宙畑 Sorabatake

宇宙ビジネス

地域での衛星データビジネスを検討してる方必見!経産省が始める衛星データ利用環境整備・ソリューション開発支援事業とは?

7月22日より、経済産業省が新しい衛星データ実証事業を開始しました。100件規模の採択件数を予定している新しい事業について、詳しくお伝えします。

2022年7月22日より、経済産業省が新しい衛星データ実証事業「衛星データ利用環境整備・ソリューション開発支援事業(通称:地域実証)」の公募を開始しました。

経済産業省「衛星データ利用環境整備・ソリューション開発支援事業」における衛星データ無料利用事業者の公募
https://sdu.go.jp/

他の実証事業と比較しても、採択件数が多く応募要件も簡単なため、これまで実証事業に応募したことがない人でも挑戦しやすい内容になっています。

本記事では実証事業の内容について詳しくお伝えします。

(1) 実証事業の概要・経緯

Credit : 経済産業省 Source : https://www.meti.go.jp/press/2021/10/20211014001/20211014001.html

近年、小型衛星などによる地球観測が活発になってきていますが、衛星データと相性が良いと考えられる特定の地方課題を解決するソリューションはなかなか育って来なかったという現状があります。

その理由として、衛星データそのものの価格が高く、一事業者がお試しとして購入するにはハードルが高すぎることや、衛星データの種類や量が少なく試すことが難しいことが挙げられます。

一方で、人工衛星群を運用し事業を行おうとしている「衛星事業者」からすると、なかなか衛星データの購入者が増えず、利益を出していくことが難しいという状況で、いわゆる”にわとりとたまご”状態になっていると、経済産業省宇宙産業室は説明しています。

そこで、本事業では、地域を絞って経済産業省がまとめて複数社の衛星データを買い上げ、利用者に無料で衛星データプラットフォーム「Tellus」上から提供することで、先に挙げた価格や衛星データの種類・量の問題を解決し、好循環を回していこうという取り組みとなっています。

このような経緯のため、利用者は他の衛星データ利活用の実証事業よりも、気軽に試すことができる仕組みが用意されています。

実証事業は、大きく2つ、「補助事業」と「衛星データ無料利用」に分けられます。
詳しくは次章以降で説明しますが、特に初心者の方におススメなのが「衛星データ無料利用」です。

(2) 実証地域(全国5地域)

地域は①北海道、②富山、③福井県、④山口県(宇部市)、⑤九州地域の5地域です。この中でも撮影エリアは絞られているので、注意が必要です。

ただし、これらの情報も要望により随時更新されるとのことなので、必ずしもこの地域に限られるということではないようです。

以下で詳しく見ていきます。

・北海道

北海道は、道東エリア、特に十勝地方と釧路地方の沿岸部や急流河川を中心に衛星データが収集される予定です。

・富山県

富山県は、富山市を中心としたエリアで、県内中央を流れる神通川や井田川、熊野川の流域周辺が観測された衛星データが提供されます。

・福井県

福井県は県北部を中心に観測が行われます。

・山口県(宇部市)

山口県は、宇部市全体を覆う形で観測データが集められます。

・九州地域

もっともエリアが広いのは九州地域で、有明海の沿岸部を中心にした南北に広がるエリアと、大分県の中部エリアを中心に衛星データが集められます。

(3)ソリューション開発実証支援事業(補助事業)の概要

実証事業の一つ目は、ソリューション開発実証支援事業(補助事業)です。

公募の対象者は国内で衛星データを使ったアプリケーションサービスを開発する事業者で、15件程度の採択を予定しています。実証期間は9月の中頃~本年度末までとなっています。

「補助事業」とは、各事業者が実施したい事業を国が「補助」する、という意味で、事業者自身が自ら開発工数などを持ち出す必要がありますが、その一部が補助されます。

今回の場合は、最大500万円まで、事業者が計上した費用全体の1/3の補助となっています。つまり、1,500万円規模のアプリ開発を行うと、経産省から500万円分の補助があるということになります。

今回の補助事業では、衛星データの多くは別途無料で提供されるため、この1,500万円の大部分はシンプルに企業内の開発工数や開発資源に充ててよいことになります。

(4)衛星データ無料利用公募の概要

もう一つの実証が「衛星データ無料利用公募」です。今回の事業では特にこちら側が新たな試みと言えるでしょう。

「衛星データ無料利用公募」は対象者のフェーズに応じて、AとBの2つに分かれています。それぞれ複数回の募集を想定しているので、ご自身のフェーズやスケジュールに合わせて、応募を検討してみると良いかもしれません。

