宙畑 Sorabatake

特集

再び月へ!アポロ計画以降の月探査とデジタル時代の地図づくり

アポロ11号の月面着陸50周年を記念した連載企画の第8回目では、各国の月探査の歩みを辿ると共に、アポロ計画に至るまでの月の地図づくりの歴史に続いて半世紀経った今、月の地図づくりとその表現方法がどのように進化しているのかを追います。

アポロ11号の月面着陸50周年を記念した連載企画の第8回目では、各国の月探査の歩みを辿ると共に、アポロ計画に至るまでの月の地図づくりの歴史に続いて半世紀経った今、月の地図づくりとその表現方法がどのように進化しているのかを追います。

早見表:アポロ計画以降の月探査

最近の月探査と言えば、多くの読者の方は2007年に打ち上げられた、日本の月周回衛星「かぐや(SELENE)」を思い浮かべるのではないでしょうか。「かぐや」に搭載されたNHK開発のハイビジョンカメラで撮影された「満地球の出」は息を呑む美しさでしたね。

月周回衛星「かぐや」が撮影した「満地球の出」 Credit : JAXA

世界には196ヵ国(※日本の承認数)存在しますが、世界で月に探査機を送っているのはその内のたった7ヵ国です。割合にして全体の約4パーセント!アポロ計画以降、月探査が再び始まったのは22年後の1994年でした。国防総省とNASAが戦略防衛構想の一環としてクレメンタイン探査機を月に送り、詳細な月面図作成を行いました。ロシアとアメリカ以外では1991年、日本が「ひてん」工学実験衛星と「はごろも」孫衛星を月軌道に投入しました。各国が実施した月探査とその目的の変遷について表をご覧ください。

表 各国の月探査の実施状況(*1, 2, 3, 4)

表を確認すると、月周回ミッションから月への軟着陸を実現するまでのハードルが高いことがうかがえます。それだけ、月面着陸技術の確立が難しいことを物語っています。日本では現在、小型月着陸実証機SLIM(Smart Lander for Investigating Moon)の開発が着々と進められています。約100メートル単位の精度で月面着陸を目指しているミッションです。どんな成果が出てくるのか、その成果が今後の月探査にどのように発展していくのか、とても楽しみですね。

目で楽しむ!月の地図づくりの発展

それでは、各ミッションでどのような観測データが取得され、どのような月面地図が製作されてきたのか、ビジュアルで追ってみましょう!地形図のみならず、重力観測、鉱物の分布図など、彩り豊かな地図が誕生しています。インドのチャンドラヤーン2号はまさに2019年11月現在、奮闘中!月の永久影(万年、太陽光が届かない領域)の地図づくりに力を入れています。

「クレメンタイン探査機」
中央上:レーザー高度計による地形図(月の表と裏) 
左下:鉄の分布、右下:チタンの分布  Credit : LPI(Lunar and Planetary Institute)(中央上),USRA(Universities Space Research Association)(左下右下)
「ルナ・プロスペクター探査機」
左:異常重力場観測 LP165Pモデル
右:トリウムの分布観測 Credit : ISAS (improved by Sugano 2004 from Konopliv, et al., 2001)(左),NASA(右)
「ルナ・リコネサンス・オービター探査機」
左:地形データ(topography)、中央:傾斜データ(surface slope) 
右:岩石分布密度データ(surface roughness)(月の表) Credit : NASA
「グレイル探査機」
重力場観測 Credit : SA/JPL-Caltech/ IPGP
「嫦娥1号」 中央上:円筒図法による全月球撮影図(解像度120メートル)、2008年7月20日発表
左下:数値標高モデル(DEM)、右下:日中の温度分布、2014年発表 Credit : CNSA(moonviews.com)(中央上),Chinese Journal of Geochemistry(左下,右下)
「チャンドラヤーン1号」
(青)高緯度における水とヒドロキシル分子、
(赤)輝石、(緑)月面の明るさの観測(月の表) Credit : ISRO/NASA/JPL-Caltech/Brown Univ./USGS

