災害時の衛星画像はどこを見に行けばいい?災害時の衛星画像や解析結果を共有する取り組みを紹介!
災害時によく見かける衛星データ。自分でも見てみたい場合はどこから入手できるの?災害時の衛星データに大切なことって?宙畑でもよく聞かれる素朴な疑問を詳しくまとめました。
日本は特に自然災害が多い国といわれています。梅雨・台風シーズンになると毎年のように甚大な風水害に見舞われます。また、日本列島周辺はプレート境界に位置するため、地震や火山活動による被害も受けてきました。
ひとたび自然災害が起こってしまった際に重要となるのは、被害状況を迅速に把握することです。それによって、迅速かつ適切に必要な救援・復旧活動を行うことができます。被害状況の把握に役立てるために、世界中で、人工衛星の観測画像やその解析結果を共有するボランタリーベースの取り組みがあります。
これらの多くの取り組みでは、実際に衛星由来の情報を利用する機関に対しては情報提供がされているようですが、一般向けにはどのような情報が公開されているのでしょうか?私たちが衛星で見た被災地の様子を知りたいと思った時、どこを見に行けばよいのでしょうか?
本記事では、まず、各災害に適した衛星センサの紹介を行います。次に、災害時の衛星画像やその解析結果を共有する取り組みと、一般の方向けに公開されている情報を閲覧できるサイトをご紹介します!
1. 衛星データの種類と災害
(1) 災害種ごとに適した衛星センサ
被災地の状況把握には、SAR衛星や光学衛星などの地球観測衛星が活用されています。ここでは、災害種ごとに適した衛星センサについて、簡単にご紹介します。
各センサの特徴について詳しく知りたい方はこちらも是非チェックしてください。
衛星データのキホン~分かること、種類、頻度、解像度、活用事例~
①水害には、雲があっても観測できるSAR
合成開口レーダー(SAR: Synthetic Aperture Radar)は、センサからマイクロ波を発射し、地表で跳ね返ってきたマイクロ波をとらえるセンサです。
SARの強みは、昼夜・天候を問わずに地上の様子を観測できる点です。マイクロ波は雲を通過するため、雲がある地域でも地表の観測ができます。
基本的に水害は、雨雲が降雨をもたらすことによって発生するため、雲を透過できるSARは水害時に特にメリットが大きいといえます。日本では、災害が発生すると、すぐに報道ヘリなどが現地の様子を伝えてくれますが、ヘリが飛ぶのが難しい夜間や悪天候であっても、SARであれば地表面を観測することができます。
もちろん、雲がなければ、SARだけでなく直感的に浸水域を把握できる光学センサも有効です。
ここでは、SARによる浸水域の推定方法のうち、最も基本的なものを紹介します。
SARの画像は、ざらざらした表面ほど多く電波が返ってきて白く見え、水面などつるつるした表面では電波が反射してしまうため黒く見えます。
浸水して地表面が滑らかになった場所では、電波が衛星側に返ってこないため、受信信号が小さく(画像が暗く)なります。この性質を利用して浸水した地域を推定することができます。
例えば、発災後のSAR画像から、浸水と思われる箇所を見つけ出し、その箇所を基準として決めます。あとは、その場所と同じか、より暗い領域を、浸水域として大まかに抽出することができます。
他にも、RGBカラー合成を行い、災害が発生する前と後の画像を比較して、浸水した地域を強調させる手法もあります。
これは例えば、災害前の画像を赤色に、災害後の画像を青色と緑色にして画像を合成する方法です。災害後の青色と緑色の画像は、光の三原色から、重ねると水色にみえます。
この処理によって、災害前の受信信号(衛星に返ってくる電波)が災害後と比べて大きい場合は赤色に、災害後の値の方が大きい場合は水色に、また受信信号に変化がない場合は白色や黒色に近い色で示される図を作成することができます。
浸水した場所は電波が反射して衛星側には返ってこなくなるため、災害前画像の方が受信信号が大きい箇所となり、このRGBカラー合成図では赤く強調して表示される、という仕組みです。
