宙畑 Sorabatake

衛星データ

解像度と分解能の違いとは? 地球観測含む様々な業界の言葉の定義と違いを知る意義

衛星データを学び始めると良く目にする「分解能」と「解像度」という言葉。同じような意味に思えますが、何が違うのでしょうか。実際に扱う際にはどんなことに気を付ける必要があるのかや、その原理まで詳しくまとめました。

宙畑はこれまでも地球の衛星観測の入門記事を掲載してきました。その中で、地球観測衛星の性能のひとつとして「解像度」や「分解能」といった言葉を目にしたことがあるよという方も多いのではないでしょうか。

「解像度(分解能)」や「分解能(解像度)」といった表記もあり、地球観測の初学者が混乱することのひとつです。このふたつの言葉は全く同じものなのでしょうか。

分解能も解像度も、端的に一語で英訳するならどちらも resolutionです。これは「物事を解決するまたは明確化する行為や手法」という意味の語です。

これが望遠鏡に転用され、「どれだけ細かく見られるか」という指標の名前となりました。

しかし、この「どれだけ細かくみられるか」という言葉には対象や手法の指定がありません。我々が細かく見たい値もそのための機器も様々です。ゆえに「何を何でどれだけ細かく見られるか」の指標の呼び方として分野や機器によって、分解能や解像度といった言葉が乱立してきました。

単語の混同も見られますので、文脈から読み解く必要も出てきています。

本記事では、衛星データ関連で良く用いられる分解能と解像度の違いや、気を付けるべきケースなどを説明した上で、分解能と解像度の本質的な違いについて、望遠鏡の原理に基づいて解説していきます。

分解能は観測装置側の言葉、解像度は表示装置側の言葉

地球観測衛星の分野では、分解能(Ground Sampling Distance)は、衛星に搭載しているセンサがその軌道を周回する「センサの性能として」どの程度の細かさでデータを取得できるかを指し、解像度(Resolution, pixel size)は「衛星データとして」エンドユーザに提供される時に画像の1ピクセルが地表面の何mに相当するかを表します。

あれ、それって同じものを指しているんじゃないの?と思われるかもしれません。

しかし、よくよく衛星データを販売している会社のサイトなどを見てみると、例えばMAXAR社の衛星の場合、分解能は31cmにもかかわらず、解像度は30cmとあります(参考)。

このように、分解能と解像度は厳密には同一ではなく、使用する場所が異なるのですが、最終的に認識される時点(人の目視)で、混同されてしまっているのが現状です。

実際のところ、光学データの場合、両者は値としてもほぼ同じであり、衛星データを扱っていてもあまり気にする必要がないことも多いです。(したがって、宙畑でもあまり厳密な使い分けは行っていません)

一方で、SARデータの場合には、違う意味を指す場合も見受けられます。

本記事では、この分解能と解像度の違いを、まずは比較的理解のしやすい光学データで整理し、SARデータについても触れていきます。

記事の後半では、望遠鏡の観点から整理をし、その上で地球観測での使われ方を整理していきたいと思います。宙畑読者の皆様のより深い理解の一助となれますと幸いです。

分解能(Ground Sampling Distance/Ground Resolution Distance)

分解能は、センサがそれ自体として、どれほど細かいものを見ることができるか、という能力です。装置の性能や対象までの距離(衛星であれば軌道高度)などが影響します。

光学センサの場合について、具体的に見ていきます。

例えば、同じセンサを積んでいる場合、軌道高度が高くなれば、その分だけ分解能は低くなります。

また、地表面を撮影する場合、衛星が衛星自身の直下を撮影することもありますが、機体を斜めにして少し遠くを撮影することもあります。この場合も分解能は低くなります(上図)。

SARセンサの場合は、さらに複雑になるので、ここでは割愛しますが、ザックリいえば、観測する周波数変調の帯域幅や、アンテナの大きさ、対象への照射時間などで分解能が決まってきます。

詳細は、宙畑のこちらの記事で解説しています(この記事では馴染みやすさのために「解像度」という言葉を使っていますが、今回の記事での「分解能」に相当します)。

解像度(Pixel size/Resolution)

