宙畑 Sorabatake

Tellus

衛星データのプロが事業の始め方をアドバイス!『Tellus Open Discussion』~国内・海外事例篇~

昨年度、4回にわたり衛星データの利用事例を紹介したイベント『Tellus Open Discussion』。オンラインで開催した今回は、PwC、RESTECのゲストをお呼びし、国内外の衛星データの利用事例と事業の始め方についてディスカッションしていただきました。

1.「Tellus Open Discussion」について

8月6日に「Tellus SPACE xData Fes. -Online Weeks 2020-」の一環として開かれた今回のイベント『Re:Tellus Open Discussion」~国内・海外事例篇~ -もっとビジネスに「衛星データ」を-』は、衛星データの利活用について具体的な国内と海外の事例をご紹介し、衛星データをどのようにビジネスに活かすことができるのかをディスカッションしていくトークセッションです。

「Tellus Open Discussion」というイベントは、昨年度すでに4回開催しており、海外での利活用について知見をお持ちのPwCコンサルティングさまをゲストに「輸送・交通篇」、「行政・自治体篇」、「通信・エネルギー篇」、「保険・金融篇」という4つのテーマに分け、海外で衛星データがどのように利用されているのかの事例をお話いただきました。

以下の記事でも今までのイベントの様子を紹介しています。ぜひご覧ください。

今回の「Tellus Open Discussion」は、前回までのイベントで行ったアンケート結果からのアンサーイベントとして開催され、アンケートでも意見が多かった「国内事例を知りたい」「海外と比較して遅れている点や進んでいる点の理由も聞きたい」「導入のプロセスを知りたい」といったご意見に応えていきます。

また、「事例について十分聞けた」という声が多かったにも関わらず「自社に応用することができそうか?」という質問に対しては「どちらとも言えない」「思えない」という意見からわかるように、事例を知るだけではわからないビジネス創出に立ちはだかる壁などにも踏み込み、より深く掘り下げたトークセッションを展開していきます。

もちろん、YouTubeでもイベントの内容は配信しています。ぜひ合わせてご覧ください。

本イベントのポイント
・衛星データを使ったサービスが国内外ともに増えている
・事業を始めるためのポイントは、「課題」「チーミング」「実現可能な技術としての衛星」
・ニーズ側を理解し、シーズとニーズの距離を埋めていくのが課題

2.登壇者のご紹介

『Re:Tellus Open Discussion」~国内・海外事例篇~ -もっとビジネスに「衛星データ」を-』の登壇者は以下の皆さまです。

・PwCコンサルティング合同会社 宇宙ビジネスチーム リードマネージャー 永金 明日見 様
・一般財団法人リモート・センシング技術センター ソリューション事業第二部長 向井田 明 様
・さくらインターネット株式会社 フェロー 松浦 直人

そして、ファシリテーターは、さくらインターネット株式会社 事業開発本部 クロスデータ事業部 ビジネス開発グループ 広中 裕士が務めます。

広中:まず初めに、皆様から自己紹介をお願いできればと思います。それではPwCの永金様からお願いいたします。

永金PwCコンサルティングの永金です。よろしくお願いいたします。このTellusのイベントには以前も登壇させていただいており、広中様からもお話あったとおりこの昨年からのTellus Open Discussionのイベントでもいろいろお話をさせていただいたりしています。

永金:PwC自体は日本で宇宙ビジネスチームを立ち上げさせていただいているんですが、実はPwCフランスのほうでは、もう50年以上にわたって宇宙ビジネスのコンサルティングサポートをやっています。

そういった欧州での知見を日本にも持ってきて、さらにこの宇宙ビジネスを日本という市場で活性化させていくというところを使命にいろいろな活動をさせていただいております。

具体的な話で言うと、衛星データ利活用、まさにTellusの領域での新規ビジネス開発などもやっているんですが、その他、宇宙サイバーセキュリティや、衛星データ以外の新規宇宙開発ビジネス創出のお手伝い等をやっておりまして、総合的にこの宇宙時代において、さまざまなお客様のビジネスをサポートしていければなと思っております。

xDataAllianceのメンバーとしても、いろいろなご相談を受けていきまして、いろいろな方々とこの宇宙ビジネスを創っていきたいと思いますので、どうぞ今日はよろしくお願いいたします。

広中:永金さんありがとうございます。よろしくお願いいたします。
続きまして、一般財団法人リモートセンシング技術センターの向井田さんよろしくお願いいたします。

向井田:向井田と申します。どうぞよろしくお願いいたします。弊社のフルネームはけっこう長い名前なのでRESTEC(レステック)で覚えてください。
弊社は一般財団法人で、ちょうど今年で45周年になるんですけども、衛星リモートセンシングを扱ってけっこう長い組織です。その中でソリューション事業第二部ということで、お客さんに対してどういうサービスを提供できるか、営業面も含めて担当している部署となります。

