宙畑 Sorabatake

Tellus

一次産業とメタバース、対照的な2社が見据える衛星データ利用が当たり前になる未来社会の話

2021年10月26日に開催された「Tellus SPACE xData Fes.2021」のトークセッションの1つ「日本発の衛星データ利用が世界に拡大する未来社会の話」では、まったく異なる事業を行う2社からゲストをお呼びして、衛星データの利活用の最前線についてディスカッションを行いました。

2021年10月26日(火)、衛星データプラットフォームTellusのアップデートに合わせて、「Tellus SPACE xData Fes.2021」と題したオンラインイベントが開催されました。本記事ではメインコンテンツのひとつ「日本発の衛星データ利用が世界に拡大する未来社会の話」で話された内容を紹介します。

本コンテンツの登壇者は、漁業者支援を行うオーシャンソリューションテクノロジー株式会社(以下、OST)の水上陽介さん、デジタル空間上にもう一つの地球を自動生成するAI開発に取り組む株式会社スペースデータの佐藤航陽さん、Tellusの立ち上げから関わるさくらインターネット株式会社フェロー小笠原治の3名。モデレーターはさくらインターネット株式会社でTellusPRの責任者の竹林正豊です。

左から、モデレーター竹林、OST水上さん、スペースデータ佐藤さん、さくらインターネット小笠原

まずは、両社の事業から紹介します。

(1)オーシャンソリューションテクノロジーが臨む漁業者支援システム開発

オーシャンソリューションテクノロジー株式会社の水上陽介さん

OST社は「トリトンの矛」という、衛星データや漁業に必要なデータ、AI技術を最大限活用し、漁業者を支援するシステムを開発しています。

現在、漁業は複数の大きな課題に直面しています。そのひとつが、日本国内の水産資源の減少です。その上、違法操業にも悩まされており、違法操業による被害額は年間約1400億円にも及ぶと言われています。

そのような背景の中で、2018年に漁業法が改正され、これまで大規模事業者だけが行っていた漁獲報告を、小規模事業者に対しても、義務付けられました。また、「水産流通適正化法」という法律も、実際に2022年度施行される予定です。

しかしながら、現在の漁業報告はほとんど手書きで、ITを活用できているという漁業者はごく一部。さらに「地域によっては操業データが、(研究したくともできない)学術的な危機にあるぐらいデータがない場所もあり、今の日本の水産業をどんどん衰退させてしまっている原因の一つとなっている」とも、水上さんは話します。

そこで、OST社が取り組むのが、電子漁獲報告をサポートするサービスの提供です。

水上さん:電子漁獲報告の中で、衛星データ(で取得できる海面水温やクロロフィル濃度)と位置情報が紐づいたものが実現できたときに、科学的な根拠のデータベースになって、それが資源評価、資源管理、漁獲証明、そして国が示すこの管理措置に繋がっていく。そして、衛星データと位置情報が紐づいた電子報告というのは、スマート水産業の中心になる、根幹になる部分ではないかと考えています。

Credit : OCEAN SOLUTION TECHNOLOGY CO.,LTD.

では、どのように衛星データを活用するかですが、海況状況を把握する機材を船に積んでいない、小規模漁業者の操業状況と衛星データをリンクさせて漁獲報告が行える仕組みを構築しているそう。

そうして、操業の結果と(衛星から取得できる海面水温やクロロフィル濃度といった)データをどんどん蓄積していくことで、出漁すべきか否かの判断精度向上による漁獲量増加&燃料費削減や、魚価予測にもつながり、日本の漁業の維持と発展につなげられるとのことです。

Credit : OCEAN SOLUTION TECHNOLOGY CO.,LTD.

(2)スペースデータが取り組む仮想世界の生成

スペースデータ社では、仮想世界の生成にいち早く取り組み、生成にあたって衛星データが活用されています。最近はデジタルツインやメタバースという言葉でも語られることが増え、話題になっています。

宙畑メモ デジタルツイン/メタバース
デジタルツインとは、英語ではDigital Twinと表記され「デジタル空間上の双子」という意味。より具体的には、「現実空間上のモノや環境の状態を収集し、デジタル空間上にコピーし再現する技術概念」のこと。また、将来の事象についてデジタル空間上に再現された空間で予測することができるシミュレーション技術の一つを指すこともあります。

メタバースとは、SF小説『スノウ・クラッシュ』の作中で登場するインターネット上の仮想世界のことで、「meta-」と「universe(宇宙)」の合成語と言われているもの。それが転じて、仮想空間サービスを総称するものとして最近は利用されているようです。

