宙畑 Sorabatake

経営・資金調達

完全再利用型ロケット「Nova」開発のStoke Space Technology、累計1,500億円の資金調達に成功【宇宙ビジネスニュース】

Stoke Space Technologiesは2025年10月8日、シリーズDラウンドで5億1000万ドルの資金調達を発表。完全再利用型ロケット「Nova」の製造能力拡大を目指します。累計1,500億円の調達に至った同社の技術と戦略についてまとめています。

2025年10月8日、Stoke Space Technologiesが5億1000万ドルの大型資金調達を発表しました。これは9月23日に完了したシリーズDラウンドによるもので、さらに1億ドルの融資枠も確保しています。

Stoke Spaceは2019年に設立された、完全再利用型ロケット「Nova」を開発するアメリカの宇宙スタートアップです。同社はワシントン州ケントに本社を置き、元Blue Origin社員のアンディ・ラプサ氏とトム・フェルドマン氏によって創業されました。

同社の最大の特徴は、第1段だけでなく第2段も含めた「100%再利用可能」なロケットの開発を目指している点です。これにより、打ち上げコストの大幅削減と高頻度な打ち上げの実現を目標としています。

同社の開発は確実に進んでおり、2023年9月、同社は革新的な着陸技術を持つ試験機「Hopper2」の垂直離着陸試験に成功しました。この試験では第2段用の「アクティブ冷却式ヒートシールド」を実証し、業界の注目を集めました。

宙畑メモ:”アクティブ冷却式ヒートシールド”とは
Stoke Space独自の再突入時の熱防護システム。従来の使い捨て型の耐熱タイルとは異なり、内部に冷却材を循環させることで熱を管理する技術。これにより、繰り返し使用が可能となり、第2段の完全再利用を実現する鍵となる技術です。

宙畑メモ:”Hopper2″とは
Stoke Spaceが2023年9月に実施した第2段ロケットの垂直離着陸技術実証試験機の名称。短距離の「ホップ」飛行を行い、アクティブ冷却式ヒートシールドと着陸システムの動作を確認しました。この成功により、第2段の再利用技術の実現可能性を示しました。

Hopper2 Credit : Stoke Space Technology

また、2025年3月には米国宇宙軍の国家安全保障輸送プログラムに選定され、国家安全保障分野でも重要な役割を担う企業として認識されていました。

宙畑メモ:”国家安全保障輸送プログラム (National Security Space Launch)”とは
米国宇宙軍が管理している、国家安全保障関連の衛星打ち上げプログラム。認定を受けた企業のみが軍事衛星などの重要なペイロードを打ち上げることができます。現在、本プログラムで打ち上げを実施した企業はULAおよびSpaceXの2社です。

今回の調達により、同社の累計資金調達額は9億9000万ドル(約1,500億円)に。この資金は、Novaロケットの製造能力拡大とフロリダ州ケープカナベラル宇宙軍基地の第14発射施設の整備に充てられます。

完全再利用型ロケットの開発は、世界的に見ても実績がほとんどない挑戦的な領域です。現在、SpaceXのFalcon 9が第1段の再利用に成功していますが、これは「一部再利用」に留まっています。

完全再利用型ロケットには、SpaceXの次世代機Starshipや、Relativity SpaceのTerran Rなどがあります。日本の将来宇宙輸送システムも完全再利用型ロケットを開発中。各社が完全再利用の実現を目指していますが、まだ実用化には至っていません。

参考記事

完全再利用型ロケットが実現すれば、打ち上げコストが現在の数分の1以下に削減できる可能性があります。例えば、飛行機のように機体を繰り返し使用できれば、1回あたりの打ち上げコストは燃料費と整備費が主になると考えられます。また、初期開発を削減できるため、長期的に打ち上げ頻度の飛躍的な向上も実現可能になると期待されます。

資金面の観点で、シリーズDで5億1000万ドルという調達額は、宇宙産業でも際立って高額な事例です。

宇宙輸送系のスタートアップの資金調達事例を見ると、Firefly Aerospaceが2024年にシリーズDで1億7500万ドル、Rocket Labが2024年にIPO後の調達で3億5500万ドル、Astraが2021年のSPAC合併で5億ドルを調達しています。

一方、Relativity Spaceは2021年にシリーズEで6億5000万ドルという破格の調達を調達しました。Stoke Spaceの今回の調達はこれに次ぐ規模となります。

これらの事例において、膨大な資金が必要な理由は、完全再利用型ロケットの開発が極めて高コストだからです。例えば、第1段だけでなく第2段も含めた全機体の耐熱システム開発、繰り返し使用に耐える構造設計、着陸システムの開発など、従来の使い捨てロケットでは不要だった技術開発に莫大な投資が必要となります。

Stoke Spaceは、第1段・第2段両方のエンジンのミッションデューティサイクル試験を完了し、構造認証も進めています。

宙畑メモ:”ミッションデューティサイクル試験”とは
ロケットエンジンが実際のミッションで要求される動作サイクル(点火、燃焼、停止、再点火など)を模擬的に繰り返し行う試験。再利用型ロケットでは特に重要な評価項目となります。

宙畑メモ:”構造認証(Structural Qualifications)”とは
ロケットの機体構造が打ち上げ時の振動、加速度、空力荷重などの過酷な環境に耐えられることを証明する試験・認証プロセス。振動試験、静荷重試験、疲労試験などを実施し、特に再利用型ロケットでは繰り返し飛行に耐える構造強度の検証が重要となります。

同社の発射施設は2026年初頭の稼働開始を予定しており、中型打ち上げ市場での競争力強化を図っています。

今回の資金調達を主導したUS Innovative Technology Fundのトーマス・タル会長は次のようにコメントしています。

「現在、打ち上げ能力は、米国が宇宙経済で競争しリードする能力を決定づける要素です。Stoke Spaceの再利用型打ち上げシステムへの先駆的なアプローチは、我が国の安全保障と商業的な軌道へのアクセスを直接的に前進させます。同社の強靭で高頻度の打ち上げ運用というビジョンは、宇宙産業におけるリーダーシップを維持するために不可欠なイノベーションです」

また、Stoke Spaceの共同創業者兼CEOのアンディ・ラプサ氏は次のように述べています。

「この資金により、Novaの開発を完了し、初飛行まで実証する道筋ができました。Novaは打ち上げ能力における現実的なギャップを解消するために設計しました。国家安全保障輸送プログラムと、既に契約済みの多数の商業打ち上げ案件が、その必要性を裏付けています。投資家と政府パートナーからの新たな支援により、チームはNovaの独自機能を市場に投入することに集中し続けられます」

Stoke Spaceの大型資金調達は、完全再利用型ロケットという未踏の技術領域への挑戦を加速させるものです。世界的に見ても前例の少ない完全再利用の実現には膨大な開発資金が必要ですが、成功すれば打ち上げコストの大きな削減が期待できます。

打上げコスト削減により宇宙へのアクセスが劇的に改善されます。これにより、衛星コンステレーションの構築や宇宙旅行、さらには宇宙での製造業など、新たなビジネスモデルの実現が可能となります。その観点で引き続き同社の動向は要注目です。

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