宙畑 Sorabatake

ビジネス事例

衛星データ活用事例別、ニーズを実現するために必要な衛星スペックと解析技術

衛星データの活用事例に興味があるのだけれど、この事例って実際にどの衛星データを使っているの? その疑問を解消するための情報を整理しました。

加工用トマトの営農支援を行う合弁会社を2022年7月に設立すると、カゴメ社とNEC社が発表しました。この営農システムは衛星データを用いており、宙畑でも取材をしています。

このニュースに限らず、近年、衛星データが様々な企業の新規事業として、業務改善のツールとして活用される事例が続々と発表されています。

これらのニュースを耳にして、「わが社でも衛星データを活用した事業や業務改善ができるのではないか」と考える企業も増えているようです。

その一方で、いざ衛星データを活用しようと思っても、衛星データを解析する以前に、どの衛星を利用すればよいのか、また、利用するのにいくらかかるのか?ということが分からないという課題を持つ企業も少なくないでしょう。

そこで、本記事では、衛星データを活用したい!と思った方が「○○をするためには△△という衛星データを使う」というイメージを持っていただけるよう、著名な衛星データ活用事例と、そのためにどれほどの衛星データが必要なのかを整理しました。


※スプレッドシートを直接閲覧したい方はこちらをご覧ください。

本記事が衛星データ活用事例のイメージをつかむ第一歩となれば幸いです。

(1)紹介する10の衛星データ活用事例紹介

まず、今回紹介する著名な活用事例は以下になります。

・農業

農作物の育成状況把握

【解決する課題と解決策】
・人手が足りない中での広域な圃場における、農作物の生育管理/栽培適時の把握
・栽培が難しい農作物について、引継ぎの時間がない中でのベテランの農家の技術継承
・限られた圃場における収穫量量の向上

【利用している主体】
・自社農園をもち、上述の課題を持つ企業
例)カゴメ、カルビー、伊藤園など

・各自治体における農作物の生育支援・研究をしている機関
例)青森県産業技術センターによる青天の霹靂)

【参考文献・記事】

耕作放棄地の発見

【解決する課題】
・高齢化が進む日本では、耕作放棄地が増え続けているが、把握するための見回りが大変
・耕作放棄地の放置が野生動物の行動圏拡大・雑草/害虫の発生につながり、農業への影響および国内自給率の低下や災害リスクが懸念される

【利用している主体】
・全国の市町村にある農業委員会

【参考文献・記事】

・金融/マーケティング/サプライチェーン管理

車の台数カウント(駐車場に停まっている車、車メーカーの生産工場の出荷を待つ車)

【解決する課題と解決策】
・景気判断や競合の売上進捗、各国の輸出入の実績は、基本的には公式な情報の発表を待つしかないが、発表の頻度は低く発表までに時間がかかる
 -自動車の台数から来客数のトレンド、行動パターン予測
 -国内外の港湾のモータープールに駐車している輸出入台数の観測
 -高潮などの被害を最小限に抑制(危険なエリアにある車の避難)、被災時の影響を迅
 速に把握
 -自動車業界全体やメーカーごとの稼働状況の把握
 -リサーチやインフラへの投資の効果を分析
・衛星画像から空港の駐車場に停車する車台数を確認して、飛行機燃料の相場の動きを予想する

【利用している主体】
・国際金融機関
・自動車メーカー

【参考文献】
・自動車の台数カウント|日本スペースイメージング株式会社
・衛星画像からAIで駐車台数を推計、都市の変化も解析~パスコが変自動抽出技術を確立
・「衛星データ」活用で新しいビジネスが生まれる! 衛星画像のAI分析で、こんなことまで分かる!

【参考記事】

港のコンテナカウント

【解決する課題と解決策】
・自社他社の貿易動向(貯蔵状況など)を把握したい
・港湾監視戦略:世界中の港で発生する可能性のある強盗、武器や化学物質の密輸、人身売買などの違法行為のリスクを低減したい

【利用している主体】
・流通業者
・金融業者
・保険業者

【参考文献】
・技術のうろこ DATAFLUCT discovery. Vol.01 ー地球を検索するー
・港活動の監視

船のカウント

【解決する課題と解決策】
・船舶の運航管理(港湾の混雑率監視)・物流管理の効率化
・海難事故対策、遭難船の特定
・「海洋セキュリティ」密輸、密航、密漁、海賊対策
・「EEZ監視」無人離島の要注意船・外国船の監視、不審船の検出など情報収集

