SSA(宇宙状況把握)とは〜日本の防衛省と国際状況、企業の貢献、技術課題、運用システムを総合的に解説〜
宇宙開発の進展に伴い、スペースデブリや衛星同士の衝突リスクが増加しており、それに伴い宇宙状況把握(SSA)がますます重要性を増しています。本記事では、SSAの概要や目的、運用システム、国内外の取り組み、既存の課題などについてまとめて解説します。
1.はじめに
2007年の中国の衛星破壊実験や2009年の通信衛星イリジウムの衝突事故を代表とするスペースデブリの大量発生に加え、SpaceXのStarlinkをはじめとしたコンステレーション衛星の登場により、現在の宇宙空間には多数の宇宙物体(宇宙物体の構成部分や打上げ機及びその部品のこと(宇宙物体登録条約1条(b)より))が存在しています。
NASA Orbital Debris Program Officeによると地球低軌道(LEO)上に位置する直径10㎝以上の宇宙物体の総数に対して、衛星などの数(Spacecraft)が2022年時点で1/3程度占めています。
直径10㎝以下の宇宙物体も含めると更に総数は増加し、内訳も変化しますが技術的課題などの影響でその全容を把握しきれていません。
そのため、地球上空を周回し、私たちにサービスを提供する数千を超える衛星は、常に衝突による破損のリスクにさらされており、衝突の可能性がある場合は運用者同士の交渉のもと、衛星の軌道を変更して回避するなどの対応をしています。
また、近年はスペースデブリの回収をすることで、衝突リスクの低減を図る取り組みも始まっています。
このような衝突可能性などのリスク評価やスペースデブリを回収する際に重要なのが、宇宙状況把握(SSA:Space Situational Awareness)です。本記事では、SSAの概要・運用システム・国内外の事例・各種課題について、まとめて解説します。
▼本記事の前提知識となるスペースデブリやコンステレーションについて知りたい方は以下の記事をご覧ください。
深刻化する「宇宙ごみ」問題〜スペースデブリの現状と今後の対策、各国の動向と活躍する民間企業〜
通信衛星コンステレーションビジネスとは~参入企業、市場規模、課題と展望~
SSA(宇宙状況把握)の概要
SSAの定義
まず、SSAの定義や内容について触れたいのですが、実は全世界共通の明文化された定義は今のところありません。少なくとも日本においては宇宙基本計画(令和5年6月13日 閣議決定)で「宇宙物体の位置や軌道等の情報を把握する宇宙状況把握」と定義しています。
また、国際宇宙航行アカデミー(IAA:International Academy of Astronautics)や米国の宇宙政策大統領令3号(SPD-3:Space Policy Directive 3)では次のように定義しています。
IAAの定義
「デブリやアクティブな衛星又は機能していない衛星などの宇宙物体の検出、追跡、識別及びカタログ化を行う技術的能力並びに宇宙天気を観測してマヌーバやその他のイベントのために宇宙機とペイロードをモニターする技術的能力」SPD-3上の定義
「安全で、安定的、持続可能な宇宙活動をサポートするための宇宙物体とその運用環境のナレッジと特性把握」引用:株式会社アストロスケール. ”令和元年度内外一体の経済成長戦略構築にかかる国際経済調査事業(宇宙状況把握データプラットフォーム形成に向けた各国動向調査)調査報告書”. p. 18,https://www.meti.go.jp/meti_lib/report/2019FY/000054.pdf,最終閲覧日2023-04-28.
これらの定義から分かることとしては、SSAとはマヌーバによる衝突回避などの判断や計画を行うために必要な宇宙物体の速度や姿勢といった軌道情報などのデータを観測することおよびその周辺技術のことを指すことが、共通した認識のようです。
SSAの周辺概念
SSAに関連した概念として宇宙領域把握(SDA:Space Domain Awareness)があります。こちらは宇宙基本計画(令和5年6月13日閣議決定)で「宇宙物体の運用・利用状況及びその意図や能力を把握する宇宙領域把握」と定義されています。
つまり、SDAとは取得した観測データを元に宇宙物体の分析を行い、製造者や運用者の意図などを推し測る行為を指すため、SSAの内側に含まれる概念となります。
なお、米国や英国では日本のSSAに相当する概念としてSDAを用いることもあるので、資料を読む際は注意が必要です。
また、SSAの概念に含まれるものとして、宇宙物体特性把握(SOC:Space Object Characterization)という言葉もあります。ここでいう物体特性とは、宇宙物体の形状やタンブリングのような複雑な回転運動などを指します。
さらに、宇宙交通管理(STM:Space Traffic Management)という考え方もあります。STMはいわゆる航空交通管理(ATM:Air Traffic Management)の宇宙版で、宇宙活動を管理するためのルールや規制、これに関連した技術のことを指します(画一的な定義は現在ありません)。
したがって、下図のように役割を適切に区別して理解・運用することが求められます。
注意点として、企業によっては同様の内容でも若干異なる呼称も見られるため、ドキュメントごとに、公開内容を精査する必要があります。
例)
・SB-SDA:space-based space domain awareness:アストロスケール社の公開記事より
・Si2:Space Information & Intelligence:NorthStar Earth & Space社のサービス名でSSAよりも上位の位置づけと見なしている
SSAの目的と役割
SSAの利用目的は宇宙物体の種類に応じて主に「宇宙空間の安全確保:スペースデブリや衛星などの監視」「防衛や安全保障関連:軍事衛星や他国の宇宙物体監視」「スペースガード(プラネタリー・ディフェンス):小惑星などの天体監視」の3つに分けられます。
以下、それぞれ説明します。
宇宙空間の安全確保:スペースデブリや衛星などの監視
宇宙空間には、破片から衛星・ロケットなどのパーツまで大小さまざまなスペースデブリや運用中の衛星などが多数飛び交っており、極めて危険です。
そのため、毎日のようにどこかでデブリ同士が衝突したり、衛星同士が衝突しそうになり、回避行動を取るなどの対応をしています。
対応するためには、レーダや望遠鏡などを駆使して宇宙物体を捕捉し、その軌道情報や位置情報を元に軌道予測や宇宙物体同士の接近予測が必要です。
この際、宇宙条約や各国の法律に基づいて管理されている衛星情報と観測データを照らし合わせながら、衝突警告や軌道計画の修正などのやり取りを運用者同士で行います。
これにより、運用される衛星は安全を保ちながら、それぞれのミッションを遂行できているのです。
防衛や安全保障関連:軍事衛星や他国の宇宙物体監視
衛星の情報は各国で管理されると上述しましたが、軍事衛星など必ずしも他国に公開されない情報もあります。
特に静止軌道(GEO)上では、赤外線センサによるミサイル発射検知などの軍事目的で利用される衛星が運用されており、相手国の衛星の位置情報や活動状況を把握することが非常に重要です。
例として、米軍のSBIRS(Space Based Infrared System)やNextGen OPIR(Next Generation Overhead Persistent Infrared)が挙げられます。
そのため、監視ネットワークを整備したり、同盟国との情報の交換をするなどしてSSAシステムを構築することで、可能な限り全ての宇宙物体を把握する必要が生まれてきます。
スペースガード(プラネタリー・ディフェンス):小惑星などの天体監視
隕石や地球接近小惑星などの天体の地球衝突を扱い災害を防ぐ活動をスペースガードまたはプラネタリー・ディフェンス(地球防衛)と言います。SSAを活用して地球に接近する天体を検知し、衝突の危機を回避することを目的とします。
小惑星に探査機を体当たりさせて軌道をずらすDART計画を代表とした米国や欧州の活動が盛んですが、日本でも日本スペースガード協会が小惑星観測や天体の地球衝突に関するアウトリーチ活動を行っています。
またJAXAではプラネタリー・ディフェンスを目的の一部とした「深宇宙コンステレーションによる小天体超マルチフライバイ構想」という研究がなされています。
研究分野においては、国内ではプラネタリーディフェンス・シンポジウム(スペースガード研究会)やPlanetary Defense Conferenceなどで発表・議論されているので、気になる方は調べてみてください。
2.SSAの運用システム
運用システムの概要
次は、SSAを構成するシステムについて説明します。SSAにより宇宙物体を捉えるといっても、それらが分布する高度や大きさなどによって利用する観測機器(①観測システム)が異なります。
そのため、多くの軌道に点在する宇宙物体を網羅的に把握するために、全世界に点在するレーダや光学望遠鏡などを複数台同時に運用して観測を行っています。
また、観測データを解析して接近警告やマヌーバなどの回避計画を提案するソフトウェアやAPIなどの②解析システムも必要です。官民問わずサービスによっては、③解析結果を公開するプラットフォームも運用システムに含まれる場合もあるため、こちらも合わせて解説します。
運用システムの機能と特徴
観測システム
▼レーダ(LEO)
高度200~1,000kmのLEOの宇宙物体(スペースデブリ、小型衛星、地球観測衛星など)を観測する際に使用します。LEOに存在する宇宙物体は一日に何周も地球を周回するため、地上の一地点から常に観測ができるわけではありません。そのため、限られた時間で、可能な限り多くの情報を得る必要があります。
そのようなニーズを満たす観測システムとして、レーダは、天候や日光にも影響されないため、LEOの観測に適しているといえます。しかし、システムやメンテナンスは高価かつ複雑になるため、ミサイル発射の検知システムと併用する形でSSAシステムに組み込まれることが一般的です。
レーダの例として、岡山県の上齋原スペースガードセンター、山口県のディープ・スペース・レーダ、LeoLabsのSバンドレーダ、米軍のSバンドレーダであるSpace Fenceなどが挙げられます。
▼地上設置型光学システム(GEOなど)
天文愛好家が利用する望遠鏡から米国宇宙監視ネットワーク(SSN:Space Surveillance Network)を代表とする高性能なシステムも含めて最もメジャーな観測手段です。
光学センサにより物体の明るさを検出することで追跡や検出を行い、他手法に比べコストが低いのが特徴です。
デメリットは、昼間や悪天候時は観測が出来ない点です。なお、赤外線センサを利用すると昼までも撮影可能な場合もあります(参考)。
光学センサで撮像した画像の特徴として、宇宙物体の移動を筋という形で確認することができます。このとき物体の方位角・仰角や明るさを把握できます(より高度なセンサだと宇宙物体特性把握(SOC)も可能)が、物体までの高度や距離は分かりません。
ExoAnalyticsが撮像した2019年4月のIntelsat Epic 29の異常発生時の様子
観測対象は用途にもよりますが、静止軌道(GEO)上の衛星が中心です。特にGEO上に多いとされる軍事的価値の高い衛星は24時間365日状況を把握する必要があるため、高度なSSAシステムによって日夜監視されています。