(ただし、ここで紹介した方法は、完全に冠水している場合は有効ですが、都市域などで完全に冠水しない地域については精度が低下します。より精度を求める場合は、干渉処理を組合わせた手法を採用することが一般的です。)
②土砂災害には、判読が容易な光学画像
土砂災害の把握にもSAR衛星が活用されていますが、より分解能が高く、直感的に理解しやすいという観点で、光学センサも有効です。
まずSARでどのように見えるのかみてみます。
上図の左側は、先ほどの浸水域の推定方法でご紹介した、SARのRGBカラー合成画像です。土砂災害の場合は、RGBカラー合成図では赤色と水色が隣り合って表示されることが多いです。
これは、地滑りなどによって地表面が滑らかになる箇所がある一方、崩れた土砂が下方に堆積し、そこでは地表面が粗くなる傾向にあるからです。ただし、広大な山間部の中から、この特徴的なパターンを見つけるのはかなり難しく、ある程度の経験がないと厳しいです。
一方、雲さえなければ、光学画像の方が、目視で土砂災害を見つけることが容易で、かつ直感的にわかりやすいことから利用しやすいです。光学画像では、可視画像を合成して写真のように見る方法でも探せますが、近赤外線の波長も使った正規化植生指数(NDVI)などの指標から植物の有無が分かりやすくなるので、地表面の植物が失われた土砂崩落域を強調することもできます。
土砂災害の判読で難しいのは、森林伐採などの人工的な土地の改変による変化と、自然災害による変化の区別がつかない点です。そのため、災害前の最新の画像を確認し、元々裸地ではなかったかを確認した上で、精度を高めることが重要になります。
③地震には、概要把握はSAR、詳細な被害は光学
地震被害の概要把握をしたい場合は、SARの干渉解析等を用いることで、地表面の変化(沈降や隆起など)を推定することができます。
干渉SAR(InSAR)とは-分かること、事例、仕組み、読み解き方-
一般的にSARの分解能は光学画像と比べて低いと言われており、JAXAのLバンドSAR衛星であるALOS-2の高分解能モードでも3mです。そのため、インフラや建物の被害などの、詳細な変化を確認したい場合は、より分解能の高い光学センサが適しています。
ちなみに、最近は、高分解能のXバンドの小型SAR衛星が登場しており、ICEYE社のSAR衛星の分解能は、なんと25cmです。ただし、小型衛星は軌道を精密にコントロールできないことが多く、かつ、XバンドはLバンドなどの波長の長いバンドと比べて電離層や水蒸気の影響が大きいことから、小型XバンドSAR衛星は干渉解析に適しているとはいえないのですが、今後の技術の発展に期待です。
④火山活動には、SARに加え、温度変化がわかる熱赤外も
日本では、火山の活動状況を把握するための地上の観測網が発達していますが、遠方の離島や海底火山などの地上観測が困難な火山については、人工衛星での観測が有効です。
SARで地表面の変化を定期的に観測することによって、火山活動(地形の変化、隆起・沈降など)をモニタリングすることができます。
また熱赤外センサを用いれば、火山の高温部の温度変化が分かるため、火山活動の変動、地熱活動の活発化をモニタリングできます。また、大規模噴火の際には、溶岩や火砕流の状況も把握することもできます。
(2)衛星データに求められるスペック
前の章では、災害の種類ごとに用いられる衛星データの種類についてご紹介しました。
災害時に衛星データを役立てるためには、種類以外にも気を付けなければいけないポイントがいくつかあります。これらのポイントは他の衛星データ利用よりも厳しい条件であることも多く、現時点で世の中に存在している衛星データが、どれほど災害時利用という観点で実用に耐えうるかという点には注意が必要です。
① 撮影頻度:3日に1回以下
人命救助のタイムリミットは72時間と言われており、一般的に被災後の3日を過ぎると生存率が著しく低下します。
一方で、人工衛星は24時間どこでも好きな場所を撮影できるわけではありません。その意味で、衛星データが災害時の応急対応にどこまで対応できるかは慎重に見極める必要があります。
