夕陽が見えるあの場所は”穴場”?衛星データで気になる観光スポットの混雑度チェック!
夕陽が見えるスポットの穴場探しをするなら衛星データが最適!? 著名な夕陽スポットをいくつかピックアップして穴場かどうかを確認してみました。
「市場規模は6兆円超え! 広告産業における現在・未来の衛星データ活用事例」では「商品を買いたくなる環境の醸成×衛星データ」として、衛星データから漁場を解析した記事「まさに目からウロコ! 衛星データで見つけた漁場の釣果が凄かった」を紹介しました。
消費行動の最たるもののひとつは遠出。天気予報で「明日はお出かけ日和です」と言われる事も、ある意味では衛星データによる消費行動の促進と言えるでしょう。今回はその一案として夕陽を見にドライブへ行く人をターゲットに、衛星データの利活用を検証してみたいと思います。
夕陽を見にドライブに出かけようと思う人の心配事を思いつく限りあげると大きくは以下4つでしょうか。
1)そもそもどこへ行けば良いのだろうか?
2)天気は良いだろうか?
3)渋滞に巻き込まれないか?
4)駐車場は空いているだろうか?
2は天気予報を、3は交通情報やカーナビをチェックしてもらうとして、今回は1と4について地図や衛星データなどを使って考えていきたいと思います。
1.夕陽が見える穴場スポットの定義と探し方
どこに行けば夕陽が水平線に落ちるところを見れるのだろう?
あそこの駐車場、いつ訪れても満車だけれど、いつ空いているんだろう?
実は、衛星データでその疑問にお答えできるかもしれません!
今回は、日本の夕陽百選を参考にしつつ、「水平線に夕陽が落ちていく」かつ「駐車場が空いている」穴場スポットの探し方を紹介します。
(1)夕陽が水平線に落ちるスポットの探し方
まずは、夕陽が水平線に落ちるスポットの条件を考えましょう。
例えば、160cmの高さにある人の目線から水平線までの距離Dhrは
Dhr (H) = R? × arccos(R? /(H + R? )) ~1.4√(R? H)
(R?は地球の半径、Hは目線の高さ)で求められ、大体5kmです。
5kmと言うと、東京駅から品川駅よりも少し近いぐらいですね。とはいえ、水平線の向こう側に家が見えてしまっても興ざめでしょう。もちろん、高いビルや山はより遠くの物も見えてしまいます。
15kmは、東京駅から羽田空港までの距離です。40kmだと東京駅から横浜と横須賀の中間ほど。120kmは東京駅から富士山の西側や山梨県南アルプス市あたりになります。
今回の夕陽スポット探しでは、日の落ちる方向15km以内に町や山が無く、かつ40km以内に大きなビルが無い場所を夕陽スポットと定義したいと思います。
距離の目安が分かれば、次は地図を用いた候補地探し。候補地探しには、国土地理院地図(https://maps.gsi.go.jp/)が便利です。「ツール」>「その他」>「等距圏」からマーカーの地点を中心とした円が表示できます。円は地図上のマーカーをドラックする事で移動することができます。15km間隔で3本などの細かな設定もできます。他に「方位線」も便利です。
西側15kmに町や山がない場所となると外海を真っ先に思い浮かべるかもしれませんが、そのような地点は瀬戸内海や東京湾にも見つかりますし、琵琶湖や霞ヶ浦、宍道湖、サロマ湖にもあります。
良さそうな地域を見つけたら拡大し、写真を見て近くの屋外駐車場を探してみましょう。この時はGoogleマップ等を使った方が良いかもしれません。また、インターネット上に夕陽の写真が上がっている可能性もあります。
今回はネットの情報を参考にしつつ、「日の落ちる方向15km以内に町や山が無く、かつ40km以内に大きなビルが無い場所」の近くの公共性の高いと思われる屋外駐車場(大型の複合商業施設や道の駅、観光情報に無料開放が明示されている駐車場)を調べました。
めぼしい夕陽スポットと駐車場が見つかったら、いよいよその駐車場の混雑具合が気になるところです。
※実際にご利用の際は、各自治体や施設からの最新の感染対策情報を調べると共に、現地の案内に従い、付近の迷惑にならないようにご配慮ください。
