宙畑 Sorabatake

衛星

衛星上でcm級測位を実現!QPS研究所とJAXAが切り開くオンボードPPP技術とは

2025年7月15日、QPS研究所と宇宙航空研究開発機構 (JAXA) は、QPS-SAR10号機に搭載したオンボードPPP(高精度単独測位)実証機の初期機能確認に成功したと発表。オンボードPPPの概要とそのメリットについてまとめました。

2025年7月15日、QPS研究所と宇宙航空研究開発機構 (JAXA) は、QPS-SAR10号機に搭載したオンボードPPP(高精度単独測位)実証機の初期機能確認に成功したと発表しました。オンボードPPP技術を衛星運用に組み合わせることで、たとえば、従来はm級の精度だった衛星自身の位置情報を、衛星上でcm級にリアルタイムで補正できるようになるため、高精度な画像処理を衛星自身で即座に実行できるようになります。

これにより、災害発生時に地上での軌道補正や画像生成を行う必要がなくなり、従来は数日を要していた画像提供が数時間以内に可能となります。これによって、被災地の状況把握や救援活動の意思決定を迅速化し、初動対応の遅れによる被害拡大を防ぐことが期待されます。

さらに、位置把握から画像処理までを衛星上で完結させることで、これまでにない革新的なサービスの創出が期待され、宇宙利用の即応性と付加価値を飛躍的に高めることが期待されています。

(1)数日待ちの現実から数時間提供へ - 測位処理革命の背景

スマートフォンなどの位置情報には数メートル程度の誤差があります。しかし、地球観測衛星の場合は、撮影した画像が地上のどの場所を示しているのかを正確に特定する必要があり、センチメートル単位の高精度な位置情報が求められます。

従来は、当該衛星の高精度な位置情報を把握するために、測位衛星から受信したGNSS信号および測位衛星の高精度な軌道情報を地上で処理して取得していました。ただし、測位衛星の高精度な軌道情報を算出する処理には数日かかることもありました。そのため、災害時など迅速な対応が必要な場面では、大きな課題となっていました。

これに対して、PPP(Precise Point Positioning:高精度単独測位)という技術を利用することで、GNSS衛星から信号に加えて軌道・時刻の誤差補正情報を受信し、衛星上で位置情報を補正することで、算出に時間のかかる測位衛星の高精度な軌道情報を用いずに、直接当該衛星の高精度な (cm級の) 位置情報を把握できるようになります。

宙畑メモ:”GNSS(Global Navigation Satellite System)”とは
全地球航法衛星システムの総称。米国のGPS、ロシアのGLONASS、欧州のGalileo、日本の準天頂衛星システム「みちびき」、中国のBeiDou、インドのNavICなどが含まれます。これらのシステムを組み合わせることで、より多くの衛星からの信号を受信でき、測位精度と信頼性が向上します。

詳細はこちらをご覧ください:

(2)革命的変化の全貌 - オンボードPPPが実現する新しい可能性

数日から数時間へ - データ提供時間の劇的短縮を実現

まず、オンボードPPPが実現したいことを図形式でまとめました。

Credit : 宙畑

宇宙環境の影響により、衛星の位置情報には誤差が載るのですが、従来は取得したGNSS信号も活用し、地上側にデータ送付後、地上で上記誤差を後追いで補正しており、その補正に時間 (数日レベル) がかかっていました。

今回の技術では補正信号を事前に送付しておき、衛星内で補正信号を用いて、自身の位置情報を正確に補正することができます。わざわざ地上側で補正をする必要がなくなるため、画像生成がかなり高速 (数時間レベル) になるのです。

なお、オンボードPPPを実施するためには、補正信号も併せて受信できるGNSS受信機および測位信号を補正可能なオンボードコンピュータが必要です。今回の実証はこれらの2機器の動作実証となります。

官民連携が築く国際宇宙技術競争での日本のポジション

衛星上でのオンボードPPPの世界における主要動向を下図でまとめました。

Credit : 宙畑

世界各国でオンボードPPP技術開発が進むものの、多くが実証段階です。日本は軌道上画像化技術との統合により、国際競争で優位なポジションを築く可能性があります。

また、JAXAの先進技術開発力とQPS研究所の衛星運用ノウハウを組み合わせた官民連携により、実用的な技術実証を実現しています。

本実証におけるJAXAとQPS研究所の役割棲み分け図 Credit : JAXA Source : https://www.kenkai.jaxa.jp/research/sasshin/onboard_ppp.html

軌道上画像化技術との統合で描く未来像

QPS研究所は2023年にQPS-SAR 6号機で軌道上画像化技術の実証にも成功しています。

ただし、上記処理に用いる、オンボードで実現できるリアルタイムの衛星軌道位置推定精度は一般的に数メートルから十数メートル程度とされています。SARの画像処理では正確な衛星軌道位置の情報が必要となり、上記の場合には解像度が粗くなったり、干渉精度が悪くなったりします (干渉については下記を参照ください)。

オンボードPPP技術と組み合わせることで衛星上でさらに高精度な画像が生成できるようになりますので、革新的なサービスができるようになるかもしれません。

(3)終わりに

QPS研究所とJAXAによるオンボードPPP技術の初期機能確認成功は、日本の宇宙技術開発にとって重要なマイルストーンです。従来の地上依存型から衛星上でのリアルタイム高精度測位への転換により、災害対応の迅速化など社会の様々な分野での革新が期待されます。

世界各国の開発がまだ実証段階であるため、8月下旬から始まる軌道上実証実験の成果によって、日本が国際競争で優位なポジションを築く可能性が期待されます。

また、本ニュースではあくまで位置情報補正にフォーカスしておりましたが、オンボードコンピュータでは色々な処理が可能です。それに伴い、8月12日にJAXAが「軌道上実証AIアプリ募集」を開始しています。軌道上で実証してみたいAIアプリを実際に今年度に軌道上実証できるチャンスですので、皆様が実現してみたいアイデアをぜひ応募してみてはいかがでしょうか?

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