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宇宙ビジネス

月面開発の登竜門!?Tottori Luar Rover Workshop 2024開催レポート

2024年3月2から3日にかけて鳥取砂丘月面実証フィールド「ルナテラス」にて学生団体および社会人有志によるローバーを用いた共同実験Tottori Luar Rover Workshop 2024が開催されました。

2024年3月2から3日にかけて鳥取砂丘月面実証フィールド「ルナテラス」にて学生団体および社会人有志によるローバーを用いた共同実験Tottori Luar Rover Workshop 2024が開催されました。

この実験は2024年度末に開催予定の「ルナテラス」を活用した月面開発に関するローバー競技やミッションコンペティションの醸成に向けた予備実験として開催されました。

本記事では、開催背景にある現在の月面開発に関する情報や共同実験の様子を紹介。また、本記事の中盤では、実際に実験運営に携わった佐藤伸成さんに、当日の盛り上がりについてリアルな声を教えていただきました。

開催背景:月面開発と月面ビジネスの盛り上がり

昨今、アルテミス計画に代表されるような月面開発が世界規模で進行しており、国内でも月面開発に関与する専門的な人材を育成し、日本の技術基盤を強化する意思があることが内閣府の公開した宇宙技術戦略からもうかがえます。

実際に、月面開発の主要な事例として直近ではJAXAの小型月着陸実証機SLIMの着陸と越夜などが話題になりましたが、OMOTENASHI、ispaceのランダ―のチャレンジ、また今後に向けてJAXAの月極域探査ミッション(LUPEX)からダイモンのYAOKI、トヨタのルナクルーザー、日産のローバーといった民間企業の機体まで、月面探査に向けた開発が進んでいます。

また、搭載機器やインフラに着目すると、三菱電機の月周回有人拠点「ゲートウェイ」向けリチウムイオンバッテリー、高砂熱学工業の月面用水電解装置、Resonacの月面での蓄熱・熱利用システム、月面に携帯ネットワーク構築に向けたノキアの宇宙用LTEセル、日揮/横河電機の月面プラント向け超遠隔通信に対応する制御システムといったものもあります。

より具体的に探査や利用まで掘り下げると、SpaceBDのテラヘルツ波を用いた月面の広域な水エネルギー資源調査であるTSUKIMI計画、月の分析が可能な土地評価エンジン「天地人コンパス MOON」、Yspaceの月面データプラットフォーム、VMC Motion Technologiesの月面の物理シミュレーション開発などハード・ソフト面ともに事例が増加中です。

有人による月面開発も視野に入れると、2024年4月11日に日本人宇宙飛行士の月面着陸に関する日米署名のニュースが記憶に新しいところです。

特に月面の建築に関しては、清水建設・鹿島建設の以前からの取り組みに加え、国交省が宇宙建設革新プロジェクトを掲げ、地上の技術を高度化し月面開発に活かす動きが2021年より始まっています。関連技術として、GITAIのロボットアームとローバーによる月面基地の建設の実証も行われました。

他にも、三井住友海上や東京海上日動らによる月面探査企業に対する月保険の提供など幅広い分野での参入も散見されます。

以上のように探査機だけでなく、搭載機器から有人探査までどんどん取り組みの数や非宇宙分野からの参入が増えており、熱量が増しつつあります。

更に詳しい情報については以下の記事をご覧ください。

イベント紹介&開催背景

ここからは、CanSatの開発やイベント運用経験のある佐藤伸成さんに国内外の開発をテーマにしたイベントの情報を補足しつつ、実際にイベントを取材した様子を教えていただきました。

月面開発が盛んになっている情勢も手助けするなか、Tottori Luar Rover Workshop 2024が企画されました。概要は次の通りです。

・概要:砂質のフィールドを活用したCanSatやローバーなどの実証試験を行い、月面探査や火星探査に向けた人材育成および技術交流の場を形成する
・参加チーム:5チーム(学生4チーム、社会人1チーム)
・主催:UNISON、amulapo
・協力:鳥取県、鳥取大学

月面や火星探査を意識した競技としては、2018年に終了したGoogle Lunar X Prizeがあり、日本からもispaceが参加した事例があります。

他にも、月面や火星探査を想定しながらローバーやCanSat(模擬人工衛星)のような宇宙機開発を行う学生・社会人チームが参加する共同実験は国内では4つ、海外の大規模な大会だけで4つ存在します。

