宙畑 Sorabatake

宇宙ビジネス

「衛星データ市場形成に向けた衛星データサービスの将来像」SPACETIDE 2021WINTER/Day2 第3部レポート

2021年12月13~16日に開催されたSPACETIDE 2021 WINTER in Nihonbashi。2日目のプログラム「Space-Enabled World:衛星データ市場形成に向けて、ユーザー起点で実践的な議論を実施」の第3部「衛星データ市場形成に向けた衛星データサービスの将来像」の内容をご紹介します!

一般社団法人SPACETIDE(以下:SPACETIDE)が2021年12月13~16日に開催したSPACETIDE 2021 WINTER in Nihonbashi。その内のプログラムの一つ「Space-Enabled World:衛星データ市場形成に向けて、ユーザー起点で実践的な議論を実施」は3部構成です。プログラム全体を通じて衛星データのエンドユーザー・衛星データプロバイダー・衛星エンジニアの3つの視点から、それぞれが衛星データ市場を作る上で、今までのデータで行われてきたユースケースやお互いに求めていることは何かについて議論しました。

1部2部では、衛星データをどう使ってきたのか、ユーザー視点から衛星データに求めるものは何か、を主に議論してきました。

最後の3部では、「衛星データ市場形成に向けた衛星データサービスの将来像」と題して、衛星データプロバイダーと衛星エンジニアそれぞれの視点で衛星データ市場を作る上で越えなければならない課題や衛星データの扱い方について議論します。

Credit : SPACETIDE

(1)登壇者と事業領域紹介

本セッションの登壇者は以下の3名です。

上田 晋司
さくらインターネット株式会社執行役員 BBSakura Networks株式会社取締役
1996年慶応義塾大学経済学部卒・日商岩井(現双日株式会社)入社。メディア・コンテンツ事業、サプライチェーン・マネジメント、BPO事業、バイオメトリクス、ICT関連事業などのビジネス展開に尽力。双日米国会社・シリコンバレーオフィス代表、日商エレクトロニクスUSA取締役、NTTデータ3C(現NTTデータ スマートソーシング)取締役、双日・情報産業課課長などを歴任。2018年より現職。現在は、さくらインターネット株式会社にて執行役員としてIoT、AI、衛星技術関連事業に従事する傍らM&A事業を担当。

中村 友哉
株式会社アクセルスペース 代表取締役CEO
1979年、三重県生まれ。東京大学大学院工学系研究科航空宇宙工学専攻博士課程修了。在学中、3機の超小型衛星の開発に携わった。卒業後、同専攻での特任研究員を経て2008年にアクセルスペースを設立、代表取締役に就任。2015年より宇宙政策委員会部会委員を歴任。

モデレーター 藤原 寛朗
一般社団法人SPACETIDE COMPASSチーム
2016年より三菱電機(株)に人工衛星のシステム設計職として入社し、衛星搭載用合成開口レーダシステム設計業務に従事。他にも(株)ispaceの民間月面探査プログラム「HAKUTO-R」やPDエアロスペース(株)のロケットエンジン開発にプロボノとして従事している。2020年10月より一般社団法人SPACETIDEに参加、国内外の宇宙ビジネスの情勢を調査・分析してまとめた宇宙ビジネスレポート「COMPASS」(年2回発刊)を手掛けている。

藤原:まず最初にお二方の自己紹介をして頂きたいと思っております。まずは、上田様よろしくお願いいたします 。

さくらインターネット株式会社の紹介

上田:さくらインターネットの上田です。私はちょうどTellusがスタートした時にプロジェクトに入り、あっという間に3年が経ちました。Tellusをここまで何とかやってこれたという話を含めてお話しできればと思います。

Tellusの6つの要素
Credit : さくらインターネット

簡単にTellusの話をいたします。Tellusは2019年の2月にスタートした衛星データプラットフォームで、大きく分けて6つの要素を持って衛星データ市場で盛り上げていこうと考えています。