▼宇宙設置型光学システム(GEOなど)
宇宙設置型つまり主に監視衛星による宇宙物体の観測になります。地上設置型と比べて雲・大気や太陽光の影響をかなり受けにくくなるメリットがあります。
また、宇宙物体との距離が近いため、より明瞭な情報が期待できます。一例として、MAXARのHPにはロケットのPAFリング(衛星分離部)を高精細に捉えた画像が掲載されています。
なお、デメリットとしてはSSAシステム構築コストが大きい点、観測対象が太陽に照らされる必要がある点です。
宇宙設置型光学システムを保有している例として、米国の宇宙ベースの監視衛星(SBSS:Space-based surveillance satellite)、Geosynchronous SSA Program(GSSAP)衛星やカナダのSapphire衛星およびNEOSSat衛星が挙げられます。
他には、オーストラリアのHEO Roboticsは、軌道上の既存の衛星を利用した観測サービスの提供も行っています。
▼電波望遠鏡(GEOなど)
電波天文センサを利用して対象の衛星が発する電波の時間変化や周波数変化などから対象との距離を割り出し軌道決定に適用するシステムです。
対象の発信電波が必須で、運用中の衛星かつ、対象側の協力が必要ですが、短時間での軌道正確性の向上が見込めるため、SSA の省力化、効率化手段として注目を浴びています。
Kratos 社、ComSpOC 社、L3Harris 社が既に採用しています。
▼宇宙天気モニタリング
ESAの定義では宇宙天気は「太陽と太陽風による地球の磁気圏、電離層、熱圏の環境条件で、宇宙や地上のシステムやサービスの機能や信頼性に影響を与えたり、財産や人の健康に危険を及ぼす可能性があるもの 」を指し、衛星やセンサ系など電子機器の損傷・無線周波数干渉などの悪影響を与えます。
これだけでなく地上インフラや人体にも放射線や地磁気活動の影響が及ぶため、宇宙天気の把握は非常に重要です。
宇宙天気は、どちらかというとSSAの判断に利用される材料という位置づけですが、本記事では、重要な要素として紹介しています。
宇宙天気予報として、米国海洋大気庁NOAAがX線・紫外線などのデータを元に地磁気活動(Kpインデックス)や太陽放射指数(S1-5)などの指標を開発。日本も含め全世界に情報提供を行っています。
SSAに関係する部分としては、強力な磁気嵐が発生した際に、マヌーバなどの軌道修正により大量の宇宙船の曝露を防ぐために利用されます。宇宙物体同士だけではなく、環境も監視すべき要因となります。
▼その他
他にも、LiDARのようなレーザー測距による観測、衛星のテレメトリによる解析などがあります。以上の観測システムは、宇宙物体の大きさ・軌道・開発 / 運用コストなどを鑑みて使い分けられ、併用しながら網羅的に利用されます。
解析システム
観測したデータや後述するTLEなどの公開情報を元に、軌道決定や宇宙物体のカタログ作成から衝突リスクの評価・軌道修正の提案までを各企業・機関の開発する解析システム内で一貫して行います。サービスによって内容は異なりますが、主に次のような解析を行っています。
・接近評価
・スクリーニング
・マヌーバ評価
・衝突リスク評価
・ライトカーブ分析
・再突入分析
・End of Life評価
・ランデブー解析
各社が提供するサービスについては5章で後述します。
情報プラットフォーム
解析システムから制作された宇宙物体のカタログや一部の軌道情報は各種サイトで公開・提供されています。代表的なものを一部紹介します。
▼space-track.org
米軍の連合宇宙運用センター(Combined Space Operations Center:CSpOC)が直近のTLE(Two-line element)などを提供するサイトです。
アカウント登録をすれば、宇宙物体のTLE情報などを取得できるほか過去に打ち上げた衛星などの運用状況、打ち上げ情報の統計データなども閲覧可能です。
データの再配布が行われるcelestrak.orgと併せて最も広く利用されているサイトです。
提供されるデータには3段階に分けられており、登録すれば誰でも利用できるBasic、特定のニーズを持つ顧客向けに提供するEmergency、SSA データ共有協定締結者のみに提供されるAdvancedがあり、提供されるデータの内容が異なります。
また、ISSや有人機の情報に関してもspace-track.orgから情報を取得可能です。
宙畑メモ:TLEと状態ベクトル地球周回衛星の人工衛星(の中でも特に高度が低いものを中心に)の軌道を表すデータフォーマットとして、2行軌道要素形式(Two-Line Elements: TLE)というものがあります。これにより軌道6要素や識別番号などを知ることができます。
TLEの詳しい読み方を知りたい方や実際に解析したい方は以下の記事がおすすめです。
Pythonを使って人工衛星の軌道を表現する~軌道6要素、TLE~
しかし、TLEだけでは正確な軌道解析は難しいとされており、そこで状態ベクトルという情報が必要になります。状態ベクトルは位置、速度、その共分散の情報を含んでおり、衝突リスクの評価の精度などに非常に大きく影響する情報です。しかし、一般には状態ベクトルを含んだ情報は提供されておらず、取得するためには自前の観測システムや他のサービスを利用する必要があります。
▼Astriagraph
テキサス大学オースティン校の研究グループが開発した宇宙物体の監視を目的としたプラットフォームです。下図のようにTLEに近い情報が掲載され簡単に閲覧できます。こちらからデータベースの利用や自社が保有する衛星情報の投稿も可能になっています。
▼Satellite Dashboard
Satellite DashboardはSecure World Foundation(SWF)、Center for Strategic and International Studies(CSIS)、テキサス大学オースティン校の航空宇宙工学・工学機械学科の共同研究で制作されたサイトです。専門性の高いSSA情報をメディアや政策立案者向けに分かりやすく提供しようというポリシーのもと開発されました。
CSpOCや商用プロバイダーなどの提供データを元に、軌道情報や接近解析に限らず、宇宙物体(衛星)の用途は何か、打上げ国から製造者までステークホルダーなどの情報まで広く記載されています。
他にも、NASAのThe Crustal Dynamics Data Information System (CDDIS) 、LeoLabs社のLow Earth Orbit Visualization、Privateer Space社のWayfinderなど様々なサービスが提供されています。
これまででSSAの概要について触れたので、以降は各国のSSAの取り組みなどに触れていきます。
3.海外のSSAの状況
主要国のSSAの取り組み
米国の取り組み
▼米国政府の取り組み
米国はSSAに関して最も進んでおり、軍や民間企業など幅広いサービスやTLEなどの情報を提供しており、世界の衛星運用の中心を担っています。
米国家安全保障宇宙戦略(NSSS:National Security Space Strategy)を4年ごとに更新しており、2018年には「米国は、基本的な宇宙能力を改善し、状況認識、インテリジェンス、取得プロセスの改善を通じて効果的な宇宙運用を確保する。」とSSA能力強化に言及するなど積極的な姿勢を見せています。
Five-Eyes国家をはじめとした国家間の連携も広く行っており、25か国とのSSAデータ共有や観測ネットワークの構築を行っています。2023年現在では米国とペルーのSSAに関する協定の締結が記憶に新しいです。
設備面について、アメリカを代表するのが米国宇宙監視ネットワーク(SSN:Space Surveillance Network)です。
米国国防総省(米国DoD:Department of Defense)の宇宙統合軍(USSPACECOM)の管理下に置かれ、地上設置型レーダ・光学望遠鏡、SSA衛星など約30のセンサで構成されています。
SSNのセンサは専門センサ(SSAミッション専用のセンサ)、付随センサ(主要ミッションは別で、SSA利用は副次的なセンサ)、貢献センサ(同左)に分けられ、様々な用途やレベルに合わせた運用を行っています。
SSNは宇宙ベースの設備も揃っており、宇宙設置型宇宙監視(SBSS:Space-Based Space Surveillance)衛星、静止軌道空間状況認識プログラム(GSSAP:Geosynchronous Space Situational Awareness Program)衛星、先端技術リスク低減(ATRR:Advanced Technology Risk Reduction)衛星、カナダのSapphire衛星や各国の衛星観測データの共有などによる時間や天候に影響されない高い情報収集能力を有しています。
特にGSSAP衛星は2023年現在6基運用中で、SSA専用センサとしてGEO付近の軌道を監視する役割を担っています。2022年1月には、米国宇宙軍(USSF)の宇宙システム司令部(SSC)のミッションであるUSSF-8として2基打ち上げられています。
現在は、SSNを強化する目的でSバンドレーダSpace Fenceや宇宙監視望遠鏡(SST:Space Surveillance Telescope)を新たに導入しています。
Space Fence(施設の具体的な説明はこちら)は2014年からLockheed Martinにより開発・製造され、第18宇宙管制飛行隊(18SPCS:18th Space Control Squadron)の運用下で2020 年にクェゼリン環礁に配備、2021年に第二拠点に配備されています。
Space Fenceの導入により公称直径1〜2cm以上の宇宙物体を200,000個以上捕捉可能になりました。
SSTは、米国国防高等研究計画局(DARPA:Defense Advanced Research Project Agency)の支援を受けて開発された西オーストラリアの海軍通信局ハロルドE.ホルトズに配置された電子光学望遠鏡です。
11.5フィートの開口部を備えた3つの反射鏡の光学設計を有するため、視野(FOV:Field of View)が従来よりも非常に広く深宇宙の物体まで高感度、高速、広範囲の探索が可能であるのが特徴です。
SSNの観測データは、18SPCSの連合宇宙運用センター(CSpOC:Combined Space Operations Center)に送付され、Astrodynamic Support Workstation(ASW)による計算や、SPADOC Emulation Analysis Risk Reduction(SPEARR)というエミュレート(他のシステムの機能を再現)されたデータ環境、CAVEnetのASWソフトウェアスイート(ソフトウェアパッケージ)によるコマンド、分析や検証などを行うミッション・サポート・システムを通じて処理されています。
処理されたデータは、SpaceTrack公開カタログとして公開され、ユーザーに届けられます。
その他、データリポジトリとして統合データ・ライブラリー(Unified Data Library)、米国商務省OADR(オープン・アーキテクチャー・データリポジトリ) 、Traffic Coordination System for SpaceやSSA データマーケットプレイスなど政府や協力国にのみ開示されるものから衛星運用者への無料配布を想定したものなど多数の媒体を通じたデータの提供体制は充実しています。
