宙畑 Sorabatake

衛星データ

【保存版】環境問題を可視化する衛星データまとめ〜環境問題の指標・世界の取り組み・利用できる人工衛星〜

地球規模の主な環境問題、世界の環境問題に対する取り組み、環境問題の監視に対して活用できる人工衛星を整理しました。

(1)はじめに

世界的に、地球規模の環境問題について取り組む意識が高まってきています。

2021年10月31日から11月13日にかけて、第26回気候変動枠組条約締約国会議(COP26)が開かれました。COP26では、世界全体で、地球の平均気温上昇を産業革命前から1.5℃に抑える努力をすることが合意されました。そのためには、2050年までのカーボンニュートラルが必須であると言われており、社会全体で気候変動対策を進めていかなければなりません。

本記事では、地球規模の主な環境問題、世界の環境問題に対する取り組み、環境問題の監視に対して活用できる人工衛星についてご紹介します。

本記事で紹介する環境問題と衛星データの早見表

(2)環境問題とは?環境を考えるうえで重要な指標

環境問題には、地球温暖化のような地球規模の課題から、大気汚染や土壌汚染などの地域規模の課題など、様々なものがあります。ここでは、地球規模の環境問題を対象とし、空域、海域、陸域の3つに分けて紹介します。

それぞれの環境問題は独立しているのではなく、多くが互いに影響を及ぼしあっていることに留意しながら、以下に記すそれぞれの解説をご覧ください。

①空域の環境問題:

主なものとして、地球温暖化、オゾン層の破壊、酸性雨があります。

環境問題
原因
主な発生源
指標
地球温暖化
人為起源の温室効果ガス(CO2, メタン など)
CO2:化石燃料の使用、
CO2:森林減少等
メタン:稲作, 家畜等
気温(地表面温度), 海面水温, 温室効果ガス など
オゾン層の破壊
フロン, ハロン
エアコン, 冷蔵庫, 消火剤など
O3, フロン, ハロン など
酸性雨
NOx, SO2
化石燃料の燃焼, 火山活動
pH, NOx, SO2 など

 

1. 地球温暖化

地球温暖化は、地球規模で気温が上昇する現象で、氷河・氷床の減少、海面上昇、大雨・干ばつの増加など、海域や陸域にも大きな影響を及ぼしています。また、地球温暖化は勢力の強い台風や、豪雨の発生頻度を増やすという研究結果もあり、私たちの生活にも大きな影響を及ぼす問題の1つとなっています。

地球温暖化の主な原因は、人間活動による二酸化炭素(CO2)やメタン(CH4)などの温室効果ガスの増加といわれています。温室効果ガスには、地球の表面から地球の外に向かう熱を大気中に蓄積し、再び地球の表面に戻すという「温室効果」という性質があります。

この温室効果がなければ、地球の平均気温は-19℃という極寒の環境となっていただろうと推測されています。温室効果ガスがあるからこそ、地球の平均気温は約14℃という過ごしやすい温度で保たれています。温室効果ガスは人類が誕生する前から存在し、放出と吸収のバランスが保たれていたのです。

しかし、産業革命以降、人間活動に伴う化石燃料の使用などにより、CO2をはじめとする温室効果ガスが急激に増加しました。それにより放出と吸収のバランスが崩れて温室効果が強まり、地球温暖化が引き起こされているのです。

人為起源の温室効果ガスのうち、3/4以上を占めるのはCO2、次に多いのはメタン、そして一酸化二窒素です。これらは18世紀後半に起こった産業革命以降、急激に増加していることがわかっています。

人為起源の温室効果ガスの総排出量に占めるガスの種類別割合(2010年のCO2換算量) Credit : 気象庁「地球温暖化に関する知識」より一部改変
西暦0-2011年の主な温室効果ガスの大気中の濃度の変化 Credit : 気象庁「地球温暖化に関する知識」より一部改変

温室効果ガスには、自然起源のものと人為起源のものがあります。

人為起源のCO2が増加している原因は、化石燃料である石炭・石油・天然ガスの使用や、セメントの生産等です。また、CO2を吸収する森林を伐採し、燃料として使用したり、居住地や耕作地などに土地を改変することも原因の1つです。