向井田:私自身、大学の頃からずっとリモートセンシングに関わってきておりまして、JAXAの衛星であったり、民間の衛星であったり、ちょっと変わったところで、月の周回衛星というのもあったり、衛星とずっと関わってきました。

大学の頃は海洋物理、海の流れや波も研究していたので、そういうのを衛星で見るというのが私個人としては関心が深いところです。RESTECに入って、仕事に選り好みはしていられず、衛星に関わることであればなんでもやるよという、そんな人間になってしまいました。というところが私の自己紹介と、私の所属しているRESTECの紹介になります。どうぞよろしくお願いします。

広中:ありがとうございました。本日はよろしくお願いいたします。
続きまして、さくらインターネット株式会社の松浦さんよろしくお願いいたします。

松浦:さくらインターネットの松浦です。よろしくお願いします。
私は昨年8月からTellusの事業へ参画しまして、事業に対する助言とか提案というものを行っております。それまではJAXAに30年以上勤務していたのですが、30年のうち20年近く地球観測関連業務をしておりました。

最初に関わったのが1987年に打ち上げられた日本初めての地球観測衛星「もも1号」、その運用の仕事をしまして、そのあと「JERS-1:ふよう1号」というのが1992年に打ちあがっているのですが、その人工衛星の開発チームにいました。今「だいち2号」という人工衛星が運用されていて、それに合成開口レーダというレーダが搭載されているんですけど、それの初号機版になります。

松浦:それ以降は人工衛星のデータ解析、それからプロジェクトの立案という業務に関わりまして、衛星データを利用してもらうという仕事も長く行って、さまざまな壁にぶつかってきております。

その中で昨年からTellusに参画させてもらっているというのは、Tellusという切り口が新たな衛星データビジネスを切り開くんじゃないかと期待があり、参加させてもらおうと思いました。よろしくお願いします。

広中:ありがとうございます。本日はよろしくお願いいたします。

3.衛星データビジネスの市場規模

広中:それではこれからオープンディスカッションを始めさせていただきます。
最初のテーマは、「新規事業として『衛星データ』を活かせるかどうか検討したい」についてです。こちらは前回のアンケートでも参加理由として多かったコメントになっております。

衛星データビジネスの市場規模や、実際どのように衛星データを活かせるかなどについて、まずはPwCの永金様からお話いただければと思います。
では永金様どうぞよろしくお願いいたします。

永金:衛星データって実際どれぐらいの市場規模になるんですか?という話をさせていただきたいと思います。

永金:まず最初に欧州の話を踏まえてお話させていただきます。我々はアップストリーム、ミッドストリーム、ダウンストリームと市場を3つに分けています。

アップストリームはどちらかというと打ち上げしたり、衛星を製造したりというところです。ミッドストリームが保守・運用をしたりというところ。ダウンストリームは、衛星のデータを利活用していくようなビジネスの部分があたります。

見ていただいているとおり、このダウンストリームは非常に大きな市場になってきております。

今後、宇宙のビジネスの成長というところを見ていくにあたっては、ここの部分は、もう欠かすことができない部分になっています。

衛星の利用ビジネスに、いろいろな分野の金額が入ってきていますが、単純にリモートセンシングだけの金額でここまで市場が伸びているのかって言うと、現在まだまだそこまではいっていないというところです。

ただ右下の例のところを見ていただくと、衛星画像のデータプラットフォームを活用した欧州の経済効果が2018年に3,500億円だったのが、2020年になってくると4,550億円となり、年利成長14%の成長を遂げるほどまでになってきています。

その背景には、衛星データの低コスト化であったり、それを活用したさまざまなサービスのラインナップが揃ってきて、いろいろなビジネスシーンに活かすことができているというところが挙げられます。

この影響は、北米であったり、日本というかアジアのほうにも大きな流れが来ている状況だと認識しています。

世界全体で見ても、衛星産業の事業規模は上昇トレンドというところは、引き続き順調に進んで行くのかなというところでございます。

実は2019年でちょっとだけ下がっているんですけど、ダウントレンドに入るのかと言うとそういうわけではなくて、広がりを見せているのは継続していく予想です。近年、SpaceXが有人飛行したりとか、Starlink計画でコンステレーション衛星を上げたりとか、いろいろとにぎわうニュースが飛び交っております。

それに後押しされるような形でこの宇宙市場というのがどんどん広がっていき、それに併せて衛星産業の注目度というのも高まっていくという認識をしております。

永金:右側を見ていただくと、2019年の内訳で、サテライトサービスというところが多くを占めている状態なんですが、中でもリモートセンシングはまだまだ割合は少ないです。しかし、前年比で見ると11%成長を遂げているので、今後も大きく成長していくというところは変わらないと思われます。