もし、応急対応に用いる場合には、災害発生から遅くとも3日までには観測を終了させ、解析結果を利用者に届けることが重要になります。
応急対応ではなく、その後の復旧・復興対応に衛星データを用いることもあります。
この場合でも、災害発生後に損害保険金の支払いを行う損害保険会社では、水害の場合、水が引いてしまってから撮影しても状況を把握することが難しいため、頻度の高い観測が求められます。以前、宙畑で取材した企業では発災から24時間以内にアウトプットを得ることを目標にしているようです。
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例えば、JAXAのSAR衛星であるALOS-2の回帰日数(衛星が同じ場所に戻ってくる周期)は14日に1回ですが、ALOS-2は観測する姿勢を左右に傾けることができるため、世界中どこで災害が起きても3日以内にデータが得られます。
ただし、観測する姿勢を傾けてしまうと、過去に撮りためていた画像と同じ観測条件(入射角など)ではなくなってしまう場合があります。このような場合、精度の高い手法での解析ができず、十分な情報を提供できないこともあります。
同一地点を1機で3日に1回以下の観測頻度を達成することは難しいですが、例えば、Sentinel-2とLandsat-8/9を組み合わせることによって、分解能は異なるものの、同一地点の光学画像を3日に1回で入手できるようになっています。
オープン&フリーの光学衛星が無料で3日おきに入手できる時代に!?Landsat-8/9とSentinel-2A/2Bの組み合わせで、さらなる高頻度観測が可能に
このように、高頻度の頻度は、複数機を組み合わせることで達成できますので、今後、災害監視に利用できる衛星がさらに多く上がることが望ましいと思っています。
② レイテンシ(観測から解析結果の提供まで):2時間以内
災害の応急対応で利用するためには、観測頻度だけでなく、衛星の観測からデータ提供までの時間(レイテンシ)も早いに越したことはありません。
人工衛星は衛星が画像を撮影した後、地上のアンテナと通信を行い、データを地上に送り、データの一次処理を行った後に、ユーザが触れるような状態で提供されます。衛星データの種類等にも依りますが、通常、半日〜数日程度かかります。
例えば、JAXAが運用するALOS-2では、災害発生状況を観測後、観測データの配信まで最短で1時間での対応が可能で、その後約2時間後に、速報的な解析結果を提供しています。
各機関・企業は、災害時には緊急対応としてこの工程にかかる時間を短くする取り組みが行われています。
日本の国家プロジェクトである戦略的イノベーション創造プログラム(SIP)では、被害状況の観測・分析・解析を、政府の防災活動に資するよう発災後2時間以内に迅速に行える技術の開発を進めています。
また、商用衛星では、データ中継衛星などを利用して、特に災害時に有用なSAR衛星の事業者で、数分での画像取得を実現している例もあります。
Capella Space 衛星間通信を用いて画像のリアルタイム取得に成功【週刊宇宙ビジネスニュース 2020/11/23〜11/29】
③ 発災前の比較対象データの整備
災害の被害域推定には、発災後に撮影された衛星データだけでなく、発災前の衛星データも比較対象として解析に利用した方が、一般的には精度が高くなります。
SARで地盤の隆起や沈降を調べる干渉解析を行う場合には必須ですし、土砂災害域と推定した箇所が、本当に自然災害によるものか、それとも元々裸地の箇所なのかを確認するためにも利用します。
政府が運用する無償の人工衛星(欧州のSentinelシリーズ、米国のLandsatシリーズなど)の多くは広域撮影を目的としており、平常時の画像を蓄積し公開していることが多いため、発災の前後比較は比較的容易です。
一方の商用衛星では、解像度が高い分、撮影できる範囲に限りがあり発災前のデータを持っていないこともしばしばあります。目視での比較であれば、政府衛星の過去画像と見比べるなどの工夫をすることも行われていますが、詳細な解析を行う際には、解像度などのスペックが異なる衛星同士の差分をどう抽出するかという点がポイントになってくると考えられます。