その他、国防総省の宇宙開発機構(SDA:Space Development Agency )による国防宇宙アーキテクチャー(NDSA:National Defense Space Architecture)と呼ばれる7層レイヤーを有するミサイル検知など監視能力強化を衛星コンステレーションにて構築する計画も存在します。
▼NASAの取り組み
NASAでは、ゴダード宇宙飛行センターの接近評価リスク分析(CARA:Conjunction Assessment Risk Analysis)センター、ジョンソン宇宙センターの宇宙材料研究・探査科学部門の軌道デブリ・プログラム・オフィス(ODPO:Orbital Debris Program Office)でそれぞれ研究がおこなわれています。
CARAでは、SSNの観測データなどを利用した分析や衝突リスク評価などを行っています。ODPOでは、軌道環境の測定、デブリの影響の研究を行っており、ソフトウェアのモデリングから軌道デブリに関するレポートを発行しています。
また、ODPOはマサチューセッツ州のヘイスタック超広帯域衛星画像レーダ(HUSIR:Haystack Ultrawideband Satellite Imaging Radar)とカリフォルニア州のGoldstone Solar System Radarを利用しながら研究しており、直径3mm~10cmまでの微小デブリを追跡しています。
▼ 気象局宇宙天気予報センター(NWS SWPC)の取り組み
気象局宇宙天気予報センター(NWS SWPC)はNOAAに属する宇宙天気指標などを取り扱う機関で、各機関の宇宙天気の一次情報のソースとして活用されることがあります。
各種地球観測衛星(GOES、JPSS、DSCOVR 等)や世界各地の磁力計ネットワーク等を配備しており、各種宇宙天気予報、宇宙天気観測データ、レポート、モデル、サマリ、アラート等を提供しています。
その他、テキストや画像のみの情報入手も可能で、X線フラックスや磁気嵐の警告などのサブスクリプションサービスも提供しています。
▼学術機関の取り組み
SSAに強い米国の大学は、フロリダのエンブリーリドル航空大学(Embry Riddle Aeronautical University)、テキサス大学オースティン校(UT Austin)が挙げられます。
特にオースティン校は、宇宙物体の監視を目的としたプラットフォームAstriagraphの運用や宇宙物体の特性評価、衛星の初期軌道決定、宇宙物体の分裂の追跡などの研究を行っています。
より広く詳しく知りたい方は、各機関のHPに加えて、米軍の参謀本部長の指揮の下に作成された報告書である宇宙作戦に関する共同刊行物3-14(JP 3-14:Joint Publication 3-14 on Space Operations、最終更新2020年)、Secure World Foundationや戦略国際問題研究センター(CSIS:Center for Strategic and International Studies)が発行する資料などをご覧ください。
欧州の取り組み
EUのSSAへの取り組みは大きく分けて①国家単位、②EUSST support Framework、③ESA SSA Programmeの3つに分けられます。本項では、国家間の連携の枠組みが他国に比べて大きい②③に注目して説明します。
▼EUSST support Framework
EUSST support Frameworkは2014年に設立されたEU独自の宇宙監視・追跡(SST:Space Surveillance and Tracking)プログラムです。2015年には同コンソーシアムも設立されています。
加盟国は、ドイツ、フランス、スペイン、イタリア、英国、ルーマニア、ポルトガル及びポーランドで、2022年10月にオーストリア、チェコ共和国、デンマーク、フィンランド、ギリシャ、ラトビア、オランダ、スウェーデンを含む15か国です。
主な目的は、長期的に利用可能なヨーロッパ全体の宇宙インフラや設備を構築することで、活動として宇宙物体の衝突回避、再突入、破裂に関する解析サービスの提供を行います。
また、EUSST加盟国で連携して、SSAに向けたサポートフレームワークを次のように構築しています。
• センサネットワーク
加盟国が保有する宇宙物体を調査および追跡用の地上設備や宇宙ベースのセンサを包括したセンサネットワーク
• データ処理
国家レベルでSSTデータを処理・分析し、EUSSTで共有できるSST情報及びサービスを生成するデータ処理
• ユーザーへのサービス提供
観測データを元に衝突回避(CA)、再突入(RE)、破裂(FG)などの宇宙物体の情報をユーザーへSSTサービスとして提供する機能
• SST協力
各国の宇宙機関が運用する国家SSTサービスとEUSST間の協力
例)CCO(フランス)、GSSAC(ドイツ)、ISOC(イタリア)、S3TOC(スペイン)、UKSpOC(英国)など
EU SSTでは、5個の監視レーダ、 7個の追跡レーダ、 4個のレーザーステーション 、35個の光学望遠鏡によるセンサネットワークを構築しています。
上記のネットワークで収集されたデータやCSPoCなど外部のデータを欧州のユーザーに提供しています。
また、自身が保有する衛星が別の衛星と衝突する可能性がある場合、EU SST Portalを通じてEU SSTオペレーションセンター(OC)の調整と支援を受けながら、軌道修正による回避行動など提案された行動や勧告を専用チャンネルで話し合うことができます。
更に詳しい内容はこちらのページのPresentationでご確認ください。
▼ESA SSA Programme
ESA SSA Programmeは2009年から開始した欧州の宇宙機関ESAが提供する欧州内での包括的なSSAに関する枠組みです。
EU内の加盟国が宇宙インフラを構築する目的で各国が保有するデータやサービスを共有するEUSST support Frameworkとは違い、技術開発に焦点を置いた参加が任意のプログラムでSSAに関する取り組みの実施レベルは各国の政策に依存します。
2017〜2020年時点の参加国は、オーストリア、フランス、スウェーデン、ポルトガル、ベルギー、ドイツ、オランダ、ルーマニア、チェコ共和国、ギリシャ、ノルウェー、イギリス、デンマーク、イタリア、ポーランド、スイス、フィンランド、ルクセンブルク、スペインです。
活動内容は、主に宇宙天気の観測、近地球物体(NEO)の検出、デブリや衛星などの監視です。その中でも特にESAはSSTをサポートするハードウェア、ソフトウェアやネットワークなどの研究開発を行っており、技術標準化やSSTソフトウェアの統合とテストに力を入れています。
このコアとなるソフトウェアには、バックエンド処理とフロントエンドサービスの両方が含まれており、コアソフトウェアは、宇宙物体のカタログを構成するプロセスにおいて以下の2つの段階で機能する仕組みとなっています。
• カタログの保守
観測計画、データ処理、カタログ更新
• サービスレイヤー
カタログを照会して、接近予測や再突入予測などのフロントエンドサービスを実行するサービス引用:株式会社アストロスケール. ”令和元年度内外一体の経済成長戦略構築にかかる国際経済調査事業(宇宙状況把握データプラットフォーム形成に向けた各国動向調査)調査報告書”. p. 73,https://www.meti.go.jp/meti_lib/report/2019FY/000054.pdf,最終閲覧日2023-05-15.
特にDeimos社、GMV社は宇宙物体のカタログ化、衝突回避、再突入予測などSSTのサービスを計画及び処理するソフトウェアの開発を行うなどSSTに積極的な姿勢を見せています。
中国の取り組み
中国のSSAに関する直接的な公開情報は少ないですが、設備や政策から読み取れることがあります。2016年の宇宙政策白書には、「スペースデブリ・データベース」を強化する計画としてデータ共有モデル・宇宙環境監視システムの改善に言及しています。
中国国家航天局(CNSA)は2015年に軌道上の宇宙船保護を目的としたスペースデブリ監視応用センター(空间碎片监与应用中心)を中国科学院国立天文台に設立しました。国防科学技術局(SASTIND)と中国科学院(CAS)が管理を行っており、国内の既存の観測設備を利用しながら、独自の監視ネットワークの構築を想定しています。
例えば、CASが運用する紫金山天文台(PMO)には5台の光学望遠鏡を保有し、SSAのサポートとして海洋ベースの船が運用されています。
また、2018年に大口径宇宙望遠鏡、赤外線センサ、レーダを備えた宇宙デブリ監視基地(空片监督基地)を中国西部の新疆省に建設することを発表しています。2019年には平和利用を目的としたアルゼンチンのパタゴニアにアンテナが設置されました。
その他、設備に関する話は、2022年時点でのSSA能力に関する概要が北京航空航天大学の資料に掲載されているので、興味のある方はご覧ください。米国宇宙軍Space Systems Command (SSC)の資料には、中国の保有する設備マップが記載されています。
技術的な側面で見ると、中国の宇宙ステーション天宮-1の再突入に関する非常に正確な予測を行っているとの見込みがあり(参考p41)、軌道予測などSSAに重要な要素を高いレベルで保有していることになります。
また、予測や監視だけでなくキラー衛星・ストーカー衛星など対衛星兵器の実験を数多く実施していることから、総合的な地力は非常に高いといえます。
加えて、アジア太平洋地域地上ベース光学宇宙物体観測システム(APOSOS:Asia-Pacific Ground-based Optical Space Objects Observation System)の主導国として、加盟国を含んだ独自の宇宙物体のカタログを保有している可能性があります。
その他、2021年度中国宇宙白書では、「BRICS協力メカニズム、上海協力機構(SCO)の枠組み、およびG20協力メカニズムの下での宇宙協力を重視する」と述べているように中国を中心とした宇宙協力の枠組みを積極的に拡大する動きがよく見られます。
ロシアの取り組み
ロシアは米国に次ぐSSAシステムが整備された国と言われています。SSAシステムはミサイルの発射検知など軍事目的にも利用できるため、軍が整備した既存設備の存在が大きいです。
モスクワを防御するための対弾道ミサイル(ABM)システムの一部でもあるロシア宇宙監視システム(RSSS:Russian Space Surveillance System)が代表的な例です。
これは3つのバイスタティック※・フェーズドアレイレーダと1つの4面フェーズドアレイレーダを含むロシア領土内外にある地上SSAレーダ及び光学センサのネットワークとなっています。
※バイスタティック:送信機と受信機の間に距離を置いて設置する形式
その他、代表的なSSA関連設備は、タジキスタンのつの光電子望遠鏡で構成されるOkno-Mシステム、Kronaレーダ、Kalina(レーザーサイト)、Pristel(電波センサ)などです。
