雷観測データを無料で触れる! 雷の原理、種類から学ぶ雷データの使い方
昔から恐れられてきた雷、現代でも停電や雷サージなど私たちの生活に大きな影響を与えています。その雷がいつどこで発生していたかがわかる「雷観測情報」。ここでは、雷発生の原理から、Tellusでの利用方法まで詳しく解説します。
記事作成時から、Tellusからデータを検索・取得するAPIが変更になっております。該当箇所のコードについては、以下のリンクをご参照ください。
https://www.tellusxdp.com/ja/howtouse/access/traveler_api_20220310_
firstpart.html
2022年8月31日以降、Tellus OSでのデータの閲覧方法など使い方が一部変更になっております。新しいTellus OSの基本操作は以下のリンクをご参照ください。
https://www.tellusxdp.com/ja/howtouse/tellus_os/start_tellus_os.html
現在、Tellus Marketでの「降水観測情報」「降水予測情報」「雷観測情報」の販売は終了しております。
気象庁予報業務許可事業者である、株式会社島津ビジネスシステムズでは、さまざまな気象情報を用いて天気アプリの提供などのビジネスを展開しています。中でも「アメミル」は、これからの雨をAR(拡張現実)で表示する無料の人気アプリです。アメミルでは、降水レーダーや気象衛星ひまわり画像、そして雷情報を活用しています。
1.気象データと雷情報
雷が発生する原理について
雷は放電現象であることは、よく知られていますが、どのようにして電気が蓄えられるのでしょうか。
空に浮かぶ雲は、地表の暖かい空気が上空に上ってできますが、上昇した水蒸気は上空で冷えてきて、やがて氷の粒に変化します。氷の粒はいくつも集まることで重くなり、地面に向かって落ちてきます。これが溶けたものが雨です。
いろいろな条件が重なり、地表に大量の水蒸気が補給されると、上昇流は次第に激しくなります。激しい上昇流で小さな氷の粒が持ち上がり、上からは大きな粒が下降してぶつかり合い、ここに帯電し極性が生まれ、静電気が発生します。やがて大気に、これ以上は電気が貯められないという限界が来ると、これが地面や高さの違う雲に放電されます。この現象が「雷」です。
これだけ聞くと簡単なメカニズムという気がしますが、実際の雷放電は実験室の静電気とはかなり違います。空気は絶縁性が高く、地面と雷雲の間は1kmにもおよぶため、放電はそう簡単には起こりません。実際には、いくつかのフェーズに分かれています。
(1)ステップトリーダ(Stepped Leader)
雷放電の最初は比較的振幅の大きいパルス(ごく短い時間に発生する波)が発生します。これがステップを踏みながら、秒速100km程度で大地に向けて進みます。イナズマの木の枝のような部分がこれにあたります。
(2)第一帰還雷撃(First Return Stroke)
放電が地表面に達すると、強い発光を伴って、同じ経路を光速の3分の1程度の速度で、今度は上空に向かって放電が進みます。この時、平均30kA程度の電流が流れます。
(3)ダートリーダ(Dart Leader)
その後再び、同じ経路を積乱雲から放電が、今度は秒速1万kmという速度で下降します。
(4)後続雷撃(Subsequent Return Stroke)
地表面付近に達すると再び帰還雷撃に似た大電流が流れます。
(5)一つの雷放電は、こうした過程が4回程度繰り返されて終わります。
雷にも種類がある!