昨今のコロナの影響で、リモートセンシングの使われ方というのはいっそう広がってきていると思っています。まさに重要性をいろいろと増してきているのかなと。
コロナ前とコロナ後で、どう人の流れが変わっているのかというところも、コロナ前の情報を定点的に取っている衛星だからこそ比較ができます。ますます今後の社会において衛星データのニーズというところは高まってくると考えています。

引き続きグローバルで見てもここまで成長してきているので、日本もこの衛星データの重要性というのは存在感を増してくるのかなと思っております。

4.海外での衛星データ利用事例

広中:永金さん、ありがとうございます。

続きまして、衛星データの利用事例にはどのようなものがあるか、これについてもPwCの永金様からお話いただければと思います。永金様よろしくお願いいたします。

永金:引き続き永金です。前回のTellusオープンディスカッションのほうでもご説明させていただいた事例も入っているんですが、改めてどういう使われ方をしているのかをお話できればと思っております。

空港滑走路の点検・修理

永金:衛星データはいろいろな設備の修理・点検に使われるようになってきています。
代表的な例として、サンフランシスコの国際空港の滑走路の点検です。こういった大規模の設備を人の目で見て確かめていくというのは大変で労力も人件費もかかってしまいます。

今までどうやっていたかと言うと、滑走路を使っていない間に人が点検していました。
日本でも高速道路や、橋の点検が同じ方法で行っています。

完全に100%衛星だけで全部管理しているのかと言うとそんなことないんですけど、衛星を使うことで、点検・修理・改善のためのモニタリングというのを効率化することができます。

サンフランシスコ空港の事例はPlanet社の衛星を使っているんですけど、観測頻度も非常に高いので、タイムリーな状況把握というところが可能になるというのがポイントになります。

今後、衛星画像の分解能ももうちょっと上がり、観測頻度も上がっていくと、欧州でも、日本でも、橋の老朽化など深刻な問題になってきている部分にも使えるようになってくると思います。

MaaSにおける衛星データ活用

永金:これはちょっと番外編ですけど、GALILEO測位衛星の部分でMaaS(Mobility as a Service)でもいろいろ使われるようになってきています。

代表的な例で言うとアプリで自分の位置を指定してボタンを押して、同じような人が何人か集まるとバスがルートを決めて、ピックアップしにきてくれるというようなサービスです。Uberの乗り合いバージョンというようなところのサービスでも実証実験が進んでいます。

衛星データ×データスマートシティ

永金:こちらはスマートシティと衛星データを掛け合わせてみようという事例です。シンガポール自体を衛星画像と地上センサーを掛け合わせて把握して、3次元空間の情報をまとめます。

その仮想のシンガポールでいろいろなシミュレーションをやって、いわゆる都市のデジタルツインを作ってしまおうという取り組みです。
デジタルツインの中で行ったシミュレーション結果をもとに実際の都市計画に活かしていこう、都市の施策に活かしていこうというようなものです。

風力発電最適化サービス

永金:こちらはエネルギー関連で使われている事例です。

欧州はクリーンエネルギーの感度が高くなっておりまして、その中で風力発電を設定していくのにどの場所にどれぐらい風が吹いて、どれぐらいの電力量ができるのかというのを衛星データを使って予測するという事例です。

風力発電のサポートサービスをやっている企業も出てきております。衛星データで地形や、気象状況を取得して解析をかけることで、どこの部分に風力タービンを設置するのがいいのか、どの向きにかければいいのか、シミュレーションを行いどれぐらいの発電量が見込めるのか先物市場の情報でも使われたりするようなものになっています。

AIを活用した保険サービス

永金:AIと衛星データを掛け合わせた保険サービスの事例もあります。

アメリカで災害のリスクがどこにあるかを解析したところ、リスクが高い地域にいる人たち、近くにいる人たちは意外と保険に入っていなかったということがありました。
そういった災害リスクの高い地域に住んでいる方が適切な保険に入れるように、そのプランを衛星データやAIで解析した結果から導き出すというようなサービスになっております。

カリフォルニアで山火事がたくさん起こっているんですけど、そういったところに対してサービスを開始してきて、山火事だけじゃなく水害モデルでも作られ始めているので、日本でも最近水害が非常に多いので利用が期待できると思います。

農業、環境汚染とのモニタリングサービス

永金:中国でも衛星データの活用というのはだいぶ広がってきています。

まだまだ民間というところで言うと時間はかかっている部分もありますが、農業生産の監視や、環境汚染モニタリングというところでは、衛星データが使われるようになってきております。

農業分野は生産性の向上だけじゃなく、農業保険という意味合いでも利用されるようになってきています。中国では、大量大地という企業が始めていて、まだ売上が上がっているとは言いにくいんですが、数億円の資金調達をしているなど注目されています。

