「宇宙産業にはまだ隙間が多い」「みんなが逡巡している今がチャンス」 宇宙を日常へ。テレビ局とクリエイターが見出した 宇宙ビジネスの可能性
異業種から宇宙業界に参入した企業に焦点を当てた対談連載「Why Space Business~異業種企業が見出した宇宙業界の可能性~」、第2回に登場いただいたのはエンタメ業界です。異業種の視点だからこそ見出せる宇宙ビジネスの「勝機」と、宇宙を日常につなげるための視点について、たっぷりとお話を伺いました。
宇宙戦略基金の創設や民間企業による宇宙産業の活性化など、宇宙ビジネスを取り巻く環境は激変しています。その結果、異業種からの宇宙産業への参入も増えています。
しかし、異業種からの参入を検討する企業の多くは「マネタイズの難しさ」や「専門性の壁」に直面しているのが現状ではないでしょうか。
異業種から宇宙業界に参入した企業に焦点を当てた対談連載「Why Space Business~異業種企業が見出した宇宙業界の可能性~」の2回目では、エンタメ業界から、バスキュールの朴正義さんと、日本テレビの加藤友規さんのお二人に登場いただきます。
朴さんはインターネット黎明期である2000年にテクノロジーを駆使した新しい体験価値を創出するバスキュールを設立。近年では宇宙を活用したエンタメをつくりあげるなど、数々の成功を収めています。
加藤さんは、日本テレビでデジタルイノベーションを牽引し、革新的な番組連動企画を多く実現。2025年6月より同社の宇宙ビジネス事務局長に就任しています。
実は、お二人は宇宙業界に携わる前から、さまざまなプロジェクトで関わりがあったそう。また、後述する地球の「今」を滑らかな映像で映し出す次世代プラットフォーム「TerraCaster(テラキャスター)」を2026年6月1日にリリースし、さっそく日本テレビ系列の番組で活用されています。
インタビューでは、異業種の視点だからこそ見出せる宇宙ビジネスの「勝機」と、宇宙を日常につなげるための視点について、たっぷりとお話を伺いました。
加藤友規(日本テレビ放送網株式会社 宇宙ビジネス事務局長)さん
1975年愛知県生まれ。東京大学大学院工学系研究科修了後、2000年日本テレビ入社。メディア開発部門でデジタルイノベーションを牽引し、2014年にテクノロジー×エンタメの未来を探るプロジェクト「SENSORS」を立ち上げる。経営戦略局R&Dラボにて日テレ共創ラボをスタートし、2025年6月より宇宙ビジネス事務局長として宇宙活用や宇宙ビジネス開発を統括。
朴正義(バスキュール代表取締役)さん
1967年東京生まれ。立教大学卒業後、2000年にインタラクティブクリエイティブ企業・株式会社バスキュールを設立。テレビとデジタルを融合した体験設計を得意とし、カンヌライオンズ金賞をはじめ国内外で数百の受賞歴を持つ。近年ではJAXAとの共創でKIBO宇宙放送局を立ち上げ、大阪・関西万博シグネチャーパビリオンのディレクターも務めた。
(1)実は10年以上前から宇宙プロジェクトでつながっていた二人の出会い
――加藤さんと朴さんは今の宇宙事業をやる前から関係があったと伺いましたが、どのようなきっかけだったのでしょうか?
