【事例付き】SDGsに衛星データが欠かせない理由とは
最近、至るところで耳にするようになった「SDGs」について、衛星データの価値と合わせて、その概要と実現したいコトをご紹介します。
SDGs――最近、いたるところでこの言葉を聞きます。
SDGsは「Sustainable Development Goals」の略称で国連が定めた持続可能な開発目標です。17個の目標とそれに紐づく169個のターゲットがあり、国連に加盟した世界193カ国は2030年までの達成に向けて動いています。
全世界で取り組みが進められるSDGs。その達成に向けて各国の宇宙機関が衛星データの活用などでSDGsに貢献すると表明しています。今回は衛星データがSDGsの達成に向けてどのように寄与するのか、実例を踏まえながらお伝えしましょう。
SDGsとは-成り立ちの経緯と17個の国際目標-
SDGsの成り立ちには一体どのような経緯があったのでしょうか。
SDGsの前身には「ミレニアム開発目標(通称:MDGs)」があります。MDGsは2001年に国連で議論され、掲げられた目標です。2015年を期限に貧困・飢餓、環境問題など8つの目標を設定しました。
15年という時間をかけ、MDGsは世界に蔓延する「極度の貧困」を半減し、「HIV・マラリア対策」などで成果を上げました。しかし、乳幼児の死亡率低減、サブサハラアフリカ地域などで目標達成が遅れるなど課題も残りました。
このMDGsの反省を踏まえ、2015年9月の国連サミットでSDGsが採択されました。「『誰一人取り残さない』持続可能で多様性と包摂性のある社会」を実現すべく、2030年までに以下の17個の国際目標を掲げています。
SDGsには大きく5つの特徴があると言われています。先進国を含む全ての国が行動する「普遍性」、誰一人取り残されない「包摂性」、ステークホルダー全員が役割を担う「参画型」、社会・経済・環境など統合的に取り組む「統合性」、そして定期的に進捗を確認する「透明性」です。
これらの方針に基づき、国連に加盟する全193カ国が各国の強みを活かして達成に向けて取り組みを進めています。
日本がリーダーシップを発揮する4つの分野
SDGsには日本も積極的に参画しています。特に以下の4つについては日本が積極的に参画すると表明しています。
【日本が積極的に参画を表明する4分野】
1. 質の高いインフラ
2. 防災
3. 海洋プラスチックごみ
4. 気候変動・エネルギー
インフラの提供や防災については、これまで数々の大災害を経験してきた日本だから持つノウハウを世界に提供しようという動きです。インフラ投資に関する国際スタンダードをアップグレードするとしており、防災面では「世界津波の日」の普及・啓発を推進するとしています。
また昨今話題になっている海洋プラスチックの問題についても言及。廃棄物処理に関する制度構築やイノベショーンによる代替素材を開発などを掲げています。
さらに日本が持つクリーン技術などを活かした気候変動・エネルギー問題に対する解決もリーダーシップを取り、解決に向けて取り組みを進めるとしています。
SDGsと衛星データの相性が良い理由
SDGsの達成にはあらゆる手段を用いて取り組みを進める必要がありますが、衛星データの活用はSDGs達成に向けた有力なソリューションの一つと言えるでしょう。
そもそも、なぜ衛星データがSDGsの達成に貢献できるのでしょうか。衛星データとは地球を周回する地球観測衛星からもたらされるデータです。そのデータは、気象情報、河川情報、海洋資源など地球環境に関わるデータから成り、交通情報や土地利用の把握などに役立ちます。
このように地球上の広範囲に渡る状況を地球観測衛星で捉えられるのです。
衛星データで食料問題を解決
これにより衛星データはSDGsのあらゆる目標に対して貢献できる可能性があります。例えば、2番目の目標として掲げられている「飢餓」。これを達成するには安定した食糧生産が欠かせません。そしてそれを実現するには高い確率で気象や災害を予想して、対策を立てる必要があります。
そこで役立つのが衛星データを活用した気象や災害の予測です。衛星データを蓄積して解析することで、いつどこで気候の変動や災害のリスクが生じる可能性があるか可視化できます。これにより新たな農地の選定にも役立ち、より効率的な食糧生産を実現できるでしょう。
気候変動、海洋資源の実態は衛星データで掴む
また気象状況を予測できるためSDGsの13番目に掲げられている「気候変動」への貢献も期待されます。CO2の増大など地球を取り巻く環境は厳しさを増しています。気候変動の根本的なメカニズムを解明し、環境対策を打ち出すのも衛星データに期待されていることとの一つです。
さらにSDGsの6番目の目標「水・衛生」、14番目の「海洋資源」にも衛星データが役立つでしょう。人間が生きていく上で欠かせない水。それを支える河川の状況などは衛星データを活用して、状況をクリアに把握することが可能です。
地球表面の70%以上を占める「海」も衛星データで海面温度や海流なども可視化できます。これにより海洋を適切に管理し、海洋資源の持続可能な開発に寄与するでしょう。
国内における衛星データを活用したSDGsの取り組み
それでは実際に衛星データはSDGsにどのように役立っているのでしょうか。国内ではJAXAがSDGsに積極的に参画しています。まずはその事例から見ていきましょう。
①災害被害の軽減
アジア太平洋地域を災害から守るため、2006年にセンチネル・アジアという国際プロジェクトが立ち上がりました。APRSAF(アジア太平洋地域宇宙機関会議)が主導しており、JAXAの陸域観測技術衛星「だいち」など宇宙技術を活用することで洪水や地震、火山などの災害関連情報の共有を可能にします。これにより災害への対策や早期警戒を実現し、被害を最小限に食い止めることができるのではないかと期待されています。
センチネル・アジアは2006年にプロジェクトが発足して以来、3つのステップを踏んでシステムを構築してきました。