メタンの増加のうち人間活動によるものは、稲作で用いる水田からの放出や、牛や羊などの家畜の飼育があります。他にも、天然ガスなどの化石燃料採掘に伴い、ガス田やパイプラインから漏れ出ることもありますし、ゴミの埋め立て地からも放出されます。

一酸化二窒素は、バイオマスの燃焼や、作物への施肥、工業の過程などの人間活動によって増加していると言われています。

【指標】気温(地表面温度)や海面水温。また、地球温暖化の原因である、CO2、メタン、一酸化二窒素、フロン類等を測ることによって、各原因の寄与を測る事も可能。

2. オゾン層の破壊

オゾン(O3)は酸素原子3個からなる気体で、オゾンが多く存在する層をオゾン層といいます。オゾン層は約10〜50 km上空の成層圏にあり、オゾンの約90%がこの層に存在しています。

オゾン層は、太陽光に含まれる有害な紫外線を吸収し、地球の生物を紫外線から守るという大切な役割があります。しかし、1980年代頃から、オゾンの減少が確認されはじめました。南極上空では、オゾンホールという、オゾン濃度が極端に少なくなり、まるでオゾン層に穴の空いたように見える現象も確認されています。

オゾン層破壊の主な原因物質は、人工の化学物質であるフロンやハロンなどで、オゾン層破壊物質と呼ばれます。フロンは、かつてエアコン、冷蔵庫、スプレーなどに使われていました。

また、ハロンは軍事用として開発された物質で、現在も消火剤に使われています。これらは地上付近では分解されにくいため、成層圏にまで到達し、オゾンを壊す要因となっています。オゾン層の破壊が認知されてから、モントリオール議定書の施行をはじめとする世界的な取り組みが加速し、現在オゾンホールは回復傾向にあるそうです。

【指標】大気中のオゾン量や、オゾンホールの面積。また、フロンやハロンの計測によって、現在規制されているオゾン層破壊物質の排出の監視が可能。

3. 酸性雨

酸性雨は、雨や雪、霧が強い酸性を示す現象です。酸性雨によって河川や湖沼、土壌が酸性化してしまうと、生態系へ影響を与えることが懸念されます。

また、コンクリートを溶かしたり、金属を錆させてしまうため、建造物に被害を与えることでも知られています。

酸性雨の原因は、二酸化硫黄(SO2)や窒素酸化物(NOx)が、大気中で化学変化を起こし、硫酸や硝酸となって雨などに溶け込むことです。二酸化硫黄や窒素酸化物は、人為起源では、化石燃料の燃焼によって、自然起源では火山活動などにより放出されます。

【指標】物質の酸性度を示すpHで、酸性雨の目安はpH5.6以下。また、酸性雨の原因物質である二酸化硫黄や窒素酸化物を測ることで、各物質の影響評価も可能。

②海域の環境問題:

主なものとして、海洋汚染や海洋酸性化、海洋生態系の変化があります。

環境問題
原因
指標
海洋汚染 油流出 船舶事故 など 油流出面積
廃棄物 不法投棄 など プラスチックごみの密度 など
有害液体物質 生活排水, 工場排水, 船舶からの排出 有害液体物質の濃度 など
赤潮・
青潮
富栄養化 沿岸富栄養化指数,
植物プランクトン濃度 など
海洋酸性化 CO2の増加 pH
海洋生態系の変化 地球温暖化に伴う海水温の上昇, 海洋酸性化 など 上場水揚量, 単位努力量当たりの漁獲量, 植物プランクトン など

4. 海洋汚染

海洋汚染には様々な原因があります。海上保安庁が確認したもののうち、最も多い原因は、油流出、次いで廃棄物、有害液体物質(貨物艙洗浄水の排出等)でした。

2021年の海洋汚染確認件数 Credit : 海上保安庁「令和3年の海洋汚染の現状(確定値)」

海上保安庁の報告によると、油流出は、半分以上が船舶からの流出で、その多くが作業中の不注意だといいます。

海洋汚染の原因として2番目に多い廃棄物は、その半分以上が一般市民の家庭ごみの不法投棄です。家庭ゴミの中には自然に分解されないプラスチックも含まれます。基本的にプラスチックは自然に分解されないため、長い時間海を漂うことになり、海洋生態系に悪影響を及ぼすとして、世界的に問題になっています。