公募A

公募Aは、すでに事業化したいビジネスアイディアがある事業者が対象です。審査通過者には、Tellusから衛星データと開発環境が無料で提供されます。事業者の開発工数は、事業者自身の持ち出しとなります。

採択件数は全体で100件ですが、1回目の募集で80件、2回目の募集で20件と、1回目が多くなっています。

提出資料は上記内容の事業計画のみ、最初の募集は8月5日までとのことで、すでにアイディアをお持ちの方はこちらにチャレンジしてみるとよいと思います。

公募B

まだ、衛星データでどんなビジネスができるかあまりイメージがついていないという事業者の方は、公募Bがおススメです。

実証アイデアさえあれば応募することができ、採択件数も150件と多く、比較的採択されやすいと考えられます。

提供されるものは、3か月の期間限定でTellus上から提供される衛星データと開発環境で、それらに触れながら事業化の構想を深めることができるという内容になっています。

この期間中に事業計画を作成することで、公募Aの2回目の公募(10月末締め切り)に応募できるスケジュールになっており、段階を踏んで事業化が深められるようになっています。

興味を持った方は、公募Bに応募してみると良いと思います。

アイデアがすぐ浮かばないという方は、本記事最後にご紹介する宙畑編集部の例も参考にしてみてください。

(5)提供される衛星データ

ここまで、実証事業の内容についてお伝えしてきましたが、提供される衛星データについてもご紹介していきます。

現時点では、確定しているわけではなく、採択された「補助事業」の事業者の提案内容次第で柔軟に対応する方針とのことですので、あくまで提案内容を考える際の参考としてお考え下さい。
※衛星データ無料利用の事業者のニーズに合わせた追加購入はありません。

衛星データは、光学画像とSAR画像の2種類のデータが提供されます。

光学画像は主にアクセルスペース社のGRUS(グルース)が、SAR画像はNEC社のASNARO-2が提供されます。

上記2つの衛星データに加え、光学画像では、MAXAR社の高分解能画像や、AIRBUS社のPleiadesの画像が、SAR画像では、JAXAのALOS-2に加え、Synspective社のStriXやQPS社の画像が提供される予定です。

GRUSとASNARO-2についてはすでにサンプル画像をTellus上で公開しており、現時点でもどなたでもTellusで無料登録をすれば画像を閲覧することができます。
事業化アイデアを考える際の参考に、ぜひ実際の画像を見ていただければと思います。

・光学画像:GRUS

GRUS(グルース)は、株式会社アクセルスペースが運用する地球観測衛星で、分解能2.5mの光学画像を撮影できます。

観測している波長としては全部で以下の6つあります。

・パンクロマティック(白黒)
・Band1: 青
・Band2: 緑
・Band3: 赤
・Band4: レッドエッジ
・Band5: 近赤外

衛星で良く用いられる、青・緑・赤・近赤外に加え、レッドエッジと呼ばれる波長でも観測していることが特徴です。レッドエッジとは、赤と近赤外の間に位置する波長で、植物の活性度合いに敏感に反応すると言われており、主に農業分野などでの利用が期待されます。

Tellus上では、札幌、東京、大阪、福岡の4つの都市を、月2回の頻度で、2020年8月から2021年2月の期間中に撮影した画像を公開しています。

Tellus TravelerのデータセットからGRUSを選択してご覧ください。

・SAR画像:ASNARO-2

ASNARO-2は、経済産業省の助成事業としてNECが開発・運用しているSARデータです。X-Bandと呼ばれる波長の電波で観測を行っており、分解能1~2mと高解像度で撮影できるのが特徴です。

上記画像のように、白黒の見慣れない画像に見えますが、これは衛星から発した電波が地表面で反射して返ってきた信号を画像化しています。

光学画像のように、パッと目で見て様子が分かるものではありませんが、雲や夜など外部の条件に左右されにくく、時系列での変化を見るのに適しているという特徴があります。

こちらもTellus Travelerで、サンプルデータを公開していますのでぜひご覧下さい。
公開しているデータの処理レベルは以下の3種類ですが、まずは見てみるという意味ではL2.1がおススメです。