百聞は一見に如かずということで、まずは登壇中にも投影されたスペースデータが作る仮想世界を見てみましょう

登壇では、Google Earthとの違いについても言及され、大きく3つの違いを挙げられていました。

1.開発者やクリエイター向けのサービスではないこと
そもそもGoogle Earthは一般消費者向けの地図情報のサービスの付加価値として始まっているので、開発者とクリエイター向けのものではありません。そのため、Google Earthを使って、何かサービスを作りたい、もしくは作品を作りたいという場合に使い勝手が悪い一面があります。

2.衛星写真や航空写真の貼り付けによる3D表現の限界
今の3D地図情報サービスは、基本的には3Dの凸凹としたモデルに対して、衛星写真や航空写真を貼り付けるような形で作られているため、画像の解像度に限界があります。そのため、一人称視点で地上に降り立って、道路を歩くような視点で仮想空間に近づいてみると、画像の解像度が足りずに劣化してしまって、ぼやけてしまいます。これは、ゲームでの利用や、ハイクオリティなビジュアルが求められるようなサービスにとっては、非常に使いづらいものとなってしまっています。

3.著作権の問題
写真を撮って、データを貼り付けたものを利用しているということは、著作権や肖像権といった権利関係での問題が発生します。例えば、看板が写っている場合、大手の企業や著名人の顔が写っているサービスに使いづらいというのは想像に難くないでしょう。それが膨大に都市のレベルになってくるとそれだけ手間も増えていきます。

これらの3つの課題に対して、スペースデータが作成する仮想世界は、AIで3D表現も自然なものを生成し、看板もAIで再現するため、著作権という問題をクリア。そのうえで、デベロッパーの方々、クリエイターの方々に使いやすいデータとなっています。

生成された仮想世界の想定用途としては、代表例として、「仮想現実」「ゲーム開発」「映像制作」「都市開発」「防災・防衛」「自動運転」の6つの紹介がありました。

Credit : SpaceData Inc.

佐藤さん:例えば、3D空間上で人間がヘッドマウントディスプレイを被って、動き回ったり、ゲームのような世界の中でぐるぐる動き回って、子供が遊んだりできるようなものに活用されたり、ハリウッド作品やゴジラのような既存の現実世界そっくりの空間が必要な映像作品にデータを提供できます。

さらに、行政、政府が考えている都市開発、もしくは大手の不動産会社が考えているような、渋谷、新宿などの都市開発をする場合に、どういったビルを作れば、どういう景観になるか、もしくは道路を増やすと、どのように人の交通量が変わるのかというようなデジタルツイン的な使い方もできるでしょう。

仮想世界の使い道は、VRやゲーム世界に用いられるようなインターネットサービスへの活用から行政や大企業の取り組みまで、幅広く考えられます。佐藤さんは、最終的には宇宙そのものをコンピュータ上で再現できるんじゃないかと話します。

佐藤さん:この世界のあらゆる情報を、衛星データも含めて取得できるようになって、コンピュータがそれを学習しきるぐらいの計算力を持ったときに、バーチャル空間上に宇宙そのものってのを再現できる日が来るのではないか。それは、今後、量子コンピュータ、もしくは通信速度ってのは、6G、8Gとかになったタイミングで実現できるのではないかと思いながら、「CREATE A NEW UNIVERSE」ということをビジョンとして掲げてやってます。

株式会社スペースデータの佐藤航陽さん

(3)一見正反対な2社の比較とディスカッション

両社の紹介を終えたところで、あらためて、2社の比較をしてみると、衛星データとAIを使っていること、また、未来社会に根差した大きなビジョンを掲げているという部分で共通点はあれど、事業内容は全く異なります。

両社の紹介パートが終わった後は、小笠原さんも加わり、ディスカッションが始まりました。

■仮想空間が次世代の学び場になる

最初の佐藤さんと水上さんのクロストークは、小笠原さんから佐藤さんへのとある依頼の投げかけから始まりました。

小笠原:佐藤くんにお願いがあるんですけど、このAIを貸してもらって、マインクラフト(ブロックを用いて任意の世界を作成できるゲーム)のワールド作れないですか?

佐藤さん:それはできますね。マインクラフトに限らず、既存のゲームがかなりクオリティがアップするんじゃないかな。

小笠原:世界の変化をマインクラフトとか、例えば子供が触れるゲームに適用していき、もっと高精細な高品質なCGとして提供されると、どこで大きな山火事がありましたってなったときに、マインクラフトの中を見に行くことができて、被害の大きさを感じてもらうみたいな……そういった使い方もあるのかなと思っています。

水上さん:水産業界というのは、若手の新規参入というのは非常に少なくなってきています。平均年齢も高く、教育する時間がもうないという課題も大きい業界です。そのような中で、私たちが蓄積されたデータや、仮想空間で操業のやり方を学習できるようなものができると、次の世代に水産業を残していく可能性が広がるのかなとお話を伺いながら思いました。