一方で、ロシアの宇宙機関ROSCOSMOSでも光学望遠鏡などのSSA設備を多数保有しており、LEO付近の宇宙物体を自動で監視するASPOSOKP(Automated Warning System on Hazardous Situations in Outer Space)というシステムも2016年から運用しています。
ASPOSOKPは現在Milky Wayという名称で呼ばれています。Milky Wayは65台の望遠鏡を設置し(2023年現在36台)プラネタリーディフェンス目的も含んだSSA能力の強化を図っています。
その一環として、2027年までにLEO周辺のスペースデブリ監視用衛星を計画しています。
加えて、2019年に南アフリカ、メキシコ、チリに光学モニタリングステーションの配備を発表しています。南アフリカにPanEOS Station(アンテナ)を建設していますが、まだ完成はしていないようです。
その他、2017年にブラジルのピコ・ドス・ディアス天文台に初の専門監視施設を配備をしており、中国同様BRICS間の宇宙協力の動きが活発になっています。
ロシア国内の組織については、外務省やロシア科学アカデミー(RAS:Russian Academy of Sciences)など、ロシア連邦全体の科学研究機関のネットワークの一部である国際科学光学ネットワーク(ISON:International Scientific Optical Network)の専門知識もSSAシステムに貢献しています。
これらの機関は、SSA関連の宇宙政策、国際協力、国際機関間スペースデブリ調整委員会(IADC:Inter-Agency Space Debris Coordination Committee)へのデータ共有の発展に寄与しています。
民間企業については、ロシア衛星通信会社(RACC:Russian Satellite Communications Company)やガスプロム・スペースシステムズ(Gazprom Space Systems)が宇宙物体の軌道暦(OEM:Orbit Ephemeris Message)を世界の商業宇宙SSAコンソーシアムと共有しているという記述が2020年2月時点ではあります。
しかし、ロシアウクライナ戦争によるロシアへの制裁措置や取引停止の影響で各種運用計画に影響が生じており、2023年7月時点での正確な運用状況は不明となっています。
国際的な協力や競争の状況
国際的な連携や枠組みについては多岐にわたるため、一部抜粋して取り上げます。
APSCO
2008年に発足したアジア太平洋宇宙協力機構(APSCO :Asia-Pacific Space Cooperation Organization)のうちスペースデブリなど宇宙物体の追跡などを目的にしたプロジェクトです。米国のSSNのような観測ネットワークを加盟国で構築、観測データの情報共有、技術トレーニングなどSSAに関する情報を扱います。(参考)
2023年現在の加盟国は中国、トルコ、モンゴル、タイ、パキスタン、ペルー、イラン、バングラデシュの8か国です。中国とトルコがリーダー国的な役割を果たし、中国は特にAPSCO2030の開発ビジョン策定のサポートを行うなど主体的に活動しています。
保有する設備では、2020年時点でLEO(1000km)で直径10㎝相当を検出可能とされています。(参考)
ISON
ロシア科学アカデミー(RAS)が2004年に設立した国際科学光学ネットワーク(ISON:International Scientific Optical Network)は、オープンボランティア宇宙物体観測プロジェクトです。
4つのセグメントに分かれており、非商用のケルディシュ応用数学研究所(KIAM:Keldysh Institute of Applied Mathematics)、Roscosmos、Vimpel、商用のGMV社によるセグメントで構成されます。
17か国43か所100機の光学望遠鏡を用いてGEOを中心とした宇宙領域の観測データを望遠鏡保有者から KIAM ballistic center に送付し、処理されるデータを宇宙状況の分析に利用する仕組みです。
活動内容は、主にGEO領域のモニタリング、モルニヤ軌道の調査、静止トランスファー軌道(GEO:Geostationary Transfer Orbit)、高軌道(HEO:High Earth orbit)、LEOの宇宙物体の追跡です。
観測データから宇宙物体の物理特性決定、HEOの汚染度推定、デブリの運動モデルの改善、衝突リスク分析を行います。
2023年1月に小惑星の通過に関する報道をしているのが、2023年7月現在の最新動向です。
SDA
2009年に発足したスペースデータアソシエーション(SDA:Space Data Association)は、Exective memberであるSES社、INTELSAT社、inmarsat社、eutelsat社を筆頭に日本からは2023年2月にスカパーJSATが加盟するなど、世界各国の衛星事業者が集まる非営利社団です。
主な目的は、衛星と軌道レジーム(LEOなど運用している軌道に相当)の長期的な生存可能性と維持、衝突予測の精度向上、データ共有の機会の活用としており、会員が培った運用データの共有、運用の直接支援、運用の保全性に対する技術支援、運用コストの分散などを活動内容としています。
運用システムは、旧AGI社 (Analytical Graphics, Inc. )(現在Ansys社に買収)が管理するSpace Data Center(SDC)を利用しています。
会員が提供する軌道暦から統合されたマヌーバ情報と公開カタログのTLEおよびSP(特殊摂動)データを融合することで、衝突回避、電波干渉の回避、接近情報の提供を中心に行っています。
また、AWSを利用して共有データの冗長性、安全性や暗号化など情報セキュリティを担保した運用をしています。
SDAの特徴的な点は、将来的にCSpOCが公開するような軌道情報に依存しない独自のカタログを作成しようと試みている点です。
というのも、CSpOCが現在提供するTLEなどの軌道情報は、衝突確率の計算に必要な共分散情報の不足、物体のサイズ情報の不足、情報の提供頻度不足など高精度な解析を行う上での情報が足りていません。
そのため、有事の際や政治状況の変化を想定した冗長性を有するSSAデータ供給システムの構築を目指している背景があります。
Five-Eyes国家
Five-Eyes国家とは、アングロサクソン系の英語圏5カ国(英、米、カナダ、オーストラリア、ニュージーランド)によるUKUSA協定に基づく機密情報共有の枠組みのことです。
加盟国のSIGINT(signals intelligence:通信・電磁波・信号などの傍受による諜報活動のこと)設備や盗聴情報を相互または共同で利用する活動で、米国を中心とした加盟国で共同運営する通信傍受システムをエシュロン(Echelon)といいます。
通信の対象は、加盟国以外のあらゆる通信を対象としています。
では、どのようにしてSSAがFive-Eyesの活動に活用されるのでしょうか。
米国において、宇宙開発庁(SDA:Space Development Agency)が宇宙センサ層(SSL:Space Sensor Layer)というLEOから深宇宙まで視野に入れた多層的な宇宙安全保障システムを検討しています。
これは小型衛星コンステレーションを介した通信・偵察、ミサイル追尾、SSAなどの機能を全て1つの宇宙空間アーキテクチャに統合する計画に基づきます。
このシステムが確立すれば、宇宙空間での高速通信ネットワーク、ミサイルなどの飛翔物の全球的な検知・追跡・警報など宇宙空間を利用した防衛・開発における冗長性を有した統合システムが実現します。
このシステムにおいて、宇宙物体に関する情報をより正確により速く知る必要があるため、Five-Eyes国家では共同で実験や各種システムの構築を急いでいます。
その一環として、Phantom Echoesという英国DSTLとの共同実験が2020年2月に実施されました。準静止軌道におけるNorthrop Grumman社のMission Extension Vehicle(MEV)衛星とIntelsatI-901のランデブーを地上の望遠鏡と宇宙ベースのセンサで観測し、2機以上の物体が相互作用(ランデブー、分離など)する宇宙物体のカタログを作成することが目的です。
特にGTO / HEOといった深宇宙におけるカタログをSSAセンサやその処理機能を利用してどの程度作成できるか、SSAシステムの長所短所を把握することが焦点に当てられています。
また、実験は成功しており、2機の衛星がランデブーしている様子が追跡されていることが分かります。
Check out these captures using Canada’s NEOSSat and Sapphire satellites, as we assist in tracking the in-orbit docking experiment of the Northrop Grumman MEV-1 with Intelsat 901 in support of our Five-Eyes partner nations and the Phantom Echoes team. pic.twitter.com/3pp4JwBzJR
— Canadian Armed Forces (@CanadianForces) February 10, 2020
日本についても、SSAや量子通信衛星など宇宙領域に関する先進技術の活用においてFive-Eyes国家のパートナー国あるいは6か国目としての参画を期待されています。
2020年7月の英保守党の中国研究グループ(CRG)のセミナーで河野防衛相(当時)はFive-Eyes国家との連携を強化する考えを明らかにし、同年12月には「Five-Eyes国家とのインテリジェンスを含む情報に関する協力を一層強化する」との姿勢を再度示しています。
これに対して、英国側もこれを歓迎する意向を示す一方で、米国は「第三国との協力は情報共有の枠組みの堅牢性に影響を与えかねない」と慎重な姿勢も見られます。
日本は法整備や外国情報機関を持たないなどの課題から参加への見通しが立っていない状況です。
しかし、通常Five-Eyes国家のみが参加可能なシュリーバー演習に参加することが出来ているなどパートナー国としての役割に期待できる部分もあります。
そのため、日本の技術養成、人材育成そして協力実績を少しずつ積み上げて行く必要があります。
4.国内のSSAの状況
防衛省の関与と目的
SSAの目的でも述べたように他国の衛星を監視することは安全保障上不可欠です。防衛省も令和4年版防衛白書で次のように述べています。
平素から、宇宙・サイバー・電磁波の領域において、自衛隊の活動を妨げる行為を未然に防止するため、常時継続的に監視し、関連する情報の収集・分析を行うとともに、かかる行為の発生時には、速やかに事象を特定し、被害の局限、被害復旧などを迅速に行う。また、わが国への攻撃に際しては、こうした対応に加え、宇宙・サイバー・電磁波の領域を活用して攻撃を阻止・排除する。
さらに、社会全般が宇宙空間やサイバー空間、また、電磁波の利用への依存を高めていく傾向などを踏まえ、関係機関との適切な連携・役割分担のもと、政府全体としての総合的な取組に寄与する。
近年、防衛分野に限らず人工衛星による通信・測位や衛星データの利用が加速しています。
