なぜ日本初衛星データPF「Tellus」のデータビジネスに期待が集まるのか
2018年7月31日に発表された日本初の衛星データプラットフォーム「Tellus」について、記者会見で語られた内容を紹介します。 そう言われ始めてから久しいが、日本初の衛星データプラットフォーム「Tellus(テルース)」をご存じだろうか。
2022年8月31日以降、Tellus OSでのデータの閲覧方法など使い方が一部変更になっております。新しいTellus OSの基本操作は以下のリンクをご参照ください。
https://www.tellusxdp.com/ja/howtouse/tellus_os/start_tellus_os.html
これからはデータの時代だーー。
そう言われ始めてから久しいですが、日本初の衛星データプラットフォーム「Tellus(テルース)」をご存じでしょうか。
2018年7月31日に「Tellus」の開発・利用促進を行うアライアンス「xData Alliance(クロスデータアライアンス)」の記者発表会を行いました。
本記事では、記者発表会で語られた内容を「Tellus」の3つの強みとしてまとめ、今後への期待を紹介します。
※2019年2月21日に「Tellus」がオープンしました。ぜひ公式HPもご覧ください。
(1) 日本初の衛星データプラットフォーム「Tellus」とは?
「Tellus(テルース)」とは、さくらインターネット株式会社が経済産業省からの委託を受けて開発する日本初の衛星データプラットフォームです。
さくらインターネットは自身のクラウドサービスおよびIoTプラットフォーム事業をベースに、本データプラットフォームの開発・利用促進を進め、3年でデータプラットフォーム自体の収益化を目指しています。
「衛星データ」としては、JAXAの所有するだいち2号のSAR画像のデータなどが対象。衛星データを無償かつ商用利用についての制限なく(オープン&フリー)提供することで、今まで一般人にはあまり馴染みのなかった衛星データ利活用の裾野を広げていきたい考え。
次章より衛星データビジネスの再構築が期待される「Tellus」とこれまでの衛星ビジネスとの違いを紹介します。
(2)「Tellus」の強み・その1:豪華な非宇宙プレイヤーの参画「xData Alliance」
「さあ、宇宙データビジネスをリ・デザインしよう!」
と大きく映し出されるオープニングムービーで始まった記者発表会でした。
いま現在、衛星データプラットフォームは海外ですでに複数存在するものの、一般に広く使われているものはありません。なぜなのでしょうか。
31日の記者発表会に続いて行われたイベント「宇宙データビジネスフォーラム」で発せられたATカーニーの石田氏の発言にそのヒントがあります。
「こちら(宇宙)側で考えて、使えるかもしれないと思うユーザー不在の宇宙データビジネスはうまくいかない。」
誤解を恐れずに言うと、これまでは衛星やロケットを作りたい宇宙関係従事者による、宇宙関係従事者のための、宇宙関係従事者のプラットフォームだったのです。
※会見でも述べられていましたが、既存の宇宙関係従事者は9000人を割っています
「Tellus」の最も大きな違いはそこにあります。
「Tellus」の開発への貢献とデータ利用促進を目的として組成されたアライアンス「xData Alliance」です。
パートナーシップには衛星データ供給プレイヤーとして、日本の宇宙ベンチャーの代表格アクセルスペースが参画を表明していますが、写真をご覧いただくとわかる通り、これまで宇宙ビジネス畑とは縁が遠かっただろう面々がパートナーとして名を連ねています。
たとえば、AIの社会実装を展開する株式会社ABEJAや「お金2.0」を執筆した佐藤航陽氏率いる仮想地球プロジェクトEXA、mercariの研究開発部隊mercari R4Dなど、衛星データの新しい使い道を開拓できるだろう面々が集まっています。
さらに、優秀なAI人材を宇宙データビジネスに流入させるため、株式会社SIGNATEも参画しています。SIGNATEは日本版kaggleとも呼ばれる国内最大のAI人材企業で、登録しているAI人材は既に9,000人を超えるというから驚きです。
コンテスト形式で企業の課題解決を募り、優勝者には賞金が与えられます。
「xData Alliance」では、宇宙業界全体の関係者と同規模の人的リソースを衛星データと結びつけるコンテストが年数回の開催を予定。
宇宙データビジネスにとって欠かせないもう一つのリソース、資金についても抜かりがありません。IncubateFund、B Dash VenturesなどVC合計6社が投資領域として「xData Alliance」に参画しています。
衛星データプラットフォームにクロスするのはデータだけではなく、豪華な非宇宙プレイヤーの人材・資金もクロスします。この宇宙データビジネスのリ・デザインこそが、「Tellus」の最大の強みなのです。
(3)「Tellus」の強み・その2:宇宙データ利用へのハードルを下げる
豪華な非宇宙プレイヤーを揃えた上で、重要になってくるのは宇宙データ利用へのハードルをどこまで下げられるか、です。
【ハードルその1:初期投資】
IT界隈でベンチャー企業が盛んなのは、初期投資がほぼ自らの労力だけで済むから。大きな資金が必要なく、思いついたアイディアを試すことができる。うまくいかなくても損失は少なく、新しいアイディアを試せばよい。
さくらインターネットの代表取締役社長田中邦裕氏が語っていたのはまさにその世界観を、宇宙データビジネスに持ち込むということ。衛星データ自体を無償化し、低コストで宇宙データを扱えるようになることで、多くのIT人材がそのデータを試せるようになります。
大きな投資が必要だからこそ、新しいビジネスアイディアは、ニーズ・シーズ分析などの正攻法のアプローチが必要。
ただし、チャレンジにかかるコストが小さくなれば、Like・Loveの世界で自由にデータで遊ぶことができるようになります。そこから、新しいイノベーションは生まれると田中社長は考えています。
【ハードルその2:使いやすさ】
もう一つ、さくらインターネットフェロー小笠原氏から出ていたキーワードが「使いやすさ」です。
たとえAPIがあったとしても、そのAPIが使いづらかったり、古さを感じさせるものであればせっかく触ってもらう機会があっても使えず、使う人が増えることはありません。
欲しい情報にどうアクセスするのか、見つけたデータをどういうプロセスでどう引き出すのか。実際問題、既存の宇宙データは今まで限られた人しか使ってこなかったので、その視点が不足していました。
「Tellus」では、APIを様々な人に使いやすい状態で使ってもらうため、一般公開前に「xData Alliance」でも実際にデータを利活用するようなメンバーの試用・評価の後、今風なAPIを作っていくとのこと。
そのほか、「Tellus」ではいつでも使えるようなライブラリの構築や、GIS(Google Mapのように位置情報と付加情報が組み合わせられたシステム)を提供するなど、「使いやすさ」のための様々な仕掛けづくりを行っていきます。
(4)「Tellus」の強み・その3:宇宙データをミクロなデータに掛け算する価値
そして、忘れてはならないのがメインディッシュである「宇宙データ」です。「宇宙データ」は果たしてなんの役に立つのでしょうか?