【利用している主体】
・救命救助支援、保険会社
・政府機関(海上保安庁)
・海上輸送事業者

【参考文献】
・世界初!衛星画像による高頻度船舶検出サービスの提供開始~海洋監視や海洋物流に貢献~
・「衛星VDESの国内導入に向けた環境整備」(我国の取組方策の検討)
・ICEYE Dark Vessel Detection Now Globally Available for Government Organizations

【参考記事】

飛行機のカウント

【解決する課題と解決策】
・衛星画像から空港に停泊している飛行機の数を把握し、人の移動状況を把握する
・新型コロナウイルスの拡散を防ぎ、空港等の封鎖によって引き起こされた世界中の空港やその他の交通ハブの変化の定量化

【利用している主体】
・旅行会社や政府など、コロナの影響を定量的に把握したい主体
・銀行
例)カナダ銀行
・空港
例)LAX(ロサンゼルス国際空港)

【参考文献】
・シリコンバレー発、AIでアフター・コロナの世界も丸見え!?
・新型コロナウイルス感染症(COVID-19)流行前後の空港の変化について

駐車場の発見

【解決する課題と解決策】
・ドライバー数に対して駐車場が不足しているため、使われなくなった月極や個人の駐車場、空き地などの利活用し問題を解消する
・駐車場開拓における営業活動の効率化

【利用している主体】
・駐車場のシェアリングサービスを運営し、新たな駐車場を探す事業
・マンションのデベロッパーやコインパーキングの事業者など不動産業

【参考文献・記事】

・防災/インフラ管理/保険/報道

土砂崩れの被害状況把握

【解決する課題と解決策】
・災害時の被害状況の解析・調査(被災エリアの早期発見と人的パトロールのみによる見逃しが無くなる/災害箇所に行けない際の確認ができない/熟練の作業員による目視確認なので効率が悪いなど)

【利用している主体】
・通信・電力・メディア・金融・流通業界
・国、地方自治体の災害対策本部
・防災科学技術研究所
・救助活動に取り組む機関
例)自衛隊、消防署

【参考文献】
・衛星データによる土砂崩れ箇所検出
・衛星による変動モニタリングサービス
・複数の衛星とAI活用により、最短半日で広域災害の被災状況を把握可能~NTT東日本のインフラ復旧のための衛星画像ソリューション提供を開始~
・災害時の緊急撮影により復旧を支援する「災害緊急撮影プロジェクト」
・土砂崩れ検知サービス/浸水検知サービス

家の被害状況把握(主には水害や地震被害)

【解決する課題と解決策】
・災害が発生すると保険金支払いの状況把握のために通常作業を止める必要がある
・損害発生から被保険者への保険金支払いまでのリードタイム短縮化、見積もりの精緻化
・保険金未請求の被災契約者の検知
・新たなリスクヘッジニーズへの対応
・自治体のレジリエンス(回復力、復元力)の向上
・紛争地域など、足を運べない場所の被害状況の把握

【利用している主体】
・保険会社
例)東京海上日動火災保険株式会社、損保ジャパン
・地方自治体
・メディア

【参考文献】
・衛星画像と都市データを解析し、地震被害を高精度に把握するAI 山梨大が開発
・人工衛星画像を活用した水害時の保険金早期支払いに向けた取組

【参考記事】

地球規模での森林伐採の把握

【解決する課題と解決策】
・雨季の時期に横行しやすい違法伐採の監視(地上の合法の森林伐採の場所の把握が必須)、伐採業者の逮捕、汚職の防止
・伐採状況や森林被害・病害虫被害などの効率的な確認
・メガソーラーなどの開発による過剰伐採の抑制
・森林荒廃化の進行による土砂災害発生の予防

【利用している主体】
・森林保全を行う団体・行政機関
例)JICA
・市町村

【参考文献】
・世界中の森林伐採進行状況を衛星データで可視化できる『GRASP EARTH Forest』を開発
・衛星画像による効率的な砂防指定地等の監視
・人工知能で衛星画像を解析し、森林の状態を精緻に可視化するソリューション

【参考記事】

(2)利活用事例と必要な衛星データスペック、解析技術の対照表

今回、各事例に必要な衛星データのスペックについて以下の3項目を整理し、該当する地球観測衛星をまとめています。

衛星の基本について、詳しくは以下の記事でもまとめていますので、ぜひ興味を持った方はご覧ください。

・地上分解能、解像度

衛星画像から車の台数や船の数を数えられるのか?という観点で、そのスペックを判断する指標が地上分解能(もしくは、解像度ともいいます)です。商用(お金を出せば購入できる)の衛星データで最も空間分解能が良いのは31cm。これは、「画像中の1ピクセルが、地上における31cmに相当している」ことを表します。