加藤「2012年頃ですね。当時、僕は日本テレビでメディアデザインセンターという新設の部署に異動したばかりだったんです。この部署ではスマートフォンの普及とSNSの拡大を背景にした『テレビでのインタラクティブ企画』を模索していたところで、朴さんが手がけるプロジェクトを目にしてお声がけしました」
2012年は、スマホが急速に普及した時期。世帯保有率は2012年末に約5割に達し、SNSも浸透。翌2014年にはLINE利用率が5割を超え、テレビの外で「メディア」が台頭していました。
では、加藤さんが「これだ」と目を付けた朴さんのプロジェクトは何だったのか。実は、宇宙に関わるプロジェクトでした。
それが、朴さんが2011年に手がけた「SPACE BALLOON PROJECT」です。気象観測用の気球(スペースバルーン)に「GALAXY S II」の実機を吊り下げ、高度約30,000m(成層圏)まで打ち上げ、上昇していく様子をビデオカメラで約90分間ライブ配信するというもの。現在では大学や企業がイベントとして実施する例も増えていますが、2011年当時は前例の少ない挑戦でした。
朴「GALAXY(銀河を意味する)だから宇宙へ行こうって、3分で考えた企画(笑)。短絡的な発想だったかもしれないけれど、高度3万メートル、マイナス50度の環境下でも画面が消えないようにマグロ倉庫で耐久テストしたり、太陽の直射を受けても携帯の画面が明確に見えるようなフィルムを考えたり。万が一、失敗しても、すぐに次のトライができるように複数のバルーンを用意したり……やっていることは宇宙開発と同じだったのかもしれません」
このプロジェクトでは、バルーンに吊るされたGalaxy端末が、成層圏に達して落ちるまでをリアルタイムのライブ映像で届けるところがまず新しいチャレンジでした。そして、その90分間を、坂本美雨さん、高木正勝さん、OPEN REEL ENSEMBLEら7人のミュージシャンによるオリジナル楽曲で演出しつつ、その映像を見ている視聴者のリアルタイムツイートを、Galaxyの端末に次々に表示。プロジェクトの打ち上げは米ネバダ州の砂漠で3日間にわたって行われ、延べ視聴者数は約38万人、関連ツイートも約8万件に達し、まさに”インタラクティブ”な企画となり、文化庁メディア芸術祭の大賞をはじめ、世界中のクリエイティブアワードを受賞しました。
加藤「これを見たときに、『なんて面白い企画なんだろう!』と。まさにテレビのインタラクティブ企画というべき内容でした。当時は宇宙がきっかけではなくて、むしろインタラクティブな体験づくりを一緒にやりたい、という思いが強かったですね」
(2)新しいものを形にし続けた「何が起きても形にする」宇宙スピリッツ
――実際にお二人が関わったプロジェクトで印象的なものはありますか?
朴「NHKと日本テレビの合同特番『60番勝負』ですね。これは2013年2月2日と3日に”テレビ放送開始60周年”を記念してつくった生放送番組です」
加藤「『テレビの未来』をテーマに60の企画を立てて、対決するという内容でした」
朴「本格的な視聴者参加番組で、データ放送とスマホを連動させて、テレビ画面に表示された選択肢に対して、視聴者はリモコンを使ってリアルタイム投票ができる。結果はすぐに番組へ反映されるという、地上放送と双方向通信を組み合わせた当時としては画期的な試みでした。ところが、生放送の2日目本番の数時間前に、私たちが利用を予定していた大手クラウドサービス側に予期せぬ世界的なシステムトラブルが発生し、全く作動しなくなってしまったんです」
視聴者が参加できなければ、番組は成り立ちません。朴さんのチームは、わずか数時間で、代替クラウドサービスに乗り換えられるよう作り直し、本番の運用をやり遂げたといいます。
朴「生放送中に秒間数十万リクエストを受け付けるシステムを、トラブルが発覚したその場で、1日で作りました。技術的に難しいことへのチャレンジ、どんな問題が起きようが何とかする瞬発力が鍛えられた1日でした。宇宙事業を推進する上で重要な『宇宙スピリッツ』が育まれたとも言えるかもしれないですね(笑)」
ちなみに、このトラブルが起きた生放送には、著名なタレントが多数出演しており、プレッシャーも大きかったといいます。そんな現場で朴さんが取ったのは、腹をくくって状況を引き受ける姿勢でした。
朴「トラブルが起こったとき、さてどうするか、と。日テレとNHKがタッグを組んで、テレビ60周年にふさわしい新技術をお披露目する、スケールの大きなライブ特番だったんですが、システムが復旧するまでは、タレントさんがスケッチブックに採点をする昭和な状況になってしまいました。もう開き直りました(笑)。『クラウド障害は天気と一緒で、自分たちの責任ではないけれど、60周年記念特番という貴重な機会を無駄にするわけにはいかないので、やれることはやる』って、とにかくやり切ることに舵を切ったんです」