④ データ形式:GeoTIFFなど位置情報があり解析可能な形式
次章で紹介しますが、災害時に衛星データを国際協力枠組みや協定内で共有する取り組みはあっても、一般向けにオリジナルの衛星データを公開しているものはほとんどなく、JPEG画像やPNG画像など、情報が削ぎ落されたシンプルな形式で公開されていることが多いです。(高分解能衛星は多くが有償なので、これはある意味当然です)。
JPEG画像やPNG画像などの場合、目視で被害状況を確認したり、もしくは機械学習など一般的な画像データとして取り扱う分には十分に使えるデータではあります。
一方で、本記事冒頭でご紹介したような衛星データに特化した詳細な解析を行う場合には、位置情報が紐づき、その他の情報も落とされていないGeoTIFFなどの解析可能な形式のデータが必要となります。
2.災害時の情報を共有する取り組み
ここからは、災害時に衛星画像や被害域の解析結果を共有する主な取り組みについて紹介していきます。世界中で様々な取り組みがありますが、GeoTIFF形式などの位置情報付きで解析可能な衛星画像はほとんど公開されておらず、多くがJPEGやPDF形式の画像です。
活動主体 | 目的・役割 | 衛星 | 一般向け情報 |
国際的な取り組み | |||
国際災害チャータ | 世界各国の衛星画像を、無償で加盟機関向けに提供 | 世界各国の衛星(民間衛星含む) | ・衛星画像(jpg) ・解析結果(jpg) |
センチネルアジア | アジア太平洋地域の衛星画像を、無償で加盟機関向けに提供 | アジア太平洋地域の各国の政府衛星 | ・衛星画像(jpg) ・解析結果(jpg, PDF, KMZ, SHP) |
コペルニクス [コペルニクスEMS] |
コペルニクス計画に関連する衛星画像を、無償で提供 | コペルニクス計画に関連する衛星 | ・衛星画像(jpg, PDF) ・解析結果(jpg, PDF, KMZ, SHP, json, XML) |
NASA [WorldView] [FIRMS] |
NASAの衛星画像などを、一般向けに公開 | NASA衛星(Aqua・Terra、S-NPP・NOAA 20)など | [FIRMS] ・解析結果(SHP, KML, TXT, WMS) |
OCHA [ReliefWeb] |
世界の紛争・自然災害、そこでの人道支援の状況などの情報を、無償で公開 | 国際災害チャータに参加している衛星など | ・衛星画像(PDF) ・解析結果(PDF) |
日本の機関の取り組み | |||
JAXA [Earth-graphy] [火山活動・林野火災速報システム] |
JAXAの衛星画像などを無償公開 | JAXA衛星(ALOS-2, GCOM-C)など | [Earth-graphy] ・衛星画像(jpg, png) ・解析結果(jpg, png) [火山活動・林野火災速報システム] ・衛星画像(※温度画像)(GeoTIFF) ・解析結果(CSV) |
内閣官房 | 情報収集衛星の衛星画像(加工済み)を一般向けに無償公開 | 情報収集衛星 | ・衛星画像(※加工済み)(jpg, PDF, GeoTIFF) |
企業の取り組み | |||
MAXAR [Open Data Program] |
Maxar社のデータを一般向けに無償公開 | Maxer社の光学画像(WorldViewなど) | ・衛星画像(GeoTIFF) |
株式会社パスコ [災害緊急撮影] |
光学画像、SAR画像、航空写真などを一般向けに無償公開 | SPOT, Pléiades, TerraSAR-X, ALOS-2など | ・衛星画像(jpg, PDF) ・衛星画像(jpg, PDF) |
アクセルスペース×JX通信社 [FASTALERT] |
(試行期間終了後の現在の状況は不明) FASTALERTで検知した災害等の発生箇所をAxelGlobeで撮影し、FASTALERT顧客に対して提供 |
AxelGlobe | 不明 |