近年特に懸念されているのは、マイクロプラスチックによる海洋生態系への影響です。マイクロプラスチックは、プラスチックが長い時間をかけて細かくなり、5 mm以下となったものを指します。マイクロプラスチックが特に問題視されているのは、漂流の過程で汚染物質が表面に吸着し、それが海洋生態系へ取り込まれ、蓄積する原因になるからです。これは、有害物質を含んだ魚を食べる人間の体にも悪影響を及ぼす可能性があるということです。

他にも、海洋汚染の原因として、生活排水・工場排水や、船舶から排出される有害物質によるものがあります。

また、富栄養化が引き起こす赤潮・青潮の漁業への影響も問題になっています。赤潮・青潮は、植物プランクトンが異常に増殖することによって、海の色が変わる現象です。

原因は、洗剤や農薬・肥料に含まれる窒素が植物プランクトンの栄養になるからです。プランクトンが異常に増殖すると、魚のエラにつまったり、プランクトンが呼吸することで、水中の酸素濃度が下がり、魚や貝が呼吸できずに死んでしまうのです。

【指標】海洋汚染には様々な原因があり、指標も様々。例えば、持続可能な開発目標(SDGs)で定められたSDGグローバル指標のうち、海洋汚染に関連するものとして、「沿岸富栄養化指数(Index of coastal eutrophication : ICEP)」「浮遊プラスチックごみの密度」が挙げられている。

5. 海洋酸性化

地球温暖化の原因である大気中のCO2の増加は、海洋にも影響を及ぼします。大気と海洋の間では常にCO2のやり取りが行われており、海洋全体で平均すると、海洋は大気からCO2を吸収していると言われています。そのうち人為起源のCO2の3割を海洋が吸収していることから、海洋は温暖化の進行を抑える重要な働きがあるといえます。

しかし、CO2は水に溶けると酸としての性質を示すため、大気中のCO2が増えすぎると、その分、海洋は酸性化が進んでしまいます。これが海洋酸性化です。

北西太平洋における冬季のCO2濃度の経年変化(1984~2013年) Credit : 気象庁「海洋の健康診断表「総合診断表」第2版」

海洋酸性化が起こると、海洋中の炭酸イオンが減少するため、炭酸カルシウム(CaCO3)の骨格や殻を持つプランクトンや、サンゴ、貝類など多くの生物の生育が阻害される恐れがあります。食物連鎖を支える植物プランクトンなどが減少すると、その上位に属する生物にも影響が及ぶことが懸念されています。

【指標】海洋酸性化の指標は、pHです。原因物質であるCO2濃度を測ることによっても原因物質の影響評価を行うことができます。

6. 海洋生態系の変化

最近、これまで獲れていた魚の種類や量に変化が生じてきているという報道を目にする機会が増えてきたように感じます。先ほど紹介した海洋酸性化も海洋生態系への変化を引き起こしている原因の1つですが、地球温暖化による海水温の上昇もまた、海洋生態系へ大きな影響をもたらしています。生物にはそれぞれ過ごしやすい温度があるため、海水温が上昇すると、生育域が北上することなどが考えられます。

【指標】直接的に測る指標はないようだが、例として、上場水揚量や単位努力量当たりの漁獲量(CPUE, 漁獲努力量に対する漁獲量)などがある。また、海洋生態系を支える植物プランクトンの変化によって、海洋生態系の変化を推定することもできる。

③陸域の環境問題:

