ロシアのウクライナ侵攻に関する宇宙ビジネスニュース
2022年2月24日ロシアがウクライナ侵攻を開始しました。ウクライナ侵攻は宇宙ビジネス業界でも大きなニュースとなっています。今回は、ウクライナ侵攻における宇宙ビジネスに関連するニュースについて宙畑編集部でまとめました。
2022年2月24日ロシアがウクライナ侵攻を開始しました。ウクライナ侵攻は宇宙ビジネス業界でも大きなニュースとなっています。
今回は、ウクライナ侵攻における宇宙ビジネスに関連するニュースについて宙畑編集部でまとめました。
ウクライナ侵攻の様子を捉える衛星データ
商用としては世界最高レベルの解像度30cmの人工衛星データを販売するMAXAR社は、自社の衛星画像で作成した3D映像を公開しています。
MAXAR社がWorldView-3衛星から作成した3D映像。キーウ(キエフ)に続く長いロシア軍の車列。
credit: 2022 Maxar Technologies
source: https://maxar.wistia.com/medias/v7wa1h4crb
動画では、キーウ(キエフ)へと続く道路に止まるロシア軍の車の列を捉えています。
また、高解像度SAR衛星のコンステレーションを構築しているCapella Spaceでは、侵攻開始する前の2月22日時点のロシアのウクライナとの国境付近のベルゴルド(Belgorod)という都市に、着々と車両が集められていたことを捉えていました。
The only reason we were looking at the traffic near Belgorod is because yesterday @capellaspace captured a SAR image of a newly arrived Russian unit with tanks and other vehicles. What struck us about this image is that the vehicles were lined up in columns, ready to move. pic.twitter.com/bZii0CZcaN
— Dr. Jeffrey Lewis (@ArmsControlWonk) February 24, 2022
ミドルベリー国際研究所ジェームズ・マーティン不拡散研究センター非常勤教授ジェフリー・ルイス氏のtwitter。2022年2月24日の午前11:10(日本時間)に投稿されています。
世界最大の小型衛星コンステレーションを有するPlanetも、自社のホームページで、ウクライナ侵攻に関する衛星画像を公開しています。
https://www.planet.com/gallery/?
また、地上で発信される電波から人々の活動を観測するHawkEye 360は、この4か月のウクライナ周辺の分析を行うと、この地域でGPS干渉が継続・拡大していることが確認されたと発表しました。
Shortly before the Russian invasion began, HawkEye 360 detected sources of GPS interference along the border between Ukraine and Belarus. Read more here: https://t.co/blBYTB8qeE#EW #RF #UkraineRussianWar
— HawkEye 360 (@hawkeye360) March 4, 2022
https://www.he360.com/hawkeye-360-signal-detection-reveals-gps-interference-in-ukraine/
状況把握のために各国の衛星データの提供を呼びかけ
今回のような状況下で広域に状況を把握する時に役に立つ衛星データの提供をウクライナのDX担当大臣が呼びかけています。
ウクライナ第一副首相兼DX担当大臣ミハイロ・フェドロフ(Mykhailo Fedorov)氏は、2022年3月1日に、世界の主要衛星データプロバイダ各社に衛星データ、特に曇っていることの多いウクライナで有効なSARデータの提供と、データ分析の協力、ロシア・ベラルーシ側への衛星データの供給停止を要請しました。
具体的に社名の上がっている企業は以下の通りです。
・Planet Labs(アメリカ、光学データ)
・MAXAR Technologies(アメリカ、光学データ)
・Airbus(ヨーロッパ、光学/SARデータ)
・SI Imaging Services(韓国、光学/SARデータ)
・Blacksky Global(アメリカ、光学データ)
・Iceye(フィンランド、SARデータ)
・SpaceView(?)
・Capella Space(アメリカ、SARデータ)
@eos_da and @maxpolyakov appeal to the global remote sensing firms and organizations to provide real-time SAR data to support the Armed Forces of Ukraine with actionable intelligence. pic.twitter.com/DzfNze3K3r
— Mykhailo Fedorov (@FedorovMykhailo) March 1, 2022
SPACENEWS社の取材によると、この中で韓国のSI Imaging ServicesのCEOは、少なくとも今のところウクライナと共有できるものは何もない、と回答しています。同社が運用する衛星は、韓国政府が優先的に使用している衛星であり、同社が撮影できる機会がないためと説明しているようです。
A statement from our CEO @payamban: pic.twitter.com/pZXLc0zdP5
— Capella Space (@capellaspace) March 2, 2022
また、Capella Space社のCEOは、同社がアメリカとウクライナ政府と直接やり取りをしているとした上で、アメリカ政府と調整をし、政府が認めた企業や政府団体であればデータの提供が行えるようになったと表明しました。一方で、政府の輸出法や規制の関係で制限されている個人や団体へは提供を行わないとも言及しています。
要請書に名前が挙がっているEOS Data Analytics(以下EOSDA)は、ウクライナに拠点を置く衛星画像解析技術のプロバイダーです。同社は特設ページで、
「Capella、Iceye、 QPS研究所、 Synspective、 Spacety、Airbus、COSMO SkyMed、Sar-Lupe、Umbra に SAR データの提供を、Planet、MAXAR、Airbus、SIIS、Space View、Blacksky などに光学データの提供を訴えている」
