宙畑 Sorabatake

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アクセルスペースの次世代地球観測衛星「GRUS-3」のスペックと展望【2026年に新たに7機打上げ予定】

アクセルスペースは次世代地球観測衛星「GRUS-3」を2026年に7機打上げることを発表しました。そのスペックと活用領域、アクセルスペースの展望についてまとめました。

2025年4月9日、アクセルスペースは次世代地球観測衛星「GRUS-3」を2026年に7機打上げることを発表しました。GRUS-3の打上げに先立ち、GRUS-3に使用する汎用バスシステムや望遠鏡の性能を検証するため、小型衛星「GRUS-3α(グルーススリーアルファ)」を今年6月以降に打ち上げる予定となっています。

本記事ではGRUS-3が実現する同社の地球観測データ提供事業「AxelGlobe(アクセルグローブ)」の展望とその他宙畑編集部として注目するポイントをまとめてみました。

AxelGlobe事業は民間企業からの売上が60%超

GRUS-3の記者発表会では、AxelGlobe事業の概況についても説明がありました。同社の代表取締役、中村友哉さんのお話によると、世界30カ国以上の行政機関や民間企業にAxelGlobeを提供しており、地域別では、国内が67%、海外が33%となっています。

また、世界の顧客の66%が民間企業、34%が政府案件という内訳になります。

AxelGlobe事業成長の上で3つの柱を立てており、1つ目は「衛星機数を増やし観測能力を増強させていくこと」、2つ目は「サービス、プロダクトの種類を増やしお客様のニーズに対応していくこと」、3つ目は「様々な業界とコラボレーションを実施することで新しいソリューションを作っていくこと」とのこと。特に、衛星データ利用がなされてきた領域 (精密農業、森林監視、地図作成)に加えて、これまで衛星データ利用になじみのなかった領域 (環境、不動産、金融)で新たな市場の創出を目指すことで、特定の用途に限定することなく、世界中の幅広い産業における衛星利用の促進を目指すと話されました。

7機の衛星打上げで毎日の観測需要に応える、1日に最大230万km²を撮影可能に

地球観測データ活用促進のため、次世代地球観測衛星「GRUS-3」7機を2026年に打ち上げます。本打上げにより、アクセルスペースで運用する衛星コンステレーションを10機以上の体制に増強します。

GRUS-3の大きな特徴は以下の通りです。

・画質の向上:GRUS-3では新たな観測機器を採用し、GRUS-1と比較して高画質画像の提供が可能。GRUS-3の地上分解能はGRUS-1の2.5mから2.2mに向上。
・衛星の大型化:GRUS-3はGRUS-1に比べて大型化し、汎用バスシステムとしてミッション機器の搭載スペースの拡充や性能向上を実現。
・撮影頻度の向上:7機体制となり、同一地点 (※北緯25度以上の地点) をほぼ同一時刻に毎日撮影を実現。
・撮影能力の向上:7機合わせて1日に最大230万km²を撮影可能とし、日本の面積の約6倍の面積の撮影を実施可能 (GRUS-1の3倍の面積を実現)。
・波長帯の拡充:GRUS-3ではGRUS-1での6つの波長帯に加えて、新たにコースタルブルーの分光観測が可能。

GRUS-1と比較したGRUS-3の基本スペックは以下をご覧ください。

項目 GRUS-3 GRUS-1
衛星数 7機
(GRUS-3A/3B/3C/3D/3E/3F/3G)
5機 (GRUS-1A/1B/1C/1D/1E)
質量 約150 kg 約100 kg
寸法 横96 cm×縦78 cm
×高さ126 cm
約60 cm×60 cm×80 cm
地上分解能 2.2 m 2.5 m
撮影幅 28.3 km 55 km以上
最長撮影距離 1,356 km 1,000 km
シリーズ全機合わせての1日の撮影能力 最大230万km2 (日本の面積の約6倍) 最大75万km2
撮影頻度 1日に1回 (北緯25度以上の地点にて可能) 2~3日に1回
観測波長帯 パンクロマティック (白黒)、コースタルブルー、青、緑、赤、レッドエッジ、近赤外 パンクロマティック (白黒)、青、緑、赤、レッドエッジ、近赤外
運用軌道 高度585 km (太陽同期軌道) 高度585 km (太陽同期軌道)

なお、お客様のニーズに合わせてサービスを提供する観点から、基本的にはお客様の依頼に応じたタスキング (特定地域を撮影するように計画すること) による観測がメインとなります。並行して、GRUS-3の空いたリソースを活用しながら、より衛星データの活用が進みそうなエリアを中心としたアーカイブ向けの撮影も進める想定とのことです。

観測波長帯にコースタルブルーを追加、何ができる?