国内外で開催されている宇宙探査に関わる共同実験やコンペティション一覧
※ロケット関連のイベントは省略

開発や実験の様子は「地理空間データを使ってまだ見ぬCanSatの投下場所を探せ!!~UNISEC×宙畑コラボ企画 10年越しの課題への挑戦」でも紹介しています。

今回は割愛しますが、開催地によってフィールドの特徴や開発要求が非常に異なり、その要求に合わせたミッション・技術設計や環境試験が求められます。

特に環境という点では、次の写真からも分かるように環境が実験ごとで大きく変わります。

各実験会場の雰囲気、月面を模した環境は中々存在しない

草地・砂漠・スコリアといった路面状況から、各会場の電波状況、気候の違いによる防水・防塵対策の有無など違いは多岐にわたります。

これだけ違いはあるものの、レゴリスのような砂質で覆われた月面に近い路面環境での実験は大規模には行われておらず、月面開発を意識するには不十分とも言えます。

同様に月面に降り注ぐ放射線や日照を考慮した温度管理なども必要ですが、簡単に用意できるものではありません。

宇宙開発の難しい点の一つは「地上試験や実証の際にいかに環境を再現するか」という点であり、実際の環境の不足分をどうやって補うかが、頭を悩ませるポイントとなります。

理想的には砂質である程度の起伏があることが望ましい
Credit : NASA

(おまけ)火星については検証記事を宙畑で出しており、実際に会場として利用される場所もいくつかあるようです。

ルナテラス紹介&鳥取県の取り組み

では、月面環境に近い候補地はどこにあるのでしょうか?

実は、すでに2023年7月に鳥取砂丘月面実証フィールド「ルナテラス」をオープンしており、月面に近い環境を容易に利用できる環境が存在します。

ルナテラスは自由設計ゾーン、斜面最大20度の斜面ゾーン、平地ゾーンに分かれ、目的に応じた実験が可能です。特に斜面ゾーンは想像以上に勾配がきつく、機体の走行性能の実証にはちょうど良いと考えられます。

また、修復可能な範囲でフィールドに穴を掘ることが出来るため、自由度の高い実験が安価に可能です。

同様に宇宙分野で活用されている場所として福島ロボットテストフィールドがあり、災害現場や水中など様々な環境が用意されていますが、月面環境に近い環境をルナテラスでは使用することが可能です。

ルナテラスの紹介
自由設計ゾーンと斜面ゾーンの一部
修復可能な程度であれば、掘るなど地形の変更も可能

環境についても、条件が限定的ではあるものの月面に類似することも分かっています。
鳥取砂丘のデジタルデータ化プロジェクト

他に候補地がないかも探しましたが、上記の通り、ルナテラスではより月面を意識した環境下での開発が行えるため、ルナテラスを本共同実験の開催地として選定しました。

以前にも他の学生団体や株式会社たすくなどのローバーの走行試験も実施されており、今後も様々な利用が期待される場所です。

また、鳥取県はS-NET事業「宇宙ビジネス創出推進自治体」にも選定され、宇宙産業創出・鳥取砂丘月面化プロジェクトを打ち出しており、とっとり宇宙産業ネットワークを中心に技術実証の側面以外にも他産業や県全体を巻き込んだ取り組みが行いやすい点もあります。

その一例として、鳥取砂丘月面デジタル化プロジェクト、宇宙ビジネスプランコンテストの開催、月面を活用した宇宙飛行士の模擬訓練プログラム、鳥取県衛星データ活用サービス実証事業など衛星データを活用した農業などへの応用が進んでいます。

例として、SPACE SHIFT社は⽶⼦衛星データ研究所を鳥取県に置き、⽩ねぎの⽣⻑をSARで解析する事例があります。

そのほか、CATCH the STAR 星取県と銘打った観光誘致も行っており、星空や宇宙をテーマにした商品販売やツアーなども提供しています。

星がきれいに見えるスポット一覧@白兎神社 Credit : 佐藤伸成

余談ですが私のおすすめは満天星 CATCH the STARという日本酒キラキラ流れ星という金平糖です。

当日は空が澄んで星が非常にキレイでした

イベントの様子

今回はイベント醸成に向けて慣れない砂地に対する技術や走行限界を測る目的で、参加チームにはフィールドを自由に使って実験をしてもらいました。1日目に自由に実験、2日目にお披露目会というスケジュールを当初立てていましたが…まさかの大雪……。

