2019年、宇宙ビジネス業界で何が起こったか~7つのトピックで振り返り~
2019年、宇宙ビジネス業界で起きたことやトレンドを、大きく7つのトピックに分けて紹介します。最後には2020年宙畑注目のトピックも。
2019年、皆さんにとってはどんな年でしたでしたか?
宙畑では、「2018年、宇宙ビジネス業界で何が起こったか~5つの注目ポイント~」という記事で2018年を5つのトピックにまとめて振り返り、その上で、2019年注目ワードを「民間月探査」「衛星データプラットフォーム」としていました。
本記事では、注目としていた二つのポイントは果たしてどうだったのかをふまえ、宙畑編集部が注目した2019年に起きた宇宙ビジネス業界での出来事を、「有人宇宙」「月探査」「ロケット」「衛星」「宇宙利用」「資金調達」「新規参入」の7つのトピックにまとめ、振り返っていきたいと思います。
(1)有人宇宙
2019年中に民間による宇宙旅行が実現するか?と期待されていましたが、こちらは2020年に持ち越しとなります。
Virgin GalacticとBlue Originは共に、宇宙旅行のサービス提供開始に向けて試験飛行を重ねており、2020年中には初の民間企業による民間人に向けた宇宙旅行サービスが提供され始める予定です。サービス提供に向けて、離発着可能な宇宙港の整備も合わせて進められています。
また、Virgin Galacticと言えば、上場したことでも大きく話題となりました。上場後、しばらく株価は低い水準を推移していましたが、12/30現在の株価は10/28に上場した際と同水準まで戻っています。
国による有人宇宙施策としては、ロシアが宇宙旅行サービスの提供を再開する、と宣言した他、NASAがSpaceXとボーイングそれぞれに発注している有人宇宙船の評価が着々と進み、順調にいけば来年には人を乗せて国際宇宙ステーション(ISS)まで飛ぶ予定です。ISS関連では、長い間有人宇宙はロシアに頼りきりになっていましたが、アメリカが人を乗せて宇宙へ行くのは、スペースシャトルが引退してから実に2011年から9年ぶりです。
人が宇宙に行くようになると、新たなサービスが付随して生まれる可能性も高く、つまりは市場拡大に大きく寄与することになるでしょう。例えば、上記で話題にあげている宇宙港の他にも、宇宙服を作る企業や旅行代理店、飛行ルートの監視をする企業など、様々に考えられます。付随してどのようなサービスが新たに生まれてくるかも注目です。
(2)月探査
アポロ11号による月着陸から50年という節目の年。
2019年1月に、中国国家宇宙局が無人探査機「嫦娥4号」が月面の裏側に到達させたことは、宇宙開発史に新たな歴史を刻んだと言えるでしょう。
さらに中国国家宇宙局は、嫦娥の中で綿花の発芽に成功したほか、ジャガイモや菜種などの発芽実験を行い、月環境で初めて植物を発芽させるという偉業をも成し遂げました。
月探査は国家主導のプロジェクトにはとどまらず、イスラエルの民間団体SpaceILは、2月に探査機「べレシート」を打ち上げました。月軌道までは順調に成功したものの、軟着陸に失敗。しかしながら、月周回軌道までは見事投入しており、技術力の高さを各国へ見せつけました。
同じように、インドの探査機「チャンドラヤーン2号」も月を目指しましたが、こちらも軟着陸には失敗。両国共に今後も月を目指すとのことで、今後への期待は高まりました。
月関連で最もニュースのタイトルを飾ることが多かったのは、米国NASAの「アルテミス計画」かもしれません。同計画は、月周回軌道上に宇宙ステーション「ゲートウェイ」の構築と2024年までに有人月面着陸の実施を予定しています。
注目すべきは、NASAによる民間企業へのタスクオーダーの状況です。月面へのペイロード輸送はCLPS(Commercial Lunar Payload Services)プロジェクトに選定された、AstroboticやIntuitive Machinesが2021年7月の打上げに向けて開発を進めています。
次いで11月には、CLPSにSpaceXやBlue Originなど5社が追加選出され、企業間競争の激化を懸念する声が上がっています。
月面開発企業にとってのキーワードは「持続性」の有無。今回はアポロ計画とは異なり、政府による月面開発プロジェクトで技術を実証しながら、いかに継続して月面に滞在できるよう事業を安定できるかが、本計画及び参画する各企業の行く末の明暗を分けることとなるでしょう。
(3)ロケット
