宙畑 Sorabatake

ニュース

【保存版】2021年の宇宙ビジネスを振り返る10のトピック

2021年にあった宇宙ビジネスの話題の中でも宙畑がこれぞと思ったトピックを宇宙産業全体で5つ、国内で5つの合計10個ピックアップしました。

2021年も宇宙ビジネス産業では様々なニュースが飛び交いました。宙畑は2021年に宇宙ビジネスニュースを約200本公開しましたが、紹介できたのは世界全体の話題のほんの一部です。年を重ねるごとに、宇宙ビジネスの話題は増えているように思います。

本記事では、2021年にあった宇宙ビジネスの話題の中でも宙畑がこれぞと思ったトピックを宇宙産業全体で5つ、国内で5つの合計10個選び紹介しています。

2021年の宇宙ビジネスニュースの振り返りとして、ぜひお楽しみください。

■宇宙産業全体にまつわる2021年の5つのトピック

・Starlinkのユーザー数が15万人を突破

2020年11月にβ版のサービスを開始した衛星通信サービス「Starlink」は着々とユーザー数を増やしています。当初はアメリカとカナダに限定していたサービス地域も、6月には12ヶ国9万人、8月には20ヶ国14万人と数を伸ばし、2021年は15万人を突破しました。

【参考サイト】
https://www.spacex.com/launches/

事業化・収益化までに時間がかかることの多い宇宙ビジネスの中でも、低軌道衛星コンステレーション(衛星群)による通信サービスの提供はサービス開始までに数千機以上の衛星の打ち上げを必要とするため、これまで構想や計画した企業はあったものの破産するなど、ビジネスとして成立した例はありませんでした。

SpaceXは創業者でありビリオネアでもあるイーロン・マスク氏が巨額の資金を投じられたこと、かつ、SpaceXとして宇宙への輸送手段であるロケットも開発しており、人工衛星の打ち上げ費用が抑えられたことなどから、サービスがここまで広がったと考えられます。

日本では2021年9月にKDDIがStarlinkとの提携を発表、山間部や島しょ地域の基地局のバックホール回線に使用する計画とのことです。

・ロシアの衛星破壊実験……SSAの意識高まり、アストロスケールの実証実験成功

11月15日、ロシアが軍事衛星「Cosmos 1408」の破壊実験(ASAT)を実施しました。その結果、追尾できるだけで1,500個以上のスペースデブリが発生したと見られます。ISSに滞在していた宇宙飛行士は、一時的に帰還用カプセルに避難する事態となりました。

これに対して米国国務長官やNASAの長官、日本では外務省のほか、アストロスケールやALEなどデブリ関連企業が声明文を公開しています。

奇しくも、2021年6月にイギリスで開催された主要7カ国首脳会議(G7サミット)では宇宙環境保全に関する共同声明を発表。日本、米国、カナダ、フランス、ドイツ、イタリア、英国そして欧州連合(EU)の首脳が、安全および持続可能な宇宙利用の重要性を認識し、全ての国に対して、次世代のための宇宙環境の保全と、宇宙交通管理(Space Traffic Management)の実現に向けた協働の重要性を呼びかけていました。

2021年12月に改訂された宇宙基本計画工程表

日本政府としても、宇宙基本計画および工程表の中で、宇宙状況把握の重要性について触れ、内閣府や防衛省などで枠組みの整備が進められています。

残念ながら今回のロシアの行動は、国際的な宇宙環境保全の動きに反するものになってしまいました。2022年は各国が協調して歩みを進められるのかが問われています。

【参考サイト】
G7 nations commit to the safe and sustainable use of space – GOV.UK
令和元年度内外一体の 経済成長戦略構築にかかる国際経済調査事業 (宇宙状況把握データプラットフォーム形成に向けた各国動向調査

・SPAC上場企業が続々と決算を発表

2019年のVirgin Galacticの上場を皮切りに、2020年から注目を集めているSPAC(特別買収目的会社)を用いたベンチャー企業の上場。2021年もその熱は継続しており、SPACを用いて合計10社が、ニューヨーク証券取引所やNASDAQ市場への新規株式上場を果たしており、3社の新規株式上場が計画されています。