その中でも、宇宙空間を「戦闘領域」や「作戦領域」と位置づけ軍事的優位性を確保するためにC4ISR(Command, Control, Communications, Computers, Intelligence, Surveillance and Reconnaissanceの略)機能の強化などを目的とした開発が各国で進んでいます。
他方で、ASAT(Anti Satellite Weapon)を代表とする破壊活動やジャミングなどの妨害工作により他国の宇宙活動を妨げる動向も見受けられます。
以上のように、安全保障上の観点からSSAにより常時把握することが求められるようになりました。
防衛省が推進するSSA関連の取り組み
同資料では、人工衛星を活用した情報収集や指揮統制・情報通信能力の強化や宇宙状況の監視などに加えて、以下の4つの項目を中期防衛力整備計画に基づき、取り組むとしています。
①宇宙状況監視(SSA)体制の構築
②宇宙領域を活用した情報収集、通信、測位などの各種能力の向上
③宇宙利用の優位を確保するための能力の強化
④関係機関や米国などの関係国との連携強化
①宇宙状況監視(SSA)体制の構築
防衛省は、2020年2月時点で防衛省の公開した資料にて2023年度以降のにSSAシステムの構築および運用を目指し、組織編制や観測システムの準備を行っていると表明していました。
実際に2023年3月16日に宇宙領域把握を開始し、米国との情報共有も始めました。
SSAを担当する組織として2020年に自衛隊初の宇宙部隊である宇宙作戦隊、2022年に宇宙作戦隊(第1宇宙作戦隊)の上級組織として宇宙作戦群を新編しました。
宇宙作戦群は、SSAシステムの運用を担う第1宇宙作戦隊(府中基地)の他に、衛星妨害状況把握装置の運用を担う第2宇宙作戦隊(防府北基地)および関連装備を維持・管理するの宇宙システム管理隊で構成されます。
また、観測システム強化に向けてJAXAの既存設備だけでなく、新しくディープスペースレーダを施工しており、静止軌道にあるXバンド通信衛星や2026年ごろ打ち上げ予定のSSA衛星(宇宙設置型光学望遠鏡)の監視に活用が期待されます。
②宇宙領域を活用した情報収集、通信、測位などの各種能力の向上
現在も既にみちびきやXバンド防衛通信衛星などを利用した情報収集、通信、測位が行われてきました。今後、C4ISR機能強化を目的とした各種システムの冗長化・データ取得に向けた整備が予定されています。
情報収集については、運用中のALOS-2衛星の画像やAIS(船舶自動識別装置)など地上センサも併用した継続的な取り組みを行います。
また、弾道ミサイルの発射検知や情報収集を目的とした防衛装備庁開発の衛星搭載型2波長赤外線センサ(参考)の開発が行われており、ALOS-3に搭載されて実証予定でしたが、2023年3月のH3ロケット打ち上げ失敗により影響が生じています。
衛星通信については、Xバンド通信衛星きらめき(現在2号機まで運用中、3号機の打ち上げ予定あり)が重要度の高い指揮統制などの情報通信目的で開発。運用されています。
3台体制で通信所要の増大への対応や抗たん性強化に向けて、調査研究を実施しています。
測位については、冗長性確保を目的としてGPSの他に2018年11月から運用開始した内閣府の準天頂衛星システムみちびきのサービスを開始しました。
これらを利用した複数の測位衛星信号による位置情報の冗長性は、民生品に限らず装備品にGPSを搭載することで、高精度の自己位置把握やミサイルの誘導精度向上に寄与します。
③宇宙利用の優位を確保するための能力の強化
人工衛星の抗たん性強化に向けて、キラー衛星やジャミング兵器などの対衛星兵器に対する対抗手段の確立が重要です。その一環として、電磁妨害状況把握装置の導入および電磁波領域と連携した相手方の指揮統制・情報通信の阻害能力の構築も検討されています。
また、防衛目的の衛星コンステレーションへの期待から2021年9月に防衛副大臣を議長とする「衛星コンステレーションに関するタスクフォース」を設置し、衛星コンステレーションを用いた宇宙からの赤外線観測による早期警戒などミサイルの探知、追尾を行う研究を推進しています。
④関係機関や米国などの関係国との連携強化
防衛省はJAXAや米国をはじめSSA運用に向けた協力体制やデータ共有の枠組みを整えています(参考)。2015年4月に「日米宇宙協力ワーキンググループ」(Space Cooperation Working Group:SCWG)を設置し、JAXAとは2017年よりSSAシステムの構築に向けた協力を締結(参考)をしており、政策の協議や人材育成を目的とした会合を実施しています。
その取り組みの一環として、米軍教育課程(Space100など)への派遣や多国間机上演習が実施されました。
演習では約10年後を想定した宇宙における各種状況への対応について戦略〜作戦レベルに至るまで幅広い議論を行うシュリーバー演習やSSA体制の構築に向けた知見獲得のためのグローバル・センチネル演習が行われています。
#航空自衛隊 #宇宙作戦群 は、米軍が主催する宇宙状況監視多国間机上演習「グローバル・センチネル」の一環として、参加9か国(🇺🇸🇨🇴🇬🇧🇩🇪🇫🇷🇪🇸🇹🇭🇬🇷🇺🇦)と共に、4月15日(土)、打上げロケット及び小型衛星を対象とし、各国と連携した宇宙空間の物体の追跡と宇宙物体把握の訓練を行いました。 pic.twitter.com/LpRmA4inac
— 航空自衛隊 宇宙作戦群 JASDF Space Operations Group (@JASDF_SSA) April 20, 2023
また、民間企業との提携に関しては、防衛省は2022年5月にLeoLabs社と契約を結び、同社サービスの提供を受けています。
LeoLabsが防衛省と契約。航空自衛隊へ低軌道上の衛星やデブリの監視・衝突回避サービスなどを提供開始【宇宙ビジネスニュース】
その他国内で推進されるSSA関連の取り組み
これまで、防衛省を中心とした安全保障が目的の取り組みが主でしたが、民間衛星やスペースガードに関連した取り組みも紹介します。
JAXAの取り組み
JAXAでは追跡ネットワーク技術センターがSSAの観測設備や解析システム(SAKURA:SsA Key technology Unified Research and Analysis systemの略)を運用しています(参考)。観測データとCSpOCが提供するデータなどを統合して宇宙物体のカタログ作成や監視を行っています。
また、SSAに関連した製品としてJAXAのスペースデブリ回避で獲得した知見をツール化したデブリ接近衝突確率に基づくリスク回避支援ツールRABBITが一般にも無料で公開されています。
今まで、CSpOCが発行する接近通知(CDM:Conjunction Data Management)から衛星の衝突可能性を知ることが出来ていましたが、どのような回避行動を実施すべきかについては高い専門性による計算が必要でした。
これがRABBITにより簡単に計算可能になり、運用計画の検討コストが低減されました。
他にも、軌道上の位置情報の正確な把握を目的とした衛星レーザ測距用の反射器「Mt.FUJI」の開発も行われており、HTV-Xに搭載され技術実証を行う予定です。CubeSat用のmini-Mt.FUJIも開発されており、e-kagakuが作製するe-kagaku ジュニア衛星に搭載されスペースデブリの軌道上実験に活用されます。
NICTの取り組み
NICT 宇宙天気予報センターでは、通信・放送インフラや宇宙システムの運用支援を目的とした地球周辺の宇宙環境のモニタリング情報を配信する宇宙天気予報を提供しています。
電離圏観測施設を国内 4 カ所に保有するほか、米海洋大気庁(NOAA)の観測データを中心に、国内外の政府機関、観測施設、大学等から収集されたデータを元に、宇宙天気に関する各種指標の現況や予報の提供、様々な観測データ、数値計算結果、及び予測モデル等の結果を予報担当が総合的に解析して日々サービス提供しています。
SSAにおいて宇宙天気の情報は、太陽フレアなど衛星への致命的なダメージを回避する際の判断などに活用されます。
スペースガードに関する取り組み
国内では主に日本スペースガード協会やスペースガード研究センターが地球接近小惑星やスペースデブリに関する観測、理論、実験等、 スペースガード全般について研究および普及活動を行っています。
日本スペースガード協会は美星スペースガードセンターの運用をJAXAから業務委託されており、運用が行われています。
民間企業の取り組み
本項では、SSAシステムに技術・データ提供などを行っている企業を一部紹介します。
▼Astorscale
AstorscaleはNorthStar Earth & Space社と2022年9月に戦略的パートナーシップを締結しました。
Astorscaleのスペースデブリ捕獲技術とNorthStar Earth & Space社のSSAシステムを活用して宇宙の持続可能性(スペースサステナビリティ)に貢献すると発表しています。
また、同社子会社のAstroscale UKはRaytheon NORSSとSJE Spaceとの共同プロジェクトにて英国防衛科学技術研究所(DSTL)から資金調達を行っています。
将来的なSSAミッションや技術の成長などの予測を目的とした技術レビューなどを実施予定です。
※記事内ではSB-SDA(space-based space domain awareness)と表記がありますが、SSAシステムと類似した内容となっています。
▼Axelspace
AxelspaceもNorthStar Earth & Space社と2023年1月にパートナーシップを締結して、AxelGlobe地球観測衛星「GRUS」を活用した衛星撮影データプロバイダーとして寄与することを発表しています。
地表を撮影する衛星で、宇宙空間や衛星の様子も把握。協業から始まったアクセルスペースの挑戦【宇宙状況認識(SSA)のいま】
5.国内外の企業によるSSAへの貢献
SSAに関連する事業に従事する企業は北アメリカ・欧州を中心に複数存在します。いくつかの企業を抜粋して取り上げ、その関連技術や製品について紹介します。
(日本)富士通・NEC社のSSA関連技術・製品
本項では、JAXAおよび防衛省のSSAシステム開発に携わる富士通とNECをまとめて紹介します。
富士通
富士通は、宇宙物体の観測データ処理や軌道解析に関するシステム開発と運用を担当しています。SSAシステムでは、宇宙物体観測計画の立案、宇宙物体の軌道決定、衛星への接近予測解析、再突入解析などを行うことが出来ます。
2022年4月に新たに開発されたスペースデブリの軌道を計算する解析システムが筑波宇宙センターで稼働を開始しました。(参考)
富士通が開発した新システムでは、定常的な作業の自動化や観測能力の向上に伴い従来の10倍に増加した宇宙物体を最大限観測するための最適な観測計画を作成するアルゴリズムを作成し、従来の50倍の処理能力を獲得しました。
これにより大量の観測データのリアルタイム処理により衝突確率や回避行動に必要な情報の提供を速やかに実施可能になりました。
NEC
旧AGI社(現在Ansys社に買収)が提供する商用製品をベースにNEC ComSpOC(Commercial Space Operations Center)というSSAシステムのプロトタイプを開発しています。
自社の衛星に対して、試験的に軌道解析や故障解析、接近データメッセージ(CDMs:Conjunction Data Messages)の発行や衝突回避マヌーバ(CAM:Collision Avoidance Maneuvers)に対する評価支援を実施しています。