リモートセンシング画像解析

永金:こちらも中国の事例になりますが、Alibaba Cloudといういわゆる中国のAmazon社のような会社です。
衛星データを解析した結果を提供し、マーケティングに利用したり環境汚染をモニタリングするといったサービスを始めています。
中国でも民間での衛星データ活用は盛んになってくる兆候が出始めてきています。

ちょっと長くなりましたが、海外の事例というところで私からは以上になります。

5.国内の衛星データ利用事例

広中:永金さん、ありがとうございました。
海外の衛星データ利用事例についてご紹介いただきました。ありがとうございます。では国内の衛星データ利用事例については、RESTECの向井田さんにご紹介いただければと思います。

では向井田さん、よろしくお願いいたします。

向井田:はい、ご紹介いたします。我々は、冒頭申し上げましたとおり、リモセン一筋45年という組織ですので、国内で携わったものをご紹介できればと思っていくつか事例を用意しました。

農業

向井田:まず農業です。農業ではいろいろなところで衛星を使った農業の取り組みの支援だとか、適地選定の利用が進んでいます。
衛星から作物の葉の情報、どんな色だとか、いいコンディションなのかどうかというのを面的に観測すること農業に利用できる情報を得ています。
プラスすると、農業に関係する気象情報、それから土壌の情報などを組み合わせていくというのが常套手段です。
国内とかアジアでは、圧倒的に米作・水稲の事例というのが圧倒的に多いということで、我々だけじゃなく取り組んでいる会社さんがいっぱいあります。

左上が小麦の事例です。小麦は植え付けてから土壌を踏み込んでいくんですが、どれくらいの圧で踏み込めばいいのかも衛星観測から算出します。
画像下にあるのがワイン用のブドウの事例です。これは長野県でやらせていただいたんですけど、下の右側にもやもやっと見えるのが、衛星から見た糖度のマップです。葉っぱの色からブドウの糖度を推定するということができます。全て基本となっている技術は同じですけども、作物によって出てくる情報、使われる情報が違うということでして、まだまだ可能性がある分野だと思っています。

水産・漁業

向井田:水産とか漁業に関しては、JAFIC、G&LI、Ocean Eyes、ウミトロンという会社が、漁場の情報とか、いけすの管理といったことをやっていただいています。
すごい勢いで利用が伸びている分野です。昔は遠洋漁業が多かったんですけども、環境が複雑な沿岸域でも見られるようになってきています。

ここで紹介させていただいているのは僕らが取り組んだ事例ですが、定置網の網の形を衛星で見て、形が変わっていると、入った魚が逃げてしまうのでメンテナンスに行かなくてはみたいな、定点モニタリングを行います。
定置網の網形状変化抽出というのを衛星データで行い漁業を支えたという事例です。

インフラモニタリング

向井田:インフラモニタリングとして紹介するのが、高速道路線路のモニタリングの事例です。
この点描画のようにオレンジとか青とかの点々マップが出ているのがご覧になれるかと思います。

地表面が1回目の観測と2回目の観測の間でどれぐらい変わったか、つまり盛り上がったか、下がったかを調べます。
とあるテーマパークを見ると、年平均2.5cmぐらい地盤が下がっているんじゃないかなという結果が出るんです。

そういう状況にあるというのが手に取るようにわかります。この情報は先日オープンしたTellus Marketで「RISE for Tellus」という形でRESTECが提供しています。
ちょうどこの下のほうに見えますけど、東京都内が、「どのへんが実は地盤沈下しているのかな」とか、「このへんはやっぱり安定しているんだな」とか、昔の地図をみると「こういう利用されていたのか」などといったように照らし合わせてみると面白い内容になっていますので、一度体験をされるとよろしいかなと思います。ぜひよろしくお願いします。

アパレル

向井田:最後に、まさかのアパレルということで、今日僕もこのTシャツを着ているんですけど、Tシャツに自分の好きな衛星画像が印刷できるというものもやっています。

一般のお客さん個人個人に売るということがなかったので、初のBtoCということと、それから企画をしてくれた企業や、システムを作ってくれる会社さんなど、すごく多種多様な異業種交流があったことも大きなポイントでした。
1番内輪で喜んだのは、情報番組の「ZIP!」ですとか、私が小学校からずっと観ている「タモリ倶楽部」に取り上げられたというのが嬉しくて嬉しくてしょうがなくて、もっとこういう仕事をやりたいなと思っているところです。

ぜひ皆さんも「WEAR YOU ARE/場所を着る」でこういう利用の仕方もあるんだな、意外とかっこいいのができるな、と試してみていただければいいかなと思います。以上です。

広中:向井田さん、ありがとうございます。
ここまで4つの事例をご紹介いただいたんですけれども、松浦さんもし何か補足のような一言コメントございましたらよろしくお願いいたします。

松浦:まさに今出ている「WEAR YOU ARE」なんですけど、あとの議論にも関係してくるんですが、異業種の協業の相手先様から提案があったとか、どういう感じでこれが企画として立案できてきたんですか?