■一次産業における宇宙の利活用について

続いて、一次産業における宇宙の利活用について、話が移ります。

水上さん:私たちOSTは、魚がどこで釣れるのかとかっていう漁場選定のあり方ではなくて、ベテランの漁業者だったら、今日の海況状況だとどこに行ってましたか?っていう出し方に今トライをしているところです。

今後、衛星データの取得頻度が上がってきたときに、いずれ魚がどこにいるかって見えてくると思うのですが、それが、乱獲に繋がっていくっていう結果では、元も子もない話になります。そのため、ここら辺の情報の出し方は非常にデリケートに、漁業者さんと話し合いながら進めています。

小笠原:そうですよね。乱獲というか、すごくシンプルに言うと、魚をあんまり獲らずに高い値段で売れればいいわけですもんね。そのような状態にどのように持っていくか。

高いといっても、その生産者、漁業の方々みたいな方々にとって、今よりは高く、あまり獲らなくていいっていう世界。

僕、京都芸術大学っていうとこでコース持ってるんですけど、うちの学生の実家がシャインマスカットの農家さんで、普段卸してる3倍ぐらいで売れるんだけど、お客さんは安いと思ってるみたいな状態ができているんです。農業でそれが起きているのなら、漁業でも起きるんじゃないかなと。

魚がどこで釣れたとか、どういう状況で釣れたかっていう価値を示す……農業だといわゆる有機野菜ですとかって言ってるみたいな、価値付けのところに、何らか衛星データが使えるならば、例えば、寿司屋さんとか、直接この漁師さんから買いたいと思う購入者に付加する価値としては、良いのではないかと思いました。

さくらインターネット株式会社フェロー 小笠原治

水上さん:そうですね。本当に、漁業者の収益をどう高めていくのかっていうところをすごく頭を悩ませています。

間に入っている仲買人さんの立ち位置が、歴史的な背景で今の形になっていることを考えると、破壊的なイノベーションっていう表現だと聞こえはいいんですけれども、その人たちの生活を奪いかねない状況にもつながってしまいます。

それらのことを踏まえて考えていくときに、包摂的なイノベーションでなければならないのかなと思います。今、いろんなところで実証する中で、情報だけは、仲買人さんを通しながら、物流だけ、物だけは直接、消費者に届けるとか、そういうことをやっていかないと、本当に今度、資源量が回復して、たくさんの魚が獲れるようになったときに、きちっと売りさばいてくれるような人たちがいなくなってしまいます。

今後の水産業界、先を見据えたときにはまたマイナスになる可能性もあるので、そういう人たちも包み込むようなイノベーションということを模索していかないといけないかなと思ってます。

小笠原:そうですよね。一次産業はすべからく継承する人が足りず、単にしんどいし儲からないからですよね。それ変えるしかないっていう話で、その課題に対して衛星データをどう使えるのかなっていうことは、宇宙産業としては絶対、考えないといけないことなんだろうなと、すごく思います。

特に漁業は情報が少なすぎる。農業は一定の情報があって、リテラシーであったり、ツールであったりていうところが、割とチャレンジしやすいと思うんですけど、漁業は本当にその情報がないというか。なので、そのあたりを今後も、考えられると良いなと思いますね。

■衛星データを特別視しない世界へ

そして、両社が事業を推進するにあたっての課題について話を伺ったところで、衛星データを利活用している企業としてお呼びした本セッションについて、小笠原さんから一言。

小笠原:衛星データに割と強引に紐付けて話してる部分があるんですけど、多分、両社の課題をクリアしたなっていう頃には、衛星データを使ってるかどうかっていうことは、誰も意識しない世界観というか、「そうだね」っていうぐらいのことになるんだろうと思っています。

今、衛星データっていうだけで、特別視しちゃうところあるじゃないですか。でも、衛星データもデータのひとつであって、衛星データのポイントって、俯瞰してマクロに撮っている、そして、基本的にファクトベースであるという特徴を知るということが大事な観点ですよね。

衛星データは特別なものではなく、マクロに、事実を蓄積できるという強みを持ったデータの一つとして認識して扱えることが重要。その結果、今回お呼びしたような、一次産業とメタバースという正反対の2社にとって価値あるデータとなっているということはあらためて大事な視点であると会場の一同がハッとした言葉だったように思います。

これだけ正反対の2社が衛星データを有効に活用されているということは、他の産業への活用が広がる可能性を秘めているということをあらためて認識する一幕でした。

■衛星データへの期待を受けて、Tellusの今とこれから

最後のセッションテーマである衛星データへの期待について話が移ります。

水上さん:現時点で、非常に満足をさせていただいておりますけれども……ただ、全ての衛星データがもうTellus上にあるよという状況を、早く実現していただければなと感じてるところです。