IoTやビックデータが盛り上がっている昨今、オンライン上に電子決済履歴やSNS投稿など膨大なミクロのデータが日々発生し、解析・利用されています。
一方の衛星データではマクロに、上から全体を俯瞰できることが強み。
ミクロに見ているデータとマクロなデータの相関性を見つけることができれば、膨大なミクロのデータを新たに解析する必要がなくなり、データ全体としてはデータの取得コストを下げることができます。
また、今までデータが無かった領域について推測することもできるようになります。衛星データの強みである越境性を活かし、ドローンや地上のセンサが置けないエリアの情報を収集することができるので、今までデータの無かったエリアの補完になるのです。
つまり、衛星データは衛星データとして役に立つわけではなく、地上の取引データや車の動きなど、様々なミクロデータと掛け合わせて初めて意義を発揮します。
そして、その様々なミクロデータを良く知るのが、「xData Alliance」に参画する非宇宙プレイヤーなのです。
(5)想定されるユースケースをイベントからピックアップ!
「Tellus」の凄さについて述べてきましたが、具体的にはどんなユースケースが想定されているのでしょうか。記者会見の後に行われたイベントの登壇者の発言から拾ってみました。
賃貸
自分の住む場所を考えるとき、今だと駅からの距離や日当たり、広さなどの条件があります。
これに衛星データから分かる標高データを加えると、通勤を運動に使いたい人は高低差があった方が良いとか、逆に無い方が好きだとかそういう新しい条件を加えることができます。
物流
mercariやamazonなど個別宅配の需要の高まりによって、クライシスと呼ばれるほどの大きな危機を迎えています。荷物の配送状況や宅配トラックの位置、道路の混み具合や高低差の情報を掛け合わせて最適な輸送経路を考えることができます。
海運
ATカーニーの石田氏から出ていたのは”海”というアイディア。海は陸と違って他のセンサーデータが少ない領域なので、衛星の強みを発揮できます。
今、海運業界ではデジタル化・自動運転の導入が積極的に進められており、その中の情報の一つとして衛星データが使えるのではないかという考え。
もしかすると、読者の中には「え、そんなに身近な話なの?」と思われる方もいらっしゃるかもしれません。
しかしながら、そこにこそ宇宙データビジネスの本質があります。「衛星とか、宇宙というとなにか壮大なことをやらなきゃいけない感じになるんだけども、そうではない。」というのが小笠原氏の言葉。
そして、マクロなデータとしての衛星データを活用することがデータビジネスを行う上で当たり前、前提となる未来を作るのが「Tellus」なのです。
(6)「Tellus」と「xData Alliance」が狙う日本の未来
本事業の背景にあるのは政府が提唱する「超スマート社会(Society5.0)」というコンセプト。目指すのは、様々な業種、企業、人、機械等が繋がることにより、新たな価値創出を図り、顧客や社会の課題を解決するという産業の未来像です。
たとえば、どこよりも先に超高齢化社会を迎える日本において、誰もがスマートに暮らしていける社会をどこよりも早く実現。遅れて高齢化社会が来るアジア諸国のロールモデルとなり、”高齢者が住みやすい国”というポジショニングができます。
それによって、海外の裕福な高齢者が日本に移住し始めれば、日本にとっては重要なインカムとなり、若者がチャレンジするために投資を回すことができるようになります。
これは一例ですが、低調気味の日本をなんとか上向きにしていきたいという強い想いがあります。
現在「Tellus」のβ版事前申し込みも「Tellusの公式ページ」で受付中。興味を持った方はぜひ申し込んでみてください。
(7) まとめ
2018年7月31日に発表された日本初の衛星データプラットフォーム「Tellus」と「xData Alliance」について、ご紹介しました。
華々しい部分を取り上げましたが、実際には開発は始まったばかり。
どのようなデータをプラットフォームに乗せるのかという会場からの質問に対しては、今検討中、逆にどういうデータが欲しいという意見があればぜひ欲しいという回答です。
読者の皆様自身のビジネスでの課題はありますか? それにはどのようなデータがあればよいのか、宇宙データで貢献できることはあるのか、「Tellus」の一ユーザーとして妄想していただき、わがままな意見をTellusはお待ちしております。
※2019年2月21日に「Tellus」がオープンしました。ぜひ公式HPもご覧ください。
【参考サイト】
・政府衛星データのオープン&フリー化 及び利用環境整備に関する検討会報告書
http://www.meti.go.jp/press/2017/10/20171027001/20171027001-1.pdf