SpaceXは、2019年にロケットを合計で13回打ち上げました(Falcon 9:11回、Falcon Heavy:2回)。2017年からロケット第一段の再利用を実施しているSpaceXですが、もうすっかりロケットブースター回収が当たり前のようになっており、今年はついにフェアリングの回収にまで成功しました。真っ赤なテスラロードスターを打ち上げたことが記憶に新しいFalcon Heavyは、今年4月に初の商業打ち上げを実施しました。
他にも、SpaceXは今年の9月28日に、新型ロケットであるStarShipのプロトタイプを公開しました。このロケットは、前澤さんが宇宙に向かうときに使用するロケットと同じものになります。今回公開されたStarshipの全長は約165フィート(約50m)、直径9m、最大でおよそ100人が搭乗できるように製作されており、同社が現在開発中の大型ロケットSuper Heavyの上段に搭載して打ち上げられる予定です。StarshipのプロトタイプであるStarhopperの打ち上げ試験も今年行われ、150 mまで飛行し、着陸することにも成功しています。
小型ロケット界を牽引しているRocket Labについては、2019年で6回の商業打ち上げを実施して全て成功しました。DARPA(国防高等研究計画局)の衛星の打ち上げも手がけたり、5年間のライセンスをFAAから取得したりと、打ち上げ信頼性を着実に向上させているRocket Labは、今年8月にロケット第一段の回収計画の開始を発表しました。SpaceXのような大型ロケットではなく、小型ロケットで第一段再利用に踏み切るのは賛否両論があります。しかし、同社CEOのPeter Beck氏が「コスト削減のために再利用に踏み切るのではない。あくまで、打ち上げの機会損失を減らすための手段だ。」と言い切る姿からは、今後需要が増す小型ロケット打ち上げの市場をRocket Labが獲りきる姿勢を感じます。
日本の宇宙ベンチャーであるインターステラテクノロジズも、今年5月にMOMO3号機の打ち上げに成功しました。民間の資金で液体燃料のロケットを開発し、宇宙空間に到達した企業としては、世界で4番目となっています。
同じく小型ロケットでRocket Labを追従していると見られていたVECTOR。アメリカ空軍との契約も勝ち取り、順調に打ち上げに向けて開発を進めているものと思われていましたが、突然に創業停止を発表、8月に全社員を解雇し、12月にはChapter 11(破産申請)を申請しました。
宇宙ベンチャーが打ち上げ成功を果たす一方で、アリアンスペースの小型ロケットVegaは、7月11日の打ち上げに失敗しました。現在原因究明中であり、2020年第一四半期の打ち上げ再開を目指しているそうです。
上記グラフは各ロケットの2019年の打ち上げ回数を示しています。今年一番打ち上げたロケットは、中国の長征シリーズでした。民間企業の打ち上げを加えると、中国が打ち上げたロケットの総数は33回で、2年連続で打ち上げ回数1位でした。
(4)人工衛星
こちらは話題も多いので、観測手段とコンステレーションに分けて振り返りました。
4.1. 新たな観測手段・サービスの実用化に向けた取り組み
2019年は小型衛星で新しい話題が3つありました。
まずは新たな観測手段を確立したHawkEye 360。同社は、地上から発信されているRF(電波)を3機の衛星で受信することで、船舶の位置を割り出すことに成功しました。
2つ目は、船舶の位置情報(AIS)を取得する衛星サービスとして良く知られていたSpire Global(以下、Spire)。同社の衛星には、AIS(や航空機の位置情報であるADS-B)以外にも、GPSの信号を受信する機能(GPS掩蔽(えんぺい)もしくはGPS-RO観測)が備えられています。観測結果からは大気の状態を読み取ることができ、同社はこの情報を用いて気象予報サービスを展開し始めました。今後は軌道上の衛星機数を増やすのではなく、サービス提供に注力していく、と述べています。今後IPOも期待されているベンチャーです。
3つ目は、SSTLによる自身で放出した模擬デブリを投網や銛(もり)で捕獲する、という軌道上の実験に成功です。同社は日本のベンチャーであるAstroscaleと共同でデブリ捕獲の実証実験を行う衛星(ELSA-d)を開発しており、2020年に打ち上げられる予定です。
他には、小型SAR衛星の話題も多い一年でした。ICEYEは高分解能観測モードの衛星画像の商用販売を開始した他、Capella Spaceも打ち上げた衛星から取得した衛星画像の評価を進め、2020年には追加で7機打ち上げ、商用販売を始める予定としています。また、国内からもQPS研究所が衛星を1機打ち上げ、2020年早々に衛星画像を公開する予定で初期運用を行っている最中です。