上記は宙畑で作成した地上分解能別の、判別できるモノのイメージイラストです。

また、センサの原理上、解像度を上げようとすればするほど狭い範囲しか観測できず、逆に広い範囲を一度に撮影したい場合解像度は悪くなります。観測範囲の横幅のことを観測幅(もしくは刈り幅)と言います。

詳しく知りたい方は以下の記事をご覧ください。

・観測頻度、回帰日数

衛星データのスペックを考えるうえで知っておきたい次の指標は「観測頻度(もしくは回帰日数)」です。衛星が同じ地点に戻ってくる頻度のことを、回帰日数と言います。

衛星データは、リアルタイムで地上の状態を私たちに撮影して届けられるわけではありません。気象衛星のような静止軌道にある一部の衛星を除いては、地球の周りを1日に何周回もしており、同じ場所を撮影できる頻度は衛星によって決まっています。

そのため、衛星データの利活用アイデアによっては、解像度は条件に合致していても観測頻度が不足しており、社会実装まで至らないということも少なくありません。

そのような課題を補完するため、最近は様々な地球観測衛星を組み合わせたり、地球観測衛星を開発し、データを提供する企業が同じスペックの衛星を複数機打ち上げて、観測頻度を疑似的に上げる取り組みも増えています。

・観測周波数、波長帯

地上分解能と回帰日数と並び、衛星データのスペックを考えるうえで注目すべき指標が、光学衛星の観測周波数(波長帯)です。

光学衛星では、太陽光を反射した対象物の”色”が見えています。

そして、私たち人間が見えている可視光の領域の外側の色も捉えることができるセンサを積んでいる地球観測衛星が少なくありません。それぞれの地球観測衛星が観測できる色を表す指標が観測周波数(波長帯)です。

複数の波長で観測することのメリットは、物質を識別しやすいという点です。例えば、上図は植物や水、砂の波長ごとの反射の強さを示していますが、グラフの通り、反射の強さが物質ごとに異なるので、物質が識別できるということです。

農業で作物の成育度や、土壌の状態を把握したいというときに、使おうとしている衛星データがその状態を判別しやすい波長帯で観測しているかはとても重要なポイントです。

詳しく知りたい方は以下の記事をご覧ください。

そして、それぞれの事例について、必要な衛星データスペックなどを整理した早見表が以下です。


※スプレッドシートを直接閲覧したい方はこちらをご覧ください。

(3)早見表で紹介した衛星データの紹介

光学衛星

・World-View(MAXAR)


※ベイルート爆発事故の際に公開した衛星画像
credit:2020 Maxar Technologies

World-ViewはMAXAR社が保有/販売する、商用では最も高解像度(31cm〜)の衛星データです。撮影頻度は1日で、オフナディア角20度未満の場合は4、5日となります。

宙畑メモ
オフナディア角とは、衛星直下から撮影する方向に向けた角度のこと。

港のコンテナや車など、地上の小さい対象物をカウントする際に利用する衛星データの有力候補として上がります。

・SkySat(Planet Labs)

SkySatはPlanet社が保有/販売。商用衛星では世界初の動画撮影機能を有します。解像度は50cm。21機の衛星で撮影を行うため、広範囲の領域を1日に5-7回撮影可能です。

航空機など地上の大きい対象物や土地・駐車場のような広い領域を高頻度に観測する衛星データとして非常に有効ですが、波長帯が4バンドしかないため、農作物や土地の分類を細かく行うことは難しいです。

・ASNARO-1(NEC)

マレーシア スバン・ジャヤ周辺の画像 Credit : Original data provided by NEC

ASNARO-1はNEC/JSS(旧USEF)が開発した衛星で、解像度は白黒(パンクロマティック)で50cm、カラー画像(6バンドのマルチスペクトル)で2mと高解像度の衛星データです。回帰日数43日(サブサイクル5日)で、観測幅が10kmです。

また、705-745 nm (Red Edge)のバンドがあるため、植生の機微な分類が可能です。

・Dove(Planet Labs)

Planet Labs社が保有/販売する衛星。約200機の衛星を用いることで、地球のほどんどを1日複数回撮影可能となっています。4バンド(Blue/Green/Red/NIR)+Red-edge(2世代目のSuperDoveのみ)撮影が可能で、植生の把握も可能です。

・GRUS(AXELSPACE)

札幌周辺のGRUS画像 Credit : Axelspace

AXELSPACE社が保有/販売。解像度はパンクロマティックで2.5m、マルチスペクトルで5.0m、観測幅が57㎞(同じクラスの分解能を持つ衛星は10-30km程度)と広く、一度に広範囲を撮影できることが強みです。また、Red Edgeのバンドがあるため、植生の機微な分類が可能。5機運用のため、特定の場所に限れば、2日に1度の観測が行えます。