【Tellus公式】ASNARO-2_L1.1
複数のエリアの画像を公開していますが、L1.1は画像化していないため、ブラウザ上では閲覧できません。別途解析を行う方向けのデータとなります。

【Tellus公式】ASNARO-2_L1.5
2022年1月に発生したトンガ海底火山噴火に関して公開した画像です。

【Tellus公式】ASNARO-2_L2.1
北海道の石狩地方、愛知県の一部地域の画像を公開しています。特に石狩地方の画像は、今回の九州地方のような沿岸部の画像ですので、参考になるかもしれません。

Tellus TravelerのデータセットからASNARO-2を選択してご覧ください。

(6)宙畑編集部が考える衛星データ利用事業例

すでに宙畑では様々な衛星データ活用アイデアを紹介していますが、ここでは今回の実証事業と結びつきそうなものを中心にご紹介していきます。

宙畑に掲載しているビジネス事例の記事はこちらをご覧ください。

農業活用

まず挙げられるのは、GRUSの特徴であるレッドエッジを活かした農業分野での活用です。

札幌周辺のGRUS画像。一つの畑の中の詳細な分布まで見て取れる解像度を有している。 Credit : Axelspace

広大な農地の状況を面で可視化し、肥料を追加した方が良い箇所を把握したり、畑ごとの収穫の順番を決定したりすることに用いることができるかもしれません。

【農業に衛星データを用いる参考記事】

耕作放棄地の検出・管理

植生がないところを発見できれば、今農業が行われていない場所、いわゆる「耕作放棄地」を見つけられます。GRUS衛星の「広域を撮影できる」という強みも活かすことができると考えられます。

福岡周辺のGRUS画像。広範囲に時系列データを撮れるのも強み。 Credit : Axelspace

時系列で植生を追っていくことで、そこで作物が育てられているのか、ただ雑草が生い茂っているだけなのかを判定することができると考えられます。

近年、農業の担い手不足により、大きな問題となっている「耕作放棄地」の問題ですが、正確に状況を把握することにより、大規模な農業経営体が買収できたり、別の用途へ転換したりすることができるかもしれません。

【耕作放棄地に衛星データを用いる参考記事】

固定資産管理

植生以外にも、光学分解能2.5mで広範囲を撮影できるという特徴を利用すれば、住宅地で固定資産の変化を把握することにも利用できます。また、高解像度のSAR画像も得意とする分野と考えられます。

現在、固定資産税の根拠となる建屋の有無は、主に航空機や人が調査することによって管理されています。しかし、調査範囲は広範囲に及ぶため、航空機を飛ばす費用や人件費が多くかかっています。

東京周辺のGRUS画像。建物の有無の変化もとらえることができる解像度。
Credit : Axelspace

衛星画像からAIによって建屋を検出し、年単位での建物の増減を把握することができれば、適切な税計算に役立てることができるかもしれません。

【衛星データから変化をとらえる参考記事】

インフラ管理

沿岸部は特に、道路や橋、電線など、私たちの生活に欠かせない主要インフラが通っていますが、風雨や樹木などの影響で寸断されるリスクも高いエリアと考えられます。

SAR画像を時系列で使って行くことで、そういった主要インフラの寸断を検出できるかもしれません。

【衛星データでインフラ管理をする参考記事】

防災・減災

今回の実証の事前のアイデアとして河川周辺の流路の管理が挙げられています。
SAR画像を使うと時系列での変化比較を比較的容易に行うことができます。

Credit : NEC Corpotration Source : https://sorabatake.jp/25931/
Credit : Original data provided by JAXA Source : https://sorabatake.jp/8713/

新しいアイデアを考えてみる

もちろん既存のアイデアにとらわれず、新しい衛星データ利用アイデアを考えることも可能です。

どこから考えたらいいか分からないという方向けに、宙畑で行ったアイディア創出のフレームワークを紹介していますので、こちらの記事を参考にしてみてください。

(7)まとめ

本記事では2022年7月から公募が始まっている「衛星データ利用環境整備・ソリューション開発支援事業(通称:地域実証)」について、その概要をご紹介しました。

冒頭で述べた通り、これまでの実証事業に比べると、初心者へのハードルが下がっている事業ですので、興味をもった事業者の方はぜひ応募してみてください。

経済産業省「衛星データ利用環境整備・ソリューション開発支援事業」における衛星データ無料利用事業者の公募
https://sdu.go.jp/