雷は、地面に放電する「対地放電」と、雲の中で放電が終わる「雲放電」があります。さらに「対地放電」には、夏場に良く起こる「負極性落雷」と、これとは電荷が反対で、地面から雲へ放電する「正極性落雷」があります。
先に氷の粒がぶつかり合って帯電し極性が生まれる、と書きましたが、雲の温度によって負に帯電しやすい場所と、正に帯電しやすい場所に分かれ、複雑な分布になります。
夏は負極性落雷が9割程度ありますが、冬の北陸地方などでは半分以上が正極性落雷になります。正極性落雷の多くは電流としては小さいものが多いものの、たまに200kA以上の大電流が流れる雷があり、しかも前触れなく突然に落雷するため「一発雷」と恐れられています。
日本海側のほうが雷が多い!? 雷日数が最も多いのは金沢
落雷害は約30%が8月に集中し、地域別では太平洋側の方が日本海側より2倍ほど多いのですが、年間の雷日数で見ると、東北から北陸地方にかけての日本海沿岸が多くなります。雷日数が全国で最も多いのは金沢で、42.4日です。
雷の電圧は〇〇ボルト以上! 雷被害について
雷放電からは、直流(周波数0Hz)からX線までの様々な周波数の電磁波が出るため、昔はよく「ラジオに雑音が入ると雷が近い」と言われました。
放電電流は非常に大きいため直撃しなくても、落雷の近くでは電線がアンテナとなって数キロボルト以上の非常に高い電圧が発生します。これが「誘導雷サージ」です。
このようなサージは、数十マイクロ秒と非常に短い時間しか流れませんが、電気機器を損傷させたり、誤動作させたりします。これを防ぐには、バリスタと呼ぶ吸収素子を内蔵した電源タップを使うとよいと言われています。
気象庁の雷観測の仕組み
航空機の安全運航や空港設備の安全管理のために、気象庁では、雷監視システムLIDEN(LIghtning DEtection Network system)を運用しています。雷放電から発せられた電磁波の中で、LF帯の電波を全国30か所に設置した「検知局」で受けて、信号の到達時間や波形情報などから雷放電の位置を割り出します。
雷観測情報は、この雷監視システムLIDENのデータで、毎分リアルタイムに更新しています。
2.Tellusで利用できる雷観測情報紹介
Tellusには2種類の雷観測情報が利用できます。1つはTellusOSのマップ上で雷の観測値を表示できる「雷観測」、もう1つは開発環境でAPIからデータを取得できる「雷観測情報」です。
現在、Tellus Marketでの販売は終了しております。
雷観測情報には、
■観測日時
■市区町村名
■緯度経度
■放電種別(雲放電,対地放電)
が含まれています。
ここでは無料で利用できる2019年9月9日00:00~2019年9月10日23:59のデータを見てみましょう。
3.TellusOSでの見方
この無料期間は2019年台風15号が日本に上陸した日と、その翌日のデータです。この台風(令和元年房総半島台風)は、9日3時前に三浦半島付近を通過、9日5時前に千葉市付近に上陸した後、日本の東へ進みました。これにより日降水量が、東海地方の多い所で300ミリ、関東地方の多いところで200ミリという大雨になりました。
台風通過時は関東では雷の観測は少なかったのですが、翌10日は湿った空気の影響で、広い範囲で落雷が発生しました。10日17時ごろには北関東で雷雲が広がり、徐々に南下して19時には東京付近でも雲間雷が多く観測されています。
そして、同日21時には東京湾を中心に雷雲が広がっている様子がわかります。台風の影響で千葉県を中心に前日から約56万軒で停電しており、ニュースで覚えておられる方も多いでしょう。
次は、雷観測情報をより詳しく知るために、開発環境でAPIを使います。
まずTellusマーケットで「雷観測情報(無料)」を購入します。マーケットトークン発行APIを実行するには、APIアクセストークンが必要です。 APIアクセストークンはダッシュボードの「開発環境」から発行することができます。
まず、マーケットトークンを発行します。
import requests, datetime, json
TOKEN = '(ご自身で発行したトークンを入力してください)'
provider_id = 'shimadzu-bs'
tool_label = 'kaminari-af'
# マーケットトークン有効期限(30分に設定)
# デフォルトでは5分、最長で60分まで設定可能
expires_at = (datetime.datetime.now(datetime.timezone(datetime.timedelta(hours=+9))) + datetime.timedelta(minutes=30)).isoformat()
def get_market_token(payload={}):
url = 'https://sdk.tellusxdp.com/api/manager/v1/auth/api_access_token/token'
headers = {
'Authorization': 'Bearer ' + TOKEN
}
r = requests.post(url, headers=headers, data=json.dumps(payload))
if r.status_code is not 200:
raise ValueError('status error({}).'.format(r.status_code))
return json.loads(r.content)
# マーケットトークンを発行する
ret = get_market_token({'provider_id': provider_id, 'tool_label': tool_label, 'expires_at':expires_at})