パソコンで操作できる月のデジタル地図比較

デジタル地球儀のGoogle Earthのように、パソコン上で操作できる月のデジタル地図がいくつかあります。それらを実際に操作してみました。主要なものを7個ピックアップし、それぞれにどのような特徴があるのかをご紹介します。オンライン版とインストール版に分類し、公開された年が早い順に並べました。

《オンライン版》

《Google Moon》 2005年公開
https://www.google.com/moon/

Google Moonと言っても、オンラインで閲覧できるものは2次元平面上に表現された円筒図法の地図です。かつての版には、月面を拡大するとチーズの表面が出てくる仕掛けがありました。欧米では「月はチーズでできている(The Moon is made of green cheese)」という言葉が存在するからです。それは1508年、オランダの司祭・哲学者で最大の人文学者と言われるデジデリウス・エラスムスが発表した、古代ギリシア時代からのことわざを最終的に約4000個以上も収録した格言集『Adagia』に、「彼は『月はグリーンチーズでできている』と、友人たちに信じさせた」という一節が記述されている頃まで遡ります。しかし、2007年9月、高解像度のデータが整備されると共に、粋なチーズの細工も消えてしまいました。

月はグリーンチーズでできている!? Credit : Between the Lines with Shaan Hurley(ブログ記事)

現在は4種類のデータが提供されています。第一に、アポロ11号から17号の着陸地点や残留物の位置を提示をする「APOLLO」データセット。第二に、クレメンタイン探査機の写真を繋ぎ合わせ加工した「VISIBLE」データセット。第三に、The Unified Lunar Control Network 2005(*)作成の一環で生成した「ELEVATION」標高データセット。第四に、地質と地形を表現した「 CHARTS」データセットです。CHARTSの地図は見ごたえがありますよ。

The Unified Lunar Control Network 2005 Credit : USGS

*The Unified Lunar Control Network 2005:地球からの観測写真、アポロ計画、マリナー10号、ガリレオ探査機で撮影された写真を用いて作成された月の地形モデル。月面の27万2931点の3次元位置を定め、54万6126点のタイポイント(画像間の共通点)を用いて撮影角度を補正した4万3866枚のクレメンタイン探査機の画像を含む。(*5)

《嫦娥(チャンア)2号の観測データによる月の3D》 2011年以降公開
http://moon.bao.ac.cn/index_en.jsp

嫦娥(チャンア)2号で取得された観測データもオンライン公開されています。3次元立体地図では、月の海、山脈、クレーター、着陸地点、中国人名がついたクレーターなどのデータを重ね合わせて見ることができます。勢いある月探査計画と共に、データ整備も着々と進められています。

嫦娥(チャンア)2号の観測データを使ったデジタル月球儀 Credit : 探月工程(sorabatake画面キャプチャ)

《PLANMAP:PLANetary MAPping》 2018年公開
https://planmap.eu/

欧州宇宙機関(ESA)が今後計画している、月、火星、水星探査のために立ち上げられたプロジェクトにPLANMAPがあります。宇宙飛行士が月や火星の着陸地点候補を探す訓練を想定して、仮想現実VR技術を使った没入型3次元立体地図の開発などに取り組んでいます。まだ、3次元立体地図は提供されていませんが、これからの進展に目が離せません。

円筒地図投影による月の地図 Story Maps Credit : PLANMAP(sorabatake画面キャプチャ)

《GISプラットフォームArcGIS Online》  2019年公開
https://esriurl.com/moon

こちらはアポロ計画50周年を記念して、ケネス・フィールド(Kenneth Field)氏によって作られたデジタル月球儀です。(*6)製作の際、標高データの陰影や色の付け方、拡大時の写真解像度のバラつき、インストール版とオンライン版のArcGISソフトウェアの機能差で生じる課題などを克服しています。例えば、アポロ計画時に取得された画像データは、各ミッションで観測技術や機器性能が向上したため、画像データの解像度に統一性がありません。解像度のバラつきの対処としては、アポロ計画時の着陸地点の画像データを使用するのではなく、ルナ・リコネサンス・オービター探査機で撮影された解像度1-2メートルの画像を使うことで解決しています。

アポロ計画の着陸地点表示 Credit : ArcGIS Online(sorabatake画面キャプチャ)