主なものとして、熱帯雨林を中心とする森林減少や、砂漠化、生物多様性の減少があります。

環境問題
原因
指標
森林減少 土地利用転換, 木材の過剰な採取,
非伝統的な焼畑農業, 森林火災など
森林面積 など
砂漠化 気候変動, 干ばつ, 過放牧,
過度の耕作, 過度の伐採など
砂漠面積 など(黄砂の指標はエアロゾルなど)
生物多様性の減少 森林減少, 砂漠化 世界の生きている地球指数, 生物多様性完全度指数, レッドリスト指数 など

7. 森林減少

地球の陸地面積の約3割を占める森林は、世界的にみて年々減少を続けています。2010〜2020年のデータによると、世界の年間の森林減少は、九州の面積よりも広い470万 haだったといいます。中でも特に減少が著しいのは熱帯雨林です。

森林分布と森林破壊の最前線 Credit : WWF「森林破壊の最前線」

森林には陸上生物の半数以上が生息しており、森林は生物多様性を保全する上で非常に重要な役割を担っています。生命の宝庫といわれる熱帯雨林の減少は深刻で、日々、数多くの動植物種が失われていると言います。

森林減少の主な原因は、プランテーション開発など農地への土地利用転換、木材の過剰な採取、非伝統的な焼畑農業、森林火災などです。

【指標】森林面積など

8. 砂漠化

砂漠化は、乾燥地における土地劣化のことです。温暖湿潤気候である日本において、砂漠化の問題はあまり身近に感じられないかもしれませんが、中国大陸から飛来する黄砂の原因の1つでもあることから、多少なりとも私たちにも影響を及ぼしています。

砂漠化の原因は、干ばつや乾燥化などの気候的要因や、家畜の過放牧、持続可能でない土地の開発、過剰な森林伐採などの人為的要因があります。

【指標】砂漠面積など(黄砂の指標は、エアロゾルなど)

9. 生物多様性の減少

地球上に生きている生物は、全てが他の生物と関わり合い、影響を及ぼしあって生きています。人間もその生態系の一員であり、多くの動植物に支えられながら豊かな暮らしができているということを忘れてはならないと思います。しかし、1970〜2016年で、脊椎動物の生物多様性は68%減少し、うち淡水域の生物多様性は、84%も減少してしまったといいます。

世界の生きている地球指数 Credit : WWF「生きている地球レポート2020」

この原因の多くは、残念ながら人間活動によるものです。これまで述べてきた地球温暖化や、森林減少、砂漠化のほか、土地開発、乱獲、外来種の流入など、様々な原因があります。

【指標】生物多様性の傾向を測る指標「生きている地球指数 (LPI)」、改変前と比べて生物多様性が残されている割合を示す「生物多様性完全度指数(BII)」、種の生存確率を示す「IUCNレッドリスト指数(RLI)」など

(3)世界の地球温暖化対策のトレンド

地球規模の環境問題について整理しましたが、早急に解決しなければならない深刻なものばかりでした。それぞれの問題の解決に向けて、世界が足並みを揃え、取り組む必要性があります。

世界のトレンドは「2050年カーボンニュートラル」。これは、2050年までに温室効果ガスの排出を全体としてゼロにするという目標です。パリ協定で努力目標として示された、産業革命以降の温度上昇を1.5度以内に抑える「1.5℃目標」を達成するためには、2050年頃までのカーボンニュートラルが必要であるとされています。

2021年1月時点では、124カ国と1地域が「2050年カーボンニュートラル」を表明しています。また世界中の多くの企業もこの目標に向けて取り組んでいます。

2050年までのカーボンニュートラルを表明した国 Credit : 経済産業省「COP25におけるClimate Ambition Alliance及び国連への長期戦略提出状況等を受けて経済産業省作成(2021年1月20日時点)」

世界のCO2排出量1位は中国、次いでアメリカ、そして日本は5位です。中国は2位のアメリカの2倍以上という圧倒的な量を排出しており、世界全体の排出量の約30%を占めます。一方、国民一人あたりの排出量では、ここで示す国の中では、アメリカが1位、ロシアが2位、そして日本が3位です。日本も世界的にみると多くのCO2を排出しており、非常に残念なことだと思います。

