利用事例百花繚乱! 衛星データ利用の現在地と展望(SPACETIDE 2022レポート)
2022年も国内最大級の宇宙ビジネスカンファレンス「SPACETIDE」では興味深いパネルディスカッションが目白押しです。本記事では夏に行われたイベントの中から衛星データの利用事例の整理しました。
小麦生産過程に衛星データを利用し、少子高齢化で悩む山口県の農業を支援するアグリライト研究所。先日、同社が具体的にどのように衛星データを活用し、農家の方に利用いただくまでのプロジェクトを進められたかをうかがった記事を公開しました。
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この取材が決まったきっかけは、今年の7月に行われた国内最大級の宇宙ビジネスカンファレンスSPACETIDEでした。同イベントの1日目は、「Space-Enabled World」という宇宙システムの利用事例や展望に特化したトークセッションが集約されたプログラムが組まれていました。
本記事では、そこで語られた宇宙システム利用の中でも、地球観測衛星が取得するデータの利活用事例に絞ってその内容を紹介します。
(1)日本で進む衛星データ利用促進の基盤づくり
イベントの冒頭に行われた衛星リモートセンシングに関するインプットセッションでは、日本発のオープン&フリーな衛星データプラットフォームTellusや今年度JAXAが事務局となり設立された衛星地球観測コンソーシアム(以下、CONSEO)など、衛星データ利用がより円滑に進むための基盤の整備について話がありました。
Tellusでは、誰でも無料で複数の衛星データを閲覧することができ、搭載される衛星データの種類も徐々に増えています。
そして、衛星データプラットフォームTellusの登録者数が2022年10月には30,000人を突破。衛星データの利活用に興味がある人が増え、すぐに、さまざまな衛星データを閲覧でき、必要に応じて解析も行えるサービスとしてさらに利用者が増えることが期待されます。
CONSEOは、「地球まるごと、より良い未来へ」をビジョンに掲げ、産学官の多様なプレーヤーが集まり、日本の衛星地球観測全体戦略や政策につながる議論を通じた提言をまとめることを目的としたコンソーシアムです。
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CONSEOでは、総会の実施、会員コメント募集、分科会やワーキンググループでの複数回にわたる議論を通して、今年度中に地球観測分野の全体戦略に関する考え方の提言をまとめることに注力する予定。法人・団体会員、有識者会員の募集も行っているので、興味がある方はぜひご確認ください。
(2)衛星データ利用事例の今と未来
衛星データ利用のための基盤の整備が進むなか、実際の利活用事例も徐々にうまれています。
■一次産業における衛星データ利活用
まず、衛星データの利活用が進む代表例として、一次産業における衛星データ利活用があります。一次産業にテーマを絞ったSPACETIDEのパネルディスカッション「宇宙×食:衛星データが変革する農業や漁業などの生産現場」では、漁業、農業における衛星データ利活用のプレイヤーとしてウミトロン、天地人、アグリライト研究所がそれぞれの事例を紹介しています。
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本パネルディスカッションを通して「衛星データが一次産業の課題解決に繋がる理由」をあらためて認識できました。
衛星データの利用以前、屋外のデータの蓄積や検証を行うことは、定期的に人が見回りに行くといった人的工数や、IoTセンサを複数設置する(IoTセンサの精度にも個体差がある)といったコスト、精度などの様々な理由から難易度の高いものでした。
一方で、衛星データは定期的に、広域のデータを撮影し、蓄積しています。さらに、過去に撮影・蓄積された衛星データも利用できるため、人が見回りに行く、ドローンを飛ばして観測したいとなってからデータを蓄積することによるタイムラグが生じず、ソリューションの内容によっては、初年度から実証を行うこともできます。
また、衛星データを農家の方に確認してもらったところ、なぜ特定のエリアだけ病気が起きていたのかの理由が分かったといった新しい発見もうまれ、こういうことが衛星データから分からないのかといった問い合わせも増えているとのことです。今後も一次産業における衛星データ利活用は様々な事例がうまれるでしょう。
もうひとつ、衛星データが一次産業の課題を解決する一助になる可能性として語られていたのは、衛星データやIoTデータの蓄積により、一次産業における再現性や予見性が高まり、先行投資を受けやすくなるということです。
というのも、一次産業は構造的に資金が滞留しづらくなっており、食料生産における研究開発投資額は他産業として少ないという点がパネルディスカッション内で指摘されていました。
その点、衛星データ含め、一次産業における様々なデータの蓄積と検証が進むことにより、投資を受けるために必要な材料が揃い、食料生産における研究開発予算が増えることも期待できるというわけです。
研究開発予算が増えることで、衛星データ利活用含む様々な先端技術への投資が行われ、より一次産業が発展することが望まれます。
■一次産業に限らない、様々な衛星データ利活用事例
一次産業以外にも、今まさに実証や利用が進んでいる様々な衛星データ利活用事例がSPACETIDE内では紹介されていました。
例えば、豊田市では、漏水の検知に衛星データを利用する実証が進んでおり、作業の効率化につながる兆しが見えているそう。
また、一般財団法人リモート・センシング技術センター(RESTEC)では、農地の変化を衛星データから把握することで、人が見回って5年に1回しか更新できなかった作業が1年に1回の頻度で更新できるようになってきているという事例の紹介もありました。
さらに、スペースシフト社の事例では、キャベツの価格が下がるとホイコーローの売上が上がるという統計データをもとに、衛星データからキャベツの価格を予測するモデルを小売業を営む企業に提供しているといった紹介も。