発行したマーケットトークンを利用して、いよいよAPIリクエストを行います。本記事では2019年9月10日20時のデータをリクエストして、「対地放電」のみをフィルタリングし、東京駅から30km以内の雷情報を取り出します。
import requests
import json
import pyproj
stime = '20190910200000'
etime = '20190910210000'
path= '/tellus/wif82af3w39s/kaminari_af.php'
opt = '?stime='+stime+'&etime='+etime
lat1, lon1 = 35.677716, 139.764805 # 東京駅
within_radius = 30000.0
def exec_api(url, token, payload={}):
headers = {
'Authorization': 'Bearer ' + token
}
r = requests.get(url, headers=headers, params=payload)
return r.content
# API実行
executed = exec_api(ret['base_url'] + path + opt, ret['token'], {})
json_data = json.loads(executed)
strike_data = json_data['data']
strike_data2 = [d for d in strike_data if d['attr'] == '対地放電']
grs80 = pyproj.Geod(ellps='GRS80') # GRS80楕円体
for strike in strike_data2:
lat2 = float(strike['lat'])
lon2 = float(strike['lon'])
azim, bk_azim, distance = grs80.inv(lon1, lat1, lon2, lat2)
if distance <= within_radius:
print(lat2, lon2, strike['dtime'], strike['pname'], distance)
35.942 139.753 2019-09-10 20:57:43 越谷市 29343.161596578608
35.684 139.587 2019-09-10 20:57:43 三鷹市 16110.98974075251
35.903 139.832 2019-09-10 20:57:12 吉川市 25723.931017227893
35.87 139.704 2019-09-10 20:56:10 さいたま市 22031.869542933535
35.822 139.674 2019-09-10 20:55:45 蕨市 17992.802471048664
35.614 139.944 2019-09-10 20:55:42 17701.72839120572
35.736 139.466 2019-09-10 20:55:19 小平市 27803.222863210856
35.805 139.785 2019-09-10 20:55:13 足立区 14240.353824900898
35.756 140.03 2019-09-10 20:53:24 船橋市 25519.77742897484
このAPIは一度に取得できる雷は最大2000件ですので、もし2000件を超える場合は、期間を30分など小さくしてリクエストしてください。
4.利用の可能性
雷が起きた場所と日時のデータを用いるとどのような活用法があるのか。例えば、以下のような活用が考えられます。
・故障した機器の原因把握
まず考えられるのは雷が起きたか否かの事実確認のため。例えば、ネットワーク設備の管理において、故障した機器の原因が落雷によるものかどうかを判断する情報として使用できます。
・雷発生による人の動きの可視化
外出時に落雷の被害を避ける方法として、建物や車の中への避難があります。過去の落雷情報と、人流データを組み合わせることで、人の動きへの影響が解析できるかもしれません。そのデータは、タクシーの配車予測に利用できる可能性があります。SNSの「雷」のワードと組み合わせると、より活用できるかもしれません。
・新しい施設や工場の建設候補地を探す
雷の影響を受けて中止になりやすいスポーツの施設や雷被害があると大きな損害となる工場など、新しい施設の建築候補地を探す際、過去の雷観測結果が参考になるかもしれません。
・ペットと住む場所を探す
犬や猫にとって雷はストレスの原因です。今後リモートワークが拡がり、どこに住んでいても仕事ができるとなった場合、ペットのことを考えて雷が少ない地域に住むというのもありかもしれません。
以上、4つの活用事例を考えてみましたが、まだまだアイデア次第で雷観測データは使い道があると思います。ぜひ活用方法を考えてみてください。
5.まとめ
本記事では雷の原理から種類、観測方法と雷の基本について解説し、Tellusにおける雷観測データの確認方法を紹介しました。
雷の観測データを見たのは初めてという方も多いのではないでしょうか。ぜひ実際に雷データを触り、活用方法を考えてみてください。
★Tellusの登録はこちらから
「Tellus SPACE xData Fes. -Online Weeks 2020- 」に島津ビジネスシステムズが出演します。
2020年7月14日から9月1日に開催の「Tellus SPACE xData Fes. -Online Weeks 2020- 」では、島津ビジネスシステムズが登壇するイベントがあります。
イベントはYouTubeで動画として公開しています。
参照サイト
■雷の物理とその観測技術、大阪大学牛尾教授 - 日本物理学会