2019年のエネルギー起源CO2排出量上位6ヵ国のCO2排出量および一人当たりCO2排出量 Credit : 環境省「世界のエネルギー起源CO2排出量」

CO2排出量上位6カ国の2030年目標と2050年カーボンニュートラルの表明はこのようになっています。CO2排出量の多い国は、2050年カーボンニュートラルについては慎重な姿勢のように感じます。

2030年目標
2050年カーボンニュートラル
中国 (1) CO2排出量のピークを2030年より前にすることを目指す
(2) GDP当たりCO2排出量を-65%以上(2005年比)
CO2排出を2060年までにネットゼロ
アメリカ -50 ~ -52%(2005年比) 表明済み
インド GDP当たり排出量を-33~-35%(2005年比) 2070年ネットゼロ
ロシア 1990年排出量の70%(-30%) 2060年ネットゼロ
日本 -46%(2013年度比)(さらに50%に向けて挑戦する) 表明済み
ドイツ(EU) -55%以上(1990年比) 表明済み

出典:外務省HP(2022年1月11日時点の情報)

世界で排出量の多い中国とアメリカ、そして我が国日本の、温暖化に向けた取り組みを紹介します。

1. 日本

日本は、2020年10月に「2050年カーボンニュートラル」宣言を表明しました。

また、2021年4月に、2030年度において、温室効果ガスを2013年度比で46%削減し、さらに50%削減に挑戦することを表明しました。この内容は、2021年10月に、地球温暖化対策推進法に基づく政府の総合計画である「地球温暖化対策計画」として閣議決定されています。

この目標を実現するための対策として、水素・蓄電池など重点分野の研究開発及び社会実装を支援することや、2030年度までに100以上の「脱炭素先行地域」を創出することなどを示しています。

さらに、過去に排出されたCO2の削減をも目指す「ビヨンド・ゼロ(ゼロを超えて)」というコンセプトも掲げています。それを可能とする革新的技術を2050年までに確立することを目指し、脱炭素化のカギとなる革新的なイノベーションの推進や、「グリーン・ファイナンス」の推進などを進めています。

2. アメリカ

アメリカも、2050年までのカーボンニュートラルを宣言しています。また、2030年までに温室効果ガスを2005年比で50〜52%削減することを表明しました。バイデン大統領は、今を「勝負の10年」と表現しています。

これらの目標の実現のため、2030年までに発電量の8割をクリーンエネルギーで賄うという目標を示し、再生エネ投資への税制優遇などを通して、クリーンな電力への投資を進めるとしています。また、2030年までに新車の50%を電気自動車など排気ガスを出さない車にするという目標も発表しており、話題となりました。

米国の過去のCO2排出量と2050年のネットゼロ目標下での予測排出量 Credit : 米ホワイトハウス

3. 中国

CO2排出量が最も多い中国は、2030年までに温室効果ガスの排出量を減少させ、2060年までのカーボンニュートラルを実現すると表明しています。また、2030年までの目標として、一次エネルギー消費量のうち非化石エネルギーによるものの割合を約20%に高め、森林を増やすことなども示しています。

中国は「世界最大の途上国」の立場をとっており、COP26首脳級会合にて、先進国は自国の気候変動対策だけでなく「発展途上国が対策をより良く実施できるよう支援すべきだ」と求めました。また、COP26で発足した、温室効果の高いメタンの排出を減らす国際枠組みには加わりませんでした(日本を含む97の国と地域が参加。不参加は、中国、ロシア、インドなど)。

ただし、COP26の最中、中国はアメリカと共同で「2020年代に気候行動を強化するグラスゴー共同宣言」を発表しています。2020年代の気候変動対策とその協力強化や、中国がメタンの排出削減の行動計画を策定すること、2026〜2030年に石炭消費量を段階的に削減することなどが盛り込まれています。

(4)環境問題の指標を観測できる人工衛星一覧

世界では足並みを揃え、環境問題解決に向け取り組んでいるところですが、各国の進捗を定量的に把握するためには、均一で客観的な指標が必要です。環境問題は従来から地上観測や航空機観測などによって観測されてきましたが、地球全体を均質に観測するという点は、人工衛星が得意とするところです。