また、月の直径は地球の約4分の1で表面積は地球の7%しかありません。ArcGIS Onlineで提供される地球サイズの球体データに月の画像データを拡大させるため、全ての画像データをWebメルカトル座標系(投影法はメルカトル図法を採用しているが、形状を楕円体ではなく球体と定義)に変換する手間を掛けています。開発者による製作秘話もウェブサイトに紹介されていて、親しみを感じることができるデジタル月球儀に仕上がっているのが特徴です。

月の裏側とクレーター名 Credit : ArcGIS Online(sorabatake画面キャプチャ)
アポロ11号の着陸と宇宙飛行士の足跡 Credit : ArcGIS Online(sorabatake画面キャプチャ)

《インストール版》

《GISプラットフォームArcGIS Pro》 2004年公開
https://www.esri.com/ja-jp/home

次に、GIS業界を先導するEsri社が太陽系における天体の地図づくりにどのように対応しているか確認してみましょう。専門用語が出てきますが、少しお付き合いください。

インストール版のArcGIS Pro(有料)では、天体の地図データを3次元の球面で表現するために必要な角度の単位、緯度経度の形式を決める測地系、長径や短径を定義する回転楕円体モデルの情報を提供する「地理座標系」が提供されています。ArcGIS Proで「Map Properties(地図の特性)>Geographic Coordinate Systems(地理座標系)>Solar Systems(太陽系)>Earth(地球)」と辿っていくと、月の地理座標系「Moon 2000」を選択することが確認できますね。

月の地理座標系 Credit : ArcGIS Pro(sorabatake画面キャプチャ)
地理座標系の設定画面 Credit : ArcGIS Pro(sorabatake画面キャプチャ)

ArcGISの魅力は、月や火星以外にも太陽系の惑星とそれらの衛星の地理座標系が用意されていることです。その数はなんと約90個!使い方を理解し、機能を駆使するためには多少知識が必要ですが、さまざまな用途に使える汎用性が高いソフトウェアの設計となっています。2017年からはArcGIS Onlineでも、地球以外の天体地図データも取り扱えるように移行が始まっています。(*7)

地球のデータを取り扱う場合と異なり一つ注意しなければならないのが、地図を2次元平面上に投影するための「投影座標参照系(projected coordinate reference system)」が天体のデータに限っては定義・用意されていないことです。(*8)投影座標参照系をユーザー定義した上で、地理座標系を設定すると、ArcGIS Proで天体地図を2Dや3Dに切り替えて表示させることができます。

ネット上では火星を例に、ArcGIS Proにアメリカ地質調査書(USGS)が提供するデータを取り込む事例が紹介されています。(*9)筆者はファイルのダウンロードに約2時間掛かりましたが、いざArcGIS Proにデータを取り込んでみたら、簡単に火星の地図データを2D/3D切り替えで楽しむことができました。

火星の地図・2D表示 Credit : ArcGIS Pro(sorabatake画面キャプチャ)
2D/3Dの切り替え表示 Credit : ArcGIS Pro(sorabatake画面キャプチャ)
火星の地図・3D表示 Credit : ArcGIS Pro(sorabatake画面キャプチャ)
火星の地図・3D表示
(火星っぽく見せるためSymbology機能で色調整) Credit : ArcGIS Pro(sorabatake画面キャプチャ)

《Moon in Google Earth》 2009年公開
https://www.google.co.jp/intl/ja/earth/

3次元で月を楽しめるのが、Google Earthで展開されている地図です。クレジット表記を確認すると、日本の月周回衛星「かぐや」で取得された観測データも使われていることが分かります。拡大すると、YouTubeの映像やパノラマ写真を見ることができます。月の他にも、星空と火星の地図も楽しむことができますよ。

Google Earth 5.0 Credit : NASA/USGS/JAXA/SELENE(sorabatake画面キャプチャ)

《かぐや3Dムーンナビ》 2009年公開
2019年11月ウェブサイト閉鎖中

月周回衛星「かぐや」で取得されたデータを使った日本独自のデジタル月球儀もあります。NASAが提供する3D地球儀ソフトウェア「NASA WorldWind」のJava版をカスタマイズして作成されたものです。地図は小学生、中学生、高校生以上向け用に分かれていて、楽しめるコンテンツや言葉の表現が多少異なります。岐阜県・北海道・関東地方・富士山などの広さの月面重ね合わせ、経線・緯線の表示、月の地名表示、「天動説から地動説へ」、「人類の月探検」、「世界の冒険家たち」などのテーマに沿った情報表示などの機能があります。