衛星データを使うというのは画像やデータの話だけではなく、その裏にあるものすごく大きなインフラも動かさなければいけません。例えば、新しいプロジェクトを考えた時にサーバーやストレージを買ったり、ネットワークの設定をしたりすることが一つ一つ全てハードルになってビジネスが進んできませんでした。ようやくクラウドの時代になって、ワンクリックでコントロールパネルからサーバーもネットワークもストレージも自由に設定できるような時代になりました。

これらをさらに進めて衛星データを使いやすいクラウドにするために、我々の方ではサーバーストレージに加えて、 GPU など機械学習のためのリソースを用意しています。これに加えて、例えばKubernetes(コンテナ化したアプリケーションのデプロイ、スケーリング、および管理を行うための、オープンソースのコンテナオーケストレーションシステム)をベースにした開発環境を用意して、自由に開発できるようにもしています。

あとはマネタイズですね。ビジネスの話が出てきましたが、ただ開発して終わりではなくて、アルゴリズムやAPIに対して課金できるようなものを作る。マーケット・インターフェースやコンピューティングのリソースというのも、まとめて提供するのがTellusというプラットフォームになっています。

ただ技術があれば上手くいくわけではありません。どういうユースケースがあるのかを広げるためにオウンドメディアの宙畑を運営しています。

他にも衛星データの使い方やユースケースを広めるためにラーニングのイベントをやったり、実際に世界中のデータサイエンティストの人に入っていただいてコンペティションをしたり、ソフト的なところからも作りこんでいく。これも一つのプラットフォームとしての役割だと思い、3年間かけてTellusを開発運用してきました。

直近ですと、先月二つ大きなリリースをしまして、一つはTellus Satellite Data travelerというものをリリースさせて頂きました。これは、欲しいシーンを面積ごと・シーンごとに自分で欲しいエリアを指定して、衛星データを買うことが出来る仕組みになっています。

Tellus Satellite Data travelerの操作画面
Credit : さくらインターネット

2つ目はこれまで政府の衛星データの搭載を中心に進めていましたが、民間企業の商用の衛星データの売買ができるようになり、いよいよユーザーが本当に使いたいデータがすぐに使えるような環境が整い、ようやくスタートラインに立つことができました。今日は実際のユースケース含めていくつかお話しできること楽しみにしています。

藤原:上田様ありがとうございました。続きまして、中村様よろしくお願いいたします。

株式会社アクセルスペースの紹介

中村:よろしくお願いいたします、株式会社アクセルスペースの中村です。アクセルスペースの簡単な会社紹介をいたします。

GRUS-1
Credit : AXELSPACE Source : https://www.axelspace.com/grus-1-jpn?lang=ja

我々は現在100kg級の人工衛星を主力とする宇宙衛星ベンチャーです。GRUSと呼ばれる光学地球観測衛星をたくさん打ち上げてコンステレーション(衛星による観測網)を構築するビジネスを進めています。アクセルスペースのビジョンについては、創業間もない頃から掲げている「Space within Your Reach 宇宙を普通の場所に」ということで会社一丸となって実現すべく日々活動しています。

大多数の皆さんはまだまだ宇宙が日々の暮らしやビジネスに役立つことは、あまり想定していないと思います。我々は低コストの小型衛星を活用してデータを社会インフラにしていきたいと思っています。その過程で宇宙が当たり前のように使われる、そんな社会を作っていきたいと考えています。

アクセルスペースは2008年創業で今年の夏で13年目を迎えました.そろそろベンチャーと言うと怒られるフェーズに入ってきたかなと思っていますが、大体90人くらいのメンバーのうち、60人弱ぐらいがエンジニアです。なので、弊社はエンジニア中心の会社です。創業から9機の人工衛星を実際に開発・製造し、打ち上げ・運用までしていますので、実績はしっかり積み上げてきていると自負しています。

AXELSPACEが開発してきた衛星一覧 Credit : AXELSPACE

こちらは、我々がこれまで作ってきた衛星の一覧です。北極海航路観測衛星WNISAT-1は創業のきっかけにもなった株式会社ウェザーニューズさん向けの人工衛星です。後継機も2017年に打ち上げています。加えて、2019年に打ち上げたJAXAのRAPIS-1(ミッション完了を受けて2020年6月に停波)という衛星。
これは技術実証衛星でして、我々がJAXAの衛星を作った初めての宇宙スタートアップということで非常に注目を頂きました。JAXAの衛星を作ったことで、グローバルにビジネスする際も技術力に関して認めてもらえることが多くなり、我々にとって非常に重要なプロジェクトだったと考えています。