向井田:これはもうある1本の電話なんです。
「衛星データ使いたいんですけど!」と、妙に熱い方から電話がかかってきて、それで企画をよくよく聞くと、自分がいる今の場所の画像を衛星でとらえたものをTシャツにプリントして売りたいんだと。それをカスタマーサイドで選べるようにしたいという、そういう熱い明確な課題があったんですよね。それに基づきます。

松浦:それでうまくマッチングできたということですね。

向井田:パズルのピースのようなものがいくつもあって、僕らはEC(電子商取引)をやるわけじゃないですし、それからWebデザインなんてダサいのしか作れないので、異業種がうまく組み合わさったのが、うまくいったところでしょうね、きっと。

松浦:もう1つ、その企画をしたときにRESTECさんとその電話をいただいた方だけでできたんですか?他のパートナーさんも参加したんですか?

向井田:そうです。電話をかけてくれたところは当時dot by dotという会社で今はWhateverというところです。
いろいろとお話をしていく中で、ECのところはGMOペパボにやってもらおうだとか、Futurekにサイトは作ってもらおうだとかっていうのが、もうパパッと決まって行きました。

6.衛星データ事業の始め方

広中:面白い話でした。ありがとうございます。
では続きまして、衛星データ事業をどのように始めるべきか、開発にあたって必要な要素、また、費用や初期コストはどの程度かについてです。

アンケートでもお声が多かった、事業を始めるのに何が課題で解決のためにどのようにアプローチをしたかなどについて詳細を深堀りし、導入に必要な要素や開発コストをお話できる範囲でご紹介いただければと思います。
こちらについてもRESTEC向井田様ご紹介よろしくお願いいたします。

向井田:ちょうど今、松浦さんからいろいろ質問受けたところを、もうちょっと深く書き下したところが、立ち上げまでのシナリオとしてご参考になるかなと思います。

向井田:まず重要なのは、やっぱり明確な課題があるというところだと思います。
「WEAR YOU ARE」では、課題を持ったWhateverさんとが我々にコンタクトしてきていただきました。

しかし、ECとTシャツプリント、これがないとTシャツはできないので、これはちゃんと専門でできる人たち、GMOペパボが運営しているSuzuriというところを使おうというのが決まりました。

Tシャツづくりで1番難航したのが、僕が今着ているTシャツは衛星画像を丸抜きしてプリントしているものなんですけど、もともとは実は全面プリントでした。
畑とか植生が多いところを印刷すると陸上自衛隊みたいな迷彩柄のような感じになっちゃうんですけど、そういうのも面白いなということで、全面に好きな場所の衛星画像をプリントしたいっていうのがあったんで、そこをどうするのかが苦労しました。

問題はプリントする衛星画像データをどうしようということですね。そこに関しては我々の出番でして、RESTECでもともと買って処理をしているものがあるので、それを提供しようということになりました。

じゃあデータは手にあるけども、それを加工してちゃんとツギハギなくTシャツにプリントできるような画像にしなくてはいけないというところは、サイト構築しているFuturekさんにいろいろお教えして、そこの処理ができるようにしていただきました。

このように「WEAR YOU ARE」の事業は実現できたのですが、事業を実現するために必要なことは、まず、「明確な課題がある」ことのほかに、「最適なチーミングがちゃんとできている」ということと、「実現可能な技術なのかきっちりと検討する」というところと思っています。

衛星データというところでは、どの部分を衛星データでカバーするのかきっちり検討することと、衛星データに過度の期待をしてはいけないということですね。

決してネガティブな意味ではなくて、特に日本ってセンサー列島なので、衛星で見るまでもないものってけっこうあるんですよね。
そういったところはちゃんとすでにあるセンサーと組み合わせて、衛星を使ってやらなければいけないことにきちんとフォーカスすることも重要だと思います。

7.サービス化の壁とは

広中:ありがとうございます。
さて、では続いてサービス化への壁はなにか、といったテーマなんですが、今まで関わってきた衛星データ利用事例の中で、サービス化をするにあたってネックになったこと、特に企業があたりやすい壁などについてご紹介いただきながら、それを解決するために行った施策や対策などについてお話いただきたいと思います。
まず、松浦さんお願いいたします。

松浦:サービス化にはいろいろな壁があって、私もいくつか壁にぶつかって解決していきましたが、結局頑張ったけどパッとしないという事例もいくつもあります。パッと形にできなかったので、『宙畑』の記事で最も近い図がありましたのでそこにに吹き出しで書きました。

