JAXA「はやぶさ2」・中国「嫦娥5号」がサンプルリターンに成功【週刊宇宙ビジネスニュース 2020/12/14〜12/20】
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今週は、天体の表面の土壌を地球に持ち帰る“サンプルリターン”についてのニュースが話題となりました。小惑星探査機「はやぶさ2」、月面探査機嫦娥5号、火星サンプルリターン計画、それぞれのプロジェクトについて、説明します。
「はやぶさ2」 ガスとサンプルがリュウグウ由来であることが確認される
12月15日、JAXAは小惑星探査機「はやぶさ2」のカプセルに含まれていたガスと、1回目のタッチダウンの際に採取したサンプルが、小惑星「リュウグウ」由来のものであると確認できたことを発表しました。
「はやぶさ2」は、12月5日に大気圏に再突入し、翌6日にオーストラリア・ウーメラ砂漠にて着陸したカプセルの回収に成功。その後、カプセルは日本・相模原へ輸送され、サンプルとガスの分析が進められていました。
「はやぶさ2」が向かったリュウグウは、C型に分類される、炭素を多く含み、地球の海や生命の起源を探る大きな手がかりになると考えられている小惑星です。そんなC型小惑星の貴重なサンプルを、採取目標であった0.1gを大きく超える約5.4g採取できていたことが確認されました。
さらに、世界初となる地球圏外から気体状態の物質のサンプルリターンも達成しています。揮発性のガスは天体が誕生する場所に豊富にあることが解明されています。サンプリングおよび初期分析担当の橘 省吾氏によると、「はやぶさ2」が採取したガスは、太陽系の初期のものに近いのではないかということです。
プロジェクトサイエンティストの名古屋大学の渡邉誠一郎教授によると、「はやぶさ2」のカプセルに気体が含まれていたことは、非常に良い状態で密閉されていたということを示しており、汚れていない状態のサンプルを手に入れることができたようです。
これまでも太陽系の小惑星や惑星は、隕石を解析することで調査されてきました。しかし隕石は、落下した際に地上のものと混ざってしまう可能性があり、隕石から有機物や水が検出されても、それが狙った小惑星や惑星由来のものであるということを証明することが難しいため、今回のサンプルリターンの成果はサイエンティストたちの待望の成果であるようです。
プロジェクトマネージャの津田雄一氏は記者会見で公開されたメッセージ動画の中で、「はやぶさ2は、サンプルリターンミッションを完全完遂できたことになる。夢にまで見た小惑星の砂が、地球外の天体のサンプルが、今私たちの手元にある。」と喜びを語っています。
JAXAはサンプルキャプチャー室の開封と分析作業を進める予定です。分析を進めていくなかで、どのような成果が出るのか世界中が注目しているのではないでしょうか。
米ソに続く快挙!中国 嫦娥5号が月のサンプルリターンに成功
日本が「はやぶさ2」の快挙に沸く中、12月17日、中国国家宇宙局(China National Space Administration 通称CNSA)は、無人月面探査機「嫦娥5号(Chang’e 5 )」が、月の土壌を採取し、地球へ持ち帰るサンプルリターンに成功したことを発表しました。
嫦娥5号は、11月24日に中国の文昌衛星発射センターから長征5号で打ち上げられました。そして、12月1日に月面への軟着陸に成功。その後、月面を搭載されていたドリルで最大2mの穴を堀り、ロボットアームを使ってサンプルを採取しました。
着陸地点などの詳細は、以下の記事で紹介しています。
月面からのサンプルリターンを目指す嫦娥5号が月面着陸に成功。【週刊宇宙ビジネスニュース 2020/11/30〜12/6】
天体のサンプルリターンの歴史は、NASAが1961年に打ち上げたアポロ11号を皮切りにスタートしました。1972年のアポロ17号までに合計380kgのサンプルを持ち帰っています。また、ソ連は1950年から1976年にかけて、無人月面探査プログラム「ルナ計画」を行い、探査機によるサンプルリターンに成功しました。
嫦娥5号の成功によって、中国は世界で3番目に月のサンプルリターンに成功した国となりました。2019年1月にも中国は、嫦娥4号を世界で初めて月の裏側への着陸に成功させ、世界へ宇宙開発技術の高さを誇示しました。
今後も、嫦娥5号のバックアップとして製造された嫦娥6号や後継機にあたる7号、8号の打ち上げを予定しています。さらに、月面基地の建設や有人探査なども計画していて、アルテミス計画を進める米国も緊張が走っているのではないでしょうか。
NASA・ESA 共同で火星サンプルリターンを実施へ
12月17日、NASAのジェット推進研究所は、火星のサンプルリターンが正式なプロジェクトとして採択されたことを発表しました。
同プロジェクトは、2020年7月に打ち上げられた火星探査機「パーサヴィアランス」が、火星表面の複数の場所でサンプルを採取し、容器に詰めたものを、ヨーロッパ宇宙機関(ESA)が開発するローバーが2026年に回収し、地球へ持ち帰るという壮大な計画です。サンプルが地球に到着するのは、2030年代初頭。成功すれば史上初の快挙となります。
中国の専門家は、「宇宙は海洋、月は東シナ海における尖閣諸島、火星は南シナ海のスカボロー礁に相当する」と例えているようです。宇宙探査は、生命の起源をめぐる科学・技術的ミッションだけではなく、資源採掘や政治的意味合いを兼ねているものもあります。
米国とロシア(ソ連)は、冷戦時代からそれぞれ探査を続けてきた火星と金星に引き続き注力していくのではないかと考えられます。これから宇宙に力を入れていこうとする国は、まずは地球からの距離が近く、比較的難易度が低い月探査を通じて技術の実証と向上を図ることが予想されますが、その後どの天体をどのような意図で探査するのか紐解いていく必要があるのではないでしょうか。
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参考
Chang'e 5's reentry capsule lands with moon samples
NASA Moves Forward With Campaign to Return Mars Samples to Earth