宙畑 Sorabatake

宇宙ビジネス

衛星開発のプロが衛星利用のプロに学ぶ研修に潜入!
オンラインならではのリモートセンシング講座とは

RESTECがアクセルスペース社の依頼により開催した「リモートセンシング基礎講座」に潜入!両社の担当者を伺いました。

リモート・センシング技術センターがアクセルスペース社の依頼により開催した「リモートセンシング基礎講座」に、私・ライターの井上が潜入! 講座の様子を振り返りながら、2社が考える衛星データのこれからを伺いました。

話を伺った方々

株式会社アクセルスペース 
超小型衛星の設計開発や衛星データを活用したソリューション提案などを行っている東大発の宇宙ベンチャー企業。衛星を数十機打ち上げて構築する地球観測網「Axel Globe」は完成すると、地球の陸地の約半分を1日に1回撮影できる。

後藤さん
今回の研修講座の企画者。普段は、国内向けの営業を担当している。

一般財団法人リモート・センシング技術センター
設立以来35年以上にわたり、リモートセンシングに関する研究開発や普及啓発活動を行っている。

楮本さん(右)
社会に広くリモートセンシング技術を普及させることを目的に、国内外向け研修の運営やそのプロモーションを担当している。

向井田さん(左)
ソリューション第二部部長を務める、衛星データのプロフェッショナル。

対面講座よりも近い!オンラインでの開催が理解度の向上を後押し

2020年5月下旬、アクセルスペース社(以下、アクセル)の依頼を受けて、リモートセンシングに関する研究開発を行う一般社団法人リモート・センシング技術センター(以下、RESTEC)が2日間にわたるオンライン形式で研修を開講しました。

オンライン講義の様子 Credit : 一般社団法人リモート・センシング技術センター

1日目は、リモートセンシングとは何かといった基礎的な内容に始まり、どのように地上にデータをダウンロードして、処理していくのかといった講座が行われました。2日目は、衛星データに携わるエンジニア向けに、衛星写真がデータとして利用できるようになるまでに必要な技術を具体的に学んだり、実際に手を動かすハンズオンの時間が設けられていたりと、より専門的で実用的な内容の講座となっていました。

Credit : 2020 RESTEC All Rights Reserved

──今回の研修を開催された経緯をお聞かせください。

アクセル 後藤:実は今回のように、リモートセンシングに関する体系的な研修を開催したのは初めてでした。2008年に創業したアクセルスペースは、衛星の設計、製造、運用に携わるエンジニアに加え、衛星データに携わるエンジニア、営業やサービス開発、経営企画も参加し、それぞれのスキルを持った社員が増えてきています。リモートセンシング以外のスキルを持ったメンバーが増える中で、「これは何だろう」という話になることがあったんです。衛星の画像を分析したり、解析したりするうえで、どのような技術が使われているのか知る機会として、RESTECに研修を依頼しました。

──研修をRESTECに依頼された決め手は何だったのでしょうか。

アクセル 後藤:まず、体系立てた研修を提供しているところは非常に少ないです。私自身は、営業として展示会や学会に参加し、いろいろな方の話を聞く中で「こんなことができるんだ」「このケースにはこの解析手法を使うのか」と一歩ずつ知識を身に付けてきましたが、リモートセンシングについて専門的に学んだことはありませんでした。

海外の研修講座も調べてみたのですが、大学の授業のような、アカデミックな内容のものが多く、ビジネス要素も含んでいるRESTECの講座はほかに比較できる候補がありませんでした。さらに、RESTECは、だいち(ALOS)をはじめとするJAXAの衛星の運用を担当されているので、テクニカルなバックグラウンドを持っていることも強みだと捉えていました。

──リモートセンシングを体系立てて学べる講座は世界でも貴重なのですね。RESTECは普段から講座を開講していると聞いていますが、オンラインで実施されたのは珍しい事例なのでしょうか。