Tellus(さくらインターネット) | 日本の商用衛星の画像を無償公開 | 日本の商用衛星(ASNARO-1,2) | ・衛星画像(png, Cloud optimised GeoTIFF) ※COG形式のデータはTellus内の環境でのみ利用可能 |
(1) 世界の取り組み:国際災害チャータ
「国際災害チャータ」は、災害発生時に地球観測衛星の画像を提供し合う、国際的な防災枠組みです。大規模災害発生時に、地球観測衛星データの提供等を通じて、災害の把握・復興などに貢献することを目的としています。現在加盟している機関は17機関で衛星数は60機以上になります。
特徴としては、宇宙機関だけでなく、民間データ提供者も衛星画像の提供に無償協力している点です。米国Planet Labs社が2018年から、フィンランドICEYE社が2020年から参加しています。
衛星データや、衛星データによって推定された被害域の解析結果は、主にJPEG形式で公開されています。被害域の解析結果として、浸水域、土砂崩落域、建物被害域を示すマップなどが掲載されています。
例えば日本の事例として、平成30年7月豪雨の事例を見てみると、フランス宇宙機関CNESのPléiades画像などを用いて、浸水域や土砂崩落域が推定される箇所が示された情報を閲覧することができます。
(2) 世界の取り組み:センチネルアジア
「センチネルアジア」は、宇宙技術を活用してアジア太平洋地域の災害管理への貢献を目的とする国際協力プロジェクトです。JAXAが執行事務局として全体の運営を行い、緊急観測支援要請窓口を務めるアジア防災センターとともに中心的な役割を担っています。
センチネルアジアは、国際災害チャータのアジア太平洋版ともいえますが、特長として、センチネルアジアのメンバーの中に、宇宙機関だけでなく、衛星データの解析を行う研究機関や、提供された情報を防災活動に活用する防災機関が含まれている点にあります。そのため、宇宙機関や研究機関は、実際にデータを利用する防災関連機関から、直接フィードバックを得られるため、コニュニティ全体でレベルアップしていくことができます。
センチネルアジアで提供される衛星画像は下図で示す通り、JAXAのALOS-2を含む、アジア域を中心とする宇宙機関の衛星のデータです。衛星画像は、一般向けにはGeoTIFF形式では公開されておらず、JPEG形式で閲覧することが可能となっています。
さらに、衛星データによって被害域を推定した解析結果として、推定浸水域を示すマップや、推定建物被害域を示すマップなどが掲載されています。解析結果についてはシェープファイルやKMZファイルなどの、位置情報を含む情報も公開されています。
TOPページ右上のEmergency observationをクリックすると、過去の事例のリストが表示されます。最近の事例として、2022年6月のインド周辺の豪雨事例を見てみると、南洋理工大学(EOS)、アジア工科大学院(AIT)、インド宇宙研究機関 (ISRO)、ムハンマド・ビン・ラシード宇宙センター(MBRSC)が提供した解析結果が確認できます。ダウンロード可能な形式は、提供機関によりますが、JPEG、KMZ、SHP、PDFなどがあります。衛星画像は、JAXA、NARL、GISTDAからの衛星データの提供がありました。
(Web-GISという、ブラウザ上で衛星画像などを閲覧できるシステムも用意されていますが、アクセスは観測を要請した機関だけに許可されています。)
(3) 世界の機関の取り組み:コペルニクス
コペルニクス危機管理サービス(EMS)
https://emergency.copernicus.eu/
コペルニクスは、欧州連合(European Union: EU)の地球観測プログラムです。「コペルニクス危機管理サービス(EMS)」では、このコペルニクスプログラムの一部で、世界中の自然災害または人為的災害など様々な災害に関する情報と、予防、準備、対応、復旧活動のための情報を提供しています。