・Sentinel-2

阿蘇山の草原の画像 Credit : Europian Union contains modified Copernicus Sentinel data 2022 processed with EO Browser

Sentinel-2はESA/EUが開発/運用する衛星。商用利用は無料。回帰日数は5日で、地球上のほとんどを網羅可能です(欧州は3日に1回)。計13バンドの観測波長を有し、観測幅も約290kmと非常に大きい点が強み。一方で、解像度は10-60mと非常に粗い衛星データです。

・Landsat

静岡県御前崎市近郊の画像 Credit : USGS/NASA

USGS/NASAが開発/運用する衛星。商用利用は無料。計11バンドあり、熱赤外センサを有するため地表面温度が観測可能で、観測幅は185 Kmです。回帰日数はLandsat-8とLandsat-9を併用することで8日。解像度はパンクロマティックで10m、マルチスペクトルで30m(熱赤外は100m)であるため、細かい物体の検出には向いていません。

SAR衛星

・ASNARO-2(NEC)

武蔵小杉周辺の画像 Credit : Original data provided by NEC

NEC保有のX-band SAR衛星。Tellus Satellite Data Travelerから購入可。回帰日数は14日。スポットライトモード(分解能1m以下、観測幅10㎞四方)、ストリップマップモード(分解能2m以下、観測幅12㎞四方)、スキャンSARモード(分解能16m以下、観測幅50㎞四方)の3種の観測モードがあります。観測モードを使い分けることで、建築物や自動車などの細かいものから自然災害の監視や氷河観測などの広域観測まで幅広く使用可能です。

※観測幅や分解能はレベル1.5プロダクト/オフナディア角35°/ピクセルスペーシング代表値の場合

・小型SAR衛星(QPS/Synspective/ICEYE/Capella)

煙、どんよりした雲、大雪の中で撮影されたもの Credit : Original data provided by Capella Space

QPS/Synspective/ICEYE/Capellaが開発/運用するX-band SAR衛星コンステレーション。解像度は最高で0.5mで、各社衛星ごとに複数の撮影モードを有します。回帰日数はICEYEの場合は1機で18~22日。7機運用を考慮すると3日程度となります。

コンステレーションであるため、高い解像度でありながらも撮影頻度が高く(場所によっては回帰日数が1日)比較的どの場面でも汎用的に利用できます。

・Sentinel-1

ESA/EU開発のC-band SAR衛星。商用利用可。回帰日数は12日。データ配信のスピードが早く通常24時間以内に配信され、緊急時は1時間以内、優先エリアは3時間以内に配信されます。4種の観測モードがあり、解像度は5-20m、観測幅は20-400km。

小型SAR衛星のコンステレーションと比較すると、解像度は粗いものの観測幅が広いことが特徴です。そのため、同じタイミングで全体感を把握したいという時の利用に長けています。

・ALOS-2

名古屋港周辺の画像 Credit : Original data provided by NEC

JAXA保有のL-band SAR衛星。ALOS-2に搭載のPALSAR-2による画像はパスコより購入可(Tellusでも利用可)。回帰日数は14日でスポットライトモード(分解能1×3m、観測幅25㎞)、高分解能モード(分解能3-10m、観測幅50,70km)、広域観測モード(分解能100m以下、観測幅350㎞)の3種の観測モードがあります。

自動車・家屋などの小さいものは検知は難しいものの、大型の輸送機などは検知可能で、森林の伐採状況の発見や土砂崩れの検知などでも利用されている衛星データです。

(4)やりたいことに対して適切な衛星データの選定を

以上、衛星データの代表的な10の利活用事例とそれぞれの事例で利用する衛星データのスペックを紹介しました。

本記事は、読者の皆様のやりたいことから、衛星データの当てをつけていただけることを目的として作成しました。早見表に近い事例がないか確認いただき、その場合の衛星データはどのようなスペックである必要があるのか、ご確認頂ければと思います。

ただし、本記事で紹介した内容は、あくまで一般的な利活用事例に対しての衛星データスペックを整理した内容です。似た解析であっても、やりたいことの精度や課題に応じて、必要な衛星スペックは異なってきますのでご注意ください。

例えば、最初に高精度の衛星を購入して解析を行ったものの、その後、より解像度の低い衛星データでも求める解析レベルに達することが分かったという事例も存在します。皆様の実現したいことと衛星データを見比べながら、個別の調整をしてみてください。

本記事が、皆様の衛星データの活用促進の一助となれれば幸いです。また、他に衛星データを利活用する上で知りたい情報や整理してほしい内容がありましたらぜひ宙畑までお問い合わせ下さい。

協力:畠山湧