そして、加藤さんにも『宇宙スピリッツ』が鍛えられた過去の挑戦的な企画がありました。
加藤「エベレスト(チョモランマ)山頂からの世界初の生中継を行ったのも当社です。また、現在は箱根駅伝にて全区間での中継が可能ですが、以前は往路の5区と復路の6区は山間部を走るために、中継ができませんでした。その課題を解決するために編み出したのが「ヘリスター方式」。山間部に入ったらヘリコプターをランナー上空に飛ばして、地上の中継車からヘリに向けて電波を飛ばし、ヘリから放送局へ電波を送る。日本テレビにはこうした新しいシステムをつくるフロンティアスピリッツがありますし、宇宙もその延長線上にあると考えています」
不確実性が高く、トラブルがつきものの宇宙ビジネスにおいて、「何が起きても、その場で開き直って形にする」という地上での修羅場経験こそが、最大の強みになる。そんな共通認識が、お二人の言葉の端々から伝わってきます。
――2015年には日本テレビとバスキュールの合弁会社が誕生しています。
朴「実は、バスキュールとしてひとつのテレビ番組を買い取って、Unityをテレビ画面に直結させるというインタラクティブ実験を行ったことがあります。私たちがスポンサーなので、どんなチャレンジであっても、また、たとえ失敗しても文句は言われません(笑)。実験したのはテレビ画面にゲーム開発で使用されるUnityの画面をそのまま写して、CMさえもリアルタイムで変わるというもの。テレビ業界の常識からすれば掟破りでした」
「Unity」とは、ゲームや3DCG、リアルタイム映像制作などで広く使われている開発エンジンのこと。本来はパソコンやスマートフォンの画面で動くインタラクティブな映像を作るためのツールですが、朴さんはこれをテレビの放送画面にそのまま出力するという、当時としては前例のない使い方に挑戦したのです。
朴「独自のテレビとスマートフォンを連動させるシステムのM.I.E.S(ミース)の仕組みが評価されて、日テレとの合弁会社HAROiDの設立につながり、今のTVerの基盤となる技術になったんです」
「最初の一歩を踏み出した者が勝つ」という朴さんの信念は、まさにこうした実体験に裏打ちされたものだといえそうです。
(3)KIBO宇宙放送局の誕生、万博パビリオンの成功、そして新プロジェクト「TerraCaster」
――バスキュールでは2019年、JAXA・スカパーJSATとともに、ISSの日本実験棟「きぼう」を活用したKIBO宇宙放送局を開始し、宇宙開発に普段関わることのない方も注目したプロジェクトとなりました。
朴「実は、開局当時に思い描いていたことをすべて実現できたわけではありません。スカパーさんは数百キロ規模の機材を宇宙に持ち込むという、壮大な野望も持っていました。最終的には難しかったこともあったのですが、とにかく宇宙を目指して面白いことがしたいというマインドは一緒でしたし、民間の宇宙エンタメをかたちにしたいと、最初の打ち上げ花火は一緒に民間で盛り上げようということで、NASAにも一緒にプレゼンして実現したプロジェクトです」
この事業を発表した2019年と言えば、コロナ禍の直前というギリギリのタイミング。発表後すぐに新型コロナウイルスの感染拡大が始まり、社会全体が混乱する中での船出だったといいます。
朴「JAXAからも本当にこのタイミングでやるのかと問われ、悩んだのですが、ステイホームの今だからこそ、やるしかないなという思いに至りました。。誰もが家から出られない今、みんなで宇宙から見る地球1周90分の旅をともに楽しもう、と。
菅田将暉さん、中村倫也さんといったトップ俳優のふたりもこのプロジェクトの意義に共感いただいて、出演いただけました。もちろん、スカパーさんものってくれて、宇宙専業ではない会社が始めた宇宙エンタメプロジェクトが、最初から想像以上のスケールで実現することになりました。」
このプロジェクトはJAXA J-SPARC(宇宙イノベーションパートナーシップ)の正式案件として実施され、番組「KIBO宇宙放送局開局特番〜WE ARE KIBO CREW〜」は初の双方向ライブ配信として成功を収めました。
タイミングひとつで成否が分かれるのが、新規事業の怖さであり面白さ。お二人の話からは、綿密な計画だけでなく、目の前に来たチャンスを逃さない「フロンティアスピリッツ」の重要性がにじみ出ていました。
そして直近では、大阪・関西万博のシグネチャーパビリオン「いのちめぐる冒険」の展示において、バスキュールは全体的なクリエイティブディレクションや『超時空シアター』といった複数の展示の開発を担当。パビリオンで大きな注目を集めました。
また、気象衛星「ひまわり」から10分ごとに届く膨大な観測データをAI技術で自動フレーム補間し、「1時間前の地球の息吹」を巨大ディスプレイで見ることができるシステムを独自に構築し、「今日の地球」の展示を成功させたのです。