また、いち早く地球観測衛星によるコンステレーションを構築したPlanet Labs (以下、Planet)。同社は、打ち上げている各衛星のステップアップ(性能向上)をしていく旨を発表しており、3Uサイズの超小型衛星は4バンドから8バンドへ観測する波長帯域を増やすほか、100 kg級の衛星は地上分解能1 mほどから0.5 mほどへと性能を向上させる予定だそうです。衛星を多く打ち上げ、観測する時間分解能を上げた同社が、衛星の大きな性能向上に向けて舵を取った2019年。2020年以降に同社の衛星画像を用いてどのようなサービスが始まるのか楽しみです。
4.2. 大型コンステレーションの動きが加速
2019年に入り、一層話題に上ることが増えたのは、「衛星コンステレーション」ではないでしょうか。低軌道のコンステレーションにおいては、Planetが先頭を走ってきましたが、通信サービスの拡大を目的にOneWebとSpaceX、さらにはAmazonが新たに参入。
OneWebは、2021年に商業サービス化を目指し、2月に最初の6機の衛星の軌道投入に成功しました。さらに7月にはソフトバンクとの業務提携を発表。技術力を持つ大手通信会社との提携によって、事業の進行も加速することが期待されます。
SpaceXは、総数12,000機のコンステレーション構築に向けて、5月と11月にそれぞれ60機ずつ打ち上げました。同社が打ち上げたStarlinkは、打ち上げ初期には肉眼でも容易に確認できるほど明るく、景観を損なうのではないかと批判の声も一部では上がっています。同社は引き続き、2020年も定期的に衛星を打ち上げるとしています。
Amazonは来年以降に参入してくる予定です。
コンステレーションによるサービス展開を検討している企業数は多く、中国のブログにて下記のような一覧が公開されています。すべての企業が計画通りに駒を進めるわけではありませんが、今後いくつの企業がこの中で残るのか、そしてどのような新たなプレイヤーが出てくるのか、楽しみですね。
(5)衛星データプラットフォーム
今まで、政府としては欧米だけが衛星データプラットフォームを公開していましたが、2019年2月21日には宙畑がオウンドメディアを務めているTellusがオープン。続いて中国の衛星データプラットフォームもオープンしました。
民間としては更に多くのプレイヤーが衛星データプラットフォームを展開しており、例えば下記のような企業/ベンチャーがプラットフォームを構築しています。
従来までは衛星画像を見るだけのプラットフォームが多かったのですが、最近は衛星を開発/運用していない企業もプラットフォームを展開し始めています。衛星を独自に持っていないような企業の場合には、衛星データを使いやすい形に加工した上で扱いやすいAPIを発行し、Pythonなどの言語で解析できるようにする形でのサービス提供が増えている印象です。
まだまだ衛星データを利用したビジネス事例は多いとは言えませんが、2020年以降にどのようなサービスが生まれるのか、楽しみです。
(6)資金調達
今年も、民間宇宙ベンチャーへの投資のニュースが多数ありました。
大型投資という観点では、Relativity SpaceへのシリーズCラウンドでの140M$の投資が注目を集めました。3Dプリンターで小型ロケットを製造しようとしている同社は、これで獲得した資金の総額は185.7M$となりました。
他の大型投資では、HawkEye 360へのシリーズBラウンドでの70M$の投資がありました。同社は、これで獲得した資金の総額は99.3M$となりました。
日本の宇宙ベンチャーでも、小型SAR衛星の開発に取り組んでいるSynspectiveが、シリーズAラウンドで86.7億円の調達に成功しました。会社設立後17か月で100億円の調達に成功したのは世界最速であり、国内最大規模です。
宇宙ベンチャーは100億円を調達するのが一つのベンチマークとなっていますが、日本の宇宙ベンチャーで100億円を調達したのはこれで3社となりました。(Synspective以外では、ispaceとアストロスケール。)
上記のように、民間宇宙産業への資金投下額は増加しており、2018年度の民間VCによる投資総額は2000億円にのぼります。
2019年度においても、資金の出し手という観点では、昨年に引き続き民間VCによる投資が大多数を占めていた一方、事業会社による投資は今年は殆ど見られませんでした。
また、米国では、創業間もない宇宙ベンチャーへのシード投資が増えると期待されている一方、法律改正により今後宇宙ベンチャーの資金調達が難しくなっていくのではという見方もあります。
