がGoogleに買収されるまでに至ります。

空中写真、衛星画像、店舗情報などの膨大なデータベース管理アルゴリズムも開発が進み、「Google Maps」や「Google Earth」のサービスが開始されたのは2005年でした。ユーザー数が増えると、空中写真や衛星画像のライセンス料は高騰するようになりました。2008年、GoogleはImageAmerica社を買収し、企業独自の撮影用飛行機を保有するようになりました。また、Yahoo!やMicrosoftとの競争に勝ち抜き、GeoEye社の地球観測衛星「ジオアイ1号」が撮影する解像度0.5メートルの衛星画像を入手します。2016年までGoogle Earth は「ランドサット7号」(1999年4月15日打上げ)の衛星画像を使っていましたが、現在は「ランドサット8号」(2013年2月11日打上げ)の画像を使った版に更新されています。

宙畑とPokémon GOのマイナン Credit : sorabatake

ちなみに、日本でも大きなポケモンブームが再来した「Pokémon GO」。他にも、拡張現実AR技術と位置情報サービスを融合した「Ingress(イングレス)」や「ハリー・ポッター:魔法同盟」などのゲームを世に送り出したのは起業家ジョン・ハンケ氏です。彼はKeyhole社のCEO(最高経営責任者)でもありました。

Google Earthに関連する作品を楽しむ!

さて、好奇心旺盛な読者の方々におすすめしたいのが、以下の作品です。リラックスしながらGoogle Earthの開発に影響を与えた書籍や実際のアプリが登場する映画を楽しみましょう!

・科学書籍『パワーズ オブ テン―宇宙・人間・素粒子をめぐる大きさの旅』、フィリップ・モリソン 、チャールズおよびレイ・イームズ事務所著、 村上陽一郎、村上公子訳、日本経済新聞出版社 、1983年(原書は1977年出版)

自然の大宇宙と体内の小宇宙がつながっていることを表現した解説付き写真集。10倍単位の縮尺で遷移する画像データで宇宙と人体を大冒険!YouTubeには1968年に製作された教育動画がアップ。

・SF小説『スノウ・クラッシュ〈上〉〈下〉』、ニール・スティーヴンスン著、日暮雅通訳、早川書房、2001年(原書は1992年出版)
「これはセントラル・インテリジェンス社(CIC)のソフトウェアで<アース>という。CICが保有する地図、気象データ、建築計画、偵察衛星のデータなど、空間に関するあらゆる情報を管理するためのユーザーインターフェイスだ」という文がGoogle Earthを彷彿させる。アポロ計画関連書籍も翻訳されている日暮雅道先生が訳者!

・商品カタログ『WHOLE EARTH CATALOG』、スチュアート・ブランドによって創刊、主に1968年-1974年
第一版の表紙には、1967年にATS-3衛星が撮影した地球が浮かぶ。1974年にアップル社の共同設立者スティーブ・ジョブズのスタンフォード大学卒業式辞のスピーチでも有名になった「Stay hungry. Stay foolish.(ハングリーであれ。馬鹿であれ。)」という言葉で廃刊した冊子。

・映画『LION/ライオン ~25年目のただいま~』、ガース・デイヴィス監督、2016年公開、映画公式URL:https://gaga.ne.jp/lion/(2019年10月7日時点)
年間8万人以上が行方不明になると言われているインドで起こった奇跡!地名を間違えて覚えていたがために迷子になってしまった少年がGoogle Earthを使い、25年後に生みの親と再会する感動実話ストーリー!

100 Year Starship:Google Earthで地球から月へ

最後に、Google Earthを魅力的に使っているウェブページを発見したのでご紹介します。ぜひパソコンの画面をスクロールして、アポロ11号のロケットが打ち上げられたアメリカ・フロリダ州のケネディスペースセンター第39A発射台から月まで飛び立ってみてくださいね。(発射台から宇宙へ!

38万キロメートルまでひとっ飛び!(静止画) Credit : 100 Year Starship

100 Year Starshipとは、アメリカ国防高等研究計画局(DARPA)とNASAが民間団体に研究予算を提供しているプロジェクトです。これからの100年間、人類が惑星間航行を実現するためにどのようなシステムや技術が必要かの壮大な構想を描くことを目的としています。1992年9月12日、日本人の毛利衛宇宙飛行士ともスペースシャトル・エンデバー号に搭乗したアフリカ系アメリカ人女性初のメイ・ジェミソン宇宙飛行士も主要メンバーです。(*12)

今回はジェミニ計画からアポロ計画に至るまでに撮影された写真が、安全保障の分野とも絡まって、空や宇宙からのリモートセンシングにどのような影響を与えたかを振り返りました。また、空中写真や衛星画像などのリモートセンシングデータが、どのように地図づくりに役立てられているかご紹介しました。地図づくりの最先端は、今日も科学技術の最先端を走ります。

(参考)
(1)EYE IN THE SKY The Story of the Corona Spy Satellites, Dwayne A. Day, John M. Logsdon and Brian Latell, Smithsonian Institution Press Washington and London, 1998
(2)「インテリジェンスの極意!」p.180、黒井文太郎+ワールド・インテリジェンス編集部、宝島社、2008年
(3)The Political Impact of Spy Satellites, P. Norris, Logica, ISU 13th Annual Symposium – ‘Space for a Safe and Secure World’, 2009
(4)「知られざるインテリジェンスの世界-世界を動かす智恵の戦い」、吉田一彦著、PHP研究所、2008年
(5)Landsat and Apollo:The Forgotten Legacy, Paul D. Lowman, Jr., Photogrammetric Engineering & Remote Sensing, 1999
(6)地理空間情報技術ミュージアム(http://mogist.kkc.co.jp/)、2019年10月22日時点
(7)American Society for Photogrammetry and Remote Sensing(https://www.youtube.com/watch?v=4jABMysbNbc)2019年10月22日時点
(8)国土交通省 国土地理院「空中写真による2万5千分1地形図の作成方法」(https://www.gsi.go.jp/MAPSAKUSEI/25000SAKUSEI/25000SAKUSEI-25000sakusei.html)2019年10月22日時点
(9)新版2万5000分の1地図 デジタル化時代の地図、大竹一彦著、古今書院、2002年
(10)Never Lost Again: The Google Mapping Revolution That Sparked New Industries and Augmented Our Reality, Bill Kilday, HarperBusiness, 2018
(11)Blue Marble Research -People, science and Serious Fun-, Blue Marble Next Generation, January 1st 2005 (https://bluemarble.ch/wordpress/2005/01/01/blue-marble-next-generation/) 2019年10月22日時点
(12)STEM trailblazer BIOS ASTRONAUT MAE JEMISON、ALLISON LASSIEUR、Lerner Publications、2017

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