さて現在我々がメインで取り組んでいるのがAxelGlobeというプロジェクトです。先ほどご紹介した通り、光学観測衛星のコンステレーションを構築するというものですが、初号機GRUS-1Aを2018年の年末に打ち上げています。

2021年の3月に追加の4機を同時に打ち上げて現在5機体制で観測をスタートしています。これによって日本で初めての地球観測コンステレーションが誕生しました。

やはり1機と5機では全然違うなというのが我々の実感です。5機になってからは、日本含む中緯度域は2日に1回の頻度で観測を行えるようになりました。最も観測頻度の下がる赤道付近でも3日に1回の撮影頻度です。これによって、ようやく実用的なサービスになりました。実際、データ利用に関するお問い合わせが1機の時に比べて格段に増えています。

いくつか実際にGRUSが撮影した画像をご紹介します。この衛星画像は地上分解能2.5m。いわゆる中分解能に分類されるものです。

GRUSの特徴の1つは、広い撮影幅です。望遠鏡を2つ搭載していまして、それによって広い観測幅を実現しています。
撮影幅は57kmで、大体千葉から立川くらいまでの長さです。一方、長さ方向では大体1000kmくらい一度に取れるので、1機当たりでカバーできる範囲が非常に広いのが1つの特徴です。

宙畑メモ:人工衛星の観測範囲

人工衛星に搭載されているカメラの多くは、コピー機のように1本の線状のセンサから成りそれが軌道方向に動くことによって、面として撮影を行っています。したがって、衛星で撮影できる範囲は観測幅(撮影幅、Swath(スワス)とも呼ばれます)と軌道方向にどれだけ連続して撮影が可能かで決まります。

GRUSの撮影した画像①
Credit : AXELSPACE
GRUSの撮影した画像②
Credit : AXELSPACE

アプリケーションとして最近注目が高まってきているのが「環境」です。SDGsやESG 投資への社会の関心が非常に高まっているということで、企業側が環境に対して悪影響を与えていないことを証明するために衛星画像が使われる場面が出てきています。最近のトレンドに沿った面白いアプリケーションの1つかなと思っています。

それからコロナの影響で、自由に移動することが難しくなってしまいました。今までなら実際に現場に行って何が起きているかを確認していたのですが、それが出来なくなってしまったわけです。それなら、衛星画像で部分的にでも起きていることを知ろうというアイデアが、新たなニーズとして出てきつつあります。

(2)衛星データプロバイダーから見た衛星データの有用性とは

藤原:ありがとうございました。中村様は、衛星データを提供するプラットフォーマーでありかつ衛星製造も手がけております。

上田様は、Tellusで多種多様な衛星を取り上げていますし、私もCOMPASS(SPACETIDEが発行する宇宙ビジネスに関するレポート)執筆の際に宇宙ビジネスについて調査をしつつ、別の企業の方でも人工衛星を作っていますので、その知見も絡めつつ議論をしていこうと思います。

宇宙系スタートアップ一覧
Credit : SPACETIDE

まず、宇宙のデータ利用ですが、COMPASSの中で、スタートアップ企業を紹介しております。全部で31社、黄色の部分が本日ご登壇いただいたお二方の所属する会社になります。これを見ると2015年からだいぶ数が増えて、かなり動きが加速していることがわかります。

衛星データ市場規模の現在と予測
Credit : SPACETIDE

こちらはデータ利用市場規模です。元々約8000億円の市場規模に対して2030年には1兆7,000億から1兆8,000億円の市場規模が予測されています。

衛星データの活用事例
Credit : SPACETIDE

そして、衛星データ活用の例ですが、本日特に金融・不動産の方々に紹介されているように、ありとあらゆる例があります。今回はこれらの情報を踏まえつついくつか質問をしていきます。