RESTEC 楮本:オンライン講座について、2020年1月に初めてフランスのインフラ系ベンチャー企業に提供させていただきました。先方にもご満足していただいて手応えを感じたので、より幅広くオンライン講座を展開していきたいと思っていたところでした。

その下地としては2019年からは、遠方の方も弊財団の講座を受けられるようにeラーニングの提供も開始しており、初心者向けの基礎編から応用編まで現在は13科目(2020年6月に1科目追加し、詳細は本記事の文末で紹介しています)を展開しています。

──なるほど。確かにオンライン講座であれば、時差はありますが、世界のどこからでも受講することができますよね。ほかにオンラインならではの良い点はありましたか。

RESTEC 向井田:講師と受講者の間に地理的な距離感はありますが、オンライン講座の方が対面講座の場合よりもディスプレイと顔の絶対距離は近いですよね。さらに、ハンズオンになると、講師が操作する様子が自分のディスプレイに画面共有されて表示されます。スクリーンに写っているマウスのポインターを見ながら操作するよりも、理想的だったように思います。

ハンズオンでは講師が画面共有しながら操作を説明されました

RESTEC 楮本:受講者からの質問は、チャット機能でも受け付けました。奥ゆかしい日本人だと、大勢の前では手を挙げられないこともあるかと思いますが、やはりチャットになると聞きやすかったのか、多くの質問が上がりました。インタラクティブに講座ができたのは良かったですね。

──たしかに、講師との距離感も近くて、質問がしやすかったように思います。質疑応答では、衛星データの利活用事例についての質問が多く出ていましたね。

アクセル 後藤:そうですね。リモートセンシングを使っての事例はあまり公になっていないので、サービスやプロダクトを考えるうえで参考にしたいのだと思います。

お客様からいただくご要望は「こんなことができたらいいな」というアイデアレベルであることが多いです。どういうプロダクトを作れば良いのか探るために、ヒントを得たい気持ちが質問の背景にはあったのではないでしょうか。

──今回の研修は、プロにプロが教えるという、レベルの高い講義だったかと思います。RESTECから見て、難しかった点や苦労された点はありますか。

RESTEC 向井田:アクセルスペースから事前に、ディスカッションをしたいとリクエストをいただいていました。普段私たちが研修を行なっているお客様からはあまりないご要望だったので、事前にどのような準備をしていれば良いのだろうと変に身構えてしまったところもありました。後藤さんに受講者のレベル感を伺い、講義中も適宜ニーズを汲み取りながら対応させていただきました。

おっしゃる通り、両者ともプロではあるのですが、アクセルスペースは衛星の設計開発や運用のプロ、RESTECは衛星データを扱うプロ、とそれぞれ少し違います。使っている道具が違うので、プロ同士のコラボーレションといった感じで、やはり面白かったですね。

RESTEC 楮本:講師陣は、地上設備を作っていたり、田んぼで坪刈りをしていたりと最前線での実務を経験している技術者です。講義のあとは、まるで試合が終わったかのような雰囲気がありました(笑)。

Tellusを中心に据えたエコシステムで事業をスケール

──研修は両社が参画されているxData Allianceでの協力関係もあって実現したのではないかと思います。今後アライアンスを通して、取り組んでいきたいことはありますか。

宙畑メモ xData Alliance
Tellusの開発と利用促進を目的に組成されたパートナーシップ。宇宙関連企業に留まらず、さまざまな業種の企業が参画している。

アクセル 後藤:現時点では、私たちアクセルスペースが持っている衛星データだけで、わかることはそれほど多くはありません。各業界の方々の知見をお借りして、データ分析に反映させていく枠組みが構築していけると嬉しいですね。

RESTEC 向井田:xData Allianceの参画企業には、リモートセンシングにおけるアップストリームからダウンストリームまでが揃っていて、このような環境に身を置けるのは良いことです。単なる寄り合いではなく、エコシステムが回るようにしたいと思っています。

