アクセルスペース GRUS衛星が5機体制へ。目標売上100億円達成までの道のり
小型衛星「GRUS」を4機同時に打ち上げる計画を発表したアクセルスペース。衛星のお披露目会では、同社の経営陣が売上目標を明かしました。イベントのレポートと併せて、達成するために必要な画像の販売量を宙畑編集部で試算した結果を紹介します。
超小型衛星の製造やソリューション提供を手がけるアクセルスペース社は、2021年3月に小型衛星「GRUS」を4機同時に打ち上げる計画を発表しました。成功すれば、現在は2018年に打ち上げられた「GRUS-1A」だけで運用されている地球観測サービス「AxelGlobe(アクセルグローブ)」は5機のコンステレーションで運用されることになります。
11月26日に報道関係者向けに開催された衛星のお披露目会では、同社の経営陣が売上目標を明かしました。イベントのレポートと併せて、達成するために必要な画像の販売量を宙畑編集部で試算した結果を紹介します。
DXやデジタルを活用した製造グループを新設。量産体制の構築へ
イベントの冒頭で、アクセルスペース 代表取締役CEOの中村 友哉氏が、これまでの取り組みを振り返りました。同社は東大発の宇宙スタートアップ企業として創業し、12年が立ちました。社員数は80名を超え、これまでに5機の衛星を打ち上げています。
最初に打ち上げた「WNISAT-1」とそのリカバリー機として2017年に打ち上げられた「WNISAT-1R」は、気象情報会社ウェザーニューズ向けに開発された、気象・海象観測衛星です。同衛星は、ウェザーニューズが北極海の航路のナビゲーション情報を提供するのに必要な海氷の分布をモニタリングなどに活用されています。
続いて、2014年に打ち上げられた「ほどよし1号」は、約60kgの超小型衛星です。従来の衛星の製造方法よりも簡略化され、極めて高い信頼性を担保する機能を有していなくとも、重要なミッションを滞りなくこなせることを実証しました。
そして、GRUSシリーズ初号機「GRUS-1A」は2018年12月に打ち上げられました。2019年3月にファーストライト(初画像)が撮影され、5月に地球観測サービス「AxelGlobe」のサービスが開始されました。AxelGlobeでは、指定した場所をGRUS衛星が撮影し、そのデータをブラウザ上でダウンロードすることができます。
また、設計、開発、運用を担当したJAXAの革新的衛星技術実証1号機「RAPIS-1」は、2019年1月に打ち上げられました。同機は大学や民間企業が開発したコンポーネントが搭載され、宇宙空間で問題なく動作するか実証するものでした。
これまでの経緯から、CEOの中村氏はアクセルスペースの強みは、「100kg級の衛星の開発実績」だと説明しています。
世界を見ると、先を行く米国の宇宙ベンチャーPlanet社の中心的な役割を担う衛星は5kgと非常に小さく、その分費用が安く抑えられるため、200機以上の衛星を打ち上げています。しかし、その小ささゆえに、画像を利用する視点では画像の品質に限界があるとCEOの中村氏は指摘します。
例えば農業で利用する場合、衛星データはただの絵ではなく、各ピクセルの値が物理的な意味を持ちますが、その値の精度が大事だということです。一方で、これまでの数トンクラスの衛星では開発期間も費用もかかり過ぎる。そのスイートスポットが100kgであるとCEOの中村氏は見ています。
AxelGlobeが5機体制となることで、会場の関心はやはり、サービスがどのように拡大していくのかに集まっていたのではないでしょうか。AxelGlobeはこれまで、2週間に1度の頻度で撮影が可能でしたが、5機体制となることで2日に1回の撮影が可能となります。
アクセルスペース社は今回初めて衛星の量産製造に取り組んだことになります。
同社はこれまで、宇宙機設計開発グループが衛星の設計、開発、テストまでを全て担当していました。今回、新たにDXやデジタル製造技術を活用して、今後の本格的量産製造を推進する「DMAG(デジタル製造推進グループ)」を新設し、製造工程を切り出したと言います。CTOを務める宮下 直己氏は、「製造の全工程のデータを取得したため、時間やコストがかかった部分を最適化していきたい」と語りました。
2008年の創業以来、融資を含め、約50億円にのぼる資金を調達して来たアクセルスペース社。イベントの質疑応答では、記者から“黒字化の見込み”について質問があがりました。
CEOの中村氏は「打ち上げから3カ月にあたる2021年6月頃に(GRUS衛星4機を加えた)サービスイン、半年以内(2021年9月まで)に単月で黒字化させることが目標」「月間の売上1億円超えは直近で実現したい目標であり、3年以内に年間売上3桁億円を実現したい」と明かしました。
目標売上100億円達成に必要なのは、年間6700万km2の画像販売
衛星ベンチャーにとって、年間売上100億円超えのハードルはどの程度高いものなのでしょうか。
一般的に衛星画像の価格は、解像度と画像の鮮度(新規で撮影されたものなのか、アーカイブ画像なのか)で変動します。各社の1km2あたりのアーカイブ画像の価格は、高解像度クラスは1,400〜2,000円、中解像度クラスは450〜1,000円、低解像度クラスは150〜530円となっています。
アクセルスペースのGRUS衛星の解像度は2.5mで、低解像度クラス。同社は、画像の価格設定は欧米勢の約10分の1に設定するとしていて、GRUS1号機が打ち上げられた2018年4月時点の1km2あたりの価格は150円と報道されていました。
