日本の一次産業はホントに厳しいの? 高齢化先進国としての未来とテクノロジーの進歩
日本の農業、漁業、林業の現状をまとめ、高齢化という観点からテクノロジーによる解決が期待されることをまとめました。
宙畑では宇宙ビジネス(主に人工衛星利用)の可能性を探るため、様々な業界と宇宙の関係を紹介していく【宙畑業界研究】の連載を更新中。
まずは一次産業を、ということで「農業」「漁業」「林業」を調査したところ、世界的には一次産業の生産量が伸びている一方で、日本の一次産業は横ばい、または低迷している現実を実数で確認することができました。
その背景には日本の高齢化がひとつの要因としてあるようですが、今後も高齢化が加速する見立てであるということは、日本の一次産業は低迷する一方なのでしょうか。
高齢化先進国としての日本に輝ける可能性はあるのか。近年の一次産業xテクノロジー事例をまとめました。
(1)実数で見る日本と世界の一次産業の実態
まずは「農業」「漁業」「林業」について、「宙畑業界研究」で紹介した各国の生産量を比較したグラフを見てみましょう。
農業
日本での農業生産額は、グラフ内のコメントにもあるように、1980年代をピークに下降傾向。政府が政策を打つことでなんとか横ばいを保っている、という現状です。
日本の農業従事者は個人経営や零細企業が多く、保有する農地面積が狭い。また高齢化や農業離れが主な要因のようです。
一方で世界の農業生産額に目を向けてみると、グラフを見ると明らかなように、中国やインドといった国土の広い国が、国の政策として農業の推進を掲げて田畑を開墾し、農業従事者を増やして生産量を増やしています。
漁業
日本の漁業については、国連海洋法条約(水産資源の枯渇を防ぐための漁獲量制限)に批准して以降、養殖業が占める水揚げ量の割合は年々増加しているものの、割合としては1/3程度で全体としては右肩下がりです。
世界の漁業はというと、こちらもグラフを見ると明らかなように、中国が破竹の勢いで伸びています。なかでも養殖業による漁獲量が非常に多く、実に8割程度を占めていました。
日本が他国に比べて養殖が伸び悩んでいるのは、日本人は食べる魚の種類が多く、養殖技術が確立していない魚種について漁業に頼らざるを得ないから。
加えて、水揚げ量低下の原因として、産地価格の低迷による生産意欲の低下や、生産者の高齢化などが挙げられていました。
林業
日本の林業はなだらかに減少傾向です。要因のひとつには他の一次産業と同様の後継者不足により、育っている木材を手入れ・伐採する人手がなく、日本の森林の質が低下しています。
また、木材を運び出す動力が無かった頃、斜面の傾斜を利用して木材を運んでいた日本は、圃場が急斜面であることが多く、トラクターの導入といった林業の機械化を阻んでいるようです。
世界に目を向けると、各国の経済状況の影響を受けながらも、全体的にはおおむね増加傾向ということが分かります。
以上、各一次産業の現状を見てみると、日本はすべての産業において低迷していることが分かりました。
また、今回の調査にあたって各業界の低迷要因の項目を確認すると、どこかしこに「高齢化と後継者不足」という文字が躍っています。
日本の高齢化はどこまで深刻なのでしょうか。また、今後の予測は? 次の章で日本の高齢化を表す実数を紹介しています。
(2)日本の一次産業が低迷した要因すべてに絡む高齢化
まず、日本の高齢化が顕在化するまでの推移と今後の予測が以下のグラフになります。
グラフを見ると、1970年ごろから高齢化に拍車がかかり、2065年には2.6人に1人が65歳以上になると予測されていることが分かります。
今でさえ高齢化が一次産業低迷の要因と騒がれている状況ですが、日本の高齢化がもたらす影響は今後悪い方向に進むばかりなのでしょうか。
と、ここまで他人事のように筆を走らせている本記事の筆者も現在31歳。34年後には65歳となります(本記事公開時には29歳だったので、着々と近づいております……)。
65歳となったときに「日本は高齢化が進んであらゆる産業が低迷し、新しい技術にもついていけない遅れた国だ」という言われてしまうのはなんだか癪です。
「日本では高齢者が楽しそうに暮らし、国力も上がっている」と言われるような国となれる可能性はないのでしょうか。
たとえば、一次産業だけを考えるならば、高齢化によって生産効率が低下し、後継者不足が課題となっています。ならば人手を最小限に抑えながら生産効率を上げる方法を見つけるまでです。
宙畑が衛星データの可能性について紹介した100本以上の記事のなかでも、一次産業に寄与するだろう事例を次の章でご紹介します。
(3)一次産業xテクノロジー事例
本章では「人の作業を最小限に抑える」「生産効率を上げる」という点で期待されている一次産業xテクノロジーの事例をご紹介します。
位置情報や地球全体の情報を広域に取得できる衛星データが鍵となっているテクノロジーもあるので、「これは宇宙使ってるのかな?」と探してみてください。
農機・建機・船の自動運転
人が介在しないという点で最も知名度が高いテクノロジーは位置情報を利用した自動運転車でしょう。