アポロ11号の着陸地点付近の
関東地方の広さと富士山の大きさとの比較 Credit : JAXA/SELENE(sorabatake画面キャプチャ)
標高断面図と撮影映像アイコンの表示 Credit : JAXA/SELENE(sorabatake画面キャプチャ)

月を愛でる!月球儀と巨大デジタル月球儀

パソコンの画面だけでは満足できない!そんな読者の方々におすすめなのが、月球儀と科学館という選択肢です。月球儀のメーカーで有名なのは、国内では渡辺教具製作所、国外ではアメリカ・シカゴに本社があるリプル―グル(Replogle)社です。(*10)海外ではその他にも、3Dプリンターを使った月球儀製作、スマホアプリによる拡張現実AR技術と融合した月球儀など、月の地図の表現方法はますます広がっています。

月探査機「かぐや」では、ハイビジョンカメラの他に「地形カメラ」も搭載され、月面高度100キロメートルから10メートルという水平解像度で月の全球を撮像し、最も精度が高い全球標高データが取得されました。渡辺教具製作所が作った月球儀KAGUYAでは、それらのデータに加え、アメリカのクレメンタイン探査機で収集した表面の反射データを明るさ情報として加え、クレーターの陰影を表現しています。

月球儀KAGUYAと月面地形図 Credit : 渡辺教具製作所、sorabatake

また、東京お台場にある日本科学未来館を訪れると印象的なのが、吹き抜け構造の館内に浮かぶ巨大球儀の球体ディスプレイ「ジオ・コスモス」です。直径6.5メートルの球体表面には約100万個のLEDが輝き、計3715枚のパネルで宇宙から捉えた地球の姿などを映し出します。中秋の名月の頃は、ジオ・コスモスも月に変身するようです。

日本科学未来館のジオ・コスモス Credit : sorabatake

時には外に出て、本物の月を愛でるのも風情がありますね。

月を愛でる(2017年12月スーパームーン) Credit : sorabatake

どんな地図でも、本当にその地図を解読して活用するには、その地図がどのような意図をもって、誰によってどのように製作されたのか、その製作背景を理解することがとても大切です。今後、アメリカ政府主導のアルテミス計画、各国の月探査、民間月面探査コンテストが盛り上がっていくなか、地図の知識があると一層ニュースを楽しむことができそうです。一家に一台、部屋に月球儀を飾ってみるのはいかがでしょうか?

(参考)
(1)世界はなぜ月を目指すのか-月面に立つための知識と戦略-、佐伯和人、株式会社講談社、2014年
(2)NASA Science Earth’s Moon(https://moon.nasa.gov/exploration/moon-missions/)2019年10月22日時点
(3)宇宙科学実験所 工学実験衛星「ひてん」(http://www.isas.jaxa.jp/missions/spacecraft/past/hiten.html)2019年9月24日時点
(4)Scientific data and their release of Chang’E-1 and Chang’E-2, March 2014,Chinese Journal of Geochemistry 33(1), Project: China’s Lunar Exploration Project(CLEP), Zuo Wei, Chunlai Li, Zhoubin Zhang
(5)The Unified Lunar Control Network 2005, Brent A. Archinal, Mark R. Rosiek, Randolph L. Kirk, and Bonnie L. Redding, USGS, 2006
(6)ArcGIS Blog, Walking on the whole of the moon, Kenneth Field, October 10, 2019
(7)ArcGIS Blog, To Infinity and Beyond: ArcGIS Online Now Supports Extraterrestrial Mapping, Tripp Corbett, March 17, 2017
(8)GeoNet The Esri Community, Planetary Coordinate Systems: The Moon, user spk578, October 15, 2017
(9)Esri Australia Technical Blog, Mapping Mars with ArcGIS Pro, Ebony Wick, February 1, 2016
(10)Globes-地球儀の世界、高井ジロル著、ダイヤモンド社、2009年

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