宙畑メモ
衛星データを活用したビジネスにおいて、アップストリーム(上流工程)とは衛星の設計や開発、製造を指し、ダウンストリーム(下流工程)は衛星データの取得や処理、そのデータを利活用して事業を行う工程を指します。

──アクセルスペースとRESTEC、それぞれの視点から見る衛星データ業界の動向をお聞かせください。

アクセル 後藤:衛星が小型化し、打ち上げ費用が下がると、従来と同じ資金でもより多くの衛星を打ち上げられます。同じ地点を通過する回数を増やし、より多くのデータを蓄積できるようになることが、小型衛星事業の強みです。衛星本体のコストも下げられる分、データの価格も下がってくるのではないでしょうか。

RESTEC 向井田:後藤さんのおっしゃる通りで、ユーザーにとっては、観測頻度が上がるのは大きなメリットがあるように思います。

毎日同じ仕様の画像が撮れるのはまさにイノベーション。私たちRESTECが衛星データを農業などに活用できるのは、高い頻度で画像が撮れて地表面の情報がわかることが前提です。1カ月に1度といった頻度しか撮影できない状況にはもう戻れないと言えるほど、ソリューションプロバイダーにとって高頻度の撮影は当たり前のものになりました。

一方で、大型衛星でないと見えないものもあります。例えば、精度の高い地図を作成する際など、数十センチのものを見る必要があるときは、大型衛星の方が適しています。大型衛星と小型衛星の両方が使えるようになったことがイノベーションなのだと私たちは考えています。

──では、アクセルスペースやRESTECの顧客になるユーザーの方々は、衛星でできることと自身のビジネスをどのように結びつけていらっしゃるのでしょうか。

アクセル 後藤::お客様に衛星データを説明させていただこうとすると「衛星から写真を撮るとGoogle Earthのような綺麗な画像がリアルタイムでWeb上で見えるんですよね!」と言われてしまうことがあります。

RESTEC 向井田:それは、私も経験があります! 解像度について理解していただくのは難しく、中には人の姿まで分かると思って空に向かって手を振りはじめてしまう人もいました(笑)。

アクセル 後藤:リアルタイム性や解像度の高さなど、リモートセンシングに関わるテクノロジーがどこまで進んでいるのかをお客さんの期待を保ちつつ理解していただくのは難しいところですよね。

衛星データだけでは、地上の様子はわからないことがほとんどです。例えばその場所に植えられているのがお米なのか小麦なのか、実際の情報を組み合わせて様子がわかるというプロセスを踏む必要があります。私の場合は、お客様が持っているデータをお伺いするところから始めて、そのデータと衛星データを組み合わせるとどのようなことができるかお話させていただくことが多いです。

RESTEC 向井田:お客様のニーズがわからないままで「毎日衛星で画像が撮れるようになりました」と営業に行っても、やはりポカンとされてしまいます。高頻度観測は、あくまでお客様が抱えている課題を解決する手段の一つ。大きな武器が加わり、私たちのお客様への回答の幅も広がりました。

さらに言うと、RESTECはアクセルスペースの顧客にもなります。「こういうスペックの衛星を何機打ち上げてください」といった要望をお伝えする機会は、実はあまり多くはなくて、実際に使われているのかどうかが重要だと感じています。

使いにくい部分があれば、私たちもフィードバックするので、その積み重ねでレベルアップしていきますし、事業もスケールアップしていくのではないでしょうか。

──ありがとうございました。

編集後記

研修では、ディスカッションが白熱し、横で見ていた別の講師も意見を述べに参加するシーンもありました。新たなソリューションやサービスが生まれる現場の一端を見たようで、大変興味深く思いました。

また、6月下旬にはRESTECのeラーニング講座に新たに「ドローンによる観測と地形解析」が加わったとのことです。衛星データを学ぶ一歩目として、受講を検討してみてはいかがでしょうか。