アクセルスペースが2021年9月までに達成したいとしている月間売上1億円、3年以内の達成を目標としている年間売上100億円を、AxelGlobeのみで達成しようとした場合、単純計算すると、それぞれ1年間で販売しなければ行けない面積は以下の通りです。
(1)月間売上1億円⇒約800万km2/年
(2)年間売上100億円⇒約6,700万km2/年
今回、GRUS衛星が5機体制になることにより、2日に1回の撮影が可能となります。つまり、それぞれの面積を1年間で180回撮影することになるので、上記の面積を180で割ると、2日で撮影しなければいけない面積は以下の通りとなります。
(1)月間売上1億円⇒4.4万km2/2日
(2)年間売上100億円⇒37万km2/2日
よりイメージを具体化させるために、実際にAxelGlobeが利用されるのではないかと考えられる農業分野で考えてみましょう。
日本の総農地面積は4万km2です。
つまり、それぞれの面積を達成するために取らなければ行けないシェアは、
(1)月間売上1億円⇒日本の総農地の約110%
(2)年間売上100億円⇒日本の総農地の約930%
つまり、日本の農地だけでは満たされず、海外展開を視野に入れる必要が出てきます。
全農地面積約370万km2の米国の場合は、
(1)月間売上1億円⇒米国の総農地の約0.9%
(2)年間売上100億円⇒米国の総農地の約10%
を撮影しサービスを提供する必要があります。
すると、気になるのは、軌道上にあるGRUS衛星が撮影できる枚数のキャパシティではないでしょうか。
5機体制の場合⇒1機あたり1,340万km2/年 3.67万km2/1日
GRUS衛星の観測面積を60km×60kmとすると
1回で撮影可能な範囲 0.36万km2⇒1日あたり10枚=1.5周回に1枚撮影
また、アクセルスペースは今後量産体制を整えていくとの意向を示しているため、3年以内に追加の衛星を打ち上げるのではないかと考えられます。
10機体制の場合⇒1機あたり670万km2/年 1.84万km2/1日
1回で撮影可能な範囲 3.6万km2⇒1日あたり5枚=3周回に1枚撮影
画像の全てを、需要のある場所に設定し、かつ販売できるクオリティを保つのは、5機体制ではややハードルが高く、やはりコンステレーションを拡大していく必要があると言えます。
黒字化のポイントは、画像の価値向上とサービス幅の拡大
では、世界の地球観測サービスを提供している企業は、どうしているのでしょうか。すでに150機以上の衛星を打ち上げ、250億円を売上げていると推測されている、Planet Labsの例に考えてみます。
Planetが提供しているサービスは、顧客からのリクエストを受けて特定の場所を撮影する「Planet Tasking」のほかに、過去のアーカイブ画像を閲覧できる「Planet Explorer」などがあります。1度撮影した画像を、複数の顧客に提供することで、画像の価値を高めることに成功しています。
さらにPlanetは、画像の解析ツールも提供しています。画像に付加価値を持たせ、サービスの幅を広げていくこと、売上を拡大しているのではないでしょうか。
勝負の軸は、撮影量・価格
とはいえ、Planetとアクセルスペースでは、コンステレーションの規模が違い、一概に比較することはできません。
約400億円を調達し、150機以上の衛星を打ち上げているPlanet Labsは、広い地域を高頻度で撮影しており、競合他社との差別化のポイントは「撮影量」にあるのではないかと考えられます。
一方、50億円を調達し、約10機のコンステレーション構築を目指すアクセルスペースは、「価格」が鍵を握っているのではないかと考えられます。
Axcel Globeは現在、1エリア(30km四方)を月に2回撮影にサポートが含まれたサブスクリプションサービスを月額10万円で提供しています。1km2あたりの価格は56円で、低解像度クラスの衛星画像と比較するとおよそ3分の1の価格であるということは大きな強みになります。
反面、他のサービスと比較して撮影頻度が高くないため、雲がかかってしまった場合見たい場所が見られないというリスクがあります。このリスクを回避するために、サブスクリプションモデルを導入していると考えられます。
アクセルスペースが狙う「後発優位性」
機数や売上で先を行くPlanetに対し、アクセルスペースはどのように戦っていくのでしょうか。
会見の中でCEOの中村氏が話していたのは「機数の最適化」です。元々Axcel Globeでは50機の衛星コンステレーションを構築して、衛星の直下点をひたすら撮影していくことを考えられていたそうです。
しかし、先行する衛星コンステレーション企業を見ていると、海洋や砂漠など捨てている画像が多いことに気付いたとのこと。衛星機数を減らし、本当に利用される場所だけを集中して撮影することで、先行企業よりも少ない機数で、多くの「売れる衛星画像」を撮影することを目指しているのです。
衛星の機数はダイレクトに、画像の価格に影響すると考えられるので、先行企業と比較してアクセルスペースの価格はこの点でも有利に働くと考えられます。
2日に1回の撮影が可能となる5機体制以降の料金設定やAxcel Globeの機能拡充がどのようになっていくのか、アクセルスペースの今後の動向に注目していきたいと思います。
参考
2018.04.12 衛星画像 安く提供 アクセルスペース 欧米の10分の1農業利用など提案