並べてみると、行政、インフラ、小売……などあらためて多岐にわたる利用事例がすでにうまれているのだと分かります。
■未来の衛星データ利活用の可能性をたっぷりと語るセッションも
そして、SPACETIDE内では、衛星データの未来の利用用途についても理解できるセッションが準備されていました。
3つのセッションそれぞれに未来の衛星データ利活用を考えるうえでの示唆に富む話題があったように思います。
まず、衛星データなどから現実そっくりの3DCG制作を行うスペースデータの佐藤さんの話では、プロジェクトの発表をしてから想像もしていなかった利活用事例について問い合わせがあったそう。当日紹介されていたのは、自動運転の実験を行う際に現実そっくりの仮想空間でできないかという問い合わせがあったとのこと。
佐藤さん自身も、3DCGが特定の用途のみに使われることは現時点で考えておらず、様々な用途で利用されると話されていました。今後、どのような産業、企業、個人が現実そっくりの仮想空間をどのように利用したいと考えるのか、とても楽しみなプロジェクトです。
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また、ソニー社が開発し、打ち上げた地球観測衛星の撮影権を一般の方に解放するプロジェクト「STAR SPHERE」も未来の衛星データ利活用という点では注目です。
自分で地球上の撮影したい場所をリクエストし、リクエストに基づいて衛星がその場所を撮影、撮影した衛星データを使うという経験がある人は、これまで研究者や一部の企業のみでした。
しかしながら、STAR SPHEREのサービスが開始されれば、誰でも好きな場所の衛星データを依頼して、自分だけの衛星データをダウンロードすることができます。
衛星データに触れる機会がソニー社のプロジェクトを通して増えることで、衛星データの利活用事例に興味を持つ人が増える、また、宇宙規模で物事を考えられる視点を得る人が増えるといった期待が高まります。
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もうひとつ、SPACETIDEで未来の衛星データ利活用の可能性として語られていたのは環境問題の解決手段として使えるのではないかという論点です。
本テーマについては、パネルディスカッション「宇宙×環境:カーボンニュートラルに向けた衛星データの貢献可能性」の中で、慶應義塾大学の白坂成功教授がモデレーターとなり、UCC上島珈琲の日比さん、サグリの坪井さん、ANAホールディングスの松本さんがパネリストとして登壇し、カーボンニュートラルの現状と各社の取り組み、衛星データ利活用の可能性について話がありました。
地球全体の温室効果ガスの排出総量や吸収量を把握するために、衛星データが活躍するのではと期待されており、実際に宙畑でもカーボンニュートラルに関する取材を過去にいくつか行っています。
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しかしながら、パネルディスカッションの冒頭でモデレーターの白坂さんよりカーボンニュートラルは最終受益者が価値を感じてお金を払うというビジネスが成立しづらく、衛星データの利活用に限らずカーボンニュートラルに関する取り組みだけでは事業が成り立たない難しさがあるという前提の説明がありました。
では、SPACETIDEに登壇していた各社がどのようなカーボンニュートラルに関する取り組みをしていたかというと、UCC上島珈琲はコーヒーの自社農園を複数保有しており、強い日差しからコーヒーを守る適度な日陰を作るために、シェードツリーと呼ばれるコーヒーよりも背の高い木を植えるシェード農法と呼ばれる栽培方法を推進しているそう。シェードツリーの植林が進むことで、コーヒーのためにもなり、温室効果ガスの吸収量アップにもつながる、一挙両得の取り組みとなっています。
また、ANAホールディングスでは、衛星データを用いて乱気流の予測を行い適切な航路を算出することで燃料削減(航空会社にとってはコスト削減)となり、結果的に温室効果ガスの排出量を下げる取り組みを進めているそう。
このように、登壇している各社それぞれがカーボンニュートラルに関する取り組みのみではなく、自社事業の利益をあげる取り組みとカーボンニュートラルに関する取り組みをうまく組み合わせていることが印象的でした。
さらに、サグリの坪井さんからは、政府によるルールメイキングや各社が本気になる企業ごとの格付け、カーボンニュートラルに関するデータの信頼性をどのように担保するかの仕組みが重要になるといった言及もありました。
衛星データが関わる要素としては、温室効果ガスの排出量や吸収量の把握が期待されているところですが、ビジネスを考えられる人と政府のルールメイキングといったその他の観点のアップデートもなければ衛星データの利活用は進まないという課題が明らかになったセッションでもありました。
とはいえ、地球全体をマクロに考えて取り組まなければならない課題であるという点で、カーボンニュートラルはこれからの衛星データ利活用を考えるうえでの柱のひとつとなるテーマであることは間違いないでしょう。
(3)SPACETIDEで学ぶ、国内外の宇宙ビジネスの現在地
以上、2022年夏に行われたSPACETIDEの1日目「Space-Enabled World」のなかから地球観測衛星の利活用に関するセッションの中で印象的だった話を抜粋して紹介しました。
地球観測衛星の利活用に関する取り組みだけでも今進んでいる多種多様な事例から、未来の事例まで半日で一気に現場の生の声と合わせて知ることができました。
そして、2022年12月16日(金)にも、「SPACETIDE 2022 YEAR-END」が開催され、宇宙ビジネスに関する最新の情報を1日で一挙に把握することができるカンファレンスが開催されます。2022年の宇宙ビジネストピックを振り返るセッションもあるようなので、宇宙ビジネスに最近興味を持ったという方にとっても楽しめるイベントとなるでしょう。
興味がある方はぜひ参加してみてはいかがでしょうか? SPACETIDE 2022 YEAR-ENDの詳細はこちらにまとまっています。