【新時代の宇宙ビジネスここに集う~宇宙ビジネスピッチイベント~】開催レポ!
2019年9月13日、東京都内にて、宇宙ビジネス起業家と宇宙ビジネス投資家間の連携を活性化させることを目的としたピッチイベント「新時代の宇宙ビジネスここに集う~宇宙ビジネスピッチイベント~」が開催されました。
2019年9月13日、東京都内にて、宇宙ビジネス起業家と宇宙ビジネス投資家間の連携を活性化させることを目的としたピッチイベント「新時代の宇宙ビジネスここに集う~宇宙ビジネスピッチイベント~」が開催されました。
宇宙を舞台に新しいビジネスを起こす6社のピッチが行われました。
S-Matchingの狙いとは?
S-Matchingとは、内閣府及び経済産業省によって設立された新たなビジネス・アイデアや新事業構想を有する宇宙ビジネス起業家と、宇宙分野に投融資意欲がある宇宙ビジネス投資家とのマッチングを円滑化するための場のこと。国立研究開発法人新エネルギー・産業技術総合開発機構、通称”NEDO”が運営を担当しています。
今回のイベントは、このS-Matchingの活動同様、宇宙ビジネス起業家と宇宙ビジネス投資家間の連携を活性化することを狙って実施されました。
イベントは冒頭、経済産業省宇宙産業室 室長補佐、國澤 朋久氏よりS-Matchingの狙いについて説明がありました。
S-Matcingが生まれた背景には、日本の宇宙ベンチャーへの投資事情があります。
ここ数年で、日本の宇宙ベンチャーに資金調達のニュースも増えてきました。このことは日本の民間宇宙産業にとって非常に良いことですが、以下の2点について一般的なベンチャー投資と異なる部分があります。
・投資プレイヤーの大部分が官民ファンド
・シード期のベンチャーへの投資が少ない
一方で、民間宇宙産業において、ベンチャー企業のイニシャルコスト(創業初期にかかるコスト)は非常に高く、デスバレーと呼ばれる死の谷が存在します。したがって、創業初期のシード期の宇宙ベンチャーこそ資金を求めている現状とも言えます。
つまり、日本の民間宇宙産業において【資金が必要なシード期の宇宙ベンチャーに資金が集まっていない】という課題があるのです。創業初期のベンチャー企業はビジネスに強いメンバーが少ないケースも多く、【誰に投資の相談を求めていけばいいのか】が分からない。一方の宇宙ベンチャーに投資したいプレイヤーは【宇宙ビジネスに興味はあるんだけど、具体的にどういうプレイヤーがいてどういうアイデアがあるのか】を知る手段が分からない。
S-Matchingは、このようなギャップを埋めるために始まりました。
2019年10月14日時点で、ベンチャー企業(起業家)の登録数は362社であり、投資家の登録数は58件です。
S-Matchingはオンラインの繋がり起点となるのに対して、オフラインで投資家とベンチャーを繋ぎその力を加速する一つのきっかけとする目的で、開催されたのが本イベントです。
宇宙を舞台に起業する6社によるベンチャーピッチ!
