アマゾンの違法伐採をぞくぞく発見!77カ国の森林を守るJICAの衛星システムがすごかった
「国際協力機構(JICA=ジャイカ)」は、2016年に宇宙航空研究開発機構(JAXA=ジャクサ)と提携を結び、世界中で深刻な問題となっている森林の違法伐採を監視するシステムを開発!現在ではなんと77カ国の森林を全球的に監視できるといいます。今回の宙畑はこのシステムをはじめ、JICAがこれから世に放つ最新システムに迫ります。
世界各国に約90ヶ所の拠点をもち、150を超える開発途上国との国際協力を行なっている日本の「国際協力機構(JICA=ジャイカ)」。JICAは、2016年宇宙航空研究開発機構(JAXA=ジャクサ)と提携を結び、宇宙技術を積極的に取り入れています。
そんなJICAは2016年、JAXAとともに、世界中で深刻な問題となっている森林の違法伐採を監視するシステムを開発! 現在ではなんと77カ国の森林を全球的に監視できるといいます。今回の宙畑はこのシステムをはじめ、JICAがこれから世に放つ最新システムに迫ります。
JICAのミッション! 違法伐採からアマゾンの密林を守れ
「森林を守ろう!」とは昔から聞きますが、はて、なぜ世界がこれほど森林に注目しているんだっけ? というギモンを、長らく国際協力機構(以下、JICA)で森林保全に取り組んできた上級審議役・宍戸健一さんに聞いてみました。
宍戸さん:私たちの呼吸によっても発生する『二酸化炭素』は、『温室効果ガス』と呼ばれ、ビニールハウスのように地球を覆っています。増えすぎると地球温暖化の原因になってしまうといわれています。温室効果ガス(CO2)が増える最も大きい原因のひとつは「地表部の植生変化」、つまり森林が減ったことだとされているんですよ。
二酸化炭素は化石燃料(ガソリンなど)を燃やすことによっても発生していますが、もしも意図せずに減っていく森林をきちんと守ることができれば、化石燃料によるCO2排出を抑制するのと同じくらいの効果があるのだとか。
宍戸さん:そこで今、世界では、森林を多く有する途上国に森林を守ってもらい、そのかわり国際社会はそのお礼として経済的なインセンティブを提供しようという取り組みが進んでいます。いわゆる「REDD+」プロジェクトです。
2013年頃から、途上国は必死で森林保全に取り組んできましたが、森林減少は止まりませんでした。主な原因は、密林の奥地にこっそり入り込んで木を切る違法伐採が横行していたからです。広大なアマゾンを持つブラジルでは、ひどいときは1年で2万平方kmもの森林が伐採されていたそう。これは、日本の四国ほどの面積です。
宍戸さん:ブラジルは森林破壊に悩み、森を守る監視の目を欲していました。その求めに応じ、私たちJICAは、宇宙航空研究開発機構(以下、JAXA)とともに2009年、“宇宙からの監視”に乗り出しました。それをブラジル以外にも広めたシステムが「JJ-FAST(JICA-JAXA熱帯林早期警戒システム)」です。
森林が伐採されている地点を見つけるシステムとは
宍戸さん:これが衛星から送られてきたデータを反映したマップです。マップ上には、111平方kmのグリッドごとにデータを表示しています。1グリッドごとに、丸いピンが立っているのが見えますか?