朴「このシステムが誕生したきっかけは、『気象衛星のデータを繋げてみました』とうちのスタッフが自発的にプロトタイプを作ってきたこと。平行して、ちょうど万博のメインパビリオンの相談が来ていたので、『これは万博でデカくやっちゃえるかも』って(笑)。
そして、2026年6月1日、日本テレビとバスキュールが共同で新プロジェクト「テラキャスター(TerraCaster)」を本格始動しました。宇宙から見た地球の姿を、リアルタイムに日常へ届ける試みです。
朴「万博での地球の展示はボクたちには大きな経験でしたが、それ以外の自然の映像と一緒に流していたので、意図が伝わりにくいところがありました。誰もが自分たちの暮らす「地球の姿」を毎日確認できる世の中にしたいと思ったんです。。宇宙から地球を見る視点を日常化するためには、テレビの力を借りたい。日テレさんと一緒なら、できるかもと」
加藤「テレビでは、地球の静止画を流すことは多くありますが、地球の映像を流すことはほとんどありません。今後、日本でのオンエア実績を積み、徐々にアジアや世界各国のメディアへ届ける仕掛けも考えて行きたいと思います」
天気予報でTerraCasterが流れれば、より多くの情報や気づきを視聴者の方に届けることができるでしょう。また、TerraCasterの可能性はテレビでの展開にとどまりません。
朴「理想は、子供たちが学校のタブレットを開いた時、毎日『これが今の地球だよ』と見られる未来です。ここに僕らは住んでる、ここにいるんだっていう思いになれたら素敵だな、と。こうしたテクノロジーが日常になれば、僕たちの星を大切にするマインドも変わるはずだと思っています」
TerraCasterのプロジェクトが発表されて間もなく、環境保全への関心を高め、世界中で具体的な行動を起こすために国連が定めた国際的な記念日「世界環境デー」に合わせてTerraCasterが日本各地の屋外モニターで放映されました。TerraCasterを見ていると日本で積乱雲がもくもくと出現している迫力のある映像や、オーストラリアは雲が少なく、晴天率が高いことも分かります。
以下は虎ノ門ヒルズ駅近くのモニターで放映されたTerraCasterです。赤道付近の地球の映像が切り取られており、東から西に朝が訪れていることが一目で分かります。
バスキュールと日本テレビの本プロジェクトによって、これまでの知見を活かして、専門機関だけが扱っていたデータを、子どもの日常の視点まで広げ、「宇宙データの民主化」が加速することが期待されます。
(4)日本テレビが取り組む宇宙ビジネス×テレビの可能性
――2023年に立ち上がった日本テレビの宇宙ビジネス事務局ですが、現在進めているプロジェクトと今後の展望を教えてください。
加藤「現在進めているのは『報道における衛星画像の活用』への注力です。戦争や紛争、災害など、取材が困難な現場の状況を衛星データから解析し、報道という本業の価値を高めていく取り組みです。東京大学の渡邉研究室との共同研究(衛星データ報道)もその一環で、すでに放送に活用できる成果も生まれ始めています」
加藤「その後、中長期的には『宇宙IP(宇宙を題材にした独自コンテンツ)・エンタメビジネス』へとシフトしていくのがロードマップです。宇宙ビジネスに『1年で大儲け』なんて夢物語はありません。だからこそ、東大の渡邉先生との共同研究のような短期で利用価値を高める本業利用と、中長期のロードマップを両輪で回すパートナーシップが不可欠です」
また、日本テレビは、宇宙特化型ファンド「フロンティア・イノベーションズ(Frontier Innovations)」への出資も行っています。フロンティア・イノベーションズは、宇宙をはじめとするディープテック領域のスタートアップに投資する独立系ベンチャーキャピタル。有望な宇宙関連スタートアップや技術への投資を通じて、出資者にも最新の技術動向や提携候補先の情報をもたらすというもの。
加藤「技術の目利きに不慣れな企業にとっては、ファンドへの出資が『情報収集と提携先選定の窓口』としても機能します。このファンドへの出資を通じて、技術の「目利き力」や信頼できるパートナー候補との接点を補いながら、ステップバイステップでの成長ができると考えています」
また、宇宙関連の知識を深めるための取り組みとして、加藤さんは衛星データ利用に関する検定試験「サテライトデータビジネス検定」を受験し、合格したとのこと。
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加藤「何かをやりたいと思ったときに、『誰に何を相談すればいいのか』の地図を持っていることは、ビジネスを進めるうえでは大切です」
(5)特別すぎるビジネスは大したビジネスじゃない。宇宙業界の「ここがもったいない」
――報道・エンタメ業界から宇宙産業に参入してみて、壁や課題を感じることはありますか?