これまでの対応履歴一覧は、こちらにまとめられています。提供されている情報としては、衛星画像は位置情報も紐づいたGeospatial PDFとGeoJPEGです。利用されている画像としては、Sentinelシリーズの衛星をはじめとして、コペルニクス計画に協力している機関からの衛星(Pléiades、WorldVIew-2、COSMO-SkyMed、RADARSAT 2など)も利用されています。
推定された被害域の情報は、Geospatial PDFとGeoJPEGに加え、ベクターデータ※としてシェープファイル、KML、GeoJSONなどでダウンロードすることができます。
宙畑メモ:ベクターデータ
点、線、面で構成されるデータ形式。対になる形式としてラスタ形式がある。ラスタ形式がいわゆる画像のような画素ごとに扱われるのに対し、ベクター形式では線や面などの情報を持つため、修正が容易。例えるなら、ラスタ形式はペイントで、ベクター形式はパワーポイント。
参考:地理空間データを扱う前に知っておきたい地理空間データの心得
(4) 世界の機関の取り組み:NASA
Worldview
https://worldview.earthdata.nasa.gov/
NASAの「WorldView」は、これまで紹介してきたような、災害毎に情報が集約されているサイトではないのですが、火災、台風、洪水などの解析結果を、ブラウザ上で衛星データと重ねて表示することのできるシステムです。全球をフル解像度で閲覧でき、閲覧した衛星データのダウンロードも可能です(Earthdata Searchという別サイトにリンクされます)。多くの画像レイヤは毎日更新され、観測から3時間以内に利用することができます。過去90日間を10分単位で提供しており、画面下部のスライドバーで、閲覧する時間を簡単に変更することができます。
Fire Information for Resource Management System (FIRMS)
https://firms.modaps.eosdis.nasa.gov/
「FIRMS」は、火災や熱異常に特化した情報を公開しています。
NASAのAquaおよびTerraに搭載されたMODISセンサと、Suomi-NPPおよびNOAA 20(JPSS-1)に搭載されたVIIRSセンサから得られる情報を加工して公開しています。衛星観測から3時間以内に、ほぼリアルタイムで火災や熱異常の情報を配信しています。火災・熱異常の情報は、シェープファイル、KML、テキスト、WMS形式でダウンロードできます。衛星データのダウンロードはできないようです。
FIRMSは森林火災の検知に利用できるのはもちろんですが、熱異常の情報は、安全保障分野でも利用可能です。先ほど紹介したNASAの「Worldview」にも、このFIRMSの情報が提供されています。
(5) 世界の機関の取り組み:OCHA
ReliefWeb
https://reliefweb.int/disasters
国際連合人道問題調整事務所(OCHA)は、自然災害や紛争などの人道危機に際して、国際緊急人道支援の調整、緊急物資・人員・資金の動員、情報管理、政策形成などを担っています。
「ReliefWeb」は、OCHAが、世界の紛争・自然災害の状況や、そこで行われている人道支援の状況などの情報を提供するために立ち上げているサイトです。
このサイトに集められる情報は、国連、政府、シンクタンク、研究機関、メディアなど、情報源は4,000を超え、この中に人工衛星由来の解析結果も含まれています。
例えば、ソースが「国連衛星センター(UNOSAT)」となっているものは人工衛星由来の情報です。UNOSATの情報は、主に国際災害チャータの衛星画像を利用して作成されているようです。ReliefWebにはPDF形式のみの掲載ですが、ページ内にソースへのリンクも併せて掲載されているので、「国連訓練研究研究所(UNITAR)」が提供する別サイトに飛ぶと、PDFに加えてシェープファイルなども入手することができます。
(6) 日本の機関の取り組み:JAXA
Earth-graphy 地球が見える
https://earth.jaxa.jp/ja/earthview/earthview_cat/disaster/index.html