上場企業となることで、今年は多くの企業が決算を発表しており、今まで表に出てこなかった収益の数字を閲覧することが可能になりました。

一例として、小型地球観測衛星コンステレーション事業に取り組むPlanet(NYSE: PL)2021年3Qの決算報告書を取り上げてみます。こちらの資料を見ると、Planetの2021年の1~9月の収益が9406万ドル(約108億円)、純損失が9115万ドル(約105億円)。Planetの2021年10月31日時点での総資産が3億4966万ドル(約402億円)、総負債が3億1247万ドル(約359億円)であることがうかがえます。

Planetをはじめ、SPACを用いて上場を果たした多くの宇宙企業が多額の損失を計上していますが、SPACを用いた上場で獲得した資金を活用しながら黒字化を目指していくと期待されています。

2019年以降にSPACを活用した上場を発表した企業一覧

・垂直統合の機運がさらに高まる

垂直統合とは、上流から下流までのサプライチェーンやサービスを一社が統合してビジネスする事業モデルを指します。例えば、買収による垂直統合は、GoogleによるYouTube買収やFacebookによるInstagram買収など、GoogleやFacebookの下流側の事業領域を拡大することに繋がるケースを指します。当然買収せずとも、Amazonが自社サービスに利用するためにサーバを内製化することで誕生したAWSのように、自社開発による事業領域拡大も垂直統合の1つとして当てはまります。

この垂直統合の機運が宇宙分野でも高まっています。宇宙分野でもっとも有名なのはSpaceXでしょう。元々開発していたロケットに加えて、国際宇宙ステーションまでの宇宙輸送機を開発し、最近は通信衛星Starlinkの開発まで事業領域を拡大しています。

2021年は上場を果たした各社も垂直統合に乗り出すことで、サービス提供範囲の拡大を狙っています。

例えば、Rocket Labは宇宙機を開発するPlanetary Systems Corporationを買収し、宇宙用太陽電池を製造するSolAeroや、宇宙ソフトウェアを開発するASI Aerospaceを買収しようとしています。この垂直統合により、Rocket Labのこれまでの事業のみであればロケットを打ち上げる企業になり顧客が限られてきますが、宇宙機を開発する各社を買収したことで軌道上サービス提供も可能となるため、サービス提供領域が拡大します。

Planet Labsは上場を果たす前から企業買収を積極的に行っており、Googleから事業買収したSkySatや地球観測衛星群RapidEyeを保有していたBlackBridgeの買収などを行っていました。2021年は農業分野でソリューション提供を行っているVanderSatを買収することで、農業分野における顧客拡大を狙っています。

なお、垂直統合は何も宇宙側からのみ進むわけではありません。例えば気象分野でサービス提供を行っているTomorrow.io社は、自社でデータを利用するべく、衛星コンステレーションを打ち上げることを2020年に発表しています。

他にも日本での垂直統合の例としては、キヤノン電子、インターステラテクノロジズ(IST)、三井物産が挙げられるでしょう。

キヤノン電子は人工衛星のみならず、ロケットを開発するスペースワンの筆頭株主でもあることから、ロケットの打ち上げから衛星の開発までの領域をカバーしていると言えます。

ISTはロケットの開発から始まりましたが、2020年末に衛星を開発する事業会社であるOur starsを設立することでロケット開発から衛星開発・サービス提供までカバーしようとしています。

三井物産は、宇宙領域での物流(衛星の打ち上げ)を行うSpaceflight社を買収したことで、総合商社としても有しているチャネルを活かしながら宇宙分野での事業領域を拡大しようとしています。

現在は宇宙分野の企業側からの垂直統合の話題が目立ちますが、宇宙分野の技術が成熟することで、すでに宇宙以外で事業領域を有している企業側からの宇宙分野参入の話題が2022年以降は出てくるかもしれません。