朴「ひとつは、宇宙が特別という意識が強すぎるように思います。『ネット産業』とはもはや誰もいわないように、「特別なもの」と考えられている間は大きなビジネスにはなりづらい。日常にならないとマーケットは大きくならないのだと思います。
きっとまだ、お金の流れが多様でないところに原因があるのだと思いますが、宇宙業界は視野が狭いというか、閉塞感を感じるところはあります。そうした意味でも、一般の人も触れられる宇宙ビジネスは大事なんだろうなと感じています。GPSや気象衛星のように、誰もが当たり前にアクセスできる、次の何かが生まれるといいですね。」
加藤「過去に東京・日本橋で『月面体験ができる』という宇宙関連イベントを開催したんです。
しかし、想定していたほど関心を集めることはできませんでした。一般の方は宇宙そのものには、まだまだ関心が薄いという印象を受けました。
では、関心を持ってもらうにはどうしたらいいんだろうと考えたときに、自分自身と宇宙をどうリンクさせるのかが大事なのでは考えています。研究者の方は『この技術はすごい』と言いがちですが、一般の人は『自分の生活にどう役立つか』という視点で伝えた方が刺さります。そこを繋ぐのが僕たちの役割だと思っています」
朴「また、日本は失敗を避けるために、時間をかけすぎてしまう傾向があります。スペースXがその有効性を証明していますが、ロケットの試作機を多数同時に製造し、打ち上げ実験での失敗を前提に、そこから得られたデータをもとに高速で改良を重ねていく。とにかく数多く試して、早く失敗し、早く学ぶことが求められていると思うんです。
AIも本格的にやってきましたし、満を持して失敗してしまうというのは最も避けなければいけない状況だと思うのですが、そこまで振り切るのはまだちょっと難しそうですね。。
でも一方で、そのような状況だからこそ、日本の宇宙産業には隙間(入り込む余地)がたくさんある。つまり、僕らみたいな素人には大チャンスなんです!」
(6)「なんとなく面白そう」で入っていい――宇宙に足りないのは「統合役」
――今後の目標は?
加藤「2023年、開局70周年の社内公募で『月面からの生放送』を目指そうと提案して、これをきっかけに宇宙ビジネス事務局が設立されました。やはりその夢はいつか実現したいですね。人類が再び月を目指す時代に向けて、過去のフロンティア精神でかたちにしてきた技術がいまも生きているように、10年後、20年後に今後つくられる技術と、そこからうみだされるコンテンツを創出していくことを目指しています」
朴「マシンスペックとAIの進化は宇宙からのデータの処理にかかるタイムラグを確実になくしていきます。常時、宇宙データと接続される状態が日常になったとき、人気ゲーム「ポケモンGO」のように、地球を取り巻く気象状態や環境の変化と一人ひとりのスマートフォンが連動するような、まったく新しいエンタメが世界を包んでいくかもしれないと考えています」
――最後に、宇宙業界を目指す若い世代や、異業種からの参入を検討する企業に向けてメッセージをお願いします。
朴「なんとなく面白そうだな、くらいで入っちゃっていいと思います。敷居が高いと感じている方もいると思いますが、AIが確実にその敷居を下げてくれるのと、逆に、無重力や実宇宙の領域には、AIだけでは難しい領域が眠っていて、試す価値のあることがたくさんあると思います。何よりも、未来に向けて、宇宙が右肩上がりな領域であるのは間違いないです。」
加藤「日本テレビも宇宙のソリューションを持っているわけではないので、いろんな人の力を借りながら作っていくしかありません。だからこそ、他の企業や大学などともコラボレーションすることで、新しい可能性が生まれる。宇宙にはそういう余白がある領域なので、気楽なチャレンジがどんどん増えていくといいなと思います」
また、お二人は一様に「気楽なエントリー」をすすめます。その根拠のひとつとして、宇宙業界では『インテグレーター(統合役)』が圧倒的に不足していることが挙げられます。
個々の技術は優秀な専門家が揃っていても、それらを組み合わせてビジネスとして形にする人材は少ない。「宇宙は専門家だけの聖域ではなく、バラバラの技術や知見を『インテグレート(統合)』して目的の形にする役割こそが、圧倒的に不足している」とのこと。そして、異業種からの視点だからこそ見えてくる、宇宙ビジネスの「隙間」。お二人の言葉からは、専門性の壁の向こう側にこそ、まだ多くの人が気づいていない可能性が広がっていることが伝わってきました。
以上、エンタメ×宇宙に取り組むお二人のインタビューをお届けしました。朴さんが気球を打ち上げてから15年。加藤さんが世界の放送局でも類を見ない宇宙ビジネス事務局の事務局長に就任してから1年。共に「前例がない」を理由に立ち止まらず形にし続けてきた二人の歩みは、専門家でなくても、大きな組織でなくても、宇宙ビジネスに参入できる時代が来たことを体現していました。
(写真:萩原 昌晃)