加えてSSAシステムの試験運用も実施しており、宇宙状況の変化や異常検知に対する理解を深めるために宇宙物体の観測を行い、SSAシステム運用のノウハウ獲得やデータをNEC ComSpOCに蓄積しています。
両社が経産省委託で調査に携わり次世代のSSAシステムについて検討した資料が公開されています。気になる方はご覧ください。
令和2年度政府衛星データのオープン&フリー化及びデータ利活用環境整備・データ利用促進事業(民間事業者への宇宙状況把握サービス提供のためのプラットフォームの構築に向けたフィージビリティスタディ事業)
(日本)IHI社のSSA関連技術・製品
IHIは国内の民間企業で唯一宇宙物体の監視システム(IHI相生観測所の光学観測システム、富岡事業所)を保有し、気象衛星ひまわりなど静止軌道を対象とした観測やサービス提供を行っています。具体的には、
①「サーベイ・サービス」
②「物体位置・軌道情報提供サービス」
③「接近情報配信サービス」
以上のように宇宙物体のカタログ化から運用解析まで一貫したサービスを提供しています。
詳しくは、日経の記事で解説されていますので、そちらをご覧ください。
また、2017年にArianespace、2023年3月にNorthrop GrummanとSSAに関する協業を発表しています。
国内向けには、宇宙状況概況レポートの販売を2021年度に開始し、同年度に子会社のIHIエアロスペースが航空自衛隊とSSAデータサービス契約を締結しています。
(米国) Ansys社のSSA関連技術・製品
Ansys社は、1970年に設立した有限要素解析ソフトなどを扱う、米国のソフトウェア会社です。
2020年にSSA事業のキュレーションや分析などのサービスを提供するAnalytical Graphics社(AGI社)を買収しています。
続々と続く宇宙ベンチャーの買収 選択と集中で加速していく宇宙ビジネス【週刊宇宙ビジネスニュース 2020/10/26〜11/1】
以下では、旧AGI社の製品や取り組みを中心に説明します。
旧AGI社が保有する独自契約のセンサ、LEOを観測するレーダ2台、GEOを観測する望遠鏡約70台、RFアンテナなどで構成される観測ネットワークにより全世界の情報をデータ解析・データベース化して複数のプロダクトに落とし込んでいるのが強みです。
Systems Tool Kit(STK)は、衛星に限らず航空機、船舶や通信などの産業にも活用できる多数の解析機能を有するプロダクトで、SSAに関係する部分として全世界の観測データをカタログ化している点が挙げられます。
加えて、ANSYS社が生成した高精度な工学物理コンポーネントモデルを組み込むことで、ソフトウェアとしての質を向上させています。
その他、SARなどレーダモデリングや Electro-Optical/Infrared (EO/IR) Capability Modelsなど電波解析も可能で、プラグインも多数用意しています。同社のSpaceBookでは、カタログ化された観測データを一部公開しています。
また、Ansys Orbit Determination Tool Kit (ODTK)では、LEO、MEO、GEOに限らずシスルナ領域や深宇宙での軌道決定、接近解析など様々な領域でSSAシステムを運用可能としています。
APIとして、大規模なパラメトリック解析から運用の簡素化を自動処理します。他にも、MATLAB、Python、C++によるデータ統合をサポートするクロスプラットフォームをWindowsとLinuxで使用することもできます。
Test and Evaluation Tool Kit (TETK)では、衛星、航空機、船舶などのライフサイクルの解析評価を行います。陸海空のデータや対象物を統合的に解析して、安全保障上の運用に役立てます。
NECも旧AGI社が開発した製品をベースにSSAシステムを構築しています。
また、旧AGI社 はスペースデータアソシエーションのSpace Data Center(SDC)を運用していることでも知られています。
同社はExoAnalytic Solutions、SRI International、Las Cumbres Observatory Global Telescope NetworkとComSpOC™という世界有数の商業SSAコンソーシアムの1つを2014年に設立しており、ComSpOC™にアクセスする顧客にSSAに関する高解像度軌道暦の提供や衝突回避などの提案や警告を行っています。
外部との協業については、2016年2月にNumerica社の宇宙監視用マルチターゲット、マルチセンサ追跡システムであるMFAST(Multiple Frame Assignment Space Tracker)がAGI社のSSAソフトウェアに組み込まれ、衛星所有者やオペレーター、宇宙運用センター向けに追跡機能を強化する契約が決まっています。
2017年3月にはIntegral Systems社と戦略提携を結び、同社のCOTS(民生品)を利用したSSAシステムのコスト低減や効率化を図っています。
(米国)ExoAnalytic Solutions社のSSA関連技術・製品
ExoAnalytic Solutions社は、宇宙活動の幅広い支援を提供するために可能な限り生のデータを大量に収集することが特徴的な企業です。
同社は、最大の商用SSAセンサネットワークExoAnalytic Global Telescope Network(EGTN)を運用しており、30の観測所に配備される350以上の望遠鏡によりGEO上の直径10㎝以上の全物体の追跡を可能にしています。
既にMEV-1とMEV-2の観測やSBIRS-GEO 6の打ち上げと展開など静止軌道での複雑な運用への適用事例も存在します。機械学習により宇宙物体に限らずミサイルも区別可能としています。
観測データは、同社が運営するExoAnalytic宇宙運用センター(ESpOC:ExoAnalytic Space Operations Center)に転送され、衛星運用者に必要な軌道決定、接近警告、宇宙物体の物理特性や活動の状況把握など意思決定に必要な評価、警告、検査などを提供します。
サービスは、GEO領域のリアルタイム観測を行うExoMonitoring、GEOの宇宙物体の活動状況の評価や画像による外観検査を行うExoAlerts、GEO上の宇宙物体のカタログExoCatalog、ExoMapsやSpaceFrontなどのアプリケーション提供などサブスクリプション形式で幅広く提供しており、Tierによってサービス内容や程度が異なります。
これらのサービスを活用して、GEO上の衛星の異常や分裂などのイベントを積極的に把握することに努めています。例として、2017年Telkom-1・AMC-9の分裂の様子の撮影があります。
その他、2019年4月のIntelsat Epic 29の異常発生の撮影や2022年1月に中国のスペースデブリ軽減技術実証衛星SJ-21の試験の様子を観測したとの報告をしており、軍事的に重要なイベントを観測できるのが同社の強みとなっています。
軍用のシステム開発も行っているため、戦場の状況や意思決定を組み込んだ高度なシミュレーションが可能で、防衛関係の顧客を中心にサービスを提供しています。
米空軍が運用する宇宙監視ネットワーク(SSN)は、光学センサの維持管理に非常にコストを要するため運用されない時期が存在し、観測に穴が空いていました。これを補完する目的で、同社の観測システムであるHARRIERシステムが採用されています。
性能としては、複数併設された地上望遠鏡から19〜21等級の宇宙物体を追跡可能で、既存のSSNの光学センサ性能と一致します。
また、米空軍のBlue Horizons Fellowship Programにも採択されており、シスルナ領域で飛行するArtemisⅠに対してサービスの実証試験が計画されています。
2022年4月にはBoeing Australia社から、オーストラリア空軍(RAAF)JP9360 Tranche 2 Projectの一環として完全運用可能な宇宙領域認識能力の開発を支援するよう依頼されています。
2021年4月にはNorthStar Earth & Space社と提携を発表しており、非常に強力な観測ネットワークを構築しています。
(米国)LeoLabs社のSSA関連技術・製品
LeoLabs社は、LeoLabs Vertex™というサービスを中心に衛星追跡サービスLeoTrack、衝突回避サービスLeoSafe、打ち上げ直後のペイロードの位置特定を行うLeoLaunch、保険会社や投資家などを対象にしたミッションリスク評価サービスLeoRiskを展開しています。
元々は電波天文学の研究において電波望遠鏡が衛星や宇宙ゴミをフィルタリングして、見ている天体からのデータだけを確実に取得する技術をレーダを使って衛星やデブリを捕捉する技術に転用する所から始まりました。
同社の大きな特徴は、6拠点10基のレーダサイトを配備しており、特にインド太平洋領域を含む南半球を全天候で監視できる体制が整っており、約2万個の宇宙物体を追跡可能です。
コスタリカ、西オーストラリア、ニュージーランドにあるSバンドレーダを利用して最小直径2㎝まで追跡可能です。その他、北半球を中心にUHFレーダを配備しています。
また、打ち上げ直後数時間~数日間の通信が確立していない衛星に対して、打ち上げ後数時間で初期TLEを提供し初期運用の安定性を確保するサービスを提供しています。その後も、1日平均2〜5回にわたり共分散情報やSPベクトルを含む軌道暦を提供します。
同社は政府を中心とした契約を積極的に結んでおり、2020年7月に米国国防総省と、2022年5月に航空自衛隊向けのサービス提供の契約や2022年8月にニュージーランド宇宙庁とプラットフォームの開発を目的とした複数年契約を締結しています。
LeoLabsが防衛省と契約。航空自衛隊へ低軌道上の衛星やデブリの監視・衝突回避サービスなどを提供開始【宇宙ビジネスニュース】
LeoLabsとニュージーランドが複数年契約を締結。共同で宇宙ゴミ対策を強化【週刊宇宙ビジネスニュース 2021/8/2〜8/8】
(カナダ)NorthStar Earth & Space社のSSA関連技術・製品
NorthStar Earth & Space社は宇宙ベースの観測システムと地上ベースの観測システムで得られたデータを活用したSI2(Space Information & Intelligence)サービス構築に取り組んでいます。
宇宙ベースの観測システムは、Spire Globalが開発した宇宙状況監視専用の衛星24基によるコンステレーションSkylarkにより世界初のLEO全領域の常時監視を狙っています。
最初の3基の製造にはThales Alenia Space社とLeoStella社が関与しており、2023年半ばに最初の3基をVirgin Orbitによる打ち上げを計画していました。
しかし、2023年4月にVirgin Orbitがチャプター11に基づく破産申請をしており、2023年7月現在での計画への影響が生じています。
Virgin Orbitが破産申請、事業を売却へ。CEO「最先端の打ち上げ技術は買い手にとって魅力的」【宇宙ビジネスニュース】