Credit : JAXA, さくらインターネット

一方の解像度は、最終的なデータとして、1ピクセルあたりの地表面上での長さがどれほどかを表す値です。ピクセルサイズとも呼ばれます。

画像をどんどん拡大していくと、カクカクした画になってくると思います、この四角いセルひとつひとつがピクセルで、ひとつひとつのピクセルに値が格納されています。

光学データの場合、分解能以上に解像度を高くしてもあまり意味がありません。したがって、分解能と解像度は値としてほぼ一致し、原則として分解能が高い衛星の解像度は高いと思って差し支えありません。

しかし、一部の光学データやSARデータでは分解能と解像度が違うケースがあります。

分解能と解像度が違うケース

なぜ両者は微妙に異なるのでしょうか。

光学データの場合、分解能と解像度が違うケースは、画像化の際にピクセルを並べ直しており、その過程で当初の分解能と異なる大きさのピクセルサイズになっていることが多いです。この作業のことを【ピクセルスペーシング】と呼びます。

並べ直す理由はいくつかありますが、代表的なものをご紹介します。

解像度を落として、安いデータとして提供する(光学データの場合)

一般的に衛星データは解像度が高いデータほど、価格も高くなります。この原則に則って、分解能の高い衛星データの解像度を敢えて落とし、より安い価格帯で販売している例があります。

日本スペースイメージング社が販売するMAXAR画像は、衛星の分解能は31cmですが、解像度は30cm/40cm/50cmに分けて販売しており、解像度によって価格が異なります。

実際の価格はTellus Travelerから確認いただけます。

綺麗な画像を得るために、分解能よりも解像度を上げる(SARデータの場合)

SARデータの場合には、もう少し複雑です。

SARは、衛星が発した電波が地表面で跳ね返り、衛星まで戻ってきたものを観測しています。

詳細には述べませんが、SARの性質上、より多くの回数の電波を取得できた方が、最終的に得られる画像が綺麗になることが知られています。

そこで、先ほど説明したSARセンサとしての分解能よりも細かい解像度でデータを取得するケースがあります。

例えば、PALSAR-2では分解能よりも高いピクセルスペーシングが設定されています。

Source : https://alos-pasco.com/alos-2/spec/

したがって、SARの場合、気を付けるべき点は、解像度(ピクセルサイズ)が高いからと言って、必ずしも分解能が高いとは限らない、ということです。

実際に見たいものに対して、自分が使おうとしているSARデータが本当に対象がみられるだけの分解能を有しているか、確認するようにしましょう。

望遠鏡から分解能と解像度へ

さらに踏み込んで、様々な分解能や解像度の根本的な違いを理解するためには、望遠鏡の性質やその運用を知ることが鍵となります。

望遠鏡の目的は集光と拡大です。遠くの物体ほど暗く小さく見えます。そのままではよくわからないので、多くの光を集めることでより明るく、また光の角度を変えることでより大きな像を得ます。

最も基本的な構造であるケプラー式の望遠鏡で説明しましょう。

ケプラー式望遠鏡は2枚の凸レンズを組み合わせた望遠鏡です。ケプラー式望遠鏡を通して物を目で見る時、我々は目の水晶体も含めて合計3枚の凸レンズを通った光を網膜に受けます。

網膜をCCDなどの撮像素子に置き換えた時、水晶体にあたるレンズも必要となります。上図がその模式図です。
[脚注)ケプラー式望遠鏡と目と撮像の関係は、古くは17世紀のChristoph Scheiner著「Rosa Ursina sive Sol.」に目の解剖図付きで詳細に図解されています。当時は撮像ではなく投影によるスケッチ観測でしたが。]

遠くの物体から出た光は、対物レンズ(または主鏡)により焦点面に集められます。そして焦点面に出来た像を更に拡大して撮像素子に焼き付けます。
※天体写真の撮影では拡大レンズを通さず、焦点面に撮像素子を置く場合もあります。この方法を直焦点撮影と呼びます。

より概念的な言い方をすると、対物レンズの役割は入ってくる光の角度(物体の見かけの方向)を焦点面上の位置に変換することです。その焦点面上の位置情報を撮像素子上の位置情報に適切に変換するのが拡大レンズの役割となります。