國澤室長補佐のお話のあとはいよいよ、ベンチャー6社によるピッチが始まります。
今回のモデレータは、アスパラントグループ株式会社シニアパートナーの川本明氏です。
川本氏より初めに「宇宙とベンチャービジネスは、共通部分が多いと思っている。
既存の手法ではなかなか宇宙にいけないし、宇宙空間で活動することも現状では難しい。実現するには、想像を超えた粘り強さや驚くような視点やアイデアが必要。これは同時に、ベンチャー企業が成功する条件でもあるのではないか。」とのお話がありました。
宇宙で、被災地で食べられる備蓄食を開発「ワンテーブル」
株式会社ワンテーブルは、宇宙と被災地が置かれている環境の類似性に注目し、5年間という長期間の保存が可能な備蓄食を開発しているベンチャー企業です。代表の島田氏は、「防災をテーマに事業開発し、東北の地からイノベーションを起こしたい」と強く語りました。
ロケットの空中発射による打ち上げコストの低減を目指す「RyuTeC」
RyuTeC株式会社は、成層圏大気球から小型ロケット空中発射による衛星打ち上げ事業を目指しています。
空中から発射することで、ロケットに必要な燃料が少なくなったり、搭載する衛星の仕様が簡素化したりするためコストダウンが見込めるサービスです。
宇宙デブリ防止のための衛星用エンジン「パッチドコニックス」
合同会社パッチドコニックスが着目したのは、年々増え続ける宇宙デブリ(ゴミ)の問題。
開発している製品は、”Project Discarder”という衛星が寿命を終える時に確実に作動し混みあっている軌道から離れることを可能とする小型エンジンです。
代表の川口氏はJAXA宇宙科学研究所の教授でもあり、小惑星探査機はやぶさのプロジェクトマネージャーを務めた経験があります。探査機はやぶさに搭載された電気推進エンジンの経験を活かして、新しい小型エンジンの開発に取り組んでいます。
薄型太陽電池をウェアラブルデバイスに適用する「国立研究開発法人理化学研究所」
4番目のピッチは、国立研究開発法人理化学研究所(理研)の染谷薄膜素子研究室の専任研究員の福田憲二郎氏です。
元々基礎研究として開発していた軽量・薄型で熱に強い太陽電池を、スマートウォッチなどのウェアラブルデバイスや、センサー内臓型衣服へ適用できないかと考えています。
宇宙に家を作る「OUTSENSE」
株式会社OUTSENSEは、宇宙に家を作るというのがビジョンの宇宙ベンチャーです。深宇宙への物資の大量輸送にかかるコストを削減するために、折り紙の技術を使うことを目指しています。
宇宙から見つかるポテンシャル名産地「天地人」
株式会社天地人のピッチのキーワードは、”宇宙から見つかるポテンシャル名産地”です。
衛星データを含む様々な情報を用いて解析を行うことで、まだ誰も気付いていない土地の価値を明らかにすることを目指しています。
宇宙ビジネスはロケット・人工衛星だけじゃない
イベントの最後に司会の方が、「宇宙ビジネスというと、ロケットや人工衛星のような壮大なイメージが強かったのですが、宇宙をうまく活かす事によって、災害や介護、建築や農業のような他の産業に生かす事ができるんだ。本当に宇宙と私たちのビジネスって意外と身近な物なんだなと感じました。」とコメントしていました。
この点は宙畑でもよく取り上げていますが、まさに、宇宙ビジネスにおいて非常に重要なポイントです。
今回ピッチした天地人を例にとると、衛星データを使って定量的に農地候補のスクリーニングを行うというもので、農業という身近なテーマを題材にしています。
キウイフルーツの生産販売を手がけるゼスプリ インターナショナル ジャパン株式会社と実際にキウイフルーツに適した土地の候補地を洗い出すという実証実験を実施し、近いうちにサービスとしてリリースする予定です。
さらに、天地人では本サービスの適用範囲を農業だけに留めず、「太陽光発電を初めとする再生可能エネルギーの発電量推定」や「まだ発掘されていない観光地のポテンシャルの引き出し」など別の産業への展開も見据えているようです。
また、株式会社OUTSENSEでは最終的には宇宙に家を建てることを目標におきつつ、その技術を地上にも適用しようとしています。ピッチでは、径の違う配管の接続の継ぎ手部分の役に立つのではないかという実証実験を進められているそうで、こちらも地上の産業と密接につながっています。
このように他分野にも応用できるというのは、事業のスケールが必要なベンチャーにとってとても大事なことです。また、この点はイベント冒頭で國澤室長補佐からお話のあった【シード期の宇宙ベンチャーは資金が必要】という課題にもリンクしてきます。
天地人と株式会社OUTSENSEは、地上での実証実験を小さく実施することで、大きな資金力はなくても現在できることから始めようとしています。
これまで研究開発機関であるJAXAが軸となって官需中心の宇宙開発をしてきた日本の宇宙産業が、そこから変革を遂げるべく経産省と起業家が足並みそろえて日本の民間宇宙産業に本気で取り組んでいこうとしています。このような場が今後も多く生まれていくことに期待が高まります。今後も注目して宇宙ビジネスベンチャーを追いかけたいと思います!