地上ベースの観測システムは、ExoAnalytic Global Telescope Network社 (EGTN)が保有する25以上の観測所と275の望遠鏡で、複数の軌道領域で人工の宇宙物体を追跡する、グローバルな商用SSA望遠鏡ネットワークをExoAnalytic Solutions社の協力の元で利用して、衛星コンステレーションによる観測データと組み合わせたSSAサービスを提供しています。
また、KinetX Aerospace社からフライトダイナミクスサービスの提供を受けており、コンステレーション運用などに活用されています。
NorthStar Earth & Space社のサービスは政府からも期待されており、2022年12月にNOAA の Office of Space Commerce (OSC) と米国国防総省からMEO・GEO上の宇宙物体を中心に取り扱うSSTプラットフォーム試験運用参加企業に選出されています。
この試験運用では、民間の商用SSAサービスが政府系のSSTシステムの強化や置換にどの程度寄与するかを評価しています。
なお、選出された企業はNorthStar Earth & Space社、COMSPOC社、ExoAnalytic Solutions社、Kayhan Space社、KBR社、Slingshot Aerospace社の6社です。
その他、Leonardo社とThales Alenia Space社の合弁会社Telespazio社とのパートナーシップ締結、2021年4月にExoAnalytic Solutions社との提携や国内企業ではAstroscale、Axelspace、日本スペースイメージングと提携を行っています。
2019年にはルクセンブルグ政府とCentre of Excellence for Clean Spaceの設立および同意書に署名しました。
また、2021年にはルクセンブルク未来基金(LFF)は同社に投資を行っており、同国企業SESはESG戦略の一環として持続可能な宇宙に注目を置いていることから、2022年3月にSSAに関するNorthStar社とのパートナーシップを結んでいます。
カナダのNorthStar Earth & SpaceがSESと提携。宇宙状況監視(SSA)サービス開発を加速【宇宙ビジネスニュース】
ルクセンブルク政府も宇宙状況監視(SSA)に熱視線。カナダのNorthStar Earth & Spaceに出資【宇宙ビジネスニュース】
アクセルスペースがカナダのNorthStarと提携。衛星で宇宙を撮影し、宇宙状況認識(SSA)向けデータを提供へ【宇宙ビジネスニュース】
(スペイン)GMV社のSSA関連技術・製品
GMV社は長年EU諸国の宇宙産業を支えてきたリーディングカンパニーです。ソフトウェア開発を主としており、Galileoの地上設備開発、GNSS・衛星通信・地球観測などのデータを処理するソフトウェアや測距局の校正サービスを取り扱っています。
その中でもSST事業は、EUSSTプログラムやESAのS2Pプログラム含め30以上のプログラムに参加し、リードするなどEUのSSTの要ともいえる存在です。
基本的にサードパーティの光学観測データを利用したGEO衛星を中心としたデブリとの衝突回避や解析などのSSTサービスの提供を行っており、Focusocオペレーションセンターを通じて、10以上のオペレーターと80以上の衛星に衝突回避サービスを提供しています。
同社の製品はFocusocを中心としたSST向けサービスを提供しています。
Focusocでは、第18SPCSのカタログを光学観測データで補強して全自動の衝突評価・衝突回避サービスを提供します。
具体的には、衝突予測をGEOでは15日前、LEOでは7日前に提供可能で、レイテンシも5分未満と非常に短いです。また、過去24日間のデータ変動から正確な衝突予測に必要な共分散要素も計算して毎日情報を提供できます。
FocusSuiteでは、衛星のフライトダイナミクス解析を行い、衛星制御、宇宙物体との衝突評価、ミッション解析などを行うソフトウェアです。ESAやNASAなどの宇宙機関からスカパーJSATといった民間企業までヨーロッパを中心に導入されています。
FocusCloseApでは、NORADからTLEを自動でダウンロードして、FocusSuiteと組み合わせることで指定の衛星の軌道情報・マヌーバ情報を生成、接近状況を数段階に分けて計算します。
また、高度なスケジューリング機能により最小限の操作で処理を自動かつ定期的に行い、解析結果を通知出来ます。
GMV社は2016〜2017年にかけてEUMETSATが保有するMereosat-7のEnd of Lifeのサポートとして仰角などの追跡情報提供や軌道予測などを行いました。
この実験では、ISONの光学観測ネットワークを利用しており、ISONでは初めての商用利用の実験機会となりました。
その後、2022年2月にEUMETSATからGEO上のMeteosatの運用支援を目的とした光学観測データサービス(光学観測データによる軌道決定、マヌーバ、地上局校正)の契約を受注しています。
GMV社はスペイン、フランス、ドイツ、ポーランド、ルーマニア、英国、ポルトガルと契約しており、オーストラリア、ニュージーランドのSouthPANシステムにサービス提供も行っています。
また、2022年5月に欧州産業技術開発センター(CDTI)からCONAN(CONjunction ANalysis Software)という衝突回避などを行うソフトウェアによるSST能力やデータ結合能力の向上を図る契約や2023年3月のアテネ国立天文台(NOA)へのSST用ソフトウェアの提供がされています。
その他、2022年3月にAstroscaleとOnewebと業務提携を結んでおり、2022年2月にはNet Zero Spaceイニシアチブと呼ばれる宇宙活動の長期的な持続性を保護に向けたスペースデブリ除去活動などを行うマルチステークホルダープラットフォームを設立しています。
国内からはArkEdge Space、Astroscaleが参画しています。
(オーストラリア)HEO Robotics社のSSA関連技術・製品
HEO Roboticsは、シドニーに本社を置くベンチャー企業です。既存の地球衛星などを利用して軌道上の指定した衛星を撮影し、衛星の稼働状況の評価による長寿命化や未確認の宇宙物体の特定を行う事業を行っています。
一例として、2020年5月に韓国航空宇宙研究院(KARI)のKompsat 3でISSの撮影を行っています。
その他、2022年9月にLEO上未確認の宇宙物体「オブジェクトK」の特定や2023年3月にStarlink V2 Miniの撮影などに成功しています。
同社は、衛星検査ソフトウェアプラットフォームHEO Inspectの開発に注力しており、自社開発の衛星を用いることは基本的にはしないと公言しています。
撮影された画像はHEO Inspectを通じて24時間ほどでスピンレート、損傷具合、発電能力などが高度500㎞で10m/pixel未満の解像度で確認可能です。一例として、2021年にISSを撮影した画像では15㎝/pixelの解像度による撮影が行われています。
また、Holmes Imagerという小型の光学望遠鏡の開発も行っており、高解像画像の撮影機会提供の増加を狙っています。
企業との連携については、2018年4月にオーストラリア宇宙工学研究センター(ACSER)、2021年3月にシドニー大学、2022年10月にSatellogic、2022年11月にAxelspaceと行っており、衛星コンステレーションを有する企業の商用衛星を積極的に活用する動きがみられます。
また、2023年2月にはSatellite Vuの早期アクセスプログラムに参画し、画像処理能力の向上を図っています。
6.既存のSSAの課題
高度なSSAシステムの利用や情報の精度向上を検討するにあたって、既存のシステムだけでは不十分になってきました。既存のSSAの課題について、技術、政策・法律・資金面、国際協力の問題に焦点を当てて解説します。
技術的な課題
観測データの内容と精度
まず、SSAにおいて最も重要なのはデータの内容と精度です。今、もっとも広く利用されているTLEですが、NASAのSpacecraft Conjunction Assessment and Collision Avoidance Best Practice Handbookでは、TLE(一般に利用可能なのはBasicプランの公開データ)のみでは正確な接近評価(CA:Conjunction Assessment )は出来ないとしています。
正確な計算を行うためには、軌道暦の共分散情報やSPベクトルなど不確実性を考慮した確率的な情報が必要になります。
こういった情報がないと、間違った接近評価をしてしまい、本来不要な軌道修正やマヌーバによる計画変更や燃料の浪費が発生します。
特にLEO上では大気抵抗による軌道予測誤差が生じていて、大気モデルが複雑であるために高精度化が難しいとされています。具体的に知りたい方は同資料Appendix Eをご覧ください。
これに対して、JAXAでは機械学習やデータ同化などを用いて、大気密度予測手法の構築を行うことで現行の軌道力学系システムよりも大気密度予測誤差が5日後でも26〜30%改善したという成果があります。
補正結果が正しいとした場合、5日後の軌道誤差が2000mから1000mと半分に減る結果が得られています。
期待される効果として、宇宙物体同士の位置誤差がそれぞれ半分になるためJAXA判断基準で危険とされる接近が年間138回(2020年度)から本当に危険な接近を年間4回に減らせる見込みがあるとしています。
回避の回数が減ると衛星の長寿命化やパラボラアンテナへ送付する予報値作成頻度を減らすことが可能になり、コスト削減やミッションの多様化など運用の幅が広がります。
こちらは、宇宙航空研究開発機構業務実績等報告書の2019〜2021年度の資料(2019年度、2020年度、2021年度)に掲載されているので、気になる方はご覧ください。
その他、CSpOCが提供しているTLE以外のデータの精度や頻度も足りないとされています。
ユーザー側は、公称直径10㎝以下の物体の追跡対象として要求していますが、CSpOCでは公称直径10㎝以上のデータに限定されたり、位置精度も「誤差 1km 以下」及び「1σ100m 級」の要求に対して数kmの位置誤差が生じているなどニーズとのギャップが浮き彫りになっています。
しかし、米国宇宙監視ネットワーク(SSN)などの導入により追跡対象が軌道は限定されますが、公称直径1〜2cm程度の宇宙物体も追跡可能になり始めています。
今後、様々な軌道においてデブリとの衝突回避やより正確な観測のためにも、SSNに限らず各国・各企業がそれぞれ高い能力を有する観測設備を自前で配備することも今後も必要になります。
頻度についても高度な接近評価や衝突リスク評価に必要なデータがユーザー側は1日に最大5回程度要求していることに対して、CSpOCは不定期に提供しているため解析を困難にしています。
特に、マヌーバなどの衝突回避行動は接近警告を受けてから衛星事業者同士の交渉が必要なため、5日以上前に提供してもらえるよう衛星事業者側は希望していますが、と1,2日前に急に通知され対応が間に合わなかったケースもあります。
サービスプロバイダー側も回避行動を取る場合、サービスの一時停止も考慮する必要があるため、定期的なデータ提供かつ余裕を持った接近警告の提供が求められます。