「Earth-graphy」の「地球が見える」のコンテンツでは、JAXAの地球観測衛星による最新の研究開発成果がまとめられています。「災害情報」のカテゴリで検索すると、記事一覧が表示され、水害、地震、火山、軽石など、様々な災害に対するJAXAの対応・研究成果が確認できます。
例えば、令和2年7月豪雨のページでは、「しずく」(GCOM-W)、全球降水観測計画主衛星(GPM core observatory)、「だいち2号」(ALOS-2)、静止気象衛星ひまわり8号、「しきさい」(GCOM-C)による解析結果がまとめられています。
ALOS-2は高分解能SAR衛星であり、有償のため、一般向けにはJPEGやPNGでの閲覧のみ可能となっています。ただし災害時には、国内外の防災関連機関に無償で画像画像が提供されています(国際災害チャータ、センチネルアジア含む)。
一方、GCOM-C、GCOM-W、GPM等のデータは一般向けにオープンになっているので、オリジナルデータを入手したい場合は、JAXAの「G-Portal」から入手することができます。
火山活動・林野火災速報システム
https://kazan.jaxa.jp
「火山活動・林野火災速報システム」は、火山活動の変化や林野火災を早期に見つけるためのシステムです。GCOM-CとJAXAの地球観測用小型赤外カメラ(CIRC)の画像や、これらを解析した火山活動の指標を地図上に表示することができます。また、気象衛星「ひまわり」の画像も重ねることができます。
また、気になる火山をクリックすると、各火山の表面温度の時系列変化を確認することができます。この温度推移を示すCSVデータや、時系列グラフ表示の画面で表示されている、火山の観測範囲の温度画像がGeoTIFF形式でダウンロードできます。また、火山周辺に限らず、ユーザ側で地図上に表示させた範囲の温度画像も、GeoTIFF形式でダウンロード可能です。
(7) 日本の機関の取り組み:内閣官房
https://www.cas.go.jp/jp/gaiyou/jimu/csice.html
内閣官房で人工衛星というのは聞き慣れないと思いますが、内閣官房には、内閣衛星情報センター (CSICE) という組織があり、外交や防衛等の安全保障及び大規模災害等への対応等の危機管理のために必要な情報の収集を主な目的として、情報収集衛星を活用しています。
国内での大規模災害時に、情報収集衛星の画像が被災状況の早期把握や、被災者等の迅速な救助・避難等に資すると判断された場合には、加工処理画像(衛星画像に、衛星の能力が明らかにならないよう加工処理をしたもの)を公開することになっています。
出典:
大規模災害時等における情報収集衛星画像に基づく加工処理画像の公開について
衛星の能力が分からないよう加工されていますが、衛星画像はGeoTIFF形式でも一般公開されています。内閣府官房のTOPページの「報道情報」の一覧から、各災害における画像を探すことができます。例えば、令和2年7月豪雨に関するページはこちらです。
(8) 企業の取り組み:Tellus
「Tellus」は日本発のオープン&フリーなデータプラットフォームです。衛星から取得できる情報を含め、世界中のありとあらゆるデータを集積しています。災害時の衛星画像も、Tellus Satellite Data Traveler(Tellus Traveler)等で公開しています。
TellusのTOPページの「ニュース&トピックス」で、災害に対して提供された日本の商用衛星(ASNARO-1,2)の画像一覧を確認できます。
例えば、2022年のトンガ海底火山噴火に関する記事はこちらです。この記事では、それぞれの画像にTellus Travelerへのリンクがあります。各データの基本情報にある、利用範囲の欄に「Tellus環境限定」とあるものはTellus内でのみ利用可能ですが、「Tellus外での利用可」となっているものはローカル環境にGeoTIFF形式やPNG形式でダウンロードすることができます。