日本でも準天頂衛星「みちびき」の誤差数センチの精度の位置情報を利用した農機がテスト運用されており、その利便性から一般化への期待が高まっています。上の動画は2018年12月販売開始が発表されたクボタの自動運転アシスト機能付「アグリロボコンバイン」です。
また、自動運転については林業・漁業でも期待の声が多く、先日林業の自動運転車についてはスウェーデンの企業が2020年の実用化を目指していると発表がありました。
今後の動向にもさらに期待が高まるテクノロジーです。
生育状況の監視・給餌の自動化
また、一次産業において人手がかかるのは種植え、収穫などの作業だけではありません。
農作物の生育状況、養殖であれば魚が育つまでの生育を促すための手入れにも、人が生産の場を訪れて生育状況を見る、餌や肥料を与えるなど手がかかるものです。
そこで、衛星やドローン、またいけすの中からリモートで生育状況を監視するサービスが続々と生まれています。
たとえば、青天の霹靂という青森のお米の生育に衛星データが活用されており、衛星データを使って稲の生育状況を管理し、担い手不足、高齢化の進行により一人当たりの管理面積が増える中で、どの田んぼから稲を刈り取ればよいかの優先順位をつける。また、肥料をどれくらい与えればよいかを衛星データから判断するなど、効率化が進み、お米の品質向上にもつながっている事例があります。
詳しくは「『青天の霹靂』に聞く!衛星データを用いた広大な稲作地帯の収穫時期予測」をご覧ください。
また、漁業の分野では養殖業において魚の監視から給餌の自動化の取り組みがすでに始まっています。
2018年6月21日に9.2億円の資金調達を発表した日本のベンチャー「umitron」では衛星データから海面温度やプランクトン分布を、いけす内に設置したカメラで魚の状態をモニタリングし、餌やりタイミングの最適化を行っています。
生育監視の自動化ができることで、これまでは生産者が何度も生産の場に訪れていた時間がなくなり、餌やりや肥料のタイミングが最適化されることで、生産者の労働時間短縮につながっています。
また、養殖漁業ではなく、農業・林業においても生育状況についての監視事例は徐々に蓄積されているので、詳しくは「宙畑業界研究」をご覧ください。
漁場の発見による漁獲量向上と燃費削減
次に紹介するのは沖合漁業の事例です。
衛星から取得できる気象データや海水温データと地上のデータを掛け合わせることで、獲りたい魚の居場所に目星をつけることができます。漁師はそのデータを見ながら、船を走らせればよいのです。
これにより漁獲量の向上と燃費の削減、海に出る時間の短縮が可能となります。実際にサービスで得られた効果がまとめられた調査報告もありました。たとえば燃費削減は平均13%の効果があったようです。
農業や林業においても土壌や気候のデータを掛け合わせることで「特定の作物や樹木についてよく育つだろう場所を見つける」ということが可能になるかもしれません。
(4)高齢化先進国「Japan」にチャンスを見出す
以上、3つの一次産業xテクノロジーの事例を紹介しました。一次産業の可能性について少しでもわくわくしていただけたでしょうか。
人の作業が最小限に抑えられ、生産効率が上がるということはつまり、同じ稼ぎを得るための労力が「楽になる」ということ。
そこで、次に見ていただきたいのは以下のグラフ。
これは世界の高齢化率の推移を表したものです。グラフをご覧いただくとわかる通り、日本は高齢化にまっしぐらな国として度々話題に上がりますが、実は、高齢化は世界的な傾向。
「日本が先に高齢化を迎えているだけ」という考え方もできるかも……?
つまり、日本が高齢化先進国として真っ先に高齢化を明るく乗り越えた国となる可能性を秘めているのです。
楽観的過ぎるかもしれませんが日本において一次産業xテクノロジーが進めば「楽に稼げる日本の一次産業」が実現できるのではないでしょうか。
高齢化による衰えもカバーしながら、新しく副業でも始めてみようかなという人や他国や他業種からの参入が増え、これからの日本の一次産業が盛り上がるかもしれません。
日本はこれから少子高齢化がさらに加速し、どんどん苦しくなるといった閉塞感があります。しかし、立ち向かうべき問題はテクノロジーで解決できます。そして、今回ご紹介した事例のように衛星データもきっと寄与できると宙畑では考えています。
筆者が65歳となったときに、楽しく生きていられるよう、これからも努力することを胸に誓って、最後に、ビルゲイツの名言をご紹介します。
「人はいつも今後2年の変化を過大評価し、今後10年の変化を過小評価してしまう。無為に過ごしてはいけないんだ。(We always overestimate the change that will occur in the next two years and underestimate the change that will occur in the next ten. Don’t let yourself be lulled into inaction.)」
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【参考】
※2:Global Noteより各国の漁業漁獲量・生産量推移
※本記事は2022年6月に関連記事を追加しました