今年12月にはモルガンスタンレーが投資家向けに二回目となる宇宙ビジネスサミットを開催しました。集まった人数規模は一回目に比べて3倍。投資家の宇宙ビジネスへの理解度も上がっており、ただ夢だけで投資が集まるのではなく、事業内容を見て投資が集まるように今後なっていくのでないか、と感じる一年でした。
(7)新規参入
今年は、MicrosoftやAppleが宇宙ビジネスに参入して話題になりました。
7.1. 2018年のFacebookを追う2019年のApple
2018年前半、Facebookのマーク・ザッカーバーグが衛星通信事業への参入を発表、同社のアプリケーションをまだ利用できていない人々へ向けて、通信インフラの提供に踏み切るということで話題になりました。
今年は、それを追うようにしてAppleでも、衛星通信関連の研究開発が行われているようである、というニュースがありました。Appleが目指しているのは独自の衛星ネットワーク。衛星を作っているわけではなく、同社が力を入れているのはデータ送受信系装置のようです。
これにより、AppleからのデータをApple製のそれぞれのデバイスに直接送ることができるようになったり、サードパーティのキャリアのネットワークを介すことなく、衛星通信を介してデバイス同士の接続ができるようになったりするようです。さらに、位置情報もより正確に取得でき、同社のマップの性能向上も期待されています。
7.2. 2018年のAWSを追う2019年のMicrosoft
2018年のAWSカンファレンス re:Inventでは、AWSがAWS Ground Stationというサービスで、200機の地上局アンテナにより、衛星通信網とクラウドを接続し、世界中どこからでもクラウドにアクセスできる状態を実現するということが発表されました。
AWS Ground Stationが変える衛星データビジネス
それを追ってか、今年はMicrosoftも、衛星ネットワーク事業へ参入してきました。
同社の提供するクラウドサービスMicrosoft Azureで、衛星通信網による接続に対応するとのこと。SES、INTERSAT、Viasatといった既存の衛星通信事業者と提携し、AWSと同じく、世界中どこからでもクラウドに接続できる状態を実現します。
また、同社は民間企業のみならず、アメリカ空軍やペンタゴンともクラウド契約を結び、着々と官需にも対応しています。
この数年で、地上のネットインフラの拡張・代替としてインターネットの巨人たちが続々と宇宙のネットインフラに投資しています。インターネットの巨人を産んだ一部の億万長者たちが宇宙を目指す構図から、宇宙の利用の状況はガラッと変わったように思えます。
(8)まとめと2020年の注目ポイント
2019年の振り返り、いかがでしたでしょうか?2019年も様々な出来事がありましたね。皆さまの印象に残ったニュースは何でしょうか?他にも取り上げられなかった出来事もあります、ぜひこちらのタグから他のニュースもご確認ください。SNSでもニュースの紹介をしているのでまだフォローしていない方はぜひ。
さて、2020年、宙畑編集部で注目していきたいのは、まず、なんと言っても民間による有人宇宙飛行でしょう。うまく行けば2020年には何回か民間人を載せて民間企業が宇宙旅行サービスを提供する他、民間企業がISSへと宇宙飛行士を連れていく予定です。どちらも一度の成功ではなく、機体を再利用しながら、安定的にサービスを持続することが肝要となります。どのくらいの頻度で、どれだけ安定してサービスが提供できるか、注目です。
宇宙旅行サービスに関連した話題だと、どの企業が2020年に上場するのか、ということも1つ気になるポイントです。2019年はVirgin Galacticが上場したことで話題となりました。Spireも上場に向けて着々と準備しているという話題もありますが、他にどのような企業が上場していくのか楽しみです。
最後に、通信衛星のコンステレーションを計画しているプレイヤーが多い中で、衛星によるネットワークと地上よりネットワーク、どちらが今後主流になるのか、今一度問われるのが2020年かと考えられます。実際にサービスとしてどちら(もしくは共存するパターンも当然あり得ますが)の方が効率的なのか、注目したいところです。
読者の皆さんはどのような話題が気になりますか?面白い話題がありましたらぜひ教えてください。
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