まず最初は、「衛星データ利用ビジネスの有効性」についてです。
というのも、今までのセッションのコメントにもあるように、衛星データはまだまだ使いづらいと。では、どのような場面で何が出来たらよいのかを、一回整理しようと思います。まず上田様にTellusの観点で、お答えいただければと思います。

上田:チャンスはすごく多いと思います。例えば、akippaさんの話がありましたが、僕の中でポイントかなと思うのは、期間です。あのプロジェクトを一定の成果を出すまでにかかったのが約3ヶ月なんですね。非常に早い時間で、すごく少人数の中であれくらいのプロジェクトが出来るということが立証されたんですね。

他にもTellus Satellite Challengeということで色々なコンテストを過去にやらせていただきました。例えば流氷や海氷を見る事に対して、85%の精度で見れるようになった事例があります。このコンテストは2~3か月程度の期間を数名で運営して、このような成果が出ています。大げさに考えたら何十人ものプロジェクトチームで何年もかかって何億円も投資しないと達成できないかもしれませんが、それ自体が衛星データ利用のハードルを高くする要因となります。実際にすごく少人数で短い期間の中で70~80%の精度だったら出るって言う世界が現実化しているのです。

【参考】Tellus Satellite Challenge関連記事

なので、これをどうビジネス化するか、が当然ポイントになります。企業や個人がどんどんトライしてもそんなに大きな痛手がなくなってきている。このトライ&エラーのスピードがどんどん早くなっていることが、ビジネスとしての有効性であり、既にあるセグメントにおいては十分に立証されたと思っています。

藤原:ありがとうございます。特に宇宙ビジネスだと時間がかかるという意味でコストが高いところが目につくと思いますが、その点が比較的薄いというコメントですね。上田様、ありがとうございました。

続きまして中村様。衛星データ利用ビジネスの有効性についてAxelGlobeにおいて利用のシステム化をされていますがいかがでしょうか。

中村:有効性そのものは疑う余地はないと思っています。これは、衛星だからこそ撮れるデータという点が非常に大きいと思います。マクロ的なデータの話が第1部に出てきましたが、広域をこれだけの頻度でモニタリングできる手段は、現在のところ衛星以外ではあり得ないですね。

物事を色々考えていく中で多面的に見ないといけないはずなのに、ミクロの視点ばかり見てしまうと、その物事の本質を見失うこともあります。そういう意味では、マクロ的に大雑把なトレンドや全体の状況を把握することでミクロで見たデータの意味がより鮮明に分かってきます。

そういった観点から見ると、衛星はマクロ的なデータを見るおそらく唯一の手段かつ国境などを考えなくてもいいという観点で非常に重要だと思ってます。なので、広域を見たいお客さんはどうしても衛星が第一選択肢に入ってきます。

この点についてはこれまで使ってきた実際の例がありますが、いかに広げていくかが今後求められてくると思います。衛星データの有効性はあるけど、それを横展開していくかスケールさせていくかがおそらく今から議論することになるのかなと思っています。

藤原:ありがとうございます。やはり広域を撮れる、国境関係なく撮れるというところが衛星固有の強みであると思います。

(3)衛星データ利用サービスの固定層の顧客はどうやって付けるのか

藤原:それでは続きまして二つ目になります。こちらはソリューションプロバイダーの立ち位置になりますが、衛星及び衛星データを扱う上での制約事項や課題は何か、という所になります。こちらは1部2部でも課題はこれだというのをご指摘頂きました。それらの課題に触れる前に俯瞰的に衛星及び衛星データの中での制約事項や課題を共有したいと思います。

まず上田様、色々な衛星を扱う上での制約事項や課題を共有いただければと思います。

上田: 本音で語ると課題は山積みであるのが正直なところです。大きく分けて技術的な部分とビジネス的な部分の2つに課題は分けられます。

衛星データを扱ってみて思うのが、1つの画像で数GBくらいの容量があるのが、インターネット業界で普通に仕事している人から見ると非常に大きなデータに感じてしまいます。また、衛星データは空から撮っているので、地図上に重ねることが簡単に見えますが、少しのズレも許容できないアプリケーションだと、そこのニーズにはまらないことがあります。