また、データの内容についてですが、共分散情報やSPベクトルだけでなく、マヌーバに関するΔVや双方の位置情報といった近接支援情報、対象物の外観情報などがCSpOCから提供されていない、あるいは不定期の提供であることが課題になっています。
これに対して各組織は自社の観測設備や観測ネットワークを駆使して、不足する情報を補ってサービスやデータを提供しています。
その他、CSpOCの提供データやTLEの課題については、以下の資料で詳細かつ定量的に分析されているため、気になる方はご覧ください。
令和2年度政府衛星データのオープン&フリー化及びデータ利活用環境整備・データ利用促進事業(民間事業者への宇宙状況把握サービス提供のためのプラットフォームの構築に向けたフィージビリティスタディ事業)
観測設備の充実
データの精度を担保するためには観測設備も重要であり、ここにも課題が多く存在します。
観測ネットワークを拡大するために、新規で配備を行うと莫大な資金が必要になります。そのため、既存の設備をSSA用途にも活用できないか、という検討がされています。
しかし、各種システムごとに越えるべき技術的ハードルがあるため、以下で簡単に解説します。
地上ベースの光学望遠鏡の場合、物体を捕捉するためには特定の大気条件や時間による制約が生じます。例えば、日中や雲が掛かった場合は撮像が基本的に出来ないといった制約があります。
加えて、大気などの影響で像が捉えづらく、補正するモデルの構築が急務とされています。
また、TLEは主にケプラーの軌道六要素のような平均的な情報で構成されているため、限られた時間かつ粗い解像度であれば予測は十分可能ですが、軌道六要素のみでは表すことのできない非保存力を考慮した衛星の追跡となるとTLEでは不十分です。
そのため、非保存力の推定やフィルタリングなどを行う必要があります。
光学望遠鏡は、視野角と追跡追尾に必要な駆動速度が特に重要であり、LEO上の8㎞/sで移動するデブリのような物体を捕捉するためには早く正確に動かす高度な駆動性能が求められます。
一度対象を見逃すと視野角1°以下の狭い光学望遠鏡では再追跡が困難とされています。したがって、複数の設備による冗長性の確保やフィルタリングによる追跡の必要もあります。
一方、GEOの観測においては、観測に必要な視野角が限定されるため、対象の物体を待ち受けする形で観測を行えばよく、駆動速度も不要です。
このように軌道や観測対象によっては、運用において求められる性能や運用方法などが異なるため、これらを考慮した柔軟な対応が必要になります。
宇宙ベースの光学望遠鏡の場合、地上ベースに比べると雲、日光、大気の収差による影響は受けづらく暗い物体でも比較的簡単に検出可能ですが、衛星コンステレーションを構築するコストの確保や観測対象が日照条件下にある必要があります。
電波望遠鏡の場合、Passive RF(Radio Frequency)観測では、対象衛星が電波を発した状態でないと利用できないため、運用中の衛星かつ、対象側の協力が必要という制約が生じます。
ですが、他の観測手段と比較し短時間での軌道情報の精度向上が期待されており、他の設備との使い分けが必要です。
レーダの場合、外部からの影響を受けやすい点が課題です。例えば、クラッター(clutter)と呼ばれるレーダの電波が海面や雨などによって反射されて発生する観測上不要な電波・エコー周波数・外部からのジャミングに弱い傾向にあります。
さらには、ここまでに挙げた観測設備を活用するにあたっては、無人で運用可能にするための改修、観測要求や観測結果のデータを送受信するためのインターフェースの追加などが必要となります。
SSAシステムは防衛目的の要素が非常に強く、外部からのハッキングやジャミングが想定されます。特に軌道上のSSAシステムを担う衛星やそのコンステレーションに対するセキュリティは懸念されており、各国で対策が練られています。
実際にStarlink衛星に対してマイクロ波レーザーで無力化する提案やサイバーセキュリティの企業がデモとして軌道上の衛星を乗っ取ることに成功しているなど、サイバーセキュリティの観点からの対応や量子通信を活用した秘匿通信システムの適用への重要性も高まってことが分かります。
ESA監督のもと衛星をハッキング。衛星画像の改ざんや機体回転に成功。「知識を得るために効果的」【宇宙ビジネスニュース】
政策や法律、資金面の課題
SSAシステム拡充において、天文台など既存設備をSSAにも利用可能に整備したり、リファービッシュ(中古品などの整備により新品同様に扱うこと)が検討されています。
これを実現するためには、観測システムや観測ネットワークを効率的に利用するための無人化への改修が必要です。
また、観測施設の設置目的と異なる利用となるため、別途の運用費やセンサ精度を保証するための校正頻度の増加に伴う費用や運用訓練費用も必要となります。
元々天文観測に利用している設備をSSA目的で使用するため、天文観測施設での観測会等のイベントに被らないようにスケジュール調整が必要です。
ちなみに、LEOの観測は日没後と夜明け前の数時間が適しているといわれています。
GEOの観測についても、他観測施設との連携による高精度情報に基づく待ち受け観測エリアの決定や観測機会の調整が必要で、省人化や自動運用に向けたシステム改修が非常に重要な要素と言えます。
国際協力の課題
政治的緊張が高まっている中、各連携国同士でのSSA関連のデータの共有が多くなされていますが、同じ宇宙物体でも軌道要素など共有情報の精度が国ごとに異なるのが課題です。
各国が保有する宇宙物体のカタログは機密情報であるため、EUSSTの枠組みにおいてもFive-Eyes国家や独仏間の連携といった例外を除けば、EU同盟国同士でもデータ共有に対する躊躇が見られます。
一方で、CSpOCが提供するデータ含め、他国のシステムへの依存が大きい点も課題に挙げられます。
多くはSSAに関する協定の元、データ共有を受けることが出来ていますが、情勢の変化や国家間の関係性変化による影響が生じる恐れもあります。
そのため、自国の設備でいかに大量の観測データを取得することができるか、も大きなカギとなります。
データ共有については、データの標準化などシステム面の整備も求められています。
欧州宇宙政策研究所 (ESPI:European Space Policy Institute)は、2008年の独立報告書である「Europe’s Way to Space Situational Awareness(宇宙状況把握への欧州の道) 」には、次の要素が適切な運用に必要と述べています。
▼データポリシー
情報のフローとセキュリティとプライバシーのバランス実現に向けて、誰(国家、民間企業、大学など)が、いつ、どのような条件下で、どのデータにアクセスするのかを考慮する必要があります。また、データ共有を積極的に行うようなインセンティブ確保が必要となります。 同資料では、以上を踏まえたSSAシステムのフロー検討案が提案されています。
▼ビジネスモデル
SSAシステムを構築する上で、各システムを担当する民間企業への魅力的な収益機会の提供をしつつ、利益と超国家的な管理のバランスを取る必要があります。利益志向にシフトする場合は、利害関係者への事業機会の確保も求められます。▼オペレーション
将来の宇宙交通管理(STM)に向けて、軍事的要件のある民生利用とのバランスを取りながら中央集権型アプローチおよび分散構成を有するSSAシステムの構造的及び手続き的な設定並びに制度的フレームワークの構築が重要です。
また、衛星同士が接近した際の衝突回避のやりとりについても現在は衛星運用事業者同士で交渉が行われていますが、双方のビジネス機会喪失など利害に関わる交渉を直接的に行うことは争いの火種となります。
そのため、「接近相手との回避のための国際交渉は、国を代表した機関にお願いしたい」という意見が挙がっています。
加えて、「回避行動を決断した場合には、何らかのインセンティブ(補填)が欲しい」という意見もあります。
7.まとめ
SSAの重要性と今後の展望
ここまでSSAについて、防衛機能や民間向けのサービスなど様々な観点で解説しました。
中国やロシアの対衛星兵器実験の影響などにより宇宙空間の持続的な利用と安全保障目的としてのSSAの位置づけが強くなりました。
特にミサイル監視も兼ねたレーダの運用などが進むようになっています。
その中で米国を含めて航空自衛隊やニュージーランド宇宙庁がLeoLabsのサービス提供を受けたり、防衛目的においても民間主導のSSAサービスを活用したりするなど民間の影響力が増大しつつあります。
国内企業でも持続的な宇宙利用のためにSSAシステムへの各社サービスの提供・連携が進んでおり、ビジネス的にも注目できる分野です。
また、観測ネットワーク強化に向けて新しく観測設備を配備するだけでなく、既存の設備もいかに上手く利用するかも重要な要素という認識も広がりつつあり、冗長性を保ったまま、常時高精度な情報を取得するか検討が進んでいます。
それだけでなく、シスルナ領域や深宇宙探査へのSSAにも注目が集まっており、資源探査が加速する状況下においてSSAの重要性が非常に高まっています。
デュアルユース技術の1つであるSSAシステムを人類全体として、どのように利用していくか要注目です。
参考文献
SSAに関する情報に広く触れたい方は以下がおすすめです。2020年時点の情報であるため、最新の情報ではないことに留意してください。
● 令和元年度内外一体の経済成長戦略構築にかかる国際経済調査事業(宇宙状況把握データプラットフォーム形成に向けた各国動向調査)調査報告書
● 令和2年度政府衛星データのオープン&フリー化及びデータ利活用環境整備・データ利用促進事業(民間事業者への宇宙状況把握サービス提供のためのプラットフォームの構 築に向けたフィージビリティスタディ事業)
● 「宇宙監視」能力の向上に、利用できる手段はすべて用いる|日本の宇宙政策(5)
政府関連の資料や議事録は以下を参照してください。これらを読めば、政府系の動向はほぼ網羅できます。
● 宇宙交通管理(旧スペースデブリ)に関する関係府省等タスクフォース大臣会合
● 宇宙基本計画(令和5年6月13日 閣議決定)
● 宇宙航空研究開発機構2019年度業務実績等報告書
● 宇宙航空研究開発機構2020年度業務実績等報告書
● 宇宙航空研究開発機構2021年度業務実績等報告書
● 宇宙空間の利用をめぐる動向と課題 科学技術に関する調査プロジェクト報告書 6 章 宇宙空間と安全保障に係る組織機構の動向
● 令和4年版防衛白書
● 経産省産業サイバーセキュリティ研究会WG1宇宙産業SWG宇宙産業と宇宙安全保障の連携の動向について
その他SSAシステム、データ解析、設備など詳しい話はこちらを参照してください。
● A Handbook for Post-Mission Disposal of Satellites Less Than 100 kg
● SPACEFLIGHT SAFETY HANDBOOK FOR SATELLITE OPERATORS
● BREAKING DEFENSE(防衛系の情報がまとまった海外メディアサイト)
● Global Counterspace Capabilities Report(各国の観測設備などの記述が充実)
● 宇宙における量子暗号への挑戦とFIVE EYESとの協力への道
● Spacecraft Conjunction Assessment and Collision Avoidance Best Practice Handbook