地元の人によると3月では非常に珍しい程の積雪量とのこと。水を含み月面環境の再現には至りませんでしたが、これはこれで面白い環境になりました。

砂丘ではなく、もはやゲレンデ

雪が止まぬ中、なんとか実験に漕ぎつけようとフィールドを整備するも、止まぬ雪。

それでもめげずに実験を続けて何とかデータを取ることが出来ました。ゆるい傾斜の登坂に成功した機体や、砂や雪が絡んで走行不能になる機体。雪と砂の混合した特殊な環境に苦戦しつつも各々、データを蓄積していました。

その後、ホテルにて夕食兼技術交流会を行い、地元の名産品を食べながら、全員が満足するまでプレゼンを聞き、互いの技術・製造方法・マネジメントなどを最大5時間語り尽くしました。

そして、2日目。地元の来賓の方やメディアの方もお呼びし、会場で自チームの機体の特徴を説明をしながら走行実験を行うデモンストレーションを実施しました。

ブリーフィングの様子

幸いにも会場の雪は溶け、やっと求める環境に近い状況で走行させることが出来ました。それぞれ、自由設計ゾーンやそこに設置したクレーターの走破、斜面の走行、ARマーカーの読み込みの実証など持ち時間20分でバランスよく発表を行いました。

全チームの発表を終え、予想外の積雪に悪戦苦闘しながらも何とか共同実験を終え、最後は砂丘会館の豪華な昼食&観光(白兎神社or鳥取砂丘)を楽しみ、帰路に付きました。

今後の展望とまとめ

以上、Tottori Luar Rover Workshop 2024開催レポートとルナテラスについて、佐藤さんのリアルな声も交えながら記事で紹介しました。

今後は2025年3月にさらに大規模な競技として開催を予定しているそうで、走破性能・自律制御などの以前から求められた宇宙関連の技術だけではなく、科学探査や搭載機器を意識したサイエンス的な観点、月面建築や通信設備などのインフラを意識した建設技術やロボット技術を取り入れた統合的な視点でレギュレーションやテーマ検討を行うとのこと。

このイベントを通して、多様な分野での企業参入が期待できることはもちろんのこと、イベントを通じて人材の育成にもつながることも期待されます。

実際に、学生に限らず、社会人有志の参加の場・新人教育としても活用できるように、普段交わらない企業や人々をつなげられるイベントを通じた大きな宇宙技術の祭典を想定しながらイベントを設計中とのことで、今後の展開が楽しみですね。

また、本イベントについては開発テーマの提供者やスポンサー、その他の形態での様々な協力も大歓迎とのことなので、本記事から興味を持った方は運営の方にご連絡されてみてはいかがでしょうか。

未来を生み出す、熱量の高いメンバーが集まっていました!

(おまけ)各チームの紹介

最後におまけとして参加チームの機体およびその特徴も佐藤さんに紹介いただきました。

名古屋大学宇宙開発チームNAFT

全員が学部1年生で構成される新進気鋭のローバーチーム。翌年度のUniversity Rover Challenge(URC)に向けて開発された1m立方の機体にはARマーカー検出機能、ロボットアーム、2次元LiDARが搭載されています。

静岡大学SATT

ベリリウム銅を用いた展開可能な無限軌道(キャタピラ)の機体です。コンベックス(メジャー)のように、ある一定の変形を超えると瞬時に展開し、構造を保つ特徴を持ち、宇宙機構造の研究でも活用される技術を活用しています。

室蘭工業大学SARD

ローバー(CanSat)としてはシンプルな構造ですが、整備性を重視して非常に調整しやすい特徴を持つ機体です。タイヤに2重の衝撃吸収機構を搭載しており、頑強な設計になっています。

Moon to Mars Challenge

大学院生を中心としたチームで、『火星地下氷サンプルリターン』ミッション構想のもと、崖に露出する地下氷採取に特化した超小型ローバの作成を検討しています。サイエンスよりのミッションということでミッションまわりの基調講演を技術交流会でしてもらいました。

わくわくロケット団

唯一の社会人有志チームとして参加。非常に小型軽量かつ柔軟性に富んだハード・ソフトウェア設計がされており、3種類の構造・素材の異なるタイヤを使用、地上局システムにWebブラウザ経由で機体情報を取得するシステムを構築しています。