松浦:これは石油タンクの屋根の影の面積から、石油価格を予測するという事例を取り上げたものです。

宙畑メモ
衛星データをビジネスに活かす鍵は「専門家バイアス」の打破ーー慶應義塾大学・白坂成功」の記事でも取り上げている、石油価格を予測する事例とは、衛星写真から分かる石油タンクの屋根の影の大きさから、タンクの中にある石油の残量を推測し、石油の価格を予測するというOrbital Insightが提供するサービス事例です。
詳しくは「宙畑」の記事「人工衛星で石油貯蔵量を知る~Ursa Space Systems~」でも紹介していますので是非ご覧ください。

松浦:衛星データでサービスを考えると、ニーズとシーズが遠いケースがあります。
それを図式化しているのがこの図になっていまして、1番右側が衛星データを使うとタンクの位置とか、石油の貯蔵量がわかりますよ、というシーズの部分です。
衛星を使うと、1個1個のタンクの場所とか、影の高さから石油の貯蔵量を測ることができるというのは、私とか向井田さんで想像できる、やろうと思えばできるなと思うんですけど、これらのシーズから1番左側の「石油の売価を予測したい」というニーズのところまで結び付けられない。

つまりここの距離を埋めるためにいろいろな人たちのアイディアとか協力がないと実現できないというのが、1番のサービス化の壁かなと思っています。

石油のタンクって世界中に2万6000カ所以上あって、それから石油残量がどのぐらいあるかというのを解析しなくてはいけないという話は衛星データの解析をやっている人間であればできそうというのはは想像できるんですが、解析した石油の残量から価格の相関モデルを作り、ビジネスプランを策定して、顧客まで届けるというところは、もう衛星データとは全然関係ない世界になってきています。

そこまでたどり着かないと衛星データを活用したサービス化というのは届かないということになってきています。

1個1個の壁というのは、漁業だったり農業だったり、いろいろな分野で違うものではあるんですが、このニーズとシーズが近いと比較的実現しやすいし、遠いのは実現しにくく、ビジネスモデルとして成り立つかという話になるかなと思います。

ちなみに衛星データでの、成功事例は安全保障の分野です。
安全保障分野のユーザーは製造に多額の費用が掛かる人工衛星を作ってまで、地球の裏側のデータが欲しいという、ものすごい強いニーズと課題を持った方々なので、そこはニーズとシーズってそんなに遠くないんです。

この石油の例ですとかなり遠い例になります。なのでこのニーズとシーズの距離をどのように埋めていくか、あるいはニーズとシーズを近づける手がないかと考えるか、というのがまさにいろいろな方々の意見をお聞きしたい話だなと思いました。

ということで、私もこの世界20年やってきていたんですけども、そのうちのいくつかの案件を一緒にやっている向井田さんはいかがでしょうか。

向井田:JAXAさんと自治体と一緒にやらせてもらっていたパイロットプロジェクトとかありましたよね。要はお試し期間まではいくんですけども、オペレーショナルに使ってもらうまでの間に、相当壁があるなと感じたことがありました。

それは、ある意味IT業界で言うところのキャズム(溝)というか、深い谷というよりも、まさにこの画で言われているみたいに越えなければならない問題がある。

けっこう広い、大井川みたいに広い川なんですよね。その川を渡るのがなかなか難しい、一つの企業だけで越えることが難しく、攻めあぐねているというところが正直なところかなと思いました。

松浦:そういった意味で、永金さんなんかは海外の事例をいっぱい見てきた中で、いっしょくたにくくるということはできないと思いますけども、ここのニーズとシーズを近づけるというのは何かあるのか、あるいはお金で解決しているのか、どんな感じなんですかね。

永金:私がよく海外の方と話したり、海外の事例を調べて感じているところは、まさにニーズとシーズの距離なんですけど、どっちから始めるのかというところが1番ポイントなのかなと思っています。

ある程度マネタイズできたところは、やっぱりニーズ起点で始まっているなというところはあると思います。ニーズのほうからいろいろと分解していったときに、これが欲しいとなった「その中の最適な技術が衛星だった」というケースがやっぱり多いかなと。

なので、「衛星でこれができるからちょっと始めてみよう」というよりは、そのラインナップの1つに加わっていくということが大事なのかなと感じています。それが回り回って衛星データビジネスというものを広げていくことになるのかなと個人的にも感じていますね。

松浦:なるほど。とても耳の痛いお言葉ですね。

私も向井田さんもシーズ起点で、衛星に近いところにいたので、使ってもらいたいというアプローチでずっとやっていて、なんとかニーズにたどり着くものの、実はニーズがすごく小さかったということがありました。海外、ヨーロッパでもいいんですが、ニーズがシーズのほうにアプローチしてくるという仕掛けみたいなのはやっぱりあるんですか?