Step1:パイロットプロジェクトとして、センチネル・アジアの根幹となるデータ提供システムを構築
Step2:Step1をベースに新規衛星通信システムを利用してさらに拡張
Step3:地球観測衛星・通信衛星・測位衛星など様々な衛星を駆使して、減災、復興支援などへ活動を拡大
JAXAではこの取り組みを通じてSDGsの11番目の目標である「住み続けられるまちづくりを」に貢献するとしています。
②森林・海を守る
SDGsでは気候変動だけでなく、15番目の目標として「緑の豊かさを守ろう」が掲げられています。CO2の削減にも欠かせない森林の存在をどのようにモニタリングするのか、世界的な課題となっています。
これに対して、JICA(独立行政法人国際協力機構)とJAXAでは陸域観測技術衛星2号「だいち2号」(ALOS-2)によって約80カ国の熱帯林の開発状況を監視できる「JICA-JAXA熱帯雨林早期警戒システム(JJ-FAST)」を提供しています。
システムでは伐採などの状況を観測して、インターネットを通じて誰でもその状況を確認できるのが特徴です。そして、その観測は大きな成果を生むことが実証されています。
JICAとJAXAは、2009年から2012年の間にブラジルへの支援の一環でアマゾン地域を「だいち2号」の前号機である「だいち」で観測を行い、違法伐採が発生していないか準リアルタイムでモニタリングしました。その結果、「だいち」によって2000件以上の違法伐採を検知することに成功。違法伐採の面積を40%削減しました。
この結果を踏まえて、JICAとJAXAは2015年にパリで開催された第21回気候変動枠組条約締約国会議(UNFCCC-COP21)で「森林ガバナンス改善イニシアティブ」を発表。その一環として「JICA-JAXA熱帯林早期警戒システム」(JJ-FAST)を構築し、世界中の熱帯林の伐採状況を観測することになりました。JJ-FASTでは最終的に60カ国のデータ公開を目指し、インフラや治安上の理由で森林を満足に監視できない開発途上国の持続的な発展にも貢献するとしています。
③食料の安定供給
飢餓の撲滅には安定的な食料供給が欠かせないことは先述した通りですが、JAXAでは衛星データにより小麦の水分量を解析し、最適な収穫時期を予測できるシステムやたんぱく質含有量を測定し、コメの食味を評価できるシステムが実用化されています。これらの技術は国内での活用だけでなく、開発途上国などへの展開も期待されています。
また平成30年の宇宙データ利用モデル実証事業において、衛星データと地上データを組み合わせた「宇宙ビッグデータSDGs農林牧畜業プラットフォーム海外展開事業」が採択されました。株式会社アットビジョンや東京大学などが主導するこのプロジェクトは、衛星データと地上データを統合してAIによって解析し、多くのユーザーがその結果を参照できることを目指します。
ブラジル、ルワンダなどでユーザーのニーズを調査し、最適なインターフェースを設計。アプリは商用、公共用の2種類を用意して、農業・森林管理、洪水や干ばつ対策への利用を想定しているようです。
EUは測位衛星システム・GalileoでSDGsの達成に貢献
SDGs達成のために衛星データの利活用を進めているのはJAXAだけではありません。海外に目を向けるとEUは測位衛星システム・Galileoなどの活用を進めています。
Galileoは軍用目的ではなく、民生利用を目指して2020年までに30機の衛星による運用を目指しています。2014年から2017年までに合計で180Mユーロ(約240億円相当)の予算が執行されるなど積極的に運用されています。
EUではGalileoなどの衛星データを活用することでSDGsで掲げられている17個の目標のうち13個について特に貢献できるとしています。例えば、地理空間データを組み合わせて、農業において作物生産を最適することで、燃料などのコストを削減しながら収穫量を10%アップできるとしています。
また2030年までに世界人口の60%以上が都市に居住することを踏まえると、都市開発などの監視も重要です。EUは衛星データを用いたインフラの管理、正確な交通情報の把握などにより持続可能なスマートシティの構築に貢献できるとしています。
SDGsに欠かせない衛星データの利活用を進めるために
ここまでSDGsにおける衛星データの利活用について、実例などを踏まえて見てきました。世界規模の課題を解決し、SDGsを達成するためには、衛星データが有効である、ということを感じて頂けたのではないでしょうか?
衛星データは自国のみならず、地球の裏側まで、世界中を定期的に観測し、土地利用の状況を把握できます。各種観測情報を時系列で追うことで、地球上で発生している環境変化などを的確に定量的に捉えることができます。
これらの地球観測衛星は、観測分解能や観測頻度として、十分ではない場合もありますが、定期的に同じセンサで観測することで変化の傾向を押さえられるほか、IoTの技術などと組み合わせることで、情報の質を向上させることも可能です。SDGsで掲げる国際目標達成のために活躍する技術の一つと言っても過言ではないでしょう。
詳しくは「Society5.0とは~IoTデータx衛星データの可能性と活用例~」をご覧ください。
また、これまでも一部を除き政府の衛星データは無料で公開されてきましたが、近年では、ただデータを公開するだけではなく、理解しやすいように可視化して公開する動きも出始めています。例えば日本国内であれば、衛星データプラットフォーム「Tellus」でデータが開放され、誰でもユーザ登録してインターネットでサイトにアクセスすれば、衛星データを可視化できる環境が提供されています。
つまり、自宅にいながらであっても、衛星の観測結果を通して、世界中の環境の変化を個人であっても確認できるような世の中になってきました。果たしてSDGs達成に向けて今の世の中は、自分の国は動けているのか、ぜひ定期的に確認されてみてください。