宙畑 Sorabatake

ビジネス事例

地域一丸となって豪雨災害に立ち向かう「流域治水」と衛星データの関わりとは

国交省が新たな取り組みとして始める「流域治水」。いくつかの指標で取組の進捗を確認されているとのこと。衛星データが貢献できる可能性について、お伺いしてきました!

水が流れる流域を把握し、集水域から氾濫域の地域が一丸となって治水に取り組む”流域治水”。気候変動により世界的に降雨量が増える中、より密に連携をとった治水対策は不可欠です。

前回は、国が推し進めている「流域治水プロジェクト」について国土交通省にお話を伺い、治水に関する新しい考え方や取り組みについて伺いました。

今回は、流域治水における、治水とデータ活用、また衛星データとの関わりについてお話を聞きました。

流域治水プロジェクトではどのようにデータが活用されている?

宙畑:流域治水プロジェクトではいくつか取組指標を設定していると拝見しました。その中でも、衛星データが活用できそうな指標が3つあるなと思ったのですが、これらの指標の集計方法について詳しくお話を伺えますか。

Credit : 国土交通省

国土交通省:一つ目の「農地・農業用施設の活用」については、毎年、農林水産省を通じて、地方公共団体の農業部局の方々に聞き取りを行い集計しています。

二つ目の「流出抑制対策の実施」も基本的には地方公共団体の方に聞き取りをして、施設数などを更新しています。

三つ目の「山地の保水機能向上および土砂・流木災害対策」については、基本的には現地調査で、どれだけ対策をしなければいけない箇所があるかを調べた上で、優先順位が高いところから整備していくという流れになります。現地調査と合わせて、現地に入りにくい場所や効率的な調査を行うという目的で一部航空レーザー測量なども行っています。

今の指標の集計は以上のようにまだまだアナログな調査をしている段階ですので、より効率的に調査ができるようになっていくことが課題となっています。各自治体によってもデータの蓄積方法が異なっていることもあるので、インフラに関するデータ管理を今後どのように進めていくかも考えなければなりません。

宙畑:何年までにどれくらいの数値を達成する、というような目標値はあるのでしょうか。

国土交通省:目標値はまだなく、今後の課題の一つになっています。今は1年間でどれだけ頑張れたかという絶対数のとりまとめになっていますね。

というのも、対策によって、どれくらいの数値になればどれだけ水害リスクが減るのかという効果をしっかり見せることが難しいんですよね。

一級河川はとても大きいので、効果を定量的に評価しようとすると、細かいシミュレーションが必要になってきます。細かい農業水路のデータや下水道の整備状況など基礎的なデータを収集して、コンピュータ上でモデルを作って、シミュレーションを行って、効果を見るという一連の流れが必要になってきます。

今まさにそういった細かいシミュレーションができるモデルを開発中で、令和7年度くらいまでには、一級水系については定量的な効果が示せるようになっていければと思っています。

宙畑:シミュレーションモデルを作るにもかなり膨大なデータが必要になりますね。

国土交通省:そうなんです。そのため開発にはかなりの時間を要します。モデルを開発しても、そのモデルがどれだけ再現性があるかの検証にも骨が折れます。過去の降雨量をモデル上で降らせて、実際の被害状況や浸水面積と合っているかというキャリブレーション(較正)を綿密に行わければなりません。そこである程度再現性を得られたら調整に進んでいく形です。

治水対策と衛星データ~事例、メリット~

宙畑:衛星データは治水対策にどのように役に立っていますか?

Credit : 国土交通省

国土交通省被災状況の把握や、河道管理植生管理モニタリング施設監視として大きく役立っています。

被災状況の把握という観点ですと、2017年度にJAXAと協定を締結し、浸水状況や、土砂移動状況の把握などそういった点での活用を進めています。

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一方のモニタリングで言えば、海岸線がどのように変化するだとか地形変化についても衛星データを活用しています。単に衛星画像を撮るだけではなく、JAXAとともに双方で専門知識を積み重ねながら協力して進めているんです。

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宙畑:人がその場に行かずとも定点で長い期間のデータを過去まで遡って取得できるのは衛星データの強みですね。

国土交通省:災害発生時にも衛星データは大きく役立ちます。夜間や悪天候時には災害状況の把握が困難になりますが、衛星のレーダー観測は夜間等でも問題なく観測できるので被害箇所の特定がスムーズになります。