他にも、人工衛星の強みとして、温室効果ガスなどの地表から大気上端までの総量を観測できる点、定期的に観測できる点、同時に複数の指標を観測可能である点などがあります。一方、宇宙(遠隔)からの観測になるため、地上観測と比較すると、高精度、高分解能での観測は苦手になります。

ここでは、先ほど整理した様々な環境問題の指標に対して、人工衛星で観測可能なものを紹介します。

環境問題
衛星データで観測できる関連指標
観測可能な主な人工衛星
(2022年4月時点運用中)
地球温暖化 地表面温度, 海面水温 「ひまわり」, 「しきさい」, 「しずく」
Terra, Aqua
MetOp-B, MetOp-C など
地球温暖化 CO2 「いぶき」, 「いぶき2号」
OCO-2, OCO-3
GaoFen-5
GHGSat-D など
地球温暖化 メタン 「いぶき」, 「いぶき2号」
Sentinel-5P
GHGSat-D など
オゾン層破壊 O3 Aura
Suomi NPP
MetOp-B, MetOp-C
Sentinel-5P など
酸性雨 SO2 「ひまわり」
Aura
Suomi NPP
Sentinel-5P など
酸性雨 NO2 Aura
Suomi NPP
Sentinel-5P など
海洋汚染(油流出) 油流出面積 合成開口レーダ(SAR)衛星、光学衛星
海洋汚染(廃棄物) プラスチックごみ 光学画像
海洋汚染(赤潮・青潮)
海洋生態系の変化
植物プランクトン 「しきさい」
Terra, Aqua(センサ:MODIS)
Suomi NPP など
森林減少 森林面積 光学衛星、SAR衛星
砂漠化 砂漠面積 光学衛星
黄砂 エアロゾル 「いぶき」, 「いぶき2号」, 「しきさい」, 「ひまわり」
Terra, Aqua
MetOp-B, MetOp-C など

(5)温室効果ガスを観測できる人工衛星一覧

温室効果ガスのうち、CO2、メタン、一酸化炭素の観測が可能な主な衛星を紹介します。

近年、民間企業も温室効果ガスの観測をミッションとする衛星の開発を進めており、カナダのGHGSat社が商用観測を行っています。他には、アメリカのBluefield Techonologiy社も、将来的にメタンの商用観測を目的としたCOOLという分解能20 mの超小型衛星を複数打ち上げ、コンステレーションを構築する予定です。

商用衛星は分解能が高いことが特徴で、地球全体をくまなく観測するのではなく、特定の地点を重点的に高分解能で高頻度観測できるということが強みであるとみられます。

衛星
機関/会社
打ち上げ
観測できる
温室効果ガス
分解能
「いぶき」(GOSAT) JAXA/国立環境研究所/環境省 2009 CO2, CH4 10.5 km
OCO-2 NASA 2014 CO2 1.25 km x 2.25 km
GHGSat-D GHGSat社 2016 CH4 50 m
Sentinel-5P ESA 2017 CH4, CO 7 km
FengYun-3D 中国気象局/中国国家航天局 2017 CO2, CH4, CO 13.7 km
GaoFen-5 中国国家航天局 2018 CO2, CH4 10.3 km
「いぶき2号」(GOSAT-2) JAXA/国立環境研究所/環境省 2018 CO2, CH4, CO 9.7 km
OCO-3 NASA 2019 CO2 1.60 km x 2.20 km
GHGSat-C1/C2 GHGSat社 2020, 2021 CH4 25 m

※短波長赤外を観測し、地表付近の濃度を含む温室効果ガスのカラム量(地表面から上空までのカラム(鉛直の柱)中に存在する大気成分の量)を求める衛星を対象

(6)無料で入手できる衛星データ

ここでは、(4)で紹介した衛星のうち、無料でデータが利用できる衛星として、「いぶき」(GOSAT)、「いぶき2号」(GOSAT-2)、「しきさい」(GCOM-C)、「ひまわり」、Sentinelシリーズ、Terra・Aqua(センサ:MODIS)、Suomi NPPを紹介します。