インターネットの世界に衛星を持って来るってことは、そんなに簡単ではないというのが、この3年間で分かった事です。ただ、機械学習をいろいろ組み合わせることで、ここは解決できそうだなということも分かってきています。なので、技術的な課題はそんなに長い時間にかけずに徐々に解決すると楽観視しています。

一方で、改めて痛感したんですが、ビジネス的な課題も非常に重要で、お客さんは衛星データが欲しいわけではなくて、何かしらのビジネスの意思決定をするためのインテリジェンスが欲しいんですね。それは、必ずしも衛星データで全て判断できるものではなく、地上のデータや色々なオルタナティブデータを組み合わせる必要があります。

衛星データの世界では、どちらかと言うと技術よりもビジネスを深堀りする、コンサルティング的なアプローチやそのセンスといったところを、日々の業務に落としてあげて衛星を意識しなくても衛星を使えているようにをする。UI/UXやビジネスの部分を詰められる人とパッケージになって初めて、そこの課題って解決できるのかなと思っています。

これもやっぱりコミュニティを大きくして、ユースケースを増やしていくしかないので、地道に愚直にやっていこうと思います。今後も力入れていくべき課題かなと感じています。

藤原:ありがとうございます。まさに撮影やデータの扱いが出来ても、それを上手に比較して分析、いわゆる高次処理を掛けると。これは、実施する上でかなり厳しくもありますが、機械学習などを使うことで何とか乗り越えていく必要がありますね。

あとは、ビジネスとしてより色々な枠組みを増やすことが大事ということですね。ありがとうございました。続きまして中村さんはいかがでしょうか。

中村:技術的な課題は、もちろん色々ありますが、それは物理的な制約でクリアできないものが多々ありますし、現状を考えると、衛星データに対する過剰な期待が結構な課題かなと思っています。

これは新しい技術やサービスが出てくると、一般的に起きがちだと思います。例えばAIが出てきて多くの人は、AIが勝手にいろんな問題を全て解決してくれると思ってしまうわけですね。なんでもかんでもAI。でも実はAIで出来ることはいろいろ制約があるので、得意不得意があるわけですね。

幻滅期に入るとしっかり定着したサービスだけがしっかり残っていくという話が、この衛星データの世界にもあると思っています。一般の人が思う衛星データって、例えば日本の上空に衛星が静止していて24時間常にモニタリングできるといったものだったりする。あるいは、ハリウッドの映画のようにどこまでもズームできると思っていたりする。

でも実際にはそんなことはなくて、撮影頻度も1日1回とか制限がありますし、ズームなんかできません
そういう制約があり、衛星データがすべてを解決するわけではない事を理解してもらう必要があります。だから、こういった制約下で上手に活用するアイデアを発掘していき「うまくハマる」ような事例を地道に作らないといけない。
これは一朝一夕には出来ないですし、ショートカットするやり方があるわけでもない。時間がかかるものだということを理解した上でしっかり取り組んでいくことが当面の大きな課題なのかなと思っています。

Credit : SPACETIDE

(4)衛星データ利用サービスにて顧客基盤を築くために必要なことは?

藤原:ありがとうございます。衛星を作ってる人とデータを扱う人の距離はかなり遠いところがあります。私も業務で衛星を作る傍ら、やはり認識の差っていうのは非常に大きく感じますね。

それをなんとか克服していく、理解をし合う必要があると、この話を聞いて改めて実感いたしました。ここからは、キークエスチョンの3つ目として「衛星データ利用サービスにて顧客基盤を築くために必要なことは?」というところになります。

今述べて頂いた課題に対してどうやって固定層のお客様をつけていくのか、これを考える必要があります。ここでは、まずはお二方のご自身が思うところを聞きつつ、さらに第1部第2部で挙がったいくつかのキートピックを議論できればと思います。それでは、まず上田様お願いします。

上田:何点かありますが、一番大切なのは「顧客になる人たちの声を愚直に拾い上げていくこと」です。これは衛星ビジネスに限らず、どんなビジネスでも一緒だと思います。出来る出来ないは当然あって、物理的に出来ないものを出来るって言ってもしょうがない部分がありますね。