2.利用する衛星データの紹介となぜそのデータが良いと思ったのか
では、どうやって駐車場の混雑具合を把握するかですが、以前「いつ空いてるの!? 無料衛星データでディズニーランドの混雑予想チャレンジ(前編)」でも用いたSARデータを利用します。
宙畑メモ SARデータ
SARとは電波の一つであるマイクロ波を用いたレーダー画像のこと。可視光では観測できない夜間や雲や噴煙を透過して観測できるため、悪天候時の地上の様子を観測できるのが強みです。
SARについて詳しく知りたい方は「合成開口レーダ(SAR)のキホン~事例、分かること、センサ、衛星、波長~」をご覧ください。
SARデータの大きな強みとして、天候の影響を受けないことが挙げられます。SARデータであれば、晴れの日であっても、曇りの日であっても駐車場の混雑具合を宇宙から把握することができるというわけです。
駐車場の混雑具合を把握するためのデータ量が増えることはもちろんのこと、その場所が天気に関係なく混んでいるところなのか、それとも晴れた時だけに混んでいるのかも分かります。
また、ややマニアックな話になってしまいますが、今回の解析対象である夕陽が見える場所の穴場探しという観点で、SARデータを活用すべき大きな理由がひとつあります。それは、SAR衛星の撮影時間です。
「衛星データのキホン~分かること、種類、頻度、解像度、活用事例~」に広範にまとめられていますが、衛星が南から北に赤道を通過する時の直下の地点の時間 the local time of the ascending node(LTAN、赤道通過地方太陽時)に注目してみます。
地球を観測する時、ある地点を観測する一日の中でのタイミングは同じものであった方が解析が楽です。このような軌道を回帰軌道と呼びます。大体その時間に帰ってくるという事です。
この軌道の位置を示す指標がLTANです。よく使われる軌道は大まかに2種類(LTANが6時または18時の軌道と0時または12時の軌道)に分けられます。LTANが6時または18時の軌道は地上の昼夜の境目を飛び続ける軌道です。太陽を浴び続ける事が出来るので、電力消費が激しく、少しでも太陽電池による発電量を大きくしたいSAR衛星にとっては理想的な軌道です。
一方で、この時間帯は地上に落ちる影が長くなるため、光学観測には不向きと言われています。光学衛星は、夜側の観測でも赤外線の熱源や人工の光が判別しやすいことや午前中は大気が温められていないためモヤが少ないといった利点があるため、10時から12時近辺の軌道であることが多いです。
夕陽スポットの駐車場の混雑具合を見たいのであれば、夕陽が見える時間帯の駐車状況を確認しなければ意味がありません。6時または18時頃に撮影を行うSAR衛星はこの点もクリアしています。
3.実際に解析してみた
今回は、2017年から2021年のSentinel-1BのVV観測(縦偏波で発信されたレーダー波を縦偏波として受信した値)をGoogle Earth Engineで取得しました。
VV観測とは?については「合成開口レーダ(SAR)のキホン~事例、分かること、センサ、衛星、波長~」をご覧ください。本記事では、駐車場に車がとまっているか否かで値が変わるもの程度に考えていただければと思います。
加えて、日々の日照時間のデータを気象庁(https://www.data.jma.go.jp/gmd/risk/obsdl/index.php
)より取得して解析しました。
SARに限らず、ノイズが含まれるデータを扱う際にはノイズの定量的評価などの前処理をする必要がありますが、今回は簡略版という事で外れ値の影響を受けにくい(=頑健な)中央値を用います。Google Earth Engineの地図上で駐車場の範囲を手入力で囲い、その範囲のVVの中央値をその観測日の値とします。
それでは実際にGoogle Earth Engineのコードを見てみましょう。例として那覇市の商業施設の駐車場を見るコードを使います。各所のコードはそれぞれ用意してありますので、ご活用ください。
まずはここからコードにアクセスします。初めて利用する時はGoogleアカウントの認証を求められるかもしれません。