垂直統合することでプラットフォーマーとしての地位を確立することにも繋がります。宇宙分野におけるGAFAになる企業はどこになるのか、楽しみですね。

・民間人による宇宙旅行が続々と成功

船内の様子 Credit : Blue Origin

今年なんと言っても世界をにぎわせたのは、民間人による宇宙旅行の実現でしょう。2021年7月にはBlue OriginとVirgin Galacticが、9月にはSpaceXが相次いで民間人の宇宙旅行を実現させました。

Blue Originは2021年に合計3回の民間宇宙飛行ミッションを行い、合計14人の民間人に宇宙旅行を提供、Virgin Galacticの25万ドルのチケットは事前予約が600人を越えるなど、2022年にはさらに宇宙旅行が加速していくものと思われます。

また、宇宙旅行といえば、前澤友作さんがISSに12日間プライベートで滞在したということも2021年の最後に大きく話題になりましたね。宇宙にいる間にYouTube登録者が100万人を達成し、動画を投稿するたびに何十万人という人が前澤さんのYouTube動画を見て感想を各種SNSで呟いていたのも印象的でした。

宇宙との距離感が縮まったと感じた人も多い1年だったのではないでしょうか。

■国内宇宙産業にまつわる2021年の5つのトピック

・JAXAが13年ぶりに宇宙飛行士の募集を開始

Credit : 井上榛香

JAXAは13年ぶりに、宇宙飛行士の募集を開始しました。今回の募集のポイントは、選ばれる宇宙飛行士は、日本人として初めて月面に降りたつことになる可能性があることと募集条件が大きく緩和されたことです。

これまで宇宙飛行士の選抜試験は不定期に実施されていましたが、今後は5年ごとに実施する計画が発表されていて、日本人宇宙飛行士の訓練や育成も大きく変わっていくのではないかと見られます。

一方、アルテミス計画を主導しているNASAは、2024年に予定していた月面着陸の予定を後ろ倒しにするなど、スケジュールの遅延が懸念されています。

そのような中、宇宙基本計画の工程表には、日本人宇宙飛行士による月面着陸の実現を2020年代後半に図ることが盛り込まれました。

宙畑メモ 宇宙基本計画工程表
宇宙基本法に基づき策定している、日本が宇宙分野においてどのような施策を実行していく予定か、計画を示す資料です。この計画は毎年見直され、年末に改定されます。

次世代の宇宙飛行士にどのような人が選ばれるのかとともに、宇宙飛行士を月面へ輸送する手段を持っていない日本がアルテミス計画においていかにプレゼンスを発揮していけるかに注目が集まるのではないでしょうか。

・宇宙資源法が成立。アメリカ、ルクセンブルク、UAEに続き、宇宙の資源開発が可能に

「宇宙資源の探査及び開発に関する事業活動の促進に関する法律(通称、宇宙資源法)」が6月に国会で成立し、12月に施行されました。これにより、日本は宇宙にある水や金属などの資源開発が許可された国となりました。

宇宙資源法が制定されるのは、アメリカとルクセンブルク、アラブ首長国連邦(UAE)に続く4カ国目。先に宇宙資源法を制定していた3カ国は、2020年に発表された月の資源開発に関する国際協定「アルテミス協定(Artemis Accords)」の署名国です。

アルテミス計画に積極的に参加していきたい日本としては、国際交渉の場を見据え、いち早く宇宙資源法を制定しておきたいという思惑があったのではないかと見られます。

・複数の地方自治体で宇宙産業支援の熱が高まる

日本における宇宙ビジネスが加速する中で、その場所として「地方自治体」が熱を帯びてきています。

11月8日、北海道・和歌山県・福岡県・大分県の知事が岸田首相と面会し、宇宙産業の推進に向けた支援を求める「地方からの『宇宙』への挑戦に関する要望・提言」を手渡しました。

要望・提言の中には、宇宙技術を利用した「地方課題」の解決を図ることや、衛星製造の拠点としての「地方」の活用、将来の有人飛行を見据えたスペースポート整備の推進などが含まれています。

宙畑メモ:スペースポート
スペースポートとは、ロケットが離発着できる場所のことです。国内では、北海道と和歌山県、大分県などで、スペースポートの整備が進められています。