永金:昨今で言うと、アイディエーションやデザインシンキングみたいな言い方をして新規ビジネス開発でたくさん使われていた手法があるかなと思うんですけど、ニーズの顕在化している部分と潜在化している部分をどんどん洗い出しているんですね。

それって実は誰がやってもある程度わかってくる部分なので、事前に予測を立たせることはできるかなと思います。

よくベンチャーとかでも、いろいろな業界に試しでニーズの洗い出しをやっていき、それで自社で当たりそうなところを見つけるというのをやっていますが、これはシーズ起点ではあるのにニーズ起点のほうに1回行って、自分たちシーズにに戻ってくるというようなことをやっている企業さんというのはけっこうありますね。

私も一足飛びでシーズとニーズをうまくつなげられるものないかなといろいろ調べた時期があったんですけど、多くの方々はけっこう労力を使ってニーズの洗い出しをやられているケースが多いですね。運よく当たっちゃいましたっていう方ももちろんいるんですけどね。

松浦:そうすると必ずしも衛星データを使いたいとか、そういうふうに思っていない人のところにも行ったりするわけですね。

永金:そうですね。可能性があるところ仮説立てて当たっていくこと言うことはあります。
ペルソナみたいな言い方をして顧客像を仮説立てるようなことがありますが、ペルソナっていわゆる消費者をペルソナにすることがあるんですけど、企業をペルソナとしたときに、この企業が抱えている課題ってどういうことだろう、実はいろいろ解決方法のラインナップを出したときにその中に衛星が入ってくるんじゃないか、だったらここに勝負しにいこう、というようなアプローチもあると思います。

松浦:なるほど。そのアプローチだったらシーズ側からもできそうですね。

永金:そうです。たぶんシーズとニーズのどちらが迫っていくかなると、衛星の技術がどこまで浸透しているかっていう段階にもよるかと思っています。

今の日本の状況だと、皆さんの前で言うのもあれですけど、まだまだ浸透していない部分「衛星ってこんなに気軽に使われるようになったんだ」と理解いただけるようになったのは最近だと思うので、その気軽に使えるというところが広がっていく、そうすると実はニーズ起点のいろいろな企業さん側からしても「衛星使えるんじゃないか」みたいな形で向こうから来てくれると思います。

やっぱり現段階だとシーズのほうから、ニーズを持ったところにいろいろな仕掛けをしていって、シーズ側に誘導してくるような形でやっていくのが必要なのかなと思いますね。

松浦:それを考えるときにヨーロッパの事例で言うと、ターゲットとするエリアというのは、最初からかなり広いエリア、ヨーロッパ域内じゃなくて、ヨーロッパ域外も考えて、ビジネスプランの中に考えて構築しようとしているのか、もうちょっと小さなところから始めるのかって、どっちパターンが多いんですか?

永金:パターンは小さいところから始めるのが多いです。ただ、ヨーロッパのいわゆる地政学的な話で、アフリカを視野に入れることがけっこう多い、というのは向こうの方々と話していて思います。

松浦:日本ですと、スケールアウトしないんですよね。
海外のことも考えてと、お客さんとも一緒にやっていたパイロットプロジェクトを先に海外で実証実験したこともあるんです。

海外ってこの場合はアジアになりますが、そうすると相手から言われるのは、「これって日本でどのぐらい使っているの?」と言われて、「うっ」と詰まって、「日本で使うのは狭すぎるので、こっちに応用した」っていう話になっちゃうと、「なんだ、日本で使っていないものを売りつけるのか」みたいな話になって、うまくいかなかったりしたケースもあったんです。ちょっとヨーロッパのその話を聞いて安心しました。

永金:ヨーロッパのほうは、海外で使われることは当然のように視野に入れている部分はありますね。

松浦:そうですね。向井田さんが説明した農業の事例もそうなんですけど、日本国内で考えるとスケールアウトがすごく難しくて小さいままという課題があるので、どうやって日本だけで考えるのではなく海外に展開していくかっていうのは、1つの肝だなと思います。

8.サービス化に向けて後押しできること

広中:ありがとうございます。
さて、最後のテーマになりますが、「サービス化に向けて後押しできること」ということで、各社でユーザーが事業を始めようと考えたときに、それぞれできることについて一言ずつコメントをいただければと思います。
また、自社の衛星データや宇宙ビジネスにかける思いと、これから変わっていくであろう衛星データとビジネスについてもお話いただければと思います。まず松浦さんからよろしくお願いいたします。

松浦:ちょっとTellusの宣伝にもなるんですが、今ここに書いてあるのがTellusの6つの要素で、この吹き出しで特徴を抽出して書いてあります。

松浦:Tellusは、衛星データに対する敷居を下げる効果がすごく高いなと思っています。
私が以前いたJAXAですと当然ながらJAXAの衛星のデータを使ってもらうという自社製品縛りがあって、本当の最適解は他の海外の人工衛星を使ったほうが最適解なんだけどっていうのができませんでした。