じゃあ、それで終わりなのかって言うとそうではなくて、解決したいことに対して衛星以外のデータと複数のデータを組み合わせる事によって、何かできないか、網羅性を高められないか。とかを検討していく必要があると思います。

問題を解決する何か1つのわかりやすい回答策があるわけではなくて、1つ1つ聞きながら対応しなくてはいけません。 例えば、簡単にサインアップできて、すぐ衛星データが使えるようにしてほしいとか。ただ一方通行ではなくて衛星プロバイダーさんにもそういうことを還元しながら、全体として使い勝手を高めないといけません。

また、ビジネスとしてやって行く時にいくつか切り口があって、金融・不動産、あとSDGsの大きな投資のお金が動いている機関や政府など、アンカーテナントになるような比較的大きなお金を意思決定のために使える業界ってのはきちんと深掘りしないといけません。そこはサポート体制を充実させたり、具体的にどうするのかに至るまで、我々も一緒になって考えるということをして、基幹産業として使ってもらえるように盛り上げながら、それだけで終わらないように周辺も盛り上げていくこともすごい大事かなと思います。

あとはIT業界の切り口になりますが、顧客を考えるとおそらく衛星が本当に使われてる世界って何階層かに分かれていると思っています。個人やすごく小さいレベルのスタートアップに対してはAPIで通じて少しずつマイクロマネーが集まるような仕組みを作っていく。

そうやって広く使われ始めて、API経済圏とかアプリケーションの経済圏みたいなものができていく。そして、最終的に大きな課題解決ができるようなみんながハッピーになれるものを作っていく。そのソリューションが業界の色んな所で循環してくものを作るっていうのも重要かなと考えています。

藤原:ありがとうございます。そのまま続いて中村様よろしくお願いいたします。

中村: ちょっと違う視点から話そうと思います。先ほど課題を話しましたが、皆さんの中にはそれぐらい知ってるよと思った人もいると思います。これはある程度宇宙とか衛星データに対するリテラシーがあって、それを利用することに対して一定程度の関心があるということだと思います。

でも、新しいビジネスから生まれてる時って最初トライしてみようと思う人が現れるわけですね。イノベーターとかアーリーアダプターとか呼ばれる人たちが使ってみて、あーでもないこーでもない、これはいい、というのが生まれてきて、なんか盛り上がってきてるなっていうことでアーリーマジョリティみたいな人がようやく参入してくる。

さっき言った衛星データに対する見方とは、マジョリティーがそう思ってる一方、皆さんはもうちょっと分っていて、何とか使えないかと一生懸命考えてる人たちだと思います。だから、大事なのはそういうアーリーアダプター的な人たちが最初の顧客基盤になる事だと思います。その時に自分達はアーリーアダプターという認識がないと、高すぎるだとか頻度が足りないだとか、量が足りないとか不満が出てくると思います。完成されたサービスではないので、通常の消費者的なマインドでいると不満が出てしまうのは当然です。

いろんな制約がある中で、試行錯誤しながらなんとか使ってみて、この中で「ハマる使い方」が出てくると、やがてそれが定着してマジョリティーが使うようなサービスになっていくのだと思います。
ですので、まだビジネスが未熟な段階にあるということを意識して、マジョリティが使うサービスを自分たちが作っていくという感覚を是非持ってもらいたいと思っています。
つまり、投資なんですね。皆さんが新しいデータを使おうと思う時に、これは投資だと思って頂きたいんです。そうすることで新しいユースケースが生まれて、それをマジョリティに対してサービスとして提供することが出来る。

皆さんには、アーリーアダプターである自分たちがサービスを作っていくんだと思ってもらいたいわけです。我々データプロバイダはそうしたマインドを持った皆さんと組んで新しいビジネスを築いていきたいと思っています。

藤原:ありがとうございます。ここまで1部2部でも、頻度とコストに関するコメントがかなり出ていました。まず頻度についてですが、今のところ1日1回、できれば3回というコメントもあれば、リアルタイムだと1時間に1回、10分に1回とか色々な意味のリアルタイムへのコメントが出ていました。