10月には経済産業省が地域課題を解決する衛星データ活用案を募集しており、2022年は地方における衛星データの利用がさらに進むことが期待されます。

・日本の衛星ベンチャーアンカーテナンシー構想

宇宙ビジネスは事業の運営に巨額の費用を必要とするため、事業を継続するために政府がそのサービスの顧客として継続的な利用を保証する「アンカーテナンシー」という考え方があります。

たとえば、アメリカではアメリカ国家地理空間情報局(NGA)が継続してアメリカの衛星ベンチャーの衛星データを買い上げるなど、政府機関が積極的に宇宙ベンチャーのサービスを利用することで、自国の産業の促進を図っています。

2021年は、日本でも政府が宇宙ベンチャー支援のための政策を発表しました。小型衛星で撮影した衛星データをあらかじめ5年分程度買い取る契約を結ぶことで、事業化までを継続的に支援する計画です。特に、QPS研究所社とSynspective社が進める小型SAR衛星コンステレーションが念頭にあるようです。

【参考記事】
【独自】小型衛星網の構築へ、政府が開発支援…観測データを事前購入

令和4年度の概算要求には小型衛星コンステレーションの構築など宇宙開発利用の促進(内閣府)として58億円が計上されています。

【参考記事】
令和4年度予算概算要求における宇宙関係予算

アンカーテナンシーとは厳密には異なりますが、他にも経済産業省が「超小型衛星コンステレーション技術開発実証事業」として、アクセルスペース社とSynspective社、アークエッジ・スペース社を補助事業者に選定、同じく経済産業省が進める宇宙船外汎用作業ロボットアーム・ハンドの技術開発をアストロスケール社が受託するなど、政府が日本の宇宙ベンチャーを積極的に支援していく動きが見られています。

民間でのビジネスが活発になっているとはいえ、政府が重要なステークホルダーとなることが多い宇宙ビジネス。日本が世界の宇宙ビジネスでどのようなポジションをとるのか、政府戦略も求められています。

・天地人の宇宙ビッグデータ米、ウミトロンのうみとさち……宇宙ベンチャー企業発の付加価値商品の売れ行き好調!

最後に紹介するのは、衛星から撮影したデータや解析結果をそのまま販売するだけではなく、解析結果を用いて付加価値をつけた商品の販売事例が宇宙ベンチャーから産まれたというものです。

まず紹介するのは、衛星データを活用した水産養殖向け高解像度海洋データ サービス「UMITRON PULSE」を提供するウミトロン株式会社の「うみとさち」です。「うみとさち」では、同社のスマート給餌機「UMITRON CELL(ウミトロン セル)」を用いて育てられたシーフードを販売しており、2021年11月25日には、年間販売人数が累計100万人を超えたとのリリースも。今後もウミトロンのサービスが世界中に拡がり、世界中の美味しいシーフードが販売されることが期待されます。

そして、もう1社、衛星データを使った付加価値商品を販売開始したのが、JAXA発ベンチャー 株式会社天地人です。同社は、米卸で国内大手の株式会社神明とスマート水田サービス『paditch』を提供する農業ITベンチャー株式会社笑農和と協業し、 2021年5月から「宇宙ビッグデータ米」の栽培、2021年12月に販売を開始しました。

漁業のウミトロン、農業の天地人と産業は違えど両社共通しているのは、人手不足に課題を抱える業界に入り込み、テクノロジーを用いて作業の効率化を実現しただけではなく、ウミトロンは生育期間の短縮にも寄与し、天地人は美味しさ・収穫量ともに基準値以上を満たしたお米の収穫も実現しています。

生活に身近な産業に宇宙技術を浸透させる宇宙ベンチャーの好例が産まれた1年だったように思います。

以上、2021年の宇宙ビジネスを振り返る10のトピックでした。読者の皆さんの印象に残った話題は取り上げられていましたか? もし入ってなければ「#2021年の宇宙ビジネストピック」をつけてTwitterで呟いていただけますと幸いです。

それでは、2021年も宙畑をご愛読いただきありがとうございました。良い年をお迎えください。