宍戸さん:状況が急変すると、このピンが赤くなります。森林が急に森林じゃなくなった、つまり伐採された地点ということを示しています。このマップをさらに拡大すると……
宙畑メモ SAR画像とは
ALOS-2のSAR(合成開口レーダ)はLバンドの周波数帯で観測しています。SARとは電波の一つであるマイクロ波を用いたレーダー画像のこと。可視光では観測できない夜間や雲や噴煙を透過して観測できるため、違法伐採の様子を観測しやすいのです。
これぞ衛星のスゴさ! 監視エリアをなんと77カ国に拡大
とくに雨季のアマゾンは、気象衛星では厚い雲にはばまれて地表の様子を観測できません。違法業者はその隙を狙って雨季の伐採が横行しました。でも、SAR画像なら雲を透過してアマゾンの様子をモニタリングできるといいます。
このシステムをもとに環境省ら行政官が現場へ向かい、木を切っている伐採業者を逮捕したり、罰金を取ったりする対処をした結果、4万件以上の違法伐採を検知し、違法伐採面積を80%減少させることに成功しました。
宍戸さん:ブラジルでの成功によって、周辺国であるペルーやベネズエラからも、このシステムを取り入れたいとの要請がありました。衛星は広い範囲を撮影できるので、画像処理さえできれば、ブラジルの周辺もサービスを提供することが可能です。
ただ、要請があった国だけを選んで処理する方が大変だし、一カ国ずつシステムを作るのも効率が悪いと思いました。そこで、森林を持っている77カ国を一気に処理してサービスを一般公開することにしたのです。多くの途上国では、森林を担当する部局は人員体制に恵まれていない上に、情報握りつぶす汚職も指摘されています。画像が一般公開されると、地域住民やNGOなども見ることが出来ますので、データ効果により、こうした問題にも一定の効果があると考えました。JICAでは、システムだけでなく、森林行政官への研修や国際会議も行っています。
なんとも太っ腹な決断! こうしてインフラが未整備だったり、人員や予算が不足していたりする開発途上国でも、無料で、簡単に森林をモニタリングできるようになりました。
しかも、来年はさらなる飛躍が期待できるとか。一体どんな進化を遂げるのでしょう?
宍戸さん:現在、監視の目となっている「だいち(ALOS)2号」は50m解像度で観測する場合、一度の観測で見える範囲は5ヘクタールが限界でした。
でも、2020年以降にJAXAが打ち上げを予定している「だいち(ALOS)4号」は、10m解像度、1ヘクタール程度の森林減少まで見えるようになるんです。これは、昔から各所で「欲しい」と言われてきた解像度のレベル。実現すれば、これまで以上に精度高く地表の様子が見えるようになりますよ!
「森林」以外にもアイデアぞくぞく!JJコンビの活躍する未来予想図
このように、森林分野で日本の優れた技術を使った世界貢献が加速する中、JICAとJAXAのJJコンビは「水産」「農業」「インフラ監視」のジャンルでも今、新たなるシステムをぞくぞくと開発中なんだとか。まずは「水産」の事例から聞いてみましょう。
●「水産」ジャンル:不審船を宇宙からチェック!
宍戸さん:海といえば日本をふくめて海のある国の悩みのタネになっているのが、怪しい船たちです。越境してくる不審船、違法操業の密輸船、一般の船を襲う海賊船…宇宙からの監視を強化することで、これらの船の航行を阻止できないかと考えています。
そのためには、まず解決すべきは解像度。50m解像度で発見できるのは、貨物船や軍艦といった大きな船のみ。小さな漁船を発見するためには10m解像度が欲しいところなんだとか。でも、この問題はJJ-FASTでも活躍を期待されている新しい「だいち(ALOS)4号」の打ち上げによって解決できます。
宍戸さん:この10m解像度での監視が可能になれば、海に出ている船はほぼすべてを発見できます。次の問題はシステム構築。どうやって怪しい船を正確に識別するか、みんなで知恵をしぼっているところです。
しかし、問題が一つ。衛星が新しい情報を取得するのは14〜41日間隔。しかも撮影してから私たちが閲覧できるようになるまでにも時間がかかります。森林伐採とちがって、海上の怪しい船はどんどん移動してしまいます。そのため、怪しい船の情報を入手できたとしても、リアルタイムに捕まえることは難しいのです。
宍戸さん:直接拿捕することはできませんが、いつ、どこで、どのくらいの船が操業しているのかといった統計データは取れます。不審船が出没しやすい地域がわかれば、データ予測をもとに海のパトロールプランを作ることができます。違法操業に悩まされている中国、フィリピン、ベトナム、インドネシアなど、怪しい船が多い地域を中心に観測を始めたいですね。
●「農業」ジャンル:開拓した面積を宇宙からチェック!
宍戸さん:JICAには教育や保険など、さまざまな支援分野がありますが、とくに「農業」分野と衛星の相性はバツグンです。これは、タンザニアで行われた「コメ振興支援計画プロジェクト」(プロジェクト名)の例で、衛星データによって稲作地帯の面積を計測しました。
●「インフラ監視」ジャンル:山岳道路を襲う地滑りを宇宙からチェック!