「ひまわり」の衛星データなどがリアルタイムにTellus上に載ってくるような形になってくると、非常に使いやすくなるかなと考えております。

衛星データの可能性として、我々が見据える未来として考えているような、いつどこに行けば、どういう魚がいるっていうのがわかる状況まで繋いでいくためには、やはり衛星データは必要不可欠だと思っております。

佐藤さん:今後の衛星データへの期待は、高解像度の画像、衛星で撮影しているエリアが広がるといいなと思っています。今回、ニューヨークに関してはTellusに格納されている画像ではなく、海外のオープンな衛星データを使っていましたけれども、私達は地球全体をカバーしたいと思ってるので、極力多くのエリアで高解像度データがあれば、すごく嬉しいなと。

日本全体の問題かなと思うんですけども、宇宙産業って、中国、アメリカがもうぶっちぎり。特にアメリカがぶっちぎりで、今、上場企業もどんどん生まれていますが、日本だと2、3周遅れぐらいなっちゃったのかなっていう気がしてます。

特に、リスクを負う方がほとんどいないので、日本政府、行政の後押しがないと、なかなか産業が生まれないんじゃないかなと見ていました。なので、私達も極力、国に依存しないような事業ってのを作っていきたいなとは思っている一方で、衛星って防衛の領域、国防が絡むこともあるため、政府、日本という国そのものが後押しするっていう雰囲気が作れればいいなと思っていますね。

小笠原:佐藤さんから解像度の話が出たので、ひとつ売り込みなんですけど……今、シャープさんとシャープのAI超解像技術を使って、衛星データそのものを超解像しちゃおうと取り組んでいます。

小笠原:スペースデータでやられている3DCG生成の手前で、このような技術を用いれば、解像度の高い衛星待たなくても、良いのではないでしょうか。ぜひ使ってみてください。

超解像って、元々はテレビで利用されている技術なんですよ。宇宙と関係なかった技術が組み合わさることで、他の用途、エンタメ用途だったらいいんじゃない?みたいなことがこれから生まれていくと良いなと思ってますし、Tellusとしては、年に何本かはこういうことができたら良いなと思っています。

そして、最後は小笠原さんから、両社の課題やこれまでの話を踏まえたうえで、Tellusが見据える未来についての話があり、セッションが終了しました。

小笠原:僕はインターネット大好き人間なので、どうしてもデジタルツインとか今のメタバースっていう文脈の方に行ってしまうんですけど、これって人類にとっても大事なことだと思ってるんですよ。

要するに、ファクトベースで俯瞰した情報が、100年後、200年後と残る可能性があるわけですよね。歴史って基本的にはずっと改ざんされ続けてるので、それがファクトベースで残っていく可能性っていうのは、すごい大事なことだなと。それをデジタルツインとか、ここはもう改ざんされてない世界として、ちゃんと守るのは人類にとってとても価値があると考えています。

一次産業についても、すでに農業、漁業と様々なところで衛星データが活用されていますが、そこで経済的価値を生むということをOSTさんがやられていますけど、まさにOSTさんのような事業が生まれるきっかけであったり、行える場所に、Tellusがなっていくことが必要だと考えています。

それは、先ほど水上さんから言われた通りで、どのデータでも、Tellusからアクセスできるっていうところを、それこそGoogleと同じようなビジョンを掲げるしかないと思うんですよね。GAFAがどうこうなんて話しててもしょうがない、自分たちがそれを超えるビジョンでやるんだと。国の後押しを受けるにしても、そのビジョンを掲げるところを、国として後押ししてくださいっていうのが、本当にフェアな関係だと思っています。その結果、お2人が言われているような欲求が満たされるんじゃないかなあと思っています。

以上、「日本発の衛星データ利用が世界に拡大する未来社会の話」のお話を紹介しました。

漁業と仮想世界という一見すると共通点がまったくない両社の登壇。実際に、オーシャンソリューションテクノロジーの水上さんは、日本各地を飛び回り、ITが苦手な漁師の方と膝を突き合わせて漁業者支援を推進されているのに対し、スペースデータの佐藤さんは事業開発にあたって、メンバーの誰とも直接会ったことはなく、すべてオンラインミーティングで進めているため、顔を知らないメンバーもいるといった話も登壇中にあり、両社の違いが際立っていました。

しかしながら、セッションが終わってみれば両社が取り組む課題の大きさや掲げるビジョンを横並びにした際の共通点や衛星データ活用の新たな可能性が見える興味深い話が繰り広げられました。

本記事の作成にあたり、語られた内容を割愛した部分もございますので、全編を見たい方は、ぜひアーカイブ動画をご覧ください。
宙畑では、今回登壇いただいた皆様に追加でのインタビュー実施を予定しています。ぜひ、お楽しみに。

関連記事