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JAXAともデータ連携して、今では浸水域の大まかな判読については、画像提供から判読まで約2時間半でできるようになってきました。土砂移動箇所の把握についても、画像提供から判読まで約4時間となっています。

衛星コンステレーションの観測頻度の増加や、判読する人の技術向上、自動判読技術の発展によって今後どんどん時間が短縮されているのではないかと思います。

SARデータの利点が衛星データ採用の経緯に

宙畑:先ほど既に衛星データを活用している事例を伺いましたが、衛星データ採用の経緯などは何かあったのでしょうか。

国土交通省:2011年に紀伊半島の各地で土砂災害や河川氾濫など甚大な被害をもたらした「紀伊半島大水害」があったんです。そのときにドイツのTerraSAR-XというSAR衛星を使いました。

宙畑メモ:SAR衛星とはSARとは「Synthetic Aperture Radar」の頭文字を撮ったもので、合成開口レーダーとも言います。SAR衛星は、衛星自らが地上に向けてマイクロ波を発射し、地表で跳ね返ってきたマイクロ波をとらえて地上の状態を把握します。

SARの強みは、昼夜・天候を問わずに地上の様子を観測できる点です。マイクロ波は雲を通過するため、雲がある地域でも地表の観測ができます。

参考記事:

衛星データから土砂移動箇所を把握して、その後速やかにヘリを飛ばしたという事例があります。

2011年の「紀伊半島大水害」時のSAR画像(左)と航空写真(右) Credit : 国土交通省

そのようなこともあって、土砂災害の分野ではかなり早くからSARを使った被害状況の把握や技術開発を行っていました。だから元々使っていた技術を援用した形になります。SARでの浸水範囲の特定は、反射の関係で水面が黒く見えるという技術があるというのはある程度わかっていたので、それをより高度化していこうという取り組みをしたということですね。

宙畑:そうだったんですね。現地調査やヘリからの高所観測など手段がいろいろある中で、災害時に衛星を使うときのメリットはなんでしょう。

国土交通省:ALOS-2衛星の場合には、その軌道が昼12時と夜12時を飛ぶようにセットされているので、特に夜12時に観測をして、朝までに結果をもらえると、朝からヘリや人が現地に行きやすい点は大きいですね。災害対策の初動がスムーズになるので、いろんな手を打つことができます。

衛星はやっぱり広範囲が一度に観測できるということと、SARの場合には、夜間でも豪雨など悪天候でもデータが取れるのが強みです。ヘリは基本的に雨天時に飛べないので、やっぱりそういうときに衛星から得られる情報はすごく貴重ですね。

今後、衛星データに期待することとは

宙畑:今後、衛星データを治水に役立てるために、みなさんが衛星データに期待することはなんでしょう。

国土交通省:やはり観測頻度ですね。現状は1機の衛星で1日2回の撮影機会ですが、衛星の数が増え、観測の回数が増えることでより迅速に状況を把握することができます。また、データ提供時間の高速化も望むべきところですね。

あとは解析結果自体の安定性とか信頼性ですね。あとどの角度でデータを取るかによって見え方が少し変わるので、解析力がさらに向上すると使い勝手がもっと良くなってくるかなと。

宙畑:まだまだ衛星データ活用が社会全体では進んでいない印象なのですが、今後さらに衛星データが活用されるようになるためにはどのようなことが必要だと感じられていますか?

国土交通省:衛星データをうまく使えば非常に効率的なんだろうなっていうところまではみんなわかっていて、ただ 「効率的なんだろうな」で止まってしまっているのが大きな課題 ですよね。

例えば土砂流木災害対策でどれだけ不安定な土地に流木が入ってきているかは、人が実測で測ろうと思ったらとても大変です。そういうときに衛星データを活用できるようになるためには、衛星データがどこまで技術発展していて、どの程度まで自動判読できて、どのくらい予算がかかるのかなど基本的な知識をみんなが知っておくべきだと思います。そこがないとなかなか政策に生かしていこうと舵も切れませんし、我々含めて官民ともにもっと勉強する必要があるなと思いました。

宙畑:衛星データのことを広める立場としては、もっとわかりやすくいろんな方に情報を届けていかないといけないんだな、と今回のお話を聞いて気持ちを新たにしました。お話を聞かせていただきありがとうございました!