つまり拡大レンズや撮像素子はおまけで、対物レンズの役割こそが望遠鏡の主たる性能となります。

対物レンズの役割をもう少し詳しく説明します。

対物レンズは遠くの物体から出た光を焦点面上の一点に集めますが、その光は一本の細い経路ではなく、幅を持っています。これを一点に集める、つまり複数の光を重ね合わせるのですが、光(波)の物理学的な性質として、その点はある程度の広がりを持ちます。これはいわゆるピンボケではありません。ピントが合っていてもその像は少しだけボケます。このボケの大きさを回折限界と呼びます。

点描画を思い浮かべてください。同じ広さのキャンバスに同じ構図の点描画を描いたとしても、筆の太さが違えば、絵の印象は変わってしまいます。対物レンズの役割は入ってくる光の角度を焦点面上の位置に変換する事でした。見かけの方向がほとんど同じの隣り合った物体から出た光は、焦点面上でもすぐ隣に位置します。それぞれの光の点の広がりが大きいと、重なり合って区別がつかなくなります。

口径が大きな望遠鏡ほど、回折限界が小さくなり、この焦点面上の光の点ひとつひとつが区別しやすくなります。

望遠鏡に入ってくるふたつの光を焦点面上で区別できる最低限の角度差は、望遠鏡の基本的な指標です。この「入ってくる光の角度を望遠鏡でどれだけ細かく見られるか」という指標を角分解能、もしくは(望遠鏡の)分解能と呼びます。焦点面で結ばれた像をどれだけ拡大しても、望遠鏡の分解能を超えた細かな像は得られません。

撮影したデータはなんらかの形で記録しなければなりません。そのためにCCDなどの撮像素子を使います。撮像素子は、その上に映された像の位置と明るさを記録します。

撮像素子がどれほど細かく像を記録できるかはその画素数と面積によります。しかし映す像の大きさ(面積)は拡大レンズにより調整できますので、画素数がより重要な指標となります。「映された像を撮像素子でどれだけ細かく見られるか」という指標を画素数、または(撮像素子の)解像度と呼びます。4Kカメラの4Kはこの画素数のことです。

解像度という言葉はカメラの他にも画像や印刷、ディスプレイの分野でも使われます。ppi(pixel per inches)や dpi(dot per inches)という単位が使われます。これは「再現されるべき画像を印刷または表示でどれだけ細かく見られるか」という指標です。

ここまでまとめると、分解能は望遠鏡側、解像度は素子側・表示側の言葉という感覚が持てます。またある意味では分解能はアナログ的、解像度はデジタル的なのかもしれません。

機器の指標から特定用途での指標へ

望遠鏡の分解能や撮像素子の解像度は機器の性能ですので、実際に対象のどの様な部分が見えるかということは、すぐにはわかりません。対象との距離が示されればより具体的な長さで答えられますが、天体観測では1つの望遠鏡で観測する対象も様々なので、先の望遠鏡の分解能を共通の指標としています。

一方で、観測対象が固定化された業界では、望遠鏡の分解能ではなく、観測対象での長さで話をした方が便利です。地球の衛星観測もそういった業界のひとつです「脚注)筆者の故郷である太陽の研究も、望遠鏡について角分解能ではなく太陽での長さ kmで話すことがある業界でした]。

この時は撮像素子も含めた望遠鏡のシステム全体で考えます。よって「特定の観測対象を望遠鏡のシステムでどれだけ細かく見られるか」という指標を空間分解能と呼びます。また地球の衛星観測では地上分解能などとも呼びます。

地球の衛星観測では空間分解能のことを解像度と呼ぶのは、望遠鏡側というよりも素子側・表示側として「見えるべき地球を衛星観測データ(写真)でどれだけ細かく見られるか」といった視点が強いように思えます。

あとがき

混同されがちな分解能と解像度の違いを、ご紹介しました。

この記事をもって、分解能と解像度の定義を大上段に構える気はありませんが、皆様の理解の一助になれば幸いです。

なお、当記事の執筆にあたり、上村 治睦様(一般財団法人リモート・センシング技術センター)、元村 和史様に事前にレビューいただき貴重なコメントをいただきました。この場を借りて御礼申し上げます