1. 「いぶき」(GOSAT)

「いぶき」はJAXAと環境省、国立環境研究所が、共同プロジェクトで開発した人工衛星です。以下のサイトから、CO2やCH4量などをダウンロードできます。

・GOSAT Data Archive Service (GDAS)(国立研究開発法人 国立環境研究所)
https://data2.gosat.nies.go.jp/

「いぶき」による2022年3月のCO2分布 Credit : JAXA/NIES/MOE

GHGs Trend Viewer(JAXA)
「いぶき」・「いぶき2号」のデータから求めた、特定の観測点におけるCO2、CH4等の変化を可視化したサイト

TANSO-FTS観測点マップ(JAXA)
「いぶき」のTANSO-FTSセンサによって観測された観測点を公開しているサイト

GOSAT Score Map
温室効果ガスを観測する衛星の観測サンプリングパターンの最適化をするためのサイト

2. 「いぶき2号」(GOSAT-2)

「いぶき2号」は、「いぶき」の後継機です。以下のサイトからは、CO2やCH4に加え、COやエアロゾル光学的厚さなどをダウンロードできます。「いぶき」より高分解能であり、また、ダウンロードできるプロダクトが多いのが特徴です。

・GOSAT-2 Product Archive(国立研究開発法人 国立環境研究所)
https://prdct.gosat-2.nies.go.jp/

「いぶき2号」による2021年12月のCO2分布 Credit : JAXA/NIES/MOE

3. 「しきさい」(GCOM-C)

「しきさい」は、JAXAの気候変動観測衛星で、近紫外から熱赤外域(380nm〜12 μm)を19チャンネルで観測できるセンサを搭載しています。空域・海域・陸域に関する28もの気候変動に関係する物理量を、グローバルに観測することができます。

・G-Portal(JAXA)
https://gportal.jaxa.jp/

G-Portalからは、「しきさい」以外にも、「しずく」(GCOM-W)、GPMなどの衛星のデータも取得することができます。

また、Tellusでは「しきさい」の地表面温度、海面水温、クロロフィルa濃度、植生指数が公開されています。

2019年10月30日の「しきさい」による海面水温(Tellus OSで表示) Source : https://sorabatake.jp/8915/

「しきさい」の関連情報として、以下のようなものがあります。

・JASMES ポータル(JAXA)
https://kuroshio.eorc.jaxa.jp/JASMES/
「しきさい」やTerra/Aqua MODISデータなどを使って算出した様々な物理量プロダクトを提供するサイト。地表面日射量(光合成有効放射)、曇天率、積雪・海氷域、植生乾燥度(水ストレス)、土壌水分、森林火災、降水・可降水量、陸・海面水温など。

・しきさいポータル(JAXA)
https://shikisai.jaxa.jp/
「しきさい」(GCOM-C)データの利用や処理状況に関して情報提供するためのサイト

4. 「ひまわり」

「ひまわり」は気象庁の静止気象衛星で、日本を中心とした広域を10分間隔で観測しています。(静止衛星は地球全体を観測できない点に注意が必要です。)「ひまわり」の観測データや関連するプロダクトは、気象庁のHPにまとめられている4つのサービスからダウンロードできます。

協力機関からの研究者向けデータ公開(気象庁)

「ひまわり」の画像 Credit : 気象庁 Source : Tellusニュースリリース

また、Tellusではひまわり8号の可視、赤外領域の画像が利用できます。詳しくはこちら

5. Sentinelシリーズ

Sentinelシリーズは、欧州連合(EU)とヨーロッパ宇宙機関(ESA)の地球観測プログラム「コペルニクス計画」によって開発されている衛星群です。以下のサイトからは、Sentinel-1、Sentinel-2、Sentinel-3、Sentinel-5Pのデータが確認できます。特に環境問題の監視に活用されるSentinel-5Pは、地球全体のメタン、SO2、NO2、オゾン、エアロゾルなどを観測する衛星です。