※ASNARO-1,2はGeoTIFFでの提供は、Tellus環境からのみ可能です。
(9) 企業の取り組み:MAXAR
オープンデータプログラム
https://www.maxar.com/open-data
MAXARの「オープンデータプログラム」では、災害前後の衛星画像を、無償でGeoTIFF形式で提供しています。入手できるのはMAXAR社の衛星であるWorldViewシリーズやGeoEye-1などの高分解能光学画像です。
TOPページから対象の災害のページに移動し、「ANALYSIS-READY DATA」からダウンロードする衛星画像を選択することができます。8バンドのマルチスペクトル画像、白黒のパンクロマチック画像、パンシャープン画像がそれぞれダウンロードできるため、衛星画像を解析したい方にとって、大変有難い取り組みです。
(10) 企業の取り組み:パスコ
https://corp.pasco.co.jp/disaster/
パスコは、大規模な自然災害が発生した際の衛星画像(航空写真含む)と解析結果を、JPEGやPDF形式で公開しています。利用されている衛星画像は、SPOT、Pléiades、TerraSAR-X、ALOS-2などです。
例えば、平成30年北海道胆振東部地震災害のページでは、SPOTを利用した土砂移動痕跡の自動判読、SPOT 6とPléiadesの画像、Suomi-NPP搭載のVIIRSの夜間光画像、ALOS-2の解析結果が閲覧できます。航空写真や現地調査結果も含まれています。
(11) 企業の取り組み:アクセルスペース×JX通信社
FASTALERT
https://fastalert.jp/
「FASTALERT」は、JX通信社が提供する、AIによってSNSから災害などのリスク情報を収集し配信するWebサービスです。JX通信社は日本の宇宙ベンチャーであるアクセルスペースと協力し、次世代の衛星報道サービスの提供に向けた実証実験を実施しました(試行期間:2021年7月〜2022年1月)。
アクセルスペースは、世界のあらゆる地域を高頻度で観測できる次世代光学地球観測プラットフォーム「AxelGlobe」の構築を進めており、現在は衛星5機体制で、同一地点を2〜3日に一度観測し画像提供することができます。
試行期間中、FASTALERTが検知した災害等の発生箇所を、迅速にAxelGlobeで撮影し、FASTALERT契約顧客に無償提供するほか、JX通信社が運営する無料速報ニュースアプリ「NewsDigest」でも、概要を独自の速報として提供されたそうです。
まとめ
以上、災害時の衛星画像やその解析結果を見たい場合に、ぜひチェックして頂きたいサイトなどをご紹介しました。
高分解能の衛星画像は一般的には有償ですが、災害が発生した際には、被災地の支援のために、衛星画像を共有する取り組みがボランタリーベースで行われています。
一般向けに、高分解能の衛星画像をGeoTIFF形式で公開しているサイトは、残念ながらほとんどありませんでしたが、多くの機関・企業が衛星画像での解析結果をJPEG形式等で公開しています。これらの情報は、被害が大きい地域など着目すべきエリアが分かりやすくなっており、衛星画像と合わせて救援・復旧活動に役立てられています。
また、衛星画像からの被害域を推定する解析手法は、現地調査の写真や情報と比較することで改善を重ねることができ、結果として解析結果の精度が向上していきます。解析手法の高度化のためには、現地調査のデータの集約・公開も重要なポイントです。
せっかくの有用な情報であっても、提供が遅い、分かりにくい、必要なところに届いていない等の理由で、残念ながら災害活動に活用されないこともあります。災害が発生した際、救援や復興活動のために必要な情報が、必要な人の元に、より迅速に、より確実に、より必要とされる形で届けられるように、引き続き取り組んでいく必要があると思います。
参考資料
JAXA 災害毎の情報提供の概要
https://earth.jaxa.jp/ja/application/disaster/achievements/index.html