人工衛星「いぶき(GOSAT)」「いぶき2号(GOSAT-2)」~地球温暖化の未来を知る~
季節外れの暑さや寒さに異常気象。地球の今を知るのに人工衛星は不可欠な手段である。そこで今回は「いぶき(GOSAT)」シリーズについて紹介する。
「いぶき2号(GOSAT-2)」、2018年度打ち上げ予定
2009年に日本から打ち上げられ、今も地球の観測を続ける人工衛星「いぶき(GOSAT)」をご存知だろうか。2018年度には「いぶき2号(GOSAT-2)」の打ち上げ予定、そして後継機「いぶき3号(GOSAT-3)」もすでに平成29年度に改訂された宇宙基本計画工程表(※)に記載されている。
日本、そして世界を沸かせた「はやぶさ」でさえ3号機の計画の話をなかなか聞かないなか、すでに後継機の開発が決まっている「いぶき」シリーズとはいったいどのような人工衛星なのか。本記事では「いぶき」シリーズの目的と背景について紹介する。
(1)地球温暖化で異常気象が増えている?
みなさんは今、地球温暖化を実感しているだろうか。今年は、3月に気温が上がり関東で観測史上3番目に早く桜が満開となった。一方で1月から2月にかけては全国的に大雪の被害があった。暑くなっているのか、寒くなっているのかよくわからないというのが正直なところかもしれない。
地球温暖化について、人為起源による気候変化、影響、対策に対し科学的、技術的、社会経済学的に評価を行う組織IPCC(Intergovernmental Panel on Climate Change)国連気候変動に関する政府間パネルの報告によれば「人間活動が20世紀半ば以降に観測された温暖化の支配的な要因であった可能性が極めて高い(可能性95%以上)」とされている。
では、温暖化によって桜が早く咲くのはともかく大雪は関係があるのだろうか。実は地球温暖化の進行によって記録的や大雨や大雪と干ばつや猛暑といった異常気象が増えていく傾向が強まるという研究がある。また実際に、日本の年間降水量の偏差を見ても降水量の振れ幅が大きくなっているデータもある。
はっきりと大雪が温暖化の影響であると断定することはまだできないようだが、昔に比べて異常気象と言えるような天気が増えていると感じている人は少なくないだろう。
参考:
・JCCCA 全国地球温暖化防止活動推進センター IPCC第5次評価報告書特設ページ
・地球環境研究センター この異常気象は地球温暖化が原因?
・日本の年降水量偏差の経年変化(1898〜2017年)
(2)持続可能な開発目標(SDGs)にも気候変動対策
当然だが、「地球」温暖化というだけあって日本だけに起きている問題ではない。2015年9月に開催された国連持続可能な開発サミットでは、150を超える国の参加のもと17の持続可能な開発目標SDGs(Sustainable Development Goals)が掲げられている。その中には「気候変動に具体的な対策を」という目標があり、持続可能な生活を守るために地球上のすべての国に対策が求められているのである。
国としてはもちろん、企業としても温暖化対策をしていることはアピールできるものであり、何か製品を開発・制作する際に温室効果ガスの排出量を削減できるサービスが提供できることはそのサービスの売りとなる。
参考:国際連合広報センター 持続可能な開発目標(SDGs)とは
(3)地球温暖化の未来を人はまだ良く知らない
では、将来気温はどこまで上がってしまうのか、対策を行うことでどのくらい温暖化を抑えることができるのか、その予測を立てることも重要になってくる。
しかし、現状この将来予測の幅が大きいことが課題となっている。IPCCによる予測だと今世紀末の気温上昇は0.3~4.8℃とされている。
これだけ差があると対策を立てても効果があるのかないのかわからない。温暖化しないためには対策が必要であるが、何よりも温暖化のメカニズムを把握することも必要なのである。
参考:JCCCA 全国地球温暖化防止活動推進センター IPCC第5次評価報告書特設ページ 第1作業部会(科学的根拠)
(4)温室効果ガス観測衛星「いぶき」「いぶき2号」
二酸化炭素やメタンガスなどの温室効果ガスが地球温暖化の大きな要因と言われているが、より詳細に温暖化のメカニズムを知るためには地球全体をまんべんなく、統一的に調べる必要がある。
しかし、地上では観測装置を設置できる場所が限られてしまったり、国によって観測精度に違いがあったり、どうしても観測にムラができてしまう。そこで期待されているのが宇宙にから地球を観測する人工衛星である。人工衛星なら地球全体をまんべんなく統一的に調べることが可能だ。
そこで温室効果ガスを観測する人工衛星「いぶき(GOSAT※)」を日本が2009年に打ち上げ、現在も観測を続けており、海外でもアメリカが2014年に「OCO-2(Orbiting Carbon Observatory-2)」を打ち上げている。
※GOSATは「Greenhouse gases Observing SATellite」の略
下のグラフからわかる通り、現在、二酸化炭素の濃度は400ppmを超えている。いぶきが観測を始めた2009年と比べると約15~20ppm増加しているのがわかるだろう。
JAXA/NIES/MOE 国立環境研究所のサイトから引用
IPCCで二酸化炭素の濃度が2100年時点で何ppmであれば、今に比べて世界の平均気温が上がるかの予測がある。それを見ると450ppmで2度未満に留められる可能性が高い。このまま約10年で15~20ppmほど増え続けるとどうだろう?温暖化の進行具合が少しはイメージができるだろうか。
地球温暖化のこれからを知るために「いぶき」の観測データは重要度を増していく。しかし、「いぶき」の寿命も永遠ではない。すでに設計寿命の5年をとっくに超えて運用をしている。そこで後継機が必要になるが、まさに今年度「いぶき2号(GOSAT-2)」が打ち上げ予定となっている。
「いぶき」は二酸化炭素とメタンガスの観測が可能であったが、「いぶき2号」ではさらに一酸化炭素の観測も可能になる。一酸化炭素の観測が可能になると、人為起源の温室効果ガスの排出量を特定しやすくなると期待されている。
(5)気候変動がもたらした新たなビジネス
気候変動の対策は大きく2つに分けられる。適応策と緩和策だ。適応策は、気候変動によって起きてしまう異常気象から被害を最低限にとどめる施策など変わってしまう環境に合わせていく対策。緩和策はなるべく気候が変わらないように温室効果ガスの排出を減らしていくなど環境を維持する対策である。
温暖化対策の1つとして温室効果ガスを排出する権利を取引する制度がある。各企業が排出枠を定め、排出枠を超えて排出してしまったところが、排出枠より少ないところから排出する権利を買い取るという制度である。これにより排出権をめぐる企業間の仲介やコンサルティングを行う企業(みずほ情報総研、スマートエナジー、Value Frontierなど)が出てきた。
また温室効果ガスとは直接的には結びつかないかもしれないが、温暖化の進行により起こる農業や漁業への影響から被害を見越した保険など、金融・保険業で気候変動に対応するサービスを提供する企業(SOMPOホールディングス)が出てきている。
気候変動により人々の生活が変わるとビジネスも変化が必要になる。人工衛星が教えてくれる地球の今から将来を予測し、持続可能な生活を守るビジネスがこれから求められていくのであろう。