と各国の地球観測企業の名前を挙げています。
EOSDAは、データの提供には制約があることを理解していると説明した上で、ウクライナのデジタル変革省や政府関係者と調整する予定だと記載しています。
世界最大級の航空機「ムリーヤ」が消失
2月28日、ウクライナ政府の公式Twitterは、世界最大の貨物機であるアントノフAn-225「ムリーヤ」が首都キーウの郊外にあるホストーメリ空港で攻撃に巻き込まれ破壊されたことを発表しました。
ムリーヤは、旧ソ連時代に宇宙機を運搬する目的で開発された航空機で、これまでもロシアで打ち上げを行う衛星が数多く輸送されてきました。
The biggest plane in the world "Mriya" (The Dream) was destroyed by Russian occupants on an airfield near Kyiv. We will rebuild the plane. We will fulfill our dream of a strong, free, and democratic Ukraine. pic.twitter.com/Gy6DN8E1VR
— Ukraine / Україна (@Ukraine) February 27, 2022
衛星通信サービスStarlinkがウクライナへ通信サービスを無償提供
ウクライナの副首相兼DX大臣のミハイロ・フェドロフ(Mykhailo Fedorov)氏がStarlink衛星の衛星通信に必要な設備が到着したと発表したことをデジタル変革省が伝えています。
SpaceXによるStarlink衛星による通信サービスの提供は、フェドロフ氏がGoogleやNetflixなどのIT企業に支援を呼びかけるなか、イーロン・マスク氏にも支援を呼びかけたことがきっかけとなり実現しました。
フェドロフ氏は「イーロン・マスク氏と全てのパートナーに感謝します」とコメントをしています。
衛星通信は地上の状況に左右されずに利用できるため、インフラへの攻撃が続いているウクライナにおいては有益な通信手段です。
一方、Starlink衛星の地上設備の位置が特定されれば、攻撃の対象として狙われる恐れがあります。
これに対してイーロン・マスク氏は、アンテナをできるだけ人から離して設置し、必要な場合のみ設備に電源を入れることや目視でアンテナを発見されないようにカモフラージュすることなどを注意事項として挙げています。
ロシアのロケットで打ち上げを予定していたOneWebの計画が保留
今回の件は、ロシアのロケットを使って打ち上げを行う予定だった衛星プログラムにも影響を及ぼしています。
Roscosmos demands guarantees OneWeb satellites not to be used for military purposes: https://t.co/jyFt4WSbTa
❗️ Because of Britain's hostile stance against Russia, another condition for the March 5 launch is that the British government withdraws from OneWeb. https://t.co/SZdEASO5ii
— РОСКОСМОС (@roscosmos) March 2, 2022
2022年3月2日、ロシアの宇宙機関であるロスコスモスはtwitterで、ロシア製のロケットソユーズでバイコヌールから打ち上げ予定だった通信コンステレーションOneWebの衛星を打ち上げる条件として、①イギリス政府がOneWebの株をすべて売却し、②衛星を軍事目的で使用しないことを求めました。
これは、イギリス政府がロシアに科した経済制裁が理由とのことです。
Statement:
The Board of OneWeb has voted to suspend all launches from Baikonur. pic.twitter.com/p8l80FGxId
— OneWeb (@OneWeb) March 3, 2022
それに対し、OneWeb社は3月3日、取締役会で同社のバイコヌールからのすべての打上げを保留すると発表しました。
Arianspaceはパートナー企業と協力してバイコヌール宇宙基地にある物資の安全を確保することや各国が科した経済制裁を遵守すること、顧客と政府と連絡を取りながら代替策を策定していくことを表明しています。
OneWeb社以外にも、ロシアのロケット打ち上げを利用する予定の衛星プログラムは多いと考えられ、今後、衛星打ち上げスケジュールに大きな影響がでてきそうです。
今後のISSの運用への影響も
さらに、国際宇宙ステーション(ISS)など、各国の宇宙機関が協力して実施する宇宙開発プログラムにも影響を及ぼし始めています。
3月2日、ロスコスモスの長官であるドミトリー・ロゴジン(Dmitry Rogozin)氏はロシアの国営放送Russia Todayの中で、アメリカの経済制裁が継続される場合には、ISSでの協力を再考する必要があると述べています。同氏は、ISSの軌道航法や燃料供給をロシアが行っており、ロシア無しでISSを運用していくのは不可能であるとも述べています。
一方のアメリカNASAは、ISSでは引き続き変わらない協力を続けていくと、NASA長官のビルネルソン氏が3月1日のNASAアドバイザリー委員会の中で述べています。
NASAの運用担当の副長官であるキャシー・ルリーダーズ(Kathy Lueders)氏は、ロシア無しで他の西側諸国とISSを運用するプランが現時点ではないことも認識しており、より柔軟に対応できる方法を模索して来たと説明しています。
一例として、Northrop Grumman社のCygnus輸送船を使って、現在はロシアしか行っていない、ISSの再加速の試験を4月に実施する予定とのことです。
まとめ
本記事では、ロシアによるウクライナ侵攻と宇宙ビジネスの関わりについてご紹介してきました。宇宙ビジネスは、その出自から国際政治や戦争と切っても切れない関係にあります。今の宇宙ビジネスを把握するためには、正しい理解が必要です。
これまでの宇宙開発と国際政治の流れを理解するために、以下の書籍をご紹介します。
・宇宙開発と国際政治、鈴木一人、2016、岩波書店
https://www.iwanami.co.jp/book/b599228.html
この機会に、宇宙ビジネスの利用のされ方について、考えてみてはいかがでしょうか。
参考:
Перша партія станцій супутникового Інтернету StarLink прибула до України, - Михайло Федоров
Suspension of Soyuz launches operated by Arianespace & Starsem