それに対して、まず現状の認識共有というところで、衛星を作られている中村様から「コンステレーションの規模に対して、撮影頻度がどの位になるのか」について少し共有いただけると嬉しいです。

Credit : SPACETIDE

中村:これは、コンステレーションの設計のコンセプトや設計思想によります。なるべく広いエリアを狙いにいくのか、とにかくピンポイントにある場所をなるべく撮りたいのかによって必要な衛星の機数は変わってきます。

例えばSARだと、必要な電力の関係でずっと撮り続けることは無理なので基本ピンポイントに撮影する方に振って、1日に何回も撮れますよ、という性能を売りにすると思います。我々のような中分解能の光学衛星の場合はもっと広い範囲を連続して撮って行くので、ピンポイントではなく広いエリアを撮れるという性能を売りにします。

単純に何を狙っていくかによって変わりますが、我々がやっている光学で言うと、現在同一軌道面に10機の衛星を配置することを目標にしてまして、10機衛星を投入すると1日1回が実現できます。

広い範囲で1日1回の撮影が実現できますが、同じ範囲で1日に2回撮ろうとすると、違う軌道面に同じ数の衛星を投入する必要があります。頻度が上がればいいのは間違いないのですが、1日1回を1日2回にするには機数が2倍になるので当然コストが2倍になります。だから、むやみに頻度を上げれば良いわけではなく、コストとの見合いになってきます。

だから誰がどう使うのかを見極めながら、その衛星の機数に対する企画・計画を立てる必要があります。我々は10機体制にすることで1日1回観測できる体制を整えたいと思っています。その先はどういうお客さんがどういう使い方をするのかを見ながら、さらに同じ軌道面に衛星を投入して1日1回カバーできるエリアを増やすのか、あるいは1日に2回見れた方がいいから違う軌道面に入れてカバレッジは増えないけど、2回見れるようにするのか。そういうコンステレーションの設計自由度が結構あるいうことをご理解いただければなと思います。

藤原:ありがとうございました。もう一つ、画像をいかに上手に集めるかについて。可能だったら数万円/枚という話も少し出ましたが、そもそもどこまで価格を下げられるのか。おそらく数万円/枚はかなり厳しいと思いますが、そのコスト感覚に関してTellusの上田様の方からコメント頂けると嬉しいです。

上田:本当に経済そのものだと思っていて、需給バランスだと思うんですね。おそらくお客さんがいない状況で、ありとあらゆる画像を撮りまくって、これをじゃあ好きに使ってくださいって状況が成り立ってる業界がそもそも存在しないと思います。必ず在庫過多になって潰れてしまう。そういう意味で我々の方では「area of interest」つまり、どこが欲しいのかお客さんが要求をして、それを提供出来るようにする事を考えています。

今までは、どこが欲しいかっていう情報すら業界になかったので、ここなんじゃないかと決め打ちで撮影していました。しかし、もう少し特定の業界の需要が徐々に分かるようになれば、そこに合わせて最適化がされていくと思います。今、具体的に一枚いくらですというには、解像度や範囲によってまちまちなので、具体的な数字をお答えしにくいです。ただ、これがだんだん積み上がることによって価格的には供給者側も需要者側も満足いくところに落ち着くんではないかと期待しております。

Credit : SPACETIDE

藤原:ありがとうございます。ここで中村様に質問がありまして、AxelGlobeの話だと思うんですけども、「どんな業界のユーザーがデータを買っていますか。また最近ユーザーの種類に変化がありますか、例えば思っていなかった業界の方が関心を示し出しているとかありましたか」という質問が来ております。こちらいかがでしょうか 。