宍戸さん:エチオピアの山岳道路では大規模な地滑りが多発していて、せっかく支援で作った道路が壊れてしまうことがあるのです。そこで「だいち(ALOS)2号」で定期的に同じ場所を観測することで、地滑り発生のリスクの高い場所はあらかじめ地盤を補強するなどといった予防に役立てる予定です。これも多くの国に情報提供して、道路などインフラの維持管理や防災対策に役立てていだたきたいと思っています。
宙畑メモ 地盤の状態が分かる?
衛星が能動的に電波を照射してその反射を観測している性質上、SAR観測で2時期に同一か所を観測した場合、地上の環境条件に左右されることなく2時期の変化を取得できます。そのため、土砂崩れの有無はもちろんのこと、地盤の変化を捉えることもできるのです。
また、複数方向から同一か所を観測し、立体視することで標高情報を取得することもできます。だいち(ALOS)は全世界の陸地の起伏を水平方向30m、鉛直方向5mの細かさで観測できる。詳しくはこちら。
上級審議役・宍戸さんが考える衛星データの魅力3つ
1.広大な範囲をチェックすることができる
宍戸さん:熱帯林早期警戒システム「JJ-FAST」で77カ国に拡大したサービスが可能だったように、地球を広く捉えることができます。広い面積を測定する必要が出たときは、まず衛星の活用を考えますね。低コストで全球的にチェックできることも、衛星の優れた点です。
2.システムさえ開発できれば自動処理ができる
宍戸さん:最初は取得するデータの仕様を決めたり、処理方法をインプットしたりと、プログラムの開発が大変です。でも、プログラムさえできてしまえば、あとは自動で処理できることが多いのです。自動処理が始まれば、コストも人手もそれほどかかりません。
実際、熱帯林早期警戒システム「JJ-FAST」は、例えばベトナムのプロジェクトに使った費用の2倍程度で全世界をカバーできているのです。
3.衛星活用はアイデア勝負! 可能性は無限大
宍戸さん:衛星データは無償で使えるものも多く、組み合わせ次第で役立つアプリケーションになりえます。以前、JAXAとともに民間企業や有志のエンジニアさんを招いたオープンイノベーションを実施した際、森林火災やサンゴ礁の監視などといった貴重なアイデアがたくさん出ました。衛星活用は、社会に貢献できる可能性が無限に満ちた分野だと実感しています。
新しいアイデアは「いつでもウェルカムです」!
JICAでは現在、衛星による支援を行った国に対して衛星データの使い方を教えたり、日本に留学生を招いて衛星を含む宇宙技術を学べる環境を整えたりと、人材育成にも力を入れているといいます。
日本の優れた衛星技術が世界に羽ばたき、役立っているのはうれしいこと。でも、いざ衛星データを使うとなると、研究者や専門家でないと読み解けないものも多く、まだまだ「使い勝手がいい!」とはいえないようです。
宍戸さん:とくにJICAが活用している衛星の「だいち(ALOS)」シリーズは、SDGs達成に向けて、まだまだ様々な分野での活用が可能だと思いますが、途上国の予算や人材不足で活用が十分に進んでいないのが現状で。とくに貧しい途上国ほど顕著です。
だからこそ、私たちは自力では衛星データを買えない・処理できない低開発国の農業省や水産省、森林省の人たちが、自前のPCやスマホでパッとみて、必要なことが一目でわかるシステムを作りたい。その上で、高度なニーズには、民間ビジネス等で対応していくことが望ましいと思います。
そのためには、新しい発想を持った専門家・ビジネスマンの協力が必要です。もし、私たちの理念に賛同してくださる方がいらっしゃれば、ぜひ一緒に社会貢献につながるアイデアを形にしていきましょう!
編集後記
違法伐採に悩む世界の国々をまるっと見渡せる規模の大きさは、まさに人工衛星ならでは。違法伐採が厚い雲の下で行われることが多く、上空からは見つけにくいという難題も、雲を透過して地表の様子を観測できるSAR衛星がみごとにクリア!「JJ-FAST」は衛星ならではの長所をうまく活用した取り組みだったんですね。現在飛んでいる「だいち(ALOS)2号」に続く、新しい3号、4号の打ち上げも近いとか。楽しみです。