Tellusは国内外の衛星データも揃えて、1カ所で、しかも簡単に見たり、あるいは解析することも可能になっています。

もう1つ重要なのは下のほうの人材育成、オウンドメディアの「宙畑」、それからラーニングイベント、データコンテストというのも揃っています。

これが衛星データに対する大きなハードルを下げていくんじゃないかなと思っています。
また、どなたでも気軽にデータや解析ツールを売買できるようなマーケットもあります。
ものすごく努力しないと売買できないわけではなくて、簡単にマーケットプレイスに出して、それこそ1回100円とか、そういった金額でもお店を開けるような場所も準備しています。

これがブレイクスルーになって、大量にお金を投資しなくても、気軽に事業を始められることになるんじゃないかなと、期待値も込めて今Tellusチームに参加しています。
是非ともTellusをお使いいただければ、と思います。私からは以上です。

広中:ありがとうございます。続きましてPwCの永金さんいかがでしょうか。

永金:先ほどシーズとニーズのお話が出てきましたが、我々も新しく宇宙ビジネスをやってみたいというお客様からいろいろ相談を受けることがあります。
我々としてご協力できるポイントは、宇宙ビジネスのマーケットのニーズってどこにあるんだろうと、深堀りしていって、いわゆる事業戦略として落とし込んでいくことができると思います。

その際に使う手法としては、いくつか用意は持っているんですけど、1つは、ビジネス×テクノロジーという形で、デジタル技術とビジネスをつないでいくような手法ががあります。

ほかには、未来想像といって20年後の未来がどうなっているかを、専門家等を招聘して、発想を飛ばして未来を想定し、「20年後がこうなっているんだったら15年後はこうだろう、10年後はこうだろう、5年後はこうだろう。だったら来年これをやらなきゃいけないですよね」というように想定してビジネス戦略に落とし込んでいく、こういったところを導出していくようなお手伝いをさせていただいたりもします。

宇宙をテーマにして、こういった戦略立てをやることも可能ですし、特に衛星データの利活用であれば我々は海外の知見もありますので、大きくお役に立てるかなと思います。
そういったところを通じて、日本全体の宇宙ビジネス、衛星データの利活用ビジネスが広がっていって、さまざまな社会課題等に寄与できるところというところを今目指していきたいと思います。

広中:ありがとうございました。それでは最後にRESTECの向井田様いかがでしょうか。

向井田:我々のできること、リモートセンシングというのは、いろいろな他のテクノロジーと掛け合わせていかないと、お客さんの最終的なのニーズのところまで届かないなと今日お話をさせていただいて改めてわかったところです。

それにしてもやっぱり、実証から実装に至るまでの幅の広い川っていうのを越えなければならないので、いかに僕らのほうからニーズを持っている方にアプローチするか、それからニーズを持っている方が我々にどうアプローチしていただくかっていう、そこのコミュニケーションをうまくとって川を越えるこができてくるんじゃないのかなと思っています。

ニーズ側の人だけではなく、川を渡るための船を出してくれるようなテクノロジーサイドの方々と一緒に、リモートセンシングってどう使えるかって、いろいろ考えていくこともすごく重要だと思っています。最近強く進めているところでもありますので、まず何か困りごと、使えそうかなというところがあれば、何でもいいのでRESTECにご相談いただければ、テクノロジーサイドでもニーズサイドでも、はたまた同業者の方でも、一緒に渡れば幅広い川でも渡れると思っていますので、是非協力して川を渡れるようになればと思っています。よろしくお願いします。

広中:向井田さん、ありがとうございました。
以上で、『Re:Tellus Open Discussion」~国内・海外事例篇~ -もっとビジネスに「衛星データ」を-』を終了とさせていただきます。改めまして皆さまありがとうございました。

9.まとめ

国内外の衛星データ利用事例と衛星データをつかった事業の始め方について、PwCの永金さま、RESTECの向井田さまといっしょにディスカッションをいきました。

衛星データを使った事業を始めるとき、衛星なら〇〇が分かるというシーズから考えていくのではなく、どうにか解決したい課題を解決していくというニーズからアプローチしていき、その中で必要なものの一つが衛星データで解決できることを見つけることがポイントになってきそうです。

衛星データと結びつきそうなニーズを探す手法というのは、「オンラインツールを使ってリモートで衛星データ利活用アイデア創出~実践編~」等でも紹介しております。
シーズとニーズの距離があり、大きな川のようだとトークセッション内でも表現されていましたが、この距離を埋めるための技術や衛星データ以外のデータなど結びつけられるものの存在も重要です。

いかに各企業の得意分野を生かし、協力しながらサービスを生み出していけるかが、今後の市場拡大を左右するポイントになっていくかもしれません。

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