中村:言える範囲で申し上げますと、報道の話が少し出てきていると思います。
これはプレスリリースでも発表していますが、報道業界の方からの問い合わせもプレスリリース発表以来増加しています。
最近では、速報の出方が変わってきています。例えば、昔だったらこんなことはないのですが、ニュースソースがSNSだったりするわけですね。つまり、SNSに書かれていることをベースにニュースを書くわけです。
SNSで使われるのは基本的にスマホで撮ったミクロ視点の画像であることが多いわけですが、それをマクロ的に見たらどうなるのかというのは、ニュース的には結構重要な情報だったりします。衛星で撮ったほうがいいかもっていう判断を最終的にはAIが行って、撮影リクエストを我々に飛ばし、撮影データを報道に提供するようなことが、新しい使い方の1つとして出てくると面白いのかなと思います。

そういう新しい業界での新しい使い方っていうのは生まれては消えを繰り返して、その中で最終的に良いものがいくつか残ってサービスとして定着していくのだと思っています。

(5)まとめ

藤原:ありがとうございます。最後になりますが、今後目指したいデータ利用サービスについて、上田様ですとTellus、中村さんですとAxelGlobeをそれぞれどのくらいの期間でどういったサービスをしていきたいみたいなところを混ぜて最後一言コメントお二方から頂きたいと思います。

上田:今日 Orbital Insightさんのお話でもありましたが、民間の衛星データ利用ってこの10年で出来たばっかりの業界かなと思ってます。

Tellusも3年前は存在しなかった。その頃って衛星データがインターネットで API経由で取れるなんてことは夢のまた夢って言われていたものが、ここ3年でできるようになってきた。想像以上にスピードが早いと思います。なので、この先5年10年で何もできないのかということではなくて、この数年の中で結構違う世界が見えてくると思っています。Tellusはそこをなるべく加速できるような形で貢献できればと思っております。

藤原:ありがとうございます。それでは中村様よろしくお願い致します。

中村: 技術で解決できる問題は基本的に解決できると思ってます。後はコストに見合うサービスをどうやって作っていくのかということです。これはデータプロバイダー側だけが一生懸命頭をひねってもなかなか難しいんですよね。
なので、衛星データ利用に対して関心の高い皆様とサービスを一緒に作って世界の人にそれを売っていくことを一緒にしていきたいなと思っています。これは1回横展開できるものが出来れば、世界でも同じように作っていけるんですね。日本だけよく見える衛星なんて無いですから。日本で1日1回見れたら、世界でも1日1回見れるわけですから。

世界に売れるプロダクトを現場のことをよく知っている方と組んで作って行く。PoC(Proof of Concept:概念実証) をPoCで終わらせない。本当に使えるプロダクトにしていくというところを、ぜひ皆さんと一緒に頭をひねって考えていきたいなと思います。

藤原:お二方どうもありがとうございました。衛星を作る人からエンドユーザーまでまだまだ距離がありますので、それをどんどん巻き込んで衛星データ利用を進めていければと思いました。皆様ありがとうございました。

Credit : SPACETIDE

編集後記

本記事ではSPACETIDEで開催された「衛星データ市場形成に向けた衛星データサービスの将来像」についてのパネルディスカッションの模様をお届けしました。

1部2部で取り上げられた、ユーザーが求める衛星データの質・価格や撮影頻度について衛星エンジニアや衛星データを提供するプラットフォームの側から、これは出来る、あれは難しいといったコメントを頂きました。

そして、議論を通じて分かったのは、エンドユーザーとエンジニアとの衛星データに対する認識の齟齬が大きいというです。宇宙を知らないエンドユーザーの方にも、衛星データで出来ること、出来ないことを上手に使い分けてもらうように説明することも求められてきます。

その一方、10年前に比べて短期間少人数で一定の成果を上げることができる土壌が整いつつあるという良い兆しも見えています。一般の方でも手軽に挑戦できるようになったという点では、ユースケースの認知の拡大や各種サービスが充実してきたことの証拠でもあります。

また、これから衛星データを扱う上では、自らの事業の課題をマクロ的にもミクロ的にも評価して物事の本質やトレンドを見極めていく必要もあります。そのためにも、宇宙を知っているアーリーアダプターの皆様とプロバイダーやエンジニアの皆様とで、マジョリティが使いたくなるような、よりよい業界・サービスを共創していく必要がある二人三脚の姿勢が大事であることも指摘されていました。

※本セッション残りの第1部、第2部についてはこちらをご覧ください。