・Copernicus Open Access Hub(ESA)
https://scihub.copernicus.eu/
Sentinel シリーズの元データ(バンドデータ)をダウンロードしたい場合は、こちらから取得することが可能です。

また、Copernicus Open Access Hubでは、画像データを取得するAPIにもアクセスすることができます。

・EO Browser(Sinergise Laboratory)
https://apps.sentinel-hub.com/eo-browser/
画像のダウンロードは必要ないという方で、画像をクイックルックしたい場合や、ブラウザ上で簡単な解析をしたいという場合は、こちらのサイトが便利です。

EO Browserで表示された2018年9月11日のヨーロッパにおける二酸化窒素 Credit : Copernicus Sentinel data Source : https://www.sentinel-hub.com/newsletters/20180919/

6. Terra・Aqua(センサ:MODIS)

TerraおよびAquaに搭載されているMODISセンサは、0.4~14μmを36バンドで観測し、エアロゾル、土地被覆、植生、地表温度、海面温度、気温等の観測を行うために利用されています。

・Earth Data(NASA)
http://earthdata.nasa.gov/

Earth Dataには、Terra・Aquaのほか、Suomi-NPP、Aura、OCO-2,3を含む33,000を超える地球観測データコレクションの情報が集約されています。
大気・陸域の人工衛星データのダウンロードの詳細はこちら:
https://earthdata.nasa.gov/earth-observation-data/near-real-time

また、Earth Dataサイト内で紹介されている以下のサイトも便利です。

・Earthdata Search
https://search.earthdata.nasa.gov/
データ検索を行うサイトです。Earth Dataでユーザ登録を行うことで、画像のダウンロードが可能です。

・World View
https://worldview.earthdata.nasa.gov/
MODISを含む衛星データの閲覧が可能で、さらに気候や災害状況、大気汚染など多岐に渡るデータを重ねることができます。

・MODIS Near Realtime Data(JAXA)
https://www.eorc.jaxa.jp/cgi-bin/adeos/modis_index.cgi

東海大学情報技術センターが受信したNASAのMODISのデータを、準リアルタイム処理して公開しています。海面水温、クロロフィルa濃度、エアロゾル光学的厚さ、海面放射輝度、簡易大気補正済み輝度のバイナリデータを入手できます。

MODISによる2006年のクロロフィルa濃度と海面水温 Credit : JAXA Source : https://www.nasa.gov/mission_pages/NPP/news/omps-active.html

7. Suomi NPP

Suomi NPPには、VIIRS(Visible Infrared Imager and Radiometer Suite)や、OMPS (Ozone Mapping Profiler Suite) などのセンサが搭載されています。VIIRSは、MODISの後継センサで、0.4〜12.5 μm(22チャンネル)を観測できます。OMPSはオゾンや二酸化窒素や二酸化硫黄の濃度を観測することのできるセンサです。

・Earth Data(NASA)
http://earthdata.nasa.gov/
MODISと同様に、Suomi NPPのデータもEarth Dataから入手できます。
大気・陸域の人工衛星データのダウンロードの詳細はこちら:
https://earthdata.nasa.gov/earth-observation-data/near-real-time

1982年から2012年までの1月27日の地球のオゾン層の厚さ。オゾン量が多いほど赤く示される。2012年のものがSuomi NPPに搭載されているOMPSの結果 Credit : NASA/NOAA Source : https://www.nasa.gov/mission_pages/NPP/news/omps-active.html

(7)まとめ

今回は、地球規模の主な環境問題について解説し、地球温暖化に対する世界の取り組みや、環境問題の監視に対して活用できる人工衛星をご紹介しました。環境問題の監視に活用できる人工衛星は多くあり、全てを網羅することはできないほどでした。主な人工衛星については、データの入手先もピックアップしましたので、是非チェックしてみてください。

人工衛星は、地球全体を俯瞰的に均質に観測できるという強みがあります。人工衛星データを使って、2050年カーボンニュートラルに向けて加速する世界の取り組みの成果を見守って行きたいですね。また、私たち一人一人も、環境に優しい行動を意識して生活したいものです。美しい地球がいつまでも守り続けられることを、心から願っています。