コードは大まかに3部分で構成されています。
1)変数の設定:空間座標`geometry`、時間`dateStart`と`dateEnd`、軌道の種類`orbitType`、観測の種類`obsCh`
空間座標は地図の左上にあるを押すことで、地図上をクリックして範囲を囲う機能で指定すると便利です。古い座標は’geometry imports’から削除する事ができます。
2)データの読み込み:
Sentinel-1のデータ(`’COPERNICUS/S1_GRD’`)を読み込み、時間、軌道の種類、観測の種類でフィルターを掛けます。またこのままではダウンロードするファイルでデータの取得時間が確認できないので、日本時間を秒まで表示する文字列を`’JST’`チャンネルに加えます。
ee.ImageCollection.map(function(img) {
return img.set({'JST': img.date().format(null, 'Asia/Tokyo')});
});
3)時系列データとして加工:
読み込んだ衛星データを、各日毎に最初に指定した空間座標で切り出し、`reducer`によってひとつの値にします。今回は中央値 `ee.Reducer.median()` を使用しました。最後に`print`命令により、結果は右上のConsoleタブに表示されます。
var ts = ui.Chart.image.series({
imageCollection: baseData,
region: geometry,
reducer: ee.Reducer.median(),
xProperty: 'JST'})
.setOptions({
title: obsCh+' median',
vAxis: {title: obsCh+' median'}
});
print(ts);
コードを走らせるのみだと、折れ線グラフがConsoleに表示されるだけです。グラフの右上にあるをクリックし、その先でCSVをダウンロードします。
こうして得られた中央値の時系列データのCSVファイルと、気象庁から得た日照時間のデータと組み合わせます。この段階では手元のお好きな環境(PythonやR、エクセルなど)を使用してください。
今回はCOVID-19によるパンデミック前・中(2020年1月1日以降はパンデミック中)と天気の良し悪し(日照時間が6時間以上なら好天)により以下の簡易な4つの群に分け、それぞれの中央値から全体像を把握してみます。
===
COVID-19前・好天
COVID-19前・悪天
CODIV-19中・好天
COVID-19中・悪天
===
今回の群分けは非常に単純化されたものです。最後に少しお見せしますが、この4群を更に平日と週末に分け8群にするだけでも、より興味深い知見が得られます。
SARの具体的な値に関しては、駐車の向きなど様々な要因で場所によって変わります。そこで全体の上位下位5%を除いた値を日常的な混雑具合とし、その値域で規格化しました。つまりある群の中央値を用いた混雑度指標Idxを
Idx = (群の中央値-下位5%の値)/(上位5%の値-下位5%の値)
としました。この混雑度指標が0なら日常的な感覚で空いている、1なら日常的な感覚で混んでいる事を示します。
しかしながら、エラーの範囲等を鑑みると、各所の4つの群の間に統計的有意性が示せるとは言い難い結果です。以下に記す解析結果については、あくまで各所において大きな値ほど利用が多いという程度の議論とします。では具体的な例を見ていきましょう。
■沖縄県那覇市の大型複合商業施設「アメリカンビレッジ」
大型複合商業施設「アメリカンビレッジ」の駐車場を見ました。まずは時系列データ全体を確認します。値が大きいほど、駐車場に停まっている車の数が多い、値が小さいほど停まっている車の数が少ないということを表しています。
データを見てみると、2020年4月頃に値が落ち込んでいることに気づきます。ちょうどCOVID-19の第一波の時期にあたります。
次に4つの群に分けて、それらの中央値を確認します。4つの中央値の変化量を見ても、COVID-19により全体的に値が下がっている事がよくわかります。