宙畑が注目したGRUS-3の大きな特徴は、観測波長帯に新たにコースタルブルーが追加されていること。

コースタルブルーは標準の青バンドよりも水域により深く浸透可能であり、水域関連のアプリケーションで特に価値を発揮します。

コースタルブルーの追加により、沿岸域の藻場や地形などを観測できるようになります。

ちなみに、沿岸域の藻場観測については、2025年1月に行われたNEDO(国立研究開発法人 新エネルギー・産業技術総合開発機構)が実施する懸賞金活用型プログラム「NEDO Challenge, Satellite Data for Green Earth」の最終選考会で、「藻場創成適地・対策提案システムの構築」を発表したチームが、カーボンクレジット基盤構築(グリーン・ブルーカーボン等)のテーマで最優秀賞を獲得していました。

また、コースタルブルーの波長帯の追加は産業用途はもちろんのこと、安全保障といった観点でも利用の可能性が広がります。以下にそれぞれの用途についてまとめてみました。

産業用途
・沿岸域の藻場分布把握
・浅い水域の海底マッピング、珊瑚礁のモニタリング
・水質汚染の検出
・沿岸域の水深測定
安全保障用途
・水深の測定による着岸できる場所の把握
・沿岸地域の変化検出
・水中障害物の特定

汎用バスシステムの実証も兼ね、Axelliner事業の拡大にもつながるか

上記で紹介したように、GRUS-3に先行してGRUS-3αの開発を進めています。GRUS-3αは基本的にはGRUS-3と同機能/同性能であり、GRUS-3に搭載する望遠鏡を含む光学システムおよび衛星汎用バスシステムの性能の検証を目的としています。

なお、GRUS-3およびGRUS-3αのミッションを搭載する衛星汎用バスシステムの開発および実証は、「宇宙産業技術情報基盤整備研究開発事業(超小型衛星の汎用バスの開発・実証支援)/ 衛星コンステレーションのワンストップサービス実現に向けた超小型衛星実証事業」(2023-2026年度) という国立研究開発法人新エネルギー・産業技術総合開発機構(NEDO)の助成事業によるものです。

GRUS-3αは2025年6月以降に打上げ予定であり、2025年4月時点にて製造完了しております。

GRUS-3αの実機。上部がミッション部で、下部の3分の1が汎用バス部

GRUS-3αで検証予定の汎用バスシステムは、衛星の基盤となる構造や機能を標準化し、異なるミッションで共通して使用できるシステムであり、衛星ごとのカスタマイズ要素を最小化し、開発期間とコストを削減することを狙って開発中のシステムです。本汎用バスシステムはアクセルスペースが2022年に発表した、顧客の宇宙ミッション実現のための衛星開発・運用事業「AxelLiner」の基盤技術となります。

「AxelLiner」は、小型衛星のニーズが急速に高まるなかで、衛星の製造、打ち上げ、運用その他衛星に関わる手続きをワンストップで提供するサービスです。従来はお客様のご要望に合わせてオーダーメイドで衛星プロジェクトを推進してきましたが、衛星プロジェクトに関わる長く複雑なプロセスをパッケージ化し、お客様がより簡単に衛星を活用したビジネスを展開できることを目指しています。

アクセルスペースは「AxelLiner」において、民間企業や行政、研究機関を対象に、小型衛星の設計・製造、打ち上げのアレンジメント、打ち上げ後の軌道上における運用支援を提供しています。

自社の光学衛星コンステレーションによる地球観測データ提供事業「AxelGlobe」、小型衛星のワンストップサービス事業「AxelLiner」の両事業を両輪として各事業基盤をより強固にし、小型衛星に関するトータルソリューションを提供するリーディングプレイヤーとしての地位を確立していくアクセルスペースの動向に今後も要注目です。