COVID-19前では天気に関わらず利用があったものが、COVID-19中になると天気が良い方が利用が多い傾向が見えます。もともと天候にあまり左右されず、ある程度利用のある施設のようなので、ここは夕陽の穴場スポットではなさそうです。
■大分県豊後高田市の「真玉海岸」
大分県の「真玉海岸」近くの駐車場を見ました。まずは時系列データ全体から、2018年後半から2019年前半にかけてデータ点が少ない期間があるものの、その値は概ね安定しているように見えます。2017年6月20日に外れ値が一つありますが、夏至の一日前という以外に大きなイベント情報は特には見当たりませんでした。
4つの中央値を確認すると、COVID-19以前は晴れでない時の方がほんの少し多い利用があったようです。
COVID-19のパンデミック下においては利用が全体的に減りましたが、特に晴れでない日の利用が減りました。夕陽スポットとして既に有名な場所ですので穴場とは言い難いかもしれませんが、駐車場には余裕がありそうです。
■滋賀県長浜市の「長浜城址公園」
「長浜城址公園」の駐車場を見ました。2017年8月と2018年7月に外れ値があります。前者は長浜花火大会の日でした。
4つの混雑度指標の変化量は、先の2例よりも小さいです。4つの指標を見ると、COVID-19前は天気が良い方が利用が多い傾向にありましたが、COVID-19中になると晴れでない時の利用が少し増加したようです。
天気が良い方が利用が少ないという事は夕陽スポットという認知は弱まっているのかもしれません。しかし全体的にCOVID-19前よりも利用が増えているので、夕陽スポットというより、天気に左右されないスポットになったという感じがします。
■千葉県館山市の「みなとオアシス“渚の駅”たてやま」
「みなとオアシス“渚の駅”たてやま」の駐車場を見ました。外れ値がいくつかあります。2019年10月の外れ値は台風19号が上陸した日です。現在の自治体の情報では広域避難場所ではないようですが、災害時に何らかの利用があるのかもしれません。
4つの混雑度指標からは、COVID-19の影響は見られず、天気が良い時の利用は少し低い傾向にある様です。先ほど災害に関連した利用の可能性に言及しましたが、これは中央値なので、災害の様な数例の影響はほとんど受けていません。釣り場としても有名だそうですので、その影響があるかもしれません。HPでは夕陽がおススメされていましたが、このデータからは夕陽の穴場スポットの雰囲気がします。
■北海道石狩市の「はまなすの丘公園」
札幌郊外の「はまなすの丘公園」の駐車場を見ました。2020年11月1日に外れ値がありますが、はまなすの丘公園内でライトアップイベントがあった様です。
ここは晴れの日の利用が多く、COVID-19の影響で少し利用が減ったものの全体的な傾向は変わっていません。夕陽スポットとして認知されていると言ってよいかと思います。
4.まとめ
今回、5件の駐車場を分析しましたが、夕陽の穴場スポットと強く言えそうな場所は千葉県館山市の「みなとオアシス“渚の駅”たてやま」だけでした。他の4か所は天気が良い時にある程度混雑している様でした。現地に直接足を運んだわけではないので、実状とは差異があるかもしれません。
今回は衛星の観測時間に注目して頂く事に主眼を置いたので、統計処理については非常に簡略な程度に留めました。例えば、今回の解析について、平日と週末とで日付を分類してさらに詳しく確認すると、より興味深い傾向が見えてきます。
例えば、今回の解析について、平日と休日とで日付を分類してさらに詳しく確認するといったことも可能です。
他にも、中央値だけでなく各日のSARの5数要約や日照時間との相関など、色々と確認しました。衛星データと聞くと2次元画像や位置情報と思われがちですが、ある程度加工してしまえば他の一般的な統計データと変わりありません。統計処理に心得のある方はより詳細な分析をすると面白いかと思います。
SARデータは夕陽スポットの混雑具合を知